【腰が痛い】原因は神経の締め付け?慢性腰痛「上・中殿皮神経障害」の最新治療

美容・ヘルスケア

厚生労働省によると3ヵ月以上痛みが続く慢性腰痛の患者は全国に約2800万人いるとされます。近年、慢性腰痛の一部は画像診断では見つからない「殿皮神経」の締め付けが原因で、注射や手術などの体の負担の少ない治療で改善できることがわかってきました。【解説】金景成(日本医科大学千葉北総病院脳神経センター准教授)

解説者のプロフィール

金景成(キン・キョンソン)
日本医科大学千葉北総病院脳神経センター准教授。1995年、日本医科大学医学部卒業。2001年、同大学大学院卒業。日本医科大学多摩永山病院、虎の門病院、釧路労災病院、日本医科大学千葉北総病院脳神経外科講師等を経て、2017年より現職。『「超」入門 手術で治すしびれと痛み』(井須豊彦氏と共編集。メディカ出版刊)など、著書・編書多数。

強い圧痛が特徴のため自分でも把握しやすい

「腰痛」は、日本人を悩ませる症状の代表格。厚生労働省によると、3ヵ月以上痛みが続く慢性腰痛の患者は、全国に約2800万人いるとされます。

腰痛の原因として、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症がよく知られています。しかし、画像検査で背骨や関節、脊髄などの太い神経に異常が認められるこれらの腰痛は全体の1割程度にすぎず、大半の腰痛は原因がはっきりしません。

しかし近年、慢性腰痛の一部は、画像診断では見つからない、ごく細い「殿皮神経」の締め付けが原因で起こっており、注射や手術などの体の負担の少ない治療で改善できることがわかってきました。こうした「隠れ腰痛」の治療に詳しい金景成先生にお話をうかがいました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 山本太郎

──「殿皮神経障害による腰痛」とはどのような腰痛でしょうか? どんな特徴があるのですか?

腰痛のうち、診察や画像検査で痛みの原因を特定できる「特異的腰痛」は全体の15%程度しかなく、残りの85%は原因がわからない「非特異的腰痛」と言われます。

そのように原因不明とされてきた腰痛の中に、殿皮神経の障害が原因のものがかなりあることがわかってきました。

殿皮神経は、腰やお尻の皮膚感覚にかかわる神経で、上殿皮神経、中殿皮神経、下殿皮神経の三つに分けられます。

このうち、上殿皮神経と中殿皮神経がなんらかの理由で締め付けられると、腰痛や下肢のしびれを引き起こすことがあり、それを「上・中殿皮神経障害」と呼んでいます。

特徴は、そのまま診断につながってくるのですが、「神経が締め付けられている箇所を押すと、強い痛みを感じる」ことです。

上殿皮神経障害の場合は、骨盤を構成する「腸骨」という骨の上部、弧を描いているふちの部分に、押すと強く痛む箇所(圧痛点)が見つかります。腰のベルトを締める辺りの高さで、背骨の中心線から6~7cm外側に行ったところです(下図参照)。

《上・中殿皮神経と圧痛点》

中殿皮神経障害の場合は、それよりも少し下、お尻の割れ目が始まる辺りの高さで、背骨の中心線から3~4cm外側のお尻の出っ張った部分に圧痛点が見つかります(上図参照)。

上・中殿皮神経障害であれば、これらの圧痛点を押すとかなり強く痛むため、一般の人でもなんとなくわかるはずです。実際に最近、上・中殿皮神経障害がテレビ番組で紹介され、「自分で押してみたら痛かった」と受診される患者さんが増えました。

症状の現れ方は、人によってさまざまです。歩くと痛くなるという人もいれば、長く座っていると痛くなる人、あおむけに寝ると痛くなる人もいます。

症状の強さも人それぞれで、がまんできる程度の軽症の人もいれば、痛くて歩けずに車イスを使用するほど重症になる人もいます。

上殿皮神経や中殿皮神経は直径数mmの細い神経で、X線やMRI(磁気共鳴画像診断)などの画像検査では発見できません。私は、画像に映らないという意味で「隠れ腰痛」と呼んでいます。

そもそも、上・中殿皮神経障害は、医療関係者の間でもまだあまり認知されていません。こうした腰痛が起こること自体は、海外で1950年代から報告されていましたが、当初はそんなに多いものだとは考えられていませんでした。

しかし近年、横浜市立脳卒中・神経脊髄センターの青田洋一先生らが「全腰痛の14%」と、思いのほか多いと報告しています。

私も、上・中殿皮神経障害による腰痛はめずらしくはないと考えます。

ただし、腰痛はさまざまな要因が絡み合っていることが少なくありません。仮に「10」の痛みがあるとして、10全部が殿皮神経障害というケースもあれば、殿皮神経障害が5くらいかかわっているが、残りの5は別の要因といったケースもあると思います。

──上・中殿皮神経の締め付けは、どうして起こるのですか?

まだはっきりとはわかっていませんが、私たちは次のような仮説を立てています。

加齢をはじめ、さまざまな要因によって腰やお尻の筋肉が硬くなると、そのために上殿皮神経や中殿皮神経が引っ張られ、骨や靭帯へ強く押し付けられます。

殿皮神経はもともと腸骨や仙骨(骨盤の一部で背骨を支えている骨。お尻の割れ目の辺りにある)に引っかかるように通っている箇所があるのです。その引っかかりが強くなって神経がつぶされ、痛みが起こるのだと考えています。

なお、海外の研究では、軍人やクリケット(イギリス発祥のスポーツ)の選手などに上殿皮神経障害が多いとの報告があり、特定の筋肉や動作、姿勢が発症に関係している可能性があると指摘されていますが、これらについてもはっきりしたことはまだ不明です。

車イスで来院した人が歩いて帰れるようになることもある

──診断や治療はどのように行われるのですか?

