スマホで目が疲れる「調節緊張症」とは?眼科医が実践する「目の休め方」

美容・ヘルスケア

目と体のアンバランスな状態が長く続くと、目が疲れるだけではなく、ほうっておくと全身に疲労が起こり、吐き気、不眠など自律神経失調症のような症状が起こります。スマートフォンから目を守る工夫がもっと必要です。【解説】梶田雅義(梶田眼科院長)

解説者のプロフィール

梶田雅義(かじた・まさよし)
梶田眼科院長。1983年、福島県立医科大学卒業後、同大学講師、カリフォルニア大学バークレー校研究員などを経て、2003年、梶田眼科開業。2018年、東京医科歯科大学医学部臨床教授。Best Doctors in Japan 2012-2013、2014-2015、2016-2017、2018-2019受賞。目の調節機能のプロとして、特許庁標準技術集「メガネ」作成委員会委員なども務める。現在は日本眼光学学会理事、日本コンタクトレンズ学会常任理事、日本眼鏡学会評議員など。著書に『人生が変わるメガネ選び』(幻冬舎)、『眼精疲労のブロック&ケア 眼鏡・コンタクトレンズ処方ハンドブック』(三輪書店)がある。http://www.kajitaganka.jp/

スマホの見すぎで10代なのに目は40代

2018年3月、私は「スマホ目」のタイトルでNHKのニュース番組に出演しました。

スマホ目は、スマートフォン(スマホ)を長時間使う人に見られる症状で、スマートフォンから目を離し遠くを見つめるとすぐにピントが合わないでぼやけて見えるというもの。

ピント調節がうまくできないだけでなく、悪化すると眼精疲労や頭痛、肩こり、全身疲労まで引き起こします。病名は「調節緊張症」と呼ばれます。

スマホ目は「スマホ老眼」とも呼ばれます。「老眼」がつくと大人だけという誤解を招くおそれもあるので、番組では「スマホ目」と呼ぶことにしました。スマートフォンは今、子どもも使い、それによって目の不調を訴える例が見られるからです。

私の医院では最近、スマートフォンの影響で、目のピント調節ができない若者の患者さんが増えています。なかには10代後半でもピント合わせがうまくできず、「目の筋肉が動かないので、ピント合わせは40代ですよ」と言うこともあります。

スマートフォンの画面は小さく、操作するときは指で送るので、目はほとんど動きません。

目のピント合わせは、目の筋肉である毛様体筋が収縮したり伸びたりして、レンズの役割の水晶体を調節します。スマートフォンをじっと見ているとき、目の筋肉は収縮し、ずっと緊張した状態なのです。

本を読むときも近くを見ますが、ページをめくるので、目は少し動きます。

パソコンが登場したときも、目に悪いといわれたことがありました。しかし、スマホに比べるとパソコンの画面は大きく、距離も離れているので、スマートフォンを長時間見るよりも目への負担はまだ軽いと思われます。

パソコンで目の悩みを訴えるのは、かつては仕事で使うことが多い大人が主でした。しかし最近は、スマートフォンの普及によって患者は低年齢化し、急激に増えています。

スマホ目がひどくなると吐き気や不眠も!

目のピント合わせは毛様体筋で行われますが、毛様体筋は自律神経によってコントロールされています。

自律神経には交感神経と副交感神経があり、遠くを見るときは交感神経が、近くを見るときは副交感神経が優位となってピント合わせをしています。

つまり、スマートフォンを見るときは、副交感神経によって毛様体筋が収縮して近くにピントが合うようになっています。

一方、ヒトの体は、副交感神経が優位になるとリラックスし、交感神経が優位になると活動的になります。

ですから、近くを見るときに副交感神経が優位になるということは、近くを見るときはリラックスした状態が本来の姿です。

しかし、スマホを見ているときの脳や体は活動的になり、交感神経が優位になろうとします。
この目と体のアンバランスな状態が長く続くと、自律神経は乱れてしまうのです。

目が疲れるだけではなく、ほうっておくと全身に疲労が起こり、吐き気、不眠など自律神経失調症のような症状が起こります。

【スマホ目の症状】
・遠くがぼやけて見える
・急な視力低下
・眼精疲労
・肩こり
・頭痛
・不眠
・吐き気
・全身疲労
・自律神経失調症

たった1秒の休息でスマホから目を守れる

スマートフォンは便利なので、今後ますます私たちの生活に入り込んでくるでしょう。ならば、スマートフォンから目を守る工夫がもっと必要です。

そのための基本的なこととしてはまず、見るときにはある程度距離を保ってください。大人は40cm、子どもなら少なくとも20~25cmは離してください。

スマートフォンを使っているときは、まばたきをする回数が少なくなるので、目が乾いてしまいます。ドライアイを防ぐためにも、30分に1回でいいので、ときどき目をギューッと強くつぶってください。

