【起立性調節障害とは】思春期に発症しやすい自律神経の機能不全 「朝起きられず夕方元気」は仮病ではない

子供

「朝は体がだるくて起きられず、学校は遅刻や欠席をしてしまう」という中学生・高校生の話を聞くことがあります。夕方には体調がよくなるため、つい夜更かししてしまい、翌朝はまた起きられない……。「仮病ではないか」「怠けているだけでは?」と思いわれがちですが、思春期前後に多く見られる、起立性調節障害かもしれません。どのような病気なのか、改善法はあるのか、起立性調節障害に詳しい小児科医の田中英高先生に伺いました。【解説】田中英高(OD低血圧クリニック田中院長)

本稿は『改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』(中央法規出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

解説者のプロフィール

田中英高(たなか・ひでたか)

OD低血圧クリニック田中院長。医学博士。大阪医科大学卒業、同大学院修了。スウェーデン・リンショッピン大学客員研究員トレシウス教授に指示。スウェーデン資格医学博士取得後、大阪医科大学小児科講師、助教授を経て、2014年より現職。日本小児心身医学会・小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン作成班チーフ。専門領域は、起立性調節障害、不登校などの心身症。
▼OD低血圧クリニック田中(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

朝起きられない自律神経の病気

夕方には元気になるので「怠け者」に見える

「頭が痛くて朝起きられない」
「無理して起きたら、めまいがして立っていられない」
「だるいけれど夕方には回復して、夜になると目がさえて寝つけず、遅刻や欠席が続く」
等々……。

このような子どもの症状で悩むお母さんやお父さんは、多くおられるのではないでしょうか。今まで元気だった子どもが、急に体調不良を訴えて、遅刻や欠席を繰り返す。しかし、夜になるとなぜか元気になって、バラエティー番組を見てはゲラゲラ笑い、「明日は学校へ行くから」と言うにもかかわらず、夜更かしをして朝には起きられない……。

そのようなことが繰り返されると、もう「怠け者」としか思えません。親としては苛立ってきます。あるいは、このままひきこもりになってしまうのではないか、一生を棒にふるのではないか、と心配になって、居ても立ってもいられない親御さんもきっとおられることでしょう。

このような子どもの多くは、「起立性調節障害」(OrthostaticDysregulation:OD)という思春期特有の病気にかかっているのです。起立性調節障害は思春期に発症しやすい自律神経機能不全であり、その数は思春期全体の約1割、ざっと概算しても100 万人はいると推定されています。

長期不登校から「ひきこもり」になることも

起立性調節障害は、軽症の場合には治療しなくてもかまいません。しかし、めまいや頭痛、だるさ、朝起き困難などによって日常生活に支障が出るような子どもは、適切な治療が必要です。放置すると悪化の一途をたどり、長期の不登校から「ひきこもり」に陥ることも珍しくありません。なかには、社会復帰が遅れて「ニート(家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない15歳から34歳までの者)」になったり、またそれが原因で家庭崩壊やさまざまな社会的問題が起こったりすることもあります。

内閣府(子供・若者白書)によると、2015年のニート総数は56 万人といわれています。正確なデータはありませんが、ひきこもりなどの初期原因には起立性調節障害という病気が深くかかわっているのではないか、と私は考えています。

起立性調節障害は、死に至るような病気ではありません。しかし、致命的でない分、軽く受け止められる傾向にあります。起立性調節障害のつらさがわからない人たちは、「治療しなくても死なない病気だし、頑張ればなんとかなるさ」という程度に考えがちです。

ひと昔前には、医者のなかにもそのような考え方の人がたくさんいました。そのため、病気の原因や治療に関する研究が遅れ、効果的で標準化された診療方法がありませんでした。多くの起立性調節障害の子どもたちが、適切に治療されていなかったのです。

こうした悲劇を少しでも解決するには、起立性調節障害に対する確かな診断と、効果的な治療法の開発、そしてその指針作りが必要でした。日本小児心身医学会では2003年に「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」の作成に着手しました。日本全国の専門家が集まり、3年以上かけて2006年9月に第1版を発行することができました。現在は、日本中でこのガイドラインを参考にしながら起立性調節障害の診断・治療が行われつつあります。

本稿では、「起立性調節障害」とはどのような病気なのか、詳しく解説します。

なぜ朝起きられないのか

血液の流れのしくみ

私たちが横になっているとき、血液を送り出す心臓と脳はほぼ同じ高さにあります。そのため血液が脳に十分に送られ、脳細胞は豊富な酸素と栄養分を得て、正常に機能することができます。

寝ているときは血液が脳に十分送られる。

立ち上がって身体を縦にすると、重力の影響で体中の血液は下半身に移動し、脳への血流が著しく低下してしまうのではないかと考えられます。

起立すると血液が下半身に移動する。

しかし実際には、脳が貧血状態になるような現象は起こりません。人間の身体には、そうした事態を防ぐための代償システムが備えられているからです。健康な人の場合には、脳の視床下部と延髄にある自律神経センターからの指令により、下半身の血管が強く収縮して下半身への血液貯留が抑制されるため、脳への血流は確保されます。

脳の自律神経センターが指令を出し血流を確保する。

この自律神経システムがなんらかの理由で十分に働かず、代償機構が破綻すると、立ち上がったときに脳への血流不足が起こり、立ちくらみやめまいなどの症状が現れるのです。これが起立性調節障害です。

