【頭痛と首の後ろに関連性】片頭痛を解消する圧痛点と頭痛体操のやり方

美容・ヘルスケア

頭痛体操は10年ほど前に「片頭痛にも圧痛点がある」という発見をきっかけに、考案したものです。片頭痛であることが外からわかり、体操で改善するという体験をへて、「片頭痛を自分でコントロールできる」と気づく。それが大事なのです。【解説】坂井文彦(埼玉国際頭痛センター長・埼玉医科大学客員教授)

解説者のプロフィール

坂井文彦(さかい・ふみひこ)
埼玉国際頭痛センター長・埼玉医科大学客員教授。1969年、慶應大学医学部卒業。米国ベイラー大学神経内科留学、北里大学医学部神経内科学教授、北里研究所病院頭痛センター長、国際頭痛センター長などを経て、2010年より現職。日本頭痛学会理事長、国際頭痛学会理事長・生涯名誉会員などを歴任。『「片頭痛」からの卒業』(講談社現代新書)などの著書がある。

代表的な慢性頭痛は片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の三つ

慢性的な「頭痛」に悩まされている人は数多くいます。例えば、代表的な慢性頭痛である「片頭痛」がある人は、推計1000万人に上るそうです。筋肉の緊張によって起こる「緊張型頭痛」は、さらに多いともいわれます。

この2大慢性頭痛、実は簡単な体操で予防・改善が可能……と語るのは、頭痛治療の世界的名医、埼玉国際頭痛センター長の坂井文彦先生です。

片頭痛の治療は薬物療法が主流ですが、坂井先生は片頭痛に特有の「圧痛点」を発見し、そこをストレッチすることで、片頭痛を効果的に防ぐ体操を考案しました。薬に頼らず慢性頭痛を自分でよくする「頭痛体操」について、詳しくお話をうかがいました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 山本太郎

──慢性的に起こる頭痛には、どのような原因が考えられるのでしょうか?

坂井 一口に「頭痛」といっても、さまざまなタイプがあるのですが、大きくは「一次性頭痛」と「二次性頭痛」とに分けられます。

二次性頭痛とは、他に病気やはっきりした原因があり、その症状として頭痛が起こるものです。二次性頭痛ではまず原因となっている病気を突き止め、その治療を行う必要があります。

一方、一次性頭痛は「頭痛持ちの頭痛」と呼ばれる慢性的な頭痛です。頭痛外来を訪れる患者さんのほとんどがこちらのタイプで、特によく見られるのが次の三つです。

(1)片頭痛:なんらかの理由で脳の血管が急激に拡張して起こる頭痛です。

月に2~5回の頻度で発作性の痛みがくり返し起こり、ズキンズキンと脈打つように痛むのが特徴です。頭痛の発作は4時間から2~3日も続くことがあります。

頭の片側に起こることが多いですが、両側に起こることもあります。多くの人が光や音、においなどの刺激に敏感になり、強い吐き気がして、実際に吐いてしまう人もいます。

頭痛の発作中に体を動かすと症状がひどくなるため、じっとして痛みをやり過ごさなければなりません。

(2)緊張型頭痛:最も多い一次性頭痛で、慢性頭痛に悩む人の約60%はこのタイプに分類されます。

頭を囲んでいる筋肉や首や肩の筋肉が緊張し、血管が収縮して、血流が悪くなることが原因で起こる頭痛です。

一日中、頭の重さや、ギューッと締め付けられるような圧迫感があります。特に、午後から夕方に症状がひどくなります。

緊張型頭痛は、ストレスがかかっている最中に起こりやすいことから「ストレス頭痛」ともいわれます。片頭痛は逆にストレスから解放され、気がゆるんだときに起こりやすいので、対照的です。

また、体を動かしたほうが痛みがまぎれるのも、片頭痛と対照的な点です。

(3)群発頭痛:季節の変わり目など、ある一定の時期の1~2ヵ月間に、頭痛が群発します。

その期間中は毎日のように頭痛が起こり、片側の目の奥をえぐられるような苛烈な痛みが1~2時間続きます。痛む側の目の充血や涙など、症状が特徴的です。脳の太い血管の拡張が原因だと考えられています。

