執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。特選街webにて「麻倉怜士の4K8K感動探訪」好評連載中。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)
抜群に素晴らしい「AIRPULSE A80」
高価なハイクラスのスピーカーに迫る音の良さ
自宅で世界中のステージライブが楽しめる、新しい音楽メディアの誕生ですね。それを机の上のパソコンで受信するという使い方がメインになりましたが、問題は、音質です。それをパソコン内蔵の貧弱なスピーカーで聴いている人はいないでしょうが、よくある安価なパソコン用のアクティブスピーカー(アンプ内蔵)では音が薄く、粗く、とてもちゃんとした音楽鑑賞ができません。
そこで、最近登場しているのが、「音楽鑑賞用のアクティブスピーカー」です。
同じようにパソコンから、USBケーブルでつなぐのですが、オーディオメーカーがきちんと音作りを施すので、音質は格段に良いです。単なる拡声用ではなく、音楽を聴くのなら、ぜひお薦めです。そのなかで、私が最近聴いて、これは抜群に音が素晴らしいと確認したアクティブ・スピーカーをご紹介しましょう。

英国のブランド、AIRPULSE(エアパルス)の「A80」の前面。
それは、AIRPULSE(エアパルス)の「A80」というコンパクトなスピーカーです。成りは小さいですが、鳴りっぷりは抜群に素晴らしい。その音の良さには、もっと高価なハイクラスのスピーカーに迫るという言い方もできます。
エアパルス・ブランドについて
2004年に設立されたプラチナム・オーディオ・システム・カンパニーが商標を持つブランドであるAIRPULSE。英国のアコースティック・エナジーを創設者でもあるフィル・ジョーンズがR&Dのトップとしてエンジニアチームを率いています。
歯切れよく躍動的な音を再生する「A80」
音楽が持つ「質感」を正しく再現してくれる
AIRPULSE「A80」は、低音から高音までの再現できる周波数の幅が広く、音の進行スピードが速いです。瞬間的に音が大きくなったり、小さくなる音源では、スピーカーの追随能力が試されます。その対応力が悪いと、音が滲んだり、鈍くなったりします。しかし、A80はたいへん歯切れがよく、音楽の流れに極めてスムーズに乗って、躍動的な音を再生してくれます。
スピーカーの音でもうひとつ大事なのは「質感再現」です。ヴォーカル、各種楽器には特有の音色があります。その特徴をいかに精確に再現するかが、スピーカーの価値を左右します。その点、A80は正しく音楽が持つ質感を再現してくれました。私がプロデュースした、ウルトラアートレコードの「情家みえ・エトレーヌ」を聴き、その素晴らしさが具体的に分かりました。
ヴォーカル、ピアノ、ベース、ドラムスという編成の音場の透明感が高く、ヴォーカル音像と各楽器間の空間感がクリヤーで、見晴らしがよい再生音場ですね。特に、ピアノとドラムスの立ち上がり立ち下がりが俊敏です。
ヴォーカルの表情はこまやかで、抑揚と感情がたっりと込められていることが、明瞭に聴き取れます。音が消えゆく際、感情を濃く込める、情家みえさんならではの歌い方が、生々しく再現されています。ピアノは名手、山本剛さんです。軽快にして、のびやか、まさに鍵盤の上を指が踊っています。そんな様子も生々しく聴けました。

付属のウレタンベースを使って設置したところ。
伝説の名スピーカー設計者がつくった「A80」
さすがフィル・ジョーンズ!
スピーカーの音とは畢竟、設計者がどれほど技術を持っているか、音にこだわるかで決まります。その意味で、誰がこのAIRPULSE「A80」をつくったのかが、大いに気になりました。

伝説的なスピーカー技術者、フィル・ジョーンズ。
それは、斯界に名を轟かす伝説の名スピーカー設計者、フィル・ジョーンズでした。彼はアメリカとイギリスの有名スピーカーブランドで、歴史的なスピーカーを数多く、世に送り、シーンにフィル・ジョーンズありとの令名を欲しいままにした、伝説的なスピーカー技術者です。彼の最新作が、この「A80」なのです。
さすがフィルは違うと思ったのが、高域のユニットにホーンロード・リボンツイーターを搭載したことです。極薄のリボン形状の振動板のツイーターは高い音のレスポンスが非常に速い。ホーンはユニットから発せられた音を速いスピードを的確に前に押し出します。低域を受け持つウーファーユニットは強力な磁気回路で駆動されたアルミニウム合金コーンです。これも俊敏に、来た信号を音に換えます。

ホーンロード・リボンツイーター。

アルミニウム合金コーンウーファー。
見逃せないのが、音のチューニング。デバイスとしての性能の優秀さだけでは不十分で、それに適切に音楽を鳴らすための調整が施されて、初めてちゃんとしたスピーカー製品となります。その点、フィル・ジョーンズがチューニングするというのは、最高の技が与えられたということと同義ですね。
フィル・ジョーンズについて
1954年にロンドンで生まれ、1980年ヴァイタボックス・ラウドスピーカーにエンジニアとして参加した後1987年にアコースティック・エナジーを設立。アビーロード・スタジオにも導入された有名なニアフィールド・モニターAE-1で一躍有名になった彼は1990年ボストンアコースティックでリンフィールド・シリーズを手掛け、1994年に自身のブランド プラチナム・オーディオを設立。自らもベーシストとして活躍する氏は、2002年にフィル・ジョーンズ・ベースを設立し、ベースプレーヤー用のハイファイ・アンプを開発するなど精力的な活動を経て、2004年プラチナム・オーディオ・システム・カンパニーに参加しエンジニアとしてエアパルス・ブランドを牽引している。
まとめ
高音質アクティブスピーカーとして一番おすすめ
AIRPULSE「A80」は、冒頭に述べた配信ライブ鑑賞だけでなく、CD再生、テレビ再生、ゲームなどに多彩に活用するため、多くの入力を持ちます。
パソコンとつなぐハイレゾ再生用のUSBDAC端子、テレビ、CDプレーヤーやゲーム機などとつなぐ2系統の光デジタル端子、さまざまなアナログ機器とつなぐ2系統のアナログ端子、ブルートゥース受信…と、このコンパクトなボディでも、たくさんの機器と接続できるのも、大きな利点です。スマホに収蔵した音楽コンテンツはaptX対応のブルートゥースで聴きましょう。

AIRPULSE「A80」の背面。アンプを内蔵する右側には、アナログ入力、USB、光デジタル入力を装備。
電源のオンオフ、入力切換、ボリューム操作ができるリモコンも付属しています。ケーブルもUSB、光デジタル、RCAケーブル、2つのスピーカーをつなぐYケーブル(3.5mmステレオ to RCA)…が同梱されています。
AIRPULSE「A80」は「高音質アクティブ・スピーカー」として、まず第一にお薦めしたい逸品です。
