【慢性腎臓病(CKD)】なぜ「運動」で腎機能が改善するのか

美容・ヘルスケア

従来、慢性腎臓病は治らないとされ「安静が第一」でした。現在、運動は、きれいになった血液を体内へ送り出す「糸球体」内の血管を広げる作用があり、血液のろ過に関わる「タコ足細胞」にかかる負担を減らし、腎機能の低下を防ぐと考えられています。【解説】上月正博(東北大学大学院医学研究科教授・東北大学病院リハビリテーション部長)

解説者のプロフィール

上月正博(こうづき・まさひろ)
1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科講座内部障害分野教授。東北大学病院リハビリテーション部長、同障害科学専攻長。日本腎臓リハビリテーション学会理事長。「腎臓リハビリテーション」という新たな概念を提唱し、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させる活動に尽力。著書に『腎臓病は運動でよくなる!』(マキノ出版)など多数。上の写真は、「ハンス・セリエ賞」のメダルを手にする著者。

腎臓病には安静第一という常識が覆された!

2019年の1月に放映されたNHK『ガッテン!』で、私が提唱している「東北大学式・腎臓リハビリテーション」の運動療法が紹介され、大きな反響を呼びました。

従来、慢性腎臓病(CKD)は治らないとされ、患者さんは「安静が第一」でした。反響が大きかったのは、その常識が覆されたからです。

慢性腎臓病の人は、運動が制限されます。運動をするとたんぱく尿が出て、病態が悪化すると考えられていたからです。しかし、20年以上前に、私たちが行った実験で、それに疑問符がつく結果が出ました。

当時私たちは、末期腎不全のネズミを使って、降圧剤の腎機能に対する効果を調べていました。その結果を、降圧剤なしで運動をさせたネズミと比較すると、どちらもたんぱく尿が増えていなかったのです。

運動をしても、たんぱく尿が降圧剤と同様に抑えられている。その結果に疑問を持った私は、さらに研究を重ねました。するとどの実験でも、運動するとたんぱく尿が抑えられ、薬と併用するとさらによい結果が出たのです。

また当時、世界中の研究を調べてみましたが、運動が腎臓病に悪いということを明確にした論文は見つかりませんでした。こうしたことから、運動はむしろ腎機能を改善させる可能性があると確信しました。

しかし私の研究は、国内では受け入れてもらえず、日本は相変わらず安静第一という考え方が主流でした。

流れが変わったのは、2000年ごろからです。国際高血圧学会(米国シカゴ)で、それまでの研究結果を発表すると、しだいに運動の効用が世界から注目されるようになったのです。

その後、ヒトでの臨床試験が、世界各国で行われるようになりました。

2013年のブラジルでは、肥満を伴う慢性腎臓病の保存期(透析前段階)の患者さんに週3回、30分の運動(マシンを使ったウォーキング)を12週間続けてもらうという試験がありました。

結果、運動を行った群は腎機能が有意に改善し、行わなかった群は、逆に低下していました(下のグラフ参照)。

《運動による腎機能の変化》

肥満で慢性腎臓病の保存期の患者を無作為に2群に分ける。運動を行った群は腎機能が有意に改善し、運動を行わなかった群は悪化した。[Baria F.et.al.Nephrol Dial Transplant 29:6857-867,2014]

また、台湾では慢性腎臓病の保存期の患者さん6323名を対象に、10年間にわたる追跡調査を実施。ウォーキングをしていた群は、していなかった群に比べ、人工透析への移行が2年間先に延び、死亡率も35%低下することがわかりました。

このように、世界では運動が慢性腎臓病に有効だという結果が相次ぎました。それでも日本では、「運動制限」という縛りがなかなか取れませんでした。

それがようやく見直されたのが、2016年です。糖尿病治療ガイドラインの第4期(腎不全期)で運動制限が取れ(軽度の運動は可)、2018年には運動可になりました。運動に対する考え方の変遷は、ガイドラインを時系列で見ると一目瞭然です。

《糖尿病治療ガイドラインの記載内容の変遷(運動)》

また、2016年から、糖尿病腎症に限って、リハビリ運動が健康保険の対象になりました。私がネズミの研究を始めてから20年、ようやく運動療法の効果が国内でも正式に認められたのです。

これらの研究が世界的に評価されて、昨年、私はハンス・セリエ賞を授与されました。これは、ストレス学説で有名なハンス・セリエにちなんだ賞で、心臓や腎臓の分野に貢献した科学者に贈られるものです。

糸球体の血流がよくなり腎機能の低下を抑制!