群発頭痛には、血管拡張を鎮める「スマトリプタン」という薬が有効です。群発頭痛の発作が起きたら、この薬を患者さんが自分で注射する治療が健康保険適用になっています。

濃度100%の酸素を吸入する治療も劇的に効きます。医療用酸素ボンベをレンタルして行う在宅酸素療法も、今年4月に健康保険の適用になりました。

これら慢性頭痛のうち、悩んでいる人が特に多い片頭痛と緊張型頭痛の予防・改善に役立つ体操(頭痛体操)があります(やり方は下項を参照)。

後ろ首の髪の生え際辺りの首の骨の左右に圧痛点がある

《頭痛にかかわる筋肉と圧痛点の位置(右側)》

画像参考=『「片頭痛」からの卒業』(講談社現代新書)

頭痛体操は10年ほど前に「片頭痛にも圧痛点がある(上図参照)」という発見をきっかけに、私が考案したものです。

患者さんに頭痛体操を指導したところ、従来の薬だけの治療よりも改善率が高まり、およそ8割の人に改善効果が見られるようになりました。

長年、片頭痛に悩まされてきた男性患者、Aさんは薬の服用で痛みは治まるものの、片頭痛発作が起こる頻度は増える一方で、月の半分以上は薬を服用していたと言います。ご本人も薬の量が増え続けることに抵抗感があったそうです。

「ここを押すと痛くないですか?」と圧痛点を刺激すると、痛さに驚いていました。そして頭痛体操をしてもらうと、圧痛点の痛みがすぐに軽くなりました。

このように片頭痛であることが外からわかり、体操で改善するという体験をへて、患者さんが「片頭痛を自分でコントロールできる」と気づく。それが大事なのです。

私は患者さんにも「頭痛はただ薬で痛みを抑えるだけでなく、セルフケアで治すものです」とお伝えしています。

Aさんは習慣として頭痛体操に取り組んだところ、発作の起こる頻度が激減し、2~3ヵ月に1回程度になり、頭痛の程度も軽くて済むようになりました。当然、薬を飲む頻度も減り、「今は、片頭痛のことをほぼ忘れて生活できています」と語っていました。

頭痛体操のやり方

※片頭痛の発作中や発熱を伴う頭痛のときには体操を行わない。
※体操中に頭痛が激しくなったら、体操を中止する。

頭痛体操(1) 腕振り体操

足を肩幅に開いて立ち、両腕を胸の高さで水平に上げて、ひじを曲げる。

顔を正面に向けたまま、右肩と右ひじを前に突き出すように上体をひねる。

同様に左肩と左ひじを前に突き出すように上体をひねる。リズミカルに(2)(3)を2分間くり返す。

頭痛体操(2) 肩回し体操

足を肩幅に開いて立ち、ひじを軽く曲げる。

リュックサックを背負うように、前に大きくひじと肩を回す。

上着を脱ぐように、後ろに大きくひじと肩を回す。(2)、(3)を6回くり返す。

※頭痛体操はイスに座って行ってもよい。

体操で脳に「よい信号」を送ると痛みの記憶回路が弱まる

──なぜ、体操で片頭痛がよくなるのですか?

坂井 人間が「痛い」と感じるのは、痛みを感じる神経からの電気信号を脳がキャッチするからです。片頭痛の場合、脳の血管が拡張して周囲を圧迫し、その刺激で炎症性物質が出ることが、痛みの大本です。

ところが、脳というのは不思議なもので、痛み信号を受け続けるうちに、その信号が蓄積されて、記憶してしまいます。「痛みの記憶回路」ができるのです。

すると、脳は記憶の引き出しから「片頭痛で痛い」という信号を出しやすくなります。しかも神経回路の混線が起こり、痛み信号があちこちに出ます。片頭痛の圧痛点は、その信号が現れる窓口のようなものです。

片頭痛は最初はそう頻繁に起こるものではなく、年2~3回程度の人が多いですが、この頻度がしだいに増え、慢性化することが問題です。脳の中の痛みの記憶回路が成長することが、片頭痛が慢性化するメカニズムです。

頭痛体操で、片頭痛の圧痛点をストレッチすると、圧痛点が消滅します。押しても痛くなくなるのです。このとき、体操による圧痛点のストレッチ信号が、痛みの伝達路を逆走し、三叉神経脊髄路核(※)をへて、脳の中の痛みの記憶回路に信号を送ります。

