【世代交代する居酒屋】蛇口からレモンサワー飲み放題、ホルモン食べ放題 ときわ亭とレモホル酒場の快進撃

グルメ・レシピ

このコロナ禍の緊急事態宣言の最中にもかかわらず「レモンサワー&ホルモン」の飲み食べ放題の飲食店の新規出店が相次いでいる。オープンしたての店では行列ができている。しかしながら、これらの店の周りでは、シャッターをおろし休業している居酒屋もある。日中行列をつくっている居酒屋と休業している居酒屋の違いは何か。それは、顧客が「世代交代」していることが背景にあると考える。今居酒屋はコロナ禍で大きな災難を受けているが、本質は別なところにある。

「ときわ亭」と「レモホル酒場」

2021年に流行るものーー。それは「レモンサワー&ホルモン食べ飲み放題」である。

25坪56席で月商1200万円

このトップランナーは「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)だ。「ときわ亭」は、2021年2月26日にオープンした五反田店で13店舗となった。1号店は横浜西口店で、2019年12月にオープン、昨年7月にオープンした渋谷店が、25坪56席で月商1200万円(2010年10月当時)という飲食業界では繁盛店の認識を超えるレベルをマークして、一躍その業態力が注目された。

「ときわ亭」に続くのが、2月16日に渋谷店と五反田店を同時オープンした「レモホル酒場」。昨年11月に大阪の香里園(寝屋川市)と天四(大阪市北区)に出店したことにはじまり、福岡、熊本と出店し、2月に東京進出を果たしてから3月には大門に出店、また渋谷の東急ハンズ近くにも出店する。これで「レモホル酒場」は8店舗となる。

90分3000円という「食のレジャー」

両店は、店名からして「レモンサワー」と「ホルモン」を打ち出しているが、商品の内容もほとんど共通している。

レモンサワー飲み放題、ホルモン食べ放題

まず「レモンサワー飲み放題」で「ホルモン食べ放題」であること。「レモンサワー飲み放題」は各テーブルにレモンサワーのタップ(=蛇口)が設置されていて、注ぎ放題となっている。ともに60分間500円飲み放題で、30分間延長すると「ときわ亭」が300円、「レモホル酒場」は500円が追加となる。

タップが自分の目の前にあってレモンサワーがのみ放題になる。(GOSSO提供)

フードメニューの構成を比較しよう。

「ときわ亭」は、「名物」として「塩ホルモン」(豚)380円、「“肉塊”レモン牛たん」1490円、「ときわ亭カルビ」(国産牛)790円を打ち出し、豚、牛、鶏のホルモンや精肉を塩、味噌の味付けの組み合わせで品揃えをして、これに一品料理が加わり100品目、これにご飯物・スープで12品目。食べ飲み放題は1.5時間(=90分間)2980円、2時間3980円となっている。フードニューのバラエティが豊富なことから、一度同店を体験すると「近いうちにまた行こう」という気分にかられる。

「ときわ亭」の名物の一つ「“肉塊”レモン牛たん」1490円。(GOSSO提供)

「レモホル酒場」は、牛の生ホルモンが食べ放題1480円。これにサイドメニュー(ホルモン焼きうどん、ホルモンカレー、ホルモン煮込み、韓国風のクリスピーチキンなど)480円を付け加えると90分間食べ放題となる。レモンサワー注ぎ放題60分間500円に延長30分間500円だから、90分間(=1.5時間)2960円で食べ飲み放題となる。

「レモホル酒場」の牛の生ホルモン食べ放題は1480円。(筆者撮影)

それぞれの単品メニューの構成や価格設定に違いはあるが、「ときわ亭」も「レモホル酒場」も結局のところ“90分間3000円で食べ飲み放題”なのである。もちろん、それよりも短く安く済ませることもできる。だから顧客はさまざまな利用動機を想定することができる。

また、ホルモンのメインは、「ときわ亭」は豚、「レモホル酒場」は牛である。渋谷、五反田ともに両店が至近距離に存在していることから、「レモンサワー&ホルモン食べ飲み放題」のヘビーユーザーは動機によって両店を使い分けることだろう。

コロナ禍が業態に「勢い」

さて、両店が誕生し、勢いを増している背景をたどると「コロナ禍」が存在している。

「ときわ亭」を展開するGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)は、2005年12月の設立で、チーズフォンデュや肉バルなどを展開していたが、2~3年前から成長エンジンを求めてM&Aの相手先を探していたところ、仙台を拠点に宮城県下でチェーン展開をしているホルモン居酒屋「ときわ亭」と出合った。同社の経営者と意気投合し、食肉工場も営む仙台のときわ亭から食肉を仕入れ、宮城県以外でチェーン展開を行うという形でパートナーシップを結んだ。

テーブルにレモンサワーの注ぎ口を設置するアイデア

テーブルにレモンサワーのタップ(注ぎ口)を設置するというアイデアは、大阪で、テーブルにビールのタップを設置した居酒屋があり、それをヒントにしたという。

「ときわ亭」の既存FCオーナーや加盟希望者は、既に3~5店舗の飲食店を展開している30代の経営者で、コロナ対策の支援制度を活用する、というパターンが多い。藤田氏は「既存店のエリアで同じブランを展開すると競合してしまう。では、焼肉か焼鳥か専門店を手掛けてみたいが、専門店を開発することは簡単なことではないので、加盟店になった方が早く出店できると考えている人」と述べる。

