【麻倉怜士の4K8K感動探訪(5)】NHKBS4K「4Kシアター」 強烈なコントラストで暗黒を描く「第三の男」を堪能!

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4K放送のハイライトのひとつが、映画だ。NHKBS4Kの「4Kシアター」は世界の名画の宝庫。土曜日夜9時に初回放送、翌週の午前11時に再度、という流れで、2018年12月の開局以来、白黒、カラー、大作、問題作…と、20世紀の名作映画が続々4Kで放映されている。しかも、そのほとんどがUHDBDで未リリースだから、たいへん貴重だ。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

“蘇る” “再発見” という切り口

NHKではどのように放映映画を選ぶのか。坂本朋彦(NHK編成局チーフプロデューサー)氏に聞いた。

「映画会社からの提案、情報を元に、4Kで見るのにふさわしい画質か、作品か、視聴者がかつて見た経験を持つクラシック作品か…を基準に選んでいます。昔、3番館、4番館で見た時には、画面に雨が降っていた映画が4Kで修復され、信じられないほどきれいになっている。このシーンは本当はこんな色だったのか、こんなに写っていたのか…という驚きでぜひ見て欲しい。“蘇る” “再発見” という切り口ですので、デジタル撮影ものではなく、フィルム作品で編成しています」

3月7日、まさにそんな狙いが分かったサスペンス映画が放映された。
名匠キャロル・リード監督の1949年製作、「第三の男」(7月20日放映)。同年カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した、第二次世界大戦後の廃墟と化したウィーン地下の下水迷路を舞台にしたサスペンスの名作だ。

白黒映画は、実に4Kに合う

「魅惑に満ちた古都ウィーンは戦前の話だ。今では闇市全盛の街。市内は4分割され、アメリカ、イギリス、ソ連、フランスが統合している。中心部は共同で管理され、国際警察がパトロールしていた。言葉も通じない、見知らぬ街で彼らは頑張っていた――」

こんなダイアローグで物語は始まった。
分割ラインが市民の行動の自由を制限していたウィーンで、しかしそのラインを自在に超えて暗躍していた闇商人が、いた…。

親友(オーソン・ウエルズ)をウィーンに訪ねたアメリカ人作家ホリー(ジョセフ・コットン)は、ハリーは交通事故死したと聞かされる。彼の死を不審に思ったホリーは、ハリーの交友関係を調べていくうち、彼が実は闇取引の大黒幕だと知る。事故現場にいた「第三の男」の謎を追う素人探偵に危険が迫る…。

ウィーンの地場のチター師、アントン・カラスの弾く軽快で金属的な、有名なテーマ曲に乗って、強烈なコントラストで、当時のウィーンの暗黒をドラマティックに描く「第三の男」は、4Kの表現性がこれほどのものかと、堪能させてくれた。

黒と白の間の階調のみで表現する白黒映画は、実に4Kに合う。
ホリーの着古した安いコートの質感、イギリスのキャラハン警部の高級な皮のコートのぬめっとした反射感は刮目だ。グレインノイズは多いが、目立つのは明部だけなので、あまり気にならない。平均輝度の高いシーンでは、全帯域に渡ってこまやかな階調構成が分かる。

映画が始まって一時間以上経って、交通事故で死んだはずの闇社会の大物、ハリーが強烈な光に当たって突然、登場。この時の回りの暗部と顔の明部の対比こそ、白黒映画の醍醐味だ。斜めに映されたビルのドアの外に彼がいる。暗くて姿は伺えないが、ハリーの足にまとわりつく愛猫はライトの中ではっきり見える。

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▼初の4K修復マスター! 映画オールタイム・ベストに常に名を連ねる映画史上の傑作!▼陰影深い映像による緊迫感溢れる大詰めの追跡劇! 映画史上に輝く傑作! イギリス映画の名匠キャロル・リードの代表作。▼俳優としてのオーソン・ウェルズの代表作。「ボルジア家統治下30年の戦争はルネサンスを生んだが、スイス500年の平和が生んだのは鳩時計さ」は彼の演じるハリーの名セリフ。▼アントン・カラスのチターだけの音楽も誰もが知っている映画音楽の定番。(Amazon)

4月4日(土)は「ダークナイト」

4Kは、強靭なコントラストと繊細な階調感でこのドラマティックなシーンを見事に描いた。チターの刺激音が緊張感を昂め、斜めの構図が不安をさらにかきたてる。光と影に大胆に分割された白黒映像だからこその映像サスペンスだ。

私が大好きなのは、クライマックスはウィーンのプラタ公園の観覧車にて闇の悪党、ハリー・ライムが、親友の作家ホリーにこう言う、有名なシーン。

「ボルジア家の30年、権謀術策と戦争に明け暮れたイタリアではルネッサンスが開花した。でも、兄弟愛のスイスではどうだ。500年の民主主義と平和で鳩時計とまりさ…」

ハリーはしたり顔で言った。犯罪者が吐露する台詞としては最上のものだろう。

4月以降の「4Kシアター」のラインナップを紹介しよう。

4月4日(土)は、「ダークナイト」
闇の騎士・バットマンの活躍を、クリストファー・ノーラン監督が描く傑作シリーズ第2弾。UHDBDは、私の機器評価のリファレンスになっているほどの画質と音質が素晴らしいので、大いに期待される。5.1チャンネルサラウンド+ステレオ音声。4月11日に再放送。

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4月11日(土)は、ベトナム戦争を題材に、若者たちの青春と友情を描き、アカデミー作品賞など5部門に輝いた「ディア・ハンター」(放送時間変更もあり。再放送は4月18日)。

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4月18日(土)は、囚人の人質となった大統領を救出するアクション映画「ニューヨーク1997」。5.1チャンネルサラウンド+ステレオ音声。

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4月25日(土)は、 2019年のロサンゼルスを舞台に、反乱を起こし逃亡した人造人間=レプリカントと、特別捜査班ブレードランナーとの戦いを描くSF映画「ブレードランナー ファイナル・カット」。リドリー・スコット監督が再編集したバージョンだ。5.1チャンネルサラウンド+ステレオ音声。4月25日に再放送。

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文◆麻倉怜士(デジタルメディア評論家)

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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