【朝8時開店】コロナ禍でも連日売切れ スリランカカレー専門店「スパイスカレー食堂」にある背景とは?

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2021年2月11日、東京・四谷に「スパイスカレー食堂」というスリランカカレーを提供する小型店舗がオープンした。同店は「1日100食限定」で営業しているが、連日売切れという繁盛店となっている。いまどき、新規開業店舗になぜこのような専門店をつくったのだろうか。店主に詳しく話を聞くと、2018年当時の外国人雇用対策から、スリランカにご縁が生まれて、スリランカに滞在する過程でスリランカレーに親しみ、「その効能は日本でヒットする」と確信し、さらに現地に日本語学校をつくり、日本への人材送り出しの体制も整えているという。

「スパイスカレー食堂」とは

Facebookのタイムラインは、いわばコミュニティの発言空間である。筆者の場合は飲食業界の実務家、関連業者、マスコミ関係の人が多く、飲食業界の最新の情報が挙げられる。

この2月中旬以降、ここに東京・四谷にオープンしたカレーショップのことが相次いで投稿された。店名は「スパイスカレー食堂」。「スパイスカレー」という専門性が高い商品と「食堂」というありきたりの名称をつなげていることに、「大衆マーケットのニッチを狙う」といった姿勢が感じられた。同店がオープンしたのは2月11日、四谷駅と地下鉄・四谷三丁目駅のほぼ中間、新宿通りに面した路面店である。

新宿通りに面した路面店で、オレンジの看板がよく目立つ。

同店を経営するのは、(有)珈琲新鮮館(本社/神奈川県相模原市、代表/沼田慎一郎)。主として神奈川・相模原エリアと東京・新宿三丁目エリアに営業拠点を構える。総店舗数は12。相模原エリアは創業の地で、カフェや食事メインの店が多い。新宿三丁目エリアは「もつ煮込み専門店 沼田」を4店舗出店している。

「1日100食限定」で連日売切れ

まず、スパイスカレー食堂の商品を詳しく紹介しよう。
このカレーは、小麦を一切使用せず、脂もほとんど使用していなく、また、ブラックペッパー、コリアンダー、カイエンペッパー、クミン、シナモン、ターメリック、クローブ、カルダモンといった数多くの現地のスパイスを使用している。「カレー」というと、カレー粉と小麦粉、バターなどでソースをつくるカレーを連想しがちだが、ここのカレーはそれとは一線を画している。

カレーを真上から見たところ。上のオレンジ色は「人参サンボール」(免疫力アップ)、時計回りに「人参サンボール」(免疫力アップ)、「パリップ 豆カレー」(植物性タンパク質)、「辛!ジャガ芋とインゲンのカレー」(植物繊維が豊富)、「紫キャベツのピクルス」(美容・デトックス効果)、中央が「ベジタブルキーマ(=豆腐)」、「パパダム」(豆粉のせんべい)。これらの混ぜ合わせで”無限の味変″を楽しむことが出来る。

品目はブラックチキン(1200円、税込以下同)、ベジタブルキーマ(1200円)、ブラックポーク(1300円)、フィッシュ(1400円)の4種類。

コメにもこだわっている。香り高いタイ産のジャスミンライスを使用。複数のソースや付け合わせを分けて盛り付けていて、商品の表面は色とりどりだ。筆者にとっては、子供の頃にテレビを見て知った「遠い南の国のカレー」である。

カレーが運ばれてくると、従業員がこの食べ方を説明してくれる。最初は1種類ずつを味わってみて、次に他のソースや付け合わせを混ぜてみて、最後にはソース、つけ合わせ、ライスを全て混ぜて食べる、という食べ方をする。混ぜ方によって、またテーブルの上に置かれた「香り高い追いスパイス」と「追い辛スパイス」をお好みで加えることによって、顧客は「無限の味変」を楽しむことが出来る。

店舗は、6.5坪で7席、1日100食限定で提供しているが、連日売切れの状態となっている。このような売り方をしている理由として、同店を開発した副社長の佐々木証氏は「これ以上売ると、われわれが目指す営業スタイルが崩れて、クオリティが下がるから」という。

スリランカ人を社員に採用

なぜ、新規オープン店舗をこのようなカレーの店にしたのであろうか。

同店が誕生したきっかけは、2018年当時の「従業員不足」であった。外国人留学生を雇用していたが、彼らはみな優秀であったことから、外国人の社員採用を検討するようになった。そして、二人のスリランカ人を採用。この二人が優秀なことから前出の佐々木氏は、スリランカ現地の家族を訪問するなど、スリランカの人々との交流を深めた。