血圧値は、「心拍出量(1分間に心臓から全身に送り出される血液の量)」と「血管抵抗」 の積(かけ算)で決まります。これは、中学校の理科で教わった「電圧=電流×抵抗」と同じ理論です。電圧が「血圧」に、電流が「心拍出量」に、抵抗が「血管抵抗」に相当すると考えてください。

生活習慣病では高血圧がよく問題になりますが、なぜ高血圧になるのか、この式からよくわかります。例えば、塩分の摂りすぎは、身体の血液量を増して「心拍出量」を増やすので、血圧を上げます。また、寒い冬では血管が収縮して細くなるために、「血管抵抗」が高くなりますから、血圧が上がります。

とはいえ、「心拍出量」と「血管抵抗」を調節する機構は実に複雑で、非常に多くの因子に影響を受けています。最終的には、体質と心理社会的ストレス、交感神経、副交感神経、生活習慣ということになります。

血圧を調節する機構は非常に複雑。

起立時には、約500~700mlもの血液が上半身から下半身に急激に移動します。通常ならば、自律神経反射機構によって血管が収縮し、心拍数が増加し、血圧を維持します。

ところが起立性調節障害では、血管の収縮機能が悪いために、重力によって動脈も静脈も、血管が拡張します。動脈のなかでも特に大切な、筋肉内や内臓にある細動脈が拡張すると、血管抵抗が下がり、血圧が低下します。また、静脈血管の収縮が悪いため、下半身からの静脈還流量(心臓に戻ってくる血液量)が少なくなり、心拍出量が低下し、血圧が下がってしまいます。その結果、脳に十分な血液が送られず、立ちくらみやめまいが起こるのです。

また、腹筋や足の筋肉は、下半身に貯留した血液を心臓に押し戻す役目をしています。起立性調節障害ではこれらの筋力が低下していることが多く、それによっても血圧が低下しやすくなります。

起立性調節障害の4つのタイプ

血流を制御する部位によってタイプが異なる

起立性調節障害は、起立したときに内臓、脳、筋肉、皮膚へ血液がうまく流れない病気です。原因はいろいろですが、血液の流れを制御しているさまざまな身体のメカニズムが、調子を崩しているのです。

機械を作っている工場にたとえてみましょう。

その工場では、部品A、部品B、部品Cを、別々の部署で、一定の生産スピードで作っていました。あるとき、部品Aを作る部署Aで欠勤者が出て、生産速度が遅くなりました。事情のわからない出荷担当者が、全ての部署に生産をスピードアップするように指示を出したため、部品Bと部品Cはどんどん出来上がります。しかし、部品Aが足りないので完成品は出庫されず、本社からは矢の催促、工場は大混乱……。

起立性調節障害では、こうしたことが体内で起こっているイメージです。工場のどの部署にトラブルが発生するかによって弊害の現れ方が異なるように、起立性調節障害でも、どの部位の障害かによってタイプが異なります。現在確認されている4つのタイプについて説明しましょう。

(1)動脈の収縮が悪い「起立直後性低血圧」

人が起立した直後には、血圧が急激に下がります。これに対して自律神経系は、交感神経活動を増加させ、神経末端からノルアドレナリンを放出して血圧を上昇させます。私どもの研究によって、起立直後性低血圧の子どもたちは、起立直後のノルアドレナリンの分泌が悪いことがわかりました。

原因は詳しくはわかっていませんが、脳にある自律神経中枢が変調を来して、交感神経活動が弱っていると考えられます。さらに、この部位は不安や怒りといった情動の影響を受けやすいため、ストレスによる血圧の変動も関係していると思われます。起立性調節障害を悪化させる原因の一つに精神的ストレスがありますが、これは不安が形成されることで自律神経のバランスが崩れるからです。

(2)静脈の収縮が悪い「体位性頻脈症候群」

起立時に下半身への血液貯留が著しい場合、静脈還流量が低下するので、心拍出量は低下します。これに対して、身体は心拍出量を維持するために、心拍数を激しく増加させようとします。この病態が「体位性頻脈症候群」と考えられています。心拍数が異常に増えて、手足の血管が収縮して、手足が冷たくなります。

(3)心臓神経反射の関与する「血管迷走神経性失神」

いわゆる脳貧血のような症状を繰り返す病態です。起立時の静脈還流量が低下し、過剰な心室収縮や激しい心拍増加が起こると、心臓を支配している自律神経が反射的に興奮して、自律神経活動をストップさせてしまいます。結果として、急激な血圧低下や徐脈(脈が遅くなる不整脈)が起こり、場合によっては失神発作、けいれん、ときには心停止が起こります。

程度の軽い血管迷走神経性失神であれば、4割の人が成人するまでに経験するといわれており、治療の必要はありませんが、たびたび再発したり、程度の強い子どもでは注意が必要です。

また、起立直後性低血圧や体位性頻脈症候群に、血管迷走神経性失神を起こすことがあり、治療が必要です。

(4)起立後しばらく経って血圧が下がる 「遷延性起立性低血圧」

起立直後の血圧や心拍は正常ですが、起立後3~10分経過してから収縮期血圧(最高血圧)が20mmHg以上低下します。頻度は比較的少ないタイプです。

タイプは変化することもある

起立性調節障害のタイプは、変化することもあります。起立直後性低血圧を起こしていた子どもが体位性頻脈症候群に移行したり、その逆になったりします。タイプに応じて、自覚症状やその程度が変化することもあります。したがって、症状が変わればそのつど検査をする必要があります。

なお、本稿は『改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』(中央法規出版)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応
¥1,760
2021-03-18 13:15

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