これからの家計の“新常識”は?
では、その上で、これからの家計の“新常識”を考察してみましょう。相も変わらず、私・八ツ井の独断と偏見によりますので、気軽に読み進めてみてください。
①新常識▼人生の3大資金の(事実上の)消滅
「人生の3大資金」とは、教育資金、住宅資金、老後資金を指します。長い人生の中で高額なお金がかかり、「事前の準備が大事」とされる資金です。パーソナルファイナンス(お金の管理)でどう準備をしたらいいか、ということが家計アドバイスにおいてのポイントにもなっています。実際、家計相談では、この3大資金の準備をキッカケに来られる方が多くいらっしゃいます。
しかし今後は、この3大資金は消滅するのではないかと思っています。
「教育資金」については、教育を受ける機会の公平化、少子化対策も相まって、現在進行中の「無償化」傾向が今後も進み、いまほどの負担はなくなるのではないでしょうか。
そもそも、「生活基盤が守られる社会」になれば、いまの高学歴志向も緩和され、「就職のための進学」ではなく、「学ぶための進学」の色合いを増し、いわゆるリカレント(循環教育=社会に出た後の学びなおし)も進むのではないかと思います。
「住宅資金」は、なくなるというより、その性質が大きく変わるでしょう。3大資金として住宅資金を語る時、基本的に「購入」を前提とし、頭金の準備、住宅ローンの組み方、返済の仕方などが家計管理上、重要とされています。
ですが、空き家が増えて、人口減少を迎えている現在の日本では、「家余り」が加速しています。供給が需要を上回れば、価値は下がります。全体的に住宅相場が下降すれば、持家ではなく、賃貸を選択する人も増えるでしょう。となると、「住宅資金」は「事前準備の費目」ではなく、家賃として、毎月の「支出の一費目」となる人が増えていくと思います。
そして、「老後資金」ですが、そもそも、なぜ老後資金を現役時代に準備しなければならないかといえば、「リタイア」を想定しているからです。高齢期に「リタイア=長く働かない期間」を持つためには、年金では足らない分を事前に準備しなくてはならない、という考え方です。
しかし、人生100年時代に備えて「そのぶん、より多くの老後資金を貯めましょう」というのはあまりに拙速な考え方だと思います。前述の通り、人間の寿命は伸び続けており、100歳が平均寿命の“ゴール”とも限りません。だとしたら、貯めることを促す策ではなく、寿命が伸びても安心して生活できる社会を作るための策が必要です。一定の生活の基盤が守られることを前提に、休みながらも長く働くことができる環境づくりは、一つの解決策ではないでしょうか。
「誰かの支出」は「誰かの収入」です。多くの人が支え合う(お金とモノが)循環する社会で、多くの人が「長く働くこと」を選択すれば、「老後資金を貯めること」は常識ではなくなっていくことでしょう。

休みながらも長く働くことを選択すれば、老後資金を貯めることは常識ではなくなっていく。
②新常識▼長期的なライフプラン作成の意義低下
「ライフプランを立てましょう」とは、これまたパーソナルファイナンス(お金の管理)では常識的に語られる言葉です。これはまさに、「3大資金の存在」が大きく影響しています。大きな資金が必要になれば、事前準備が必要です。これからの自分の人生でかかるであろう支出を事前に試算し、いつまでに、どのように準備していけば経済的に乗り切れるかを予測していくのに、ライフプラン表の作成は役立つからです。
家計管理の難しい点は、将来にかかる支出を予測して、準備する点です。ですが、人生の3大資金準備が事実上なくなれば、一気に楽になります。それでも、旅行や家電の買い替えなど、まとまった資金の短期的な支出は把握しておくとよいと思います。しかし、これまでのような「長期的なライフプランを作成する必要性」はグッと軽減されるでしょう。
③新常識▼リタイアの年齢は自分で決める
“働かない人”も「消費者」として生活できる状況が整うとしたら、「リタイアの時期は、自分で決める」という時代になるのではないかと思います。
そもそも、超長寿社会では、「休みながらも長く働くことを選択する人」が増えると思います。現在のように、一定の年齢で一律に「定年」とするのはそぐわなくなるでしょう。同じ年齢であっても、本人のスキルややる気、健康状態は個々で異なり、高齢者になるほど差が出やすいものです。加えて、デジタル化の進展で働き方が多様化する中、リタイアの年齢が一律というのは、ふさわしくなくなるでしょう。
④新常識▼お金の「使い方」がより大事に
これからは、「お金を貯めよう」ということも、「家計の常識」ではなくなってくると思います。個人的に、「貯め方よりも、使い方が大事です」と、もう何年も指摘し続けているのですが、一般的には、まだまだ認知されていません。
3大資金の必要性が消滅する中で、「どうお金を貯めるか」の重要度は小さくなります。「貯める」のも「使う」のも、その源泉は「収入」ですから、コインの裏表の関係です。貯めようと思ったら「使い方を正すこと」になるので、今後は、より多くの方の意識が「使い方」に向けられると思います。
また、このことは、キャッシュレス化が進展する中の「金銭教育」としても非常に大きな意義を持ちます。キャッシュレス決済では、「ムダづかいが増えやすい」とはよく指摘されることです。特に、若いデジタルネイティブ世代は、キャッシュレス時代で育っていくため、ムダづかいを抑えるのに「いったん現金に戻りましょう」が通じません。お金の“形”がどうであっても、周りに流されることなく、「自分軸で買い物をするスキル」は、より重要になっていくでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。これからの家計の新常識を4つ、挙げてみました。
「過去の常識」が「現代の非常識」であることは、歴史上もたくさんあります。家計の常識も同様です。老後資金を貯める“常識”も、平均寿命の伸びが影響していました。今後さらに寿命が伸びれば、その常識=貯める“常識”が、さらに変わってもおかしくありません。数年で変わるのか、数十年かかるのか分かりませんが、私たちの暮らしに大変革が起こることは、ほぼ間違いないであろうと思っています。
これらのことを「頭の体操」と思って、みなさんもどのような社会経済を構築したいか、そのとき自分はどういった暮らしをしたいのか、考えてみてはいかがでしょうか。それにふさわしい考え方がこれからの“新常識”として語られることになると思います。
文/八ツ井慶子(家計コンサルタント)