佐々木氏は、スリランカ人の社員から、「スリランカに日本で働きたい人がたくさんいる。その願いをかなえることが出来ませんか」と相談を受けた。そこで「有料職業紹介事業」と「特定技能登録支援機関」のライセンスを取得。日本で働きたいスリランカ人ののサポートができるのでは、と考えるようになった。

このような体制をつくり上げるためには、受入れ機関となる同社と、送り出し機関となるスリランカ側と契約を結ぶ必要があった。ここに、スリランカ人社員の緒里美那月(おりみ・なつき/日本名)氏がそのルートをつくる水先案内人となった。2020年2月、佐々木氏はスリランカを訪ねてその活動を行った。この時の現地での食体験が、スパイスカレー食堂のヒントをもたらした。

このプロジェクトで水先案内人となった緒里美那月氏がキャラクターとなったポスター。店の前を通る人の中で、立ち止まってはこのポスターを見入る人が多い。

佐々木氏はこう語る。

「スリランカでは、朝昼晩とカレーを食べます。すると、日を経るごとに体が軽くなり、体の力がよみがえってきました。そこで、スリランカカレーを日本で展開したいと考えるようになりました」

同社代表の沼田慎一郎氏はこう付け加える。

「日本でスリランカ人が働く際に、自分たちのアイデンティティが生かされる職場であれば、より輝くことができるのではないかと考えるようになり、スリランカカレーの店を開発しました」

食べ終えた客がほとんどが「この店は絶対にはやる」

2020年4月、コロナ禍の日本では緊急事態宣言が発令され、同社の拠点である新宿三丁目エリアは閑散となったが、同社では、スパイスカレーの試食を重ねた。この過程で、「本場スリランカのカレー専門店ではなく、日本のスパイスカレー食堂をつくろう」と考えるようになった。こうして、現在のタイ産のジャスミンライスを使用したスパイスカレーが出来上がった。

同社では、外国人雇用のための有料職業紹介事業と、特定技能登録支援機関のライセンスを3月に取得。5月から本格的に動き出すことになったが、コロナ禍で停滞した。スリランカ側では、送り出し機関のライセンスを取得し、同店9月、首都コロンポ郊外のキリバスゴダにスパイスカレー食堂LABOと日本語学校「緒里美日本語学院」を開設した。

スリランカの首都コロンボ郊外のキリバスゴダに開設されたスパイスカレー食堂LABOと日本語学校「緒里美日本語学院」。

スパイスカレー食堂の物件は、同年11月、新宿三丁目に近い四谷に確保した。商品の実験販売は新宿三丁目で展開している4店舗の一つを「緒里美カレー」という店名に変えて、今年の1月より行った。商品は「スリランカプレート」1000円(税込)1品のみ。商品の内容は、現在と同様である。

緒里美カレーは、1日の客数が10人程度の日が続いた。しかしながら、スリランカプレートを食べ終えた顧客のことごとくが「この店は絶対にはやる」と言葉を残してくれた。

緒里美カレー料理長の羽牟雄樹氏と緒里美氏(右)

朝8時オープン「朝カレー」が人気

スパイスカレー食堂は、いわゆるシークレットオープンで、値引き販売などのキャンペーンは行っていない。とは言え、新宿三丁目の「もつ煮込み専門店 沼田」のファンが、同店が四谷で新業態(カレー店)をはじめたことを知り、来店して食事をしては、商品や店頭の画像をFacebookに投稿し、好意的にバックアップしてくれた。

店頭には、スパイスカレー食堂のこだわりをまとめたポスターが掲出されていて、通りすがりの人の中で立ち止まって注視する人が散見される。スパイスカレー食堂の存在感は際立っているようだ。

現在は「朝カレー」をうたい、朝8時にオープンして人気を得ている。これは、佐々木氏がスリランカで初めてスパイスカレーを経験した時に「目覚めのカレーを楽しみにするようになった」ことが起因している。このような「朝カレー」も、新しいトレンドとなっていくかもしれない。

このように、スパイスカレー食堂が好調であることから、店舗展開を想定している。それは同時に、同社がスリランカで運営する日本語学校で学ぶ若者たちにとっても、大きな励みとなることであろう。コロナ禍が明けると、同社が目指した外国人雇用の事業が活発化することになり、新しい事業領域を切り拓くことになりそうだ。

飲食業が一生懸命に事業に取り組んでいることによって、世の中は大きな災難に見舞われていても、希望の糸をつないでいる。

執筆者のプロフィール

◆取材・文・撮影
千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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