ヤマハが2017年8月に国内発売した「ヴェノーヴァ」は、これまでにないコンセプトで開発された管楽器。軽くて持ち運びがしやすく、壊れにくくメンテナンスがしやすいという利点を持ちながら、サクソフォンのような豊かな演奏表現を楽しめるのが特徴だ。この楽器の特徴である「分岐管」や「蛇行形状」といった独特なフォルムは、どのようにして生まれたのか。開発の経緯や意図などを企画担当者に訊いた。

ABS樹脂により軽量化や耐久性とメンテのしやすさを実現しました

<キーパーソンはこの人>

画像: ABS樹脂により軽量化や耐久性とメンテのしやすさを実現しました

気軽に持ち出せて水洗いもできる

ヤマハの「ヴェノーヴァ」は、これまでにないコンセプトで開発された管楽器。2017年8月に国内発売されると、独特のデザインも注目の的となり、一時は品切れになる販売店が出るほどの人気となった。

「ヴェノーヴァの開発は、多くの人に気軽に管楽器を楽しんでもらいたいという思いからスタートしました。目指したのは、リコーダーのよさとサクソフォン(サックス)のよさを兼ね備えた楽器。ヤマハの持つ楽器作りの知見を注ぎ込み、演奏しやすく取り扱いも容易でありながら、管楽器の本格的な演奏感や音色を楽しめる楽器に仕上げました」

こう話すのは、ヴェノーヴァの商品企画を担当した中島洋さん。ヤマハでは、ヴェノーヴァを“カジュアル管楽器”と銘打っているが、そのカジュアルさを生み出しているのは、素材に採用したABS樹脂だ。

「ABS樹脂製にすることのメリットは、軽量になることと、耐久性が上がることです。そのため、外出先にも気軽に持ち出すことができ、取り扱いにもあまり神経質になる必要はありません。また、水洗いが可能なため、メンテナンスの手間も格段に減ります。キャンプやビーチなどのアウトドアでも、気軽に演奏が可能です」  

これは、通常の管楽器では考えられないことだ。本体が重く、構造も複雑なため、持ち運びには細心の注意が必要。また、自然素材を使った部品もあるため、気温や湿度の変化に敏感で、屋外に持ち出すのは相当の覚悟がいる。メンテナンスも大変だ。ヴェノーヴァはABS樹脂製にすることで、これらのハードルを取っ払ったわけだ。

ヴェノーヴァのカジュアルさはもう一つある。その価格だ。 通常、管楽器は高価なものだ。例えば、サックスは安くても実売で約10万円、クラリネットは約7万円もする。初心者や学生が「ちょっと始めてみようかな」と、軽い気持ちで始められる金額ではない。それに対して、ヴェノーヴァの実売価格は1万円前後。初心者でも気軽に手を出せる価格となっている。

ヴェノーヴァのもう一つの特徴は、前述したようにカジュアルなものでありながら、しっかりとした管楽器でもあること。サクソフォンの吹奏感や音色を楽しめる本格派なのだ。

ヤマハが長年培った楽器・音響に関する技術や知見と、3Dプリンターなどの最新技術が結びついて生まれたヴェノーヴァ。2017年には、4495点にも及ぶグッドデザイン賞対象品の中で、1点のみに与えられる最高賞「グッドデザイン大賞」を、楽器として初めて受賞した。

分岐管構造によってサックスに近い音に

ヴェノーヴァは、見た目こそユニークな形状だが、基本的には円筒管を用いたシンプルな構造になっている。にもかかわらず、円すい形の複雑な形状になっているサックスに近い音が出せる。その裏にある秘密は、「分岐管構造」だ。
分岐管構造は、1977年に工学者の實吉純一氏が日本音響学会で発表した「分岐管理論」が基になっている。この理論は、「円すい管の音響特性は、分岐した円筒管で近似できる」という内容で、これを応用し具現化したのがヴェノーヴァの基本的な仕組みだ。

「ヤマハが分岐管理論を応用するきっかけとなったのは、1993年発売のシンセサイザー『VL1』の開発でした。その後、この技術はヤマハ社内で受け継がれてきましたが、ヴェノーヴァの開発に当たって再注目。さらなる応用の研究を進めて、ついに製品へと結実したのです」