「レモホル酒場」を展開する有限会社GC(本社/東京都港区、代表/石原義明)は、西日本で飲食業の実績をつくった。代表の石原氏は元K1の選手で、同時に大阪で飲食業を営んでいた。2015年に父の事業を引き継ぐために長崎に戻り、大阪時代に知己を得た芸能人であり飲食業経営者のたむらけんじ氏のブランドで焼肉店を営み大ヒット。2018年にその焼肉店の鍋料理の通信販売を開始した。2020年のコロナ禍でリアル店舗の業績は低迷するが、通信販売は飛躍的に売上を伸ばした。

そして石原氏はコロナ対策の支援制度を得て、ビールメーカーと「これから流行る業態は何?」と考えをめぐらし、その結論が「レモホル酒場」という形となった。フードメニューのメインである牛の生ホルモンは、既存の焼肉店のサプライヤーがその調達をバックアップしている。

「ときわ亭」も「レモホル酒場」もホルモンの安定供給の仕組みが整っている。(筆者撮影)

ここでの共通点は、ビールメーカーとホルモンのサプライヤーという二つの主力商品を支える存在がいるということだ。そして、コロナ対策の支援制度が前向きに活用されている。ハッシュタグはたくさん挙げることができる。

客層は20~30代前半

筆者はこの両店を体験し、さらに周りの居酒屋の動向を見て、飲食業界におけるポジショニングを考えてみた。

昨年9月、大繁盛で話題の「ときわ亭」に17時オープンに合わせて入店したところ、満席ということで2回断られ、予約をして入店できたのは10日後の19時であった。顧客の95%は20代前半、おそらく学生である。女子はほぼ半数で、みな乃木坂46のようだった…。

商品提供がクイック、客が酔うのもの早い

店に入った瞬間、筆者が体験してきたこれまでの居酒屋とは異なる空気感があった。店の制限時間が最大で90分間ということで商品提供が顕著にクイック、従業員と会話することはほとんどないが、スマイルは十分にある。顧客が酔うのもの早い。筆者の世代の感覚では、3~4人で居酒屋に入ってお酒を飲んでいると、いつしか同席している人たちとペースを合わせ、90分を経過したあたりでお互いの様子を見計らって「じゃあ、今日はこれで…」という具合にお開きになるものだ。そこはそれとは明らかに違っていた。

さて、緊急事態宣言中の2021年2月16日、筆者は「レモホル酒場」渋谷店のオープン12時前の状況を見に行った。11時ぐらいから行列ができ始め、12時には30席強の同店が優に2回転するほどの行列ができていた。制限時間が90分間ということで、行列していても時間が読めるから辛くはない、ということか。顧客の年齢は20代から30代前半、筆者のような中高年はいない。

2月16日「レモホル酒場」渋谷店がオープンする直前、スタッフが行列の顧客に感謝の言葉をもって出迎えた。(筆者撮影)

周りの居酒屋も、多くは営業していて昼飲みや昼食をとっているお客は少なからずいた。緊急時代宣言が明けても、この営業の在り方は変わらないであろう。しかし、シャッターを降ろしている店もある。「居酒屋を昼間開けたところでお客さんは来ない」と割り切っているのだろう。

#この店、バカなの?「90分間レモンサワー飲み放題0円」

「ときわ亭」渋谷店はどうだろうか。同店の平常時の営業開始は17時だが、緊急事態宣言の期間中は12時営業開始として、17時まで「90分間レモンサワー飲み放題0円」としている。名付けて「ときわ亭のクレイジーアワー」だ。店内をのぞくと、客席の半分は20代の顧客で埋まり、入店する顧客がぽつぽつと続いた。

「ときわ亭」が緊急事態宣言の期間中に行なっている「90分間レモンサワー飲み放題0円」の「ときわ亭のクレイジーアワー」。(GOSSO提供)

「居酒屋」は時代遅れに⁉

マーケターの友人がこのようなことを言った。

「居酒屋が不振になったのはコロナ禍が要因なのではなく、既に業態が時代に合わなくなっていたから」

居酒屋が隆盛したのは団塊の世代、ポスト団塊の世代に支えられたからだという。労働集約型でみな会社に集まって仕事をして、夜仕事を終えたところで「さ、飲みに行こうか!」というパターンである。これからの日本を担う世代は、ミレニアル世代。そして、Z世代と言われるデジタルパイオニア、デジタルネイティブの人々である。コロナ禍ではリモートワークが定着したが、これからのコミュニケーションの在り方はこの世代が主流となっていく。

そこで「居酒屋とは何か」である。そこに「レモンサワー&ホルモン食べ飲み放題」は、新世代の利用シーンを見事に捉えていると察している。「居酒屋を昼間開けていたところでお客さんは来ない」という発想は既に終わっているのではないだろうか。

執筆者のプロフィール

取材・文・撮影◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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