※頭部の温痛触覚をつかさどる三叉神経の神経細胞の集合

その結果、痛み記憶回路から痛み信号が発信されなくなるのです。つまり、体操で脳に「よい信号」を送ると痛みの記憶回路が弱まり、片頭痛の慢性化を防ぐことができるというわけです。

実は、緊張型頭痛で首の後ろの筋肉が緊張で硬くなって、ゴリゴリした圧痛点が出ることは以前から知られていました。しかし、片頭痛にも別の圧痛点が存在することは、従来、誰も指摘していませんでした。

片頭痛にも圧痛点があることに気づいたきっかけは、ある患者さんの「首の後ろの痛みから片頭痛が始まる」という訴えでした。

当初、緊張型頭痛ではないかと、従来から知られている首の圧痛点を押してみました。すると、「そこは押されても痛気持ちいい感じですが、もう少し上で、首の内側から痛くなるような気がします」と言います。

患者さんに言われるままに、後ろ首の髪の生え際、ちょうど第3頸椎(上から3番目の首の骨)の両脇辺りを押したところ、「そこです、すごく鋭い痛みです!」と教えてくれたのです。

その後、ほかの片頭痛患者さんの首の後ろも触診してみたところ、ほぼ全員に、同じ位置に圧痛点があることがわかりました。私は300人以上のデータを蓄積し、この「片頭痛圧痛点」の存在を、2011年の国際頭痛学会で報告したのです。

首の骨をコマの芯のように保ちながら肩を回転させる

──頭痛体操のポイントや生活上の注意があれば教えてください。

坂井 まず、頭痛体操は習慣として毎日やっていただくことが大切です。毎朝、起床後に行うのがお勧めです。

大事なのは、上半身をひねるときに、体軸をぶれさせないように注意することです。首の骨をコマの芯のように保ちながら、左右の肩だけを水平に大きくリズミカルに半回転させてください。そうすると、頭や首を支えている筋肉によく刺激が入ります。

また、頭痛体操は、やればやるほどいいものではありません。一つの体操を1日1回、2分以内を目安にしてください。普段、あまりストレッチしていない体の奥の筋肉(インナーマッスル)を動かすので、かなり疲れるからです。

特に最初はきつく感じる人もいますので、できる範囲から徐々に2分まで回数を増やしていきましょう。

また、ぜひ体操をする前後に片頭痛圧痛点(上項の図参照)を押して、痛みの度合いを比べてみてください。

慢性片頭痛の患者さんでは、体操前に圧痛点の痛みの強さが10だったとすると、体操をするだけで2~4、少なくとも半分以下に抑えられる人がほとんどです。効果が実感できると、体操を続けるモチベーションが上がります。

ただし、片頭痛の人は、片頭痛発作が起こっていないときに、発作を起こさないようにするために、体操を毎日継続することが重要です。発作を起こしている最中に頭痛体操を行うと、かえって症状が悪化しますので注意してください。

一方、緊張型頭痛の人は、頭痛の予防だけでなく、頭痛が起こっている最中にも体操を行うことで、症状の緩和に役立ちます。デスクワークなどをしていて、首や肩にこりを感じたら、早めに体操を行うといいでしょう。

最後に、これは慢性頭痛に悩んでいる人全般に言えますが、「鎮痛薬を飲んで痛みを我慢する」ことを続けるのは決してお勧めできません。鎮痛薬は対症療法にすぎず、一時的な効果はあっても、原因を解決できるわけではありません。

また、鎮痛薬に頼っているうちに、かえって痛みの記憶回路を強固にしてしまい、ちょっとしたことで頭痛が起こるようになる懸念があります。こうした負の連鎖に陥り、頭痛がますます悪化してしまう人が少なくありません。

そもそも片頭痛には、市販の鎮痛薬はほとんど効きません。片頭痛の治療薬も正しく服用しないと十分な効果が得られませんから、必ず専門家の指導の下で治療すべきです。

それに、頭痛の背景に他の病気が隠れていることもあります。「頭痛ぐらい……」と軽視せずに、ぜひ頭痛の専門医を受診してください。

日本頭痛学会のホームページには、全国の認定頭痛専門医がいる医療機関の一覧が掲載されているので、参考にしてください。

この記事は『安心』2018年12月号に掲載されています。

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