【麻倉怜士の4K8K感動探訪(14)】ウルトラセブン 4Kリマスター版 常識外れの高画質を実現した、大いなるこだわり(前編)

家電・AV

NHK BS4Kの『ウルトラセブン』の4K・HDRリマスター版はたいへん素晴らしい。1967年という古い16ミリフィルム作品だが、ひじょうに丁寧なレストアと、グレーディング(色調調整)により、刮目の高画質に甦った。これは円谷プロダクションのアーカイブ蔵出しの第2弾だ。第1弾が『ウルトラQ』。まず NHK BS4Kで4Kリマスター版が放送され、続いて円谷プロから、 それをマスターにしたUHDBDセットが発売された。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

ここまで、そうとう苦労があったに違いない。

私は『ウルトラQ』の時から、4Kレストアに注目した。ASCII.jpにて関係者にインタビューし、「4K・HDRで蘇ったの映像は刮目の出来栄え」という記事を書いた。

『ウルトラQ』は35ミリフィルム(白黒)、今回の『ウルトラセブン』は16ミリフィルム(カラー)だ。これまでのフィルムとメディアの関係では、65ミリフィルムは8K、35ミリフィルムは4K、16ミリフィルムは2Kに相当する…が、常識であった。でも、 16ミリの『ウルトラセブン』4Kは、まったく常識外れの高画質だ。

ウルトラセブン 第3話『湖のひみつ』からタイトル。©円谷プロ

光の粒立ちとコントラストは、4K・HDR化の成果。©円谷プロ

BS4Kで、2K/SDRと4K・HDRの比較映像を流したが、度肝を抜かれたのがオープニングだ。タイトル文字のクリアーさ、色の美しさにはびっくり。16ミリフィルムに相当する比べると 白の再現がまったく違い、白い文字の中に細かい区切りまで見え、不気味さやエネルギー感が強調された。この比較には、驚いた視聴者も多かったろう。

第8話「狙われた街」のダンとアンヌが、喫茶店の二階から煙草の自動販売機を見張っているカット。ここはロングショットの駅名まではっきりと読めた。それは小田急線の向ヶ丘遊園駅。今はなくなってしまった、懐かしい木造駅舎ではないか。4K『ウルトラセブン』映像は、何が映っているのかと、あちこちに目を凝らさなくとも情報が入ってくる。何気ない部分にも目が行く。

もともとの情報量が、2Kまでの従来映像より圧倒的に多い4Kは、実は見る者の脳の負担を軽減している。2K映像を見ている時は、情報が不完全なので脳がディテイルを探しにいく。ところが4Kではディテイルまで初めから情報が豊富なので、入ってくる映像を無理せず、そのまま享受できるので、脳の負担が少ない。それはハイレゾオーディオを聴くと、豊富なリアリティを素直に感じるのと同じ現象だ。だから4Kの方が疲れないし、自然に情報を判別できる。2Kでは目をこらして探さなくてはならなかった情報も、4Kなら自然に受け入れることができる。

でも、よく16ミリフィルムにして、ここまでのコントラスト、ディテール、そして色を引き出したことには、感心する。そうとう苦労があったに違いない。

ウルトラセブン 第3話『湖のひみつ』から。 ©円谷プロ

アンヌ隊員のひし美ゆり子(当時は、菱見百合子)。生気がまったく違う。©円谷プロ

トライ・アンド・エラーで繰り返し検証

画源は、16ミリのオリジナルネガ。恒温恒湿で保管されていた貴重なネガフィルムにクリーニングにかけて、4Kスキャン。具体的な作業は、ポストプロダクションの東映ラボテックが行った。オリジナルネガからのマスター製作という意味では、『ウルトラQ』と同様だ。

ウルトラセブン 第3話『湖のひみつ』から。©円谷プロ

金属感、輝度、彩度などまったく別物だ。©円谷プロ

4Kグレーディングのなにが難しかったか。まずはノイズ。円谷プロダクション製作本部長の隠田雅浩氏は、言った。

「16ミリフィルムを4Kスキャンすると、フィルムの粒状性、グレインが拡大されます。デジタル処理でグレインを抑えるように調整するのですが、やりすぎると輪郭やディテイルに影響が出てしまい、両立が難しかったです。東映ラボテックさんに細かく設定を変えてもらい、トライ・アンド・エラーで繰り返し検証してもらいました」(隠田雅浩氏)

これは古典的なノイズリダクションと解像感の関係の問題だ。ノイズを落とせば、微小信号のディテール情報が減る。ディテールを増やせば、ノイズが増える。ウルトラ警備隊基地の部屋は、グレートーン。隊員の服も、壁面も灰色で統一されている。

「ところがグレーは、フィルムグレインや濃淡がわかりやすい色調なんです。最初はグレインを気にしてノイズリダクションを強くかけていたのですが、それだと全体的にぺろっとして、4Kの意味がなくなってしまいました。4Kの精細感を残しつつ、グレインを目立たせないというのは、難しい調整が必要でした」(隠田雅浩氏)

実際のオンエアではいいバランスに落ち着いていたと、私は見た。(後編に続く)

放送予定

「ウルトラセブン4Kリマスター版」
BS4K 毎週火曜 午後11時15分~

▼2021/1/5(火)
第30話 栄光は誰れのために
第31話 悪魔の住む花
▼2021/1/12(火)
第32話 散歩する惑星
第33話 侵略する死者たち
▼2021/1/19(火)
第34話 蒸発都市
第35話 月世界の戦慄
▼2021/1/26(火)
第36話 必殺の0.1秒
第37話 盗まれたウルトラ・アイ
▼2021/2/2(火)
第38話 勇気ある戦い
第39話 セブン暗殺計画(前篇)
▼2021/2/9(火)
第40話 セブン暗殺計画(後編)
第41話 水中からの挑戦
▼2021/2/16(火)
第42話 ノンマルトの使者
第43話 第四惑星の悪夢
▼2021/2/23(火)
第44話 恐怖の超猿人
第45話 円盤が来た

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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