分岐管構造の採用によって、円筒形管楽器の特徴を備えつつ、円すい形管楽器の音響特性を得ることができた。その次に開発チームが取り組んだのは、演奏者の指がすべての音孔に届くように、主管を蛇行させて音孔間の距離を狭めること。これは、キイやレバーなどの部品の数を最小限にまで減らし、シンプルな構造にすることが目的だった。

「最適な蛇行形状を探る過程では、ヤマハがこれまでに蓄積してきた音響シミュレーションの技術と、3Dプリンターを駆使しました。これにより、試作の回数を劇的に減らすことができ、開発期間の短縮とコストの抑制にもつながりました」

サックスの歴史は約170年ほどだが、木管や金管といった管楽器の歴史はもっと長い。人類の歴史にも寄り添うその長い時間の中で、管楽器は徐々に複雑な構造になり、現在の音へと進化しているわけだ。

シンプルな管楽器というコンセプトで始まったヴェノーヴァの開発は、ある意味、管楽器の進化をさかのぼる作業だったともいえる。その一方で、サックスのような音色、演奏感をなるべく残したい。つまり、シンプルな構造と本格的で現代的な楽器という相反する要素の妥結点を開発チームが探し続け、ヴェノーヴァは誕生したのだ。

クラリネットなどが円筒管なのに対し、サックスは下にいくほど広がる円すい管を使っている。ヴェノーヴァは分岐管理論を応用することによって、円筒管でありながら、円すい管のような音響特性を得ることに成功した。

画像: クラリネットなどが円筒管なのに対し、サックスは下にいくほど広がる円すい管を使っている。ヴェノーヴァは分岐管理論を応用することによって、円筒管でありながら、円すい管のような音響特性を得ることに成功した。

ヴェノーヴァの開発段階での試作モデル。金属パイプを使っているため、分岐管構造は見られるものの、主管の蛇行形状はまだシミュレートされていない。

画像: ヴェノーヴァの開発段階での試作モデル。金属パイプを使っているため、分岐管構造は見られるものの、主管の蛇行形状はまだシミュレートされていない。

それなりの練習が必要だから楽しい

ところで、今回、筆者はヴェノーヴァを試奏してみたのだが、予想を裏切られた。演奏が難しい、いや、正確には「それほど簡単ではない」のだ。

「そこは誤解されやすいところかもしれませんね。ヴェノーヴァの演奏は決して簡単とはいえません。リコーダーに似たやさしい指づかいとはいっても、サックスなどと比べればやさしいという意味合いですし、マウスピースとリードで発音する管楽器でもあります。上達にはそれなりの習練が必要だと思います。でも、それこそが楽器の楽しみではないでしょうか」  

いわれてみれば、筆者はヴェノーヴァをリコーダーの仲間のようなものだと勘違いしていた。そのため、最初は音を出すことすらできずに面食らったが、しばらく練習していると音が出るようになった。練習すればうまくなり、そこで達成感が生まれるというのが、楽器の醍醐味だというのは理解できる。

「ヴェノーヴァは、取り扱いや価格などの面で手を出しやすいという特徴を持ちながら、本格的な吹きごたえと表現力も備えており、初心者だけでなく経験者でも満足できる管楽器です。より多くの人に、ヴェノーヴァの魅力を体感してもらえるとうれしいですね」

また、ヤマハは貧困や格差などの問題を音楽の力で解決する「I'm a HERO Program」をコロンビアで実施中。その活動の中で、壊れにくく、メンテもしやすいヴェノーヴァが使われている。

ヴェノーヴァの公式サイトでは、音の出し方から吹き方のコツ、音孔の押さえ方などについてのわかりやすいレッスン動画を掲載している。

●公式サイト https://jp.yamaha.com/products/musical_instruments/winds/casual_wind_instruments

画像: それなりの練習が必要だから楽しい

1月6日よりイエローのカラーバリエーションモデル「ヴェノーヴァ イエロー」を限定1000本で発売。イエローは、パッケージなどにも使われているヴェノーヴァのイメージカラー。

画像: 1月6日よりイエローのカラーバリエーションモデル「ヴェノーヴァ イエロー」を限定1000本で発売。イエローは、パッケージなどにも使われているヴェノーヴァのイメージカラー。

インタビュー、執筆/加藤肇(フリーライター)

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