診断はまず、先ほど述べたように、神経が締め付けられていて、押すと痛む箇所があるかどうかを確認します(前項参照)。

痛みの程度が軽い場合は、腰やお尻の筋肉を伸ばすストレッチ運動(下記参照)をしてもらい、それでらくになるかどうか、様子を見ることもあります。軽症であれば、ストレッチ運動や痛み止めの飲み薬でよくなることもあります。

殿皮神経を締め付けている筋肉をゆるめて痛みを抑える
【お尻のストレッチ】

※1日3~4回行うとよい。
※股関節疾患のある人、人工股関節を入れている人は絶対に行わないこと。

イスに座り、右ひざを両手で抱えるように持ち、右ひざを右胸に引き寄せる。
お尻から腰にかけて伸びているが、痛みは感じない程度の力で30~60秒保持する。
左足も同様に行う。

右足を抱えるように持ち、右ひざを左肩に引き寄せる。
お尻の外側の筋肉が伸びているが、痛みは感じない程度の力で、30~60秒保持する。
左足も同様に行う。

右足を抱えるように持ち、右ひざを左脇腹に引き寄せる。
お尻の下側の筋肉が伸びているが、痛みは感じない程度の力で、30~60秒保持する。
左足も同様に行う。

痛みが強い場合は、圧痛点に麻酔薬を入れる「神経ブロック注射」を行います。それで症状が改善すれば、上・中殿皮神経障害が腰痛の原因だとわかります。治療が診断を兼ねているわけです。

上・中殿皮神経障害が腰痛の原因であったなら、ブロック注射の効果はすぐ現れます。数分の休憩後、患者さんに少し歩き回ってもらうと、「らくに歩ける!」といった形で、効果が判定できることが多いです。車イスで来院された人が、立って歩いて帰れるようになるという劇的なケースもあります。

ブロック注射は麻酔薬で神経をマヒさせて痛みを取るわけですから、理屈の上では、麻酔が切れるまでの一時的な効果しかないはずです。ところが実際には、痛みのない状態が1週間、1ヵ月と続いたり、何度かブロック注射をするうちに腰痛が治ってしまったりすることもあります。

これは、麻酔によって神経の興奮が抑えられ、周囲の血管や筋肉の緊張がほぐれて血行がよくなるなどして、いわゆる「痛みの悪循環」を断ち切れるからではないかと考えられています。

ですから、まずは3~5回くらいブロック注射を続けて、症状が改善するかどうか様子を見ます。ブロック注射の効果が長続きしなかったり、あまり改善しなかったりするようであれば、次の選択肢として、手術があります。

──どんな手術なのですか?

締め付けられている神経を見つけて、周辺の筋膜をはがし、その神経がブラブラと動けるような状態にする手術です。局所麻酔をして、うつぶせに寝た状態で、腰やお尻の皮膚を5~6cm切開して行います。

所要時間は1時間半くらい。骨や関節などをいじらないため、手術した直後から普通に歩けるので、当院では手術後に1泊入院してもらい、翌日に退院という形で実施しています。

体への負担が比較的少なく高齢者でも受けられる

実際の症例を紹介しましょう。

50代の女性Aさんはデパートの販売員をしているのですが、腰痛で立っているのがつらくなり、仕事にならなくなってしまったそうです。

近くの整形外科を受診するも、レントゲンでは異常が見つからず、痛み止めの薬などもあまり効果がなく、困り果てていたそうです。そんなときにテレビ番組で上・中殿皮神経障害のことを知り、圧痛点が自分にもあったため、来院されました。

Aさんは上殿皮神経障害で、ブロック注射で改善が見られました。しばらくブロック注射を続け、効果は見られていたのですが、他県からの通院で片道2時間近くかかるのが大変とのことで、ご本人が手術を希望されました。

そこで手術を実施し、現在、半年ほど経過しました。Aさんによると、腰痛がまったく出なくなったわけではないけれど、仕事に支障を来さない程度に軽くなり、助かっているとのことです。

もう一例は、90代の女性Bさん。介護施設に入居しているかたですが、背骨の圧迫骨折(骨がもろくなり、脊椎がつぶれる骨折)を起こし、その後に腰痛がひどくなって、寝たきりになってしまったとのことでした。このように骨折などがきっかけで上・中殿皮神経障害が起こるケースもあります。

とにかく痛みを取りたいとのことだったので、早めに手術に踏み切りました。筋肉の外側の薄膜を切るだけで、体への負担は比較的少ない手術なので、高齢のかたでも受けられると考えていただいていいでしょう。

Bさんは手術後、歩行器を使って歩けるまでに回復し、現在は施設で元気にお過ごしとのことです。

──上・中殿皮神経障害による腰痛の治療を受けたい人はどうすればいいのでしょうか?

まずはお尻に圧痛点があるかどうかを確認してください。疑わしいと思ったら、お近くの大学病院や総合病院を受診して相談し、上・中殿皮神経障害の治療を実施している医療機関を紹介してもらうのがいいでしょう。

残念ながら、この治療を行う医療機関は、全国的にはまだ少ないのが現状です。特に手術は細い神経を扱います。患者さんの負担は少ないとはいえ、簡単な手術ではありません。必ず治療実績のある医療機関を受診してください。

今後は、こういう原因で腰痛が起こることがあると広く知ってもらうのが課題です。手術はさておき、ブロック注射は難しい治療ではないので、医療関係者の間で知識が広まってくれば、多くの医療機関で気軽に受けられる状況になると期待されます。

この記事は『安心』2019年3月号に掲載されています。

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