強くつぶると、目の周りにあるマイボーム腺から、油の成分をいっぱい含んだ涙が絞り出されます。強くつぶると濃い涙になり、目が乾きにくくなります。

そして、私が患者さんによく言うのは、「1~2秒でいいので、2~3メートル先を見なさい」ということ。

これだけで目の緊張がやわらぎ、目の休息になります。スマホ目を防ぐことができるのです。詳しくは次項で説明しましょう。

2~3メートル先を見れば目の緊張がゆるむ

スマホ目は、スマートフォン(スマホ)の見すぎで目の筋肉(毛様体筋)ががんばりすぎている状態なので、ときどき目に休息を与えましょう。短時間で、すぐにできる目の休息法をご紹介します。

特にお勧めしているのは、「10分に1回は、1~2秒でいいので2~3メートル先を見なさい」ということです。

そんな簡単なことでいいの? と思うかもしれませんが、これだけで緊張していた毛様体筋は簡単にゆるみます。

毛様体筋をコントロールしているのは自律神経です。近くを見るときは副交感神経が優位、遠くを見るときは交感神経が優位となり、毛様体筋を収縮させたり伸ばしたりしてピントを調節しています。

その境目が1メートルといわれています。1メートル先を超えて見ると交感神経が優位になり、1メートル手前からは副交感神経が優位となります。

毛様体筋をコントロールしている自律神経を健全に保つには、毛様体筋をときどき動かすことがたいせつです。

ところが、スマホを長時間ずっと見ているときは、毛様体筋が動かずに収縮したまま、すなわちずっと緊張してがんばっている状態です。これでは疲れます。

そんな毛様体筋も、2~3メートル先を1~2秒見るだけで、瞬間的にゆるみます。がんばっている状態から解放されるのです。

天井を見てスマホ目の予防

前や横をちらっと見るのに適切な対象物がなかったり、なにか差し障りがある場合には、天井を見るといいでしょう。天井を見ると首を伸ばす効果も期待できます。

首には交感神経が束になっている交感神経節があります。上を見ると首が伸びて交感神経節が刺激されるので、遠くが見えやすくなるのではないかと推測されます。前述したように、遠くを見るときに働くのは交感神経です。

天井を見る方法を思いついたのは、交通事故のムチ打ち症の後遺症でした。ムチ打ち症で首にある交感神経節を傷めると、交感神経が働かくなります。

そうなるとピント合わせに悪影響が出て遠くにピントが合わなくなります。バレリュー症候群といいます。それを考えていくと、首を刺激すれば遠くにピント合わせができるのではないかと考えたのです。

これは私の仮説ですが、いずれにせよ、首を少し伸ばせば首も肩も気持ちいいのでお勧めです。仕事中、前や横を見て人と顔が合うよりも、さりげなくできるのではないでしょうか。10分に1秒でもいいので、やると、毛様体筋がこり固まらず、目の疲れを予防できます。

ほかにも、温かいタオルで目を温めるのも効果的です。目の周りの筋肉が温められて血液の流れがよくなります。筋肉中の老廃物が流れ、新しい血液が送り込まれるので疲労回復が早くなります。

40℃ぐらいの温度で10分温めるのが理想ですが、短くても効果はあります。やりやすいのは入浴時でしょう。お風呂の温度は40~41℃なので、お風呂でタオルを軽く絞って目に当て、ゆったり浸かると目の疲れも体の疲れも取れます。

【スマホ・パソコンから目を守る休息法】

❶2~3メートル先を1~2秒見る
緊張していた毛様体筋がゆるむのでリラックスできる

❷天井を1~2秒見る
毛様体筋や首の緊張が取れてリラックスできる

❸温かいタオルで目を温める
目の周りの血流がよくなる。10分温めるのが効果的なので、お風呂が最適

私が実践する目を守る習慣

私が日頃、実践している目を守る習慣をご紹介しましょう。

私は35歳から遠近両用メガネを常用しています。それまではひどい肩こりで湿布薬が欠かせませんでした。それが遠近両用メガネに替えてからは一度も肩こりを感じることはありません。スマホ目の患者さんも、メガネの上手な活用で改善する例は多数あります。

診察中は近業(近くを長時間見ること)が多いので、次の患者さんが見える間は、2~3メートル先を見ることを心がけています。カレンダーを見たり診察室の隙間から待っている患者さんを見たりしています。

また、暗いところではパソコンやスマホは使用しないようにしています。寝る前にもしません。スマホを見てすぐ寝ると、体は交感神経が優位になっているので、そのまま寝ると体が興奮して熟睡できないのです。

ほかには、アスタキサンチンのサプリをとっています。アスタキサンチンは天然の赤い色素成分で、サーモンや紅サケ、カニやエビの甲羅などに含まれる色素です。

活性酸素を抑制する抗酸化力は、ビタミンEの1000倍もあります。私が行った実験では、被験者全員の眼精疲労が改善され、ピント調節力の向上が認められました。

アスタキサンチンは、食品で摂取できます。お勧めはスモークサーモンのレモン汁かけです。ビタミンCも強い抗酸化力があるので相乗効果が期待できます。

日本はこれから人生100歳時代に突入します。昔に比べて体は若返っています。その一方で、目の負担はますます大きくなり、若いうちから老化が進行しているようです。日頃から目をいたわることがますます求められているといえます。

この記事は『ゆほびか』2019年1月号に掲載されています。

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