さて、なぜ運動が慢性腎臓病に効果があるのか、わかりやすく説明しましょう。

これまでいわれてきた、「運動をするとたんぱく尿が出る」というのは一過性のものでした。長期に観察すると、たんぱく尿は抑えられます。

たんぱくが尿に漏れ出る要因はいろいろあります(マイナスイオンの減少や、活性酸素の増加による血管の損傷など)。その一つが、毛細血管が毛糸玉のように集まった糸球体(下の図を参照)に張りついている「タコ足細胞」です。

腎臓には、糸球体が100万個もあるといわれています。血液はここでろ過され、尿になりますが、このろ過に深く関係しているのがタコ足細胞です。

タコ足細胞は、足どうしを絡ませて微小なすきまを作っています。そのすきまから小さな老廃物を尿中に排出しますが、体に必要なたんぱく質などは通過できないようにしています。

《タコ足細胞とろ過》
老廃物を含む血液は、糸球体でろ過される。糸球体にはタコ足細胞が張りつき、足を絡ませて微小なすきまを作っている。小さい老廃物はそのすきまから尿中に排出され、大きなたんぱく質は血中に残される。

ところが、たんぱく質をたくさんとると、老廃物が血液中に増加。その影響で、糸球体に血液を流している血管(輸入細動脈)が広がって糸球体に圧がかかり、ろ過をするタコ足細胞に負担がかかります。

その状態が続くと、タコ足の細胞がはがれていき、すきまから尿中に、たんぱくがどんどん漏れ出してしまうのです。これが腎機能低下の一因です。

そのほか、高血圧や高血糖も糸球体の毛細血管に圧をかけます。やはり、タコ足細胞の負担になり、腎機能の低下につながります。

●たんぱく質をとり過ぎると
老廃物が血液中に増え、糸球体の毛細血管に圧がかかる。ろ過するタコ足細胞に負担がかかり、その状態が続くとタコ足細胞がはがれ、尿中にたんぱくが漏れ出す。高血圧や高血糖も、同様に、糸球体に圧がかかって、タコ足細胞の負担になる。

さて、運動や一部の降圧剤(ACE阻害剤など)は、きれいになった血液を体内へ送り出す糸球体内の血管(輸出細動脈)を広げる作用があります。

この血管が広がると、糸球体の血流がよくなり、糸球体にかかる圧が軽減。タコ足細胞にかかる負担を減らせるのです。

また、運動すると、血管の内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)が増えます。

これが体の血管や輸出細動脈を拡張して糸球体の圧を下げることで、タコ足細胞が元気になり、糸球体からのたんぱくの漏れを防ぐとも考えられています。

◎運動を行うと
輸出細動脈を広げ、糸球体の血流を促進。糸球体の圧が軽減し、タコ足細胞にかかる負担を減らせる。また、血管の内皮細胞から産出される一酸化窒素(NO)が増え、体の血管や輸出細動脈を拡張し、糸球体の圧を下げることで、タコ足細胞が元気になり、たんぱく質の漏れを防ぐと考えられる。

私が慢性腎臓病の患者さんに運動を勧めるのは、腎機能の低下を防ぐためだけではありません。

末期腎不全で人工透析を受ける前に亡くなる人は、心筋梗塞や脳卒中などの脳心血管病が圧倒的に多いのです。それらを防ぐには、慢性腎臓病と診断されたら、早めに運動を取り入れることが大事なのです。

どのような運動がいいのか、次の記事「東北大式・腎臓リハビリテーション」のやり方でご紹介しましょう。

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