【シェアキッチンとは】メリットは?条件は?東京の開業事例を第一人者に聞いてみた

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コロナ禍で誕生した新しい形の飲食店に「シェアキッチン」が挙げられる。これは複数のシェフが1つのキッチンをシェアするというものだ。発想の元となっているのは「コロナ禍で名店が閉店する事例があり、これらで実績を積んだ若いスタッフが活躍できるフィールドつくる」ということ。出店に際しては初期費用が不要。顧客にとっては「専門店が集まる大人のフードコート」で「デートや女子会でも利用できる」というコンセプトとなっている。

シェアキッチンとは

コロナ禍で飲食店の出店形態が変わってきた。「ゴーストレストラン(バーチャルレストラン)」のことは以前こちらで紹介したが、これらに加えて「シェアキッチン」というものが現れた。これは1つのキッチンを複数のシェフがシェアするという形態だ。独立開業を志すシェフや、店舗展開をしようと考える飲食事業者が、初期投資を抑えて出店することが可能となっている。この具体的な事例として「@Kitchen AOYAMA(アットキッチンアオヤマ)」が挙げられる。

東京・青山、国連大学隣の「ラ・ポルト青山」の地下1階にある「@Kitchen AOYAMA」の店頭(筆者撮影)

複数のシェフが1つのキッチンをシェア

同店は、東京・青山の青山通りに面した国連大学隣の商業ビル「ラ・ポルト青山」地下1階にある。40坪の空間の中にオープンキッチンを広く構成し(36席)、その中で20代後半の5人のシェフがてきぱきと働いている。料理ジャンルは地中海料理、フレンチ、イタリアン、和食・すしなど多岐に及んでいて、1つのレストランにいて、さまざまなジャンルの料理を同時に楽しむことが出来る。客単価はランチタイム2000円あたり、ディナータイムは6000~8000円となっている。

オープンキッチンでてきぱきと仕事をする若いシェフたちの様子はキッチンショーの感覚だ(筆者撮影)

激減したインバウンド…

同店を経営しているのは株式会社WORLD(本社/東京都中央区、代表/坂めぐみ)。同社代表の坂氏は2016年4月に会社を設立、シェアオフィス等のビジネスを展開していた。

会社を設立して以来、インバウンドの訪日外国人客が急増傾向にあったことから、坂氏は東京・浅草で飲食業を営みながらこれらの分野に取り組みたいと考えていた。そして2019年11月吾妻橋のたもとに「体験Dining 和色 -WASHOKU-」をオープン。ビルの最上階5階のフロアと6階がテラス席という構成で、隅田川を眺めながら食事ができる店である。

「体験Dining 和色 -WASHOKU-」の二つのコンセプト

この店には二つのコンセプトを設けた。

一つは、日本の地方と世界をつなぐ場所の創造。外国人観光客に日本食を通じて、日本の地方の素晴らしさをPRして、日本の地方に外国人観光客を届けるハブとなることであった。店名を「和色」としているのはメニューを”色で楽しむ和食″としているからだ。管理栄養士監修による、フォトジェニックでカジュアルな和食を今も提供している。

もう一つは、日本文化を体験できる「体験型飲食店」。主として外国人観光客に向けて、人力車と提携して、レンタルで和装を楽しみ、江戸切子の工房でお猪口をつくり、お店に帰ってきてから、そのお猪口で乾杯して和食を楽しむ――このようなプランを組み立てた。

しかしながら、翌年に入りコロナ禍となった。4月緊急事態宣言となって海外からの予約はすべてキャンセルとなった。

シェアキッチンは「大人のフードコート」

そこで、店舗を生かした新しい取り組みを行なおうと考え、シェアキッチンに取り組むことにした。キッチンをシェアするのは、まず自社の「和色」、これに2店舗を募集してイタリアンとフレンチに入ってもらった。2020年5月からこの形態で営業したところ売上は順調に伸びて行き、8月に営業開始以来最高の売上を達成した。これが今日の「@Kitchen」へとまとまっていく。坂氏はこう語る。

「@kitchenのコンセプトは『専門店が集まる大人のフードコート』。一つのレストラン空間の中にさまざまな専門店の出店者がいることで、お客様はさまざまな食事を楽しむことができます。一般的なフードコートは大きな商業施設の中にあり、チェーン店が出店していて顧客のメインはファミリーです。@Kitchenの場合は街中にあり、デートや女子会で使えるようなフードコートです」

シェアキッチンのアイデアが生まれた瞬間

シェアキッチンに取り組むアイデアは、どのようなことからひらめいたのだろうか。坂氏はこう語る。

「コロナ禍で老舗のレストランが閉店するとか、飲食業界の経営環境が厳しいということが日々報道されています。オーナー様も厳しいですが、飲食店を一つ閉めると、そこで働いているスタッフ、シェフたちも世の中に放り出されてしまいます」

現在「@Kitchen AOYAMA」で仕事をする5人のシェフたち(筆者撮影)

「有名店で働いてきたシェフは実力があり、将来独立して店を持ちたいという志もあります。このようなビジョンを持ってチャレンジしていたシェフたちが、コロナ禍の状況には関係なくチャレンジできるようなフィールドを当社でつくろう。それがシェアキッチンとなりました」

「Familiar」清野桂太氏の「Familiarの特製カツサンド」1280円。

出店者の募集方法

出店者は、同社の問い合わせフォーム、料理人の人材派遣会社からの紹介、既存のシェフの紹介といった3つのパターンで出店する。初期費用ゼロ、固定費ゼロで、出店手数料が売上の歩合となる。この仕組みによって資本がなくても出店が可能で、営業を継続することができる環境となっている。

「HAYATO」三角隼人氏の「マグレ鴨のロースト 季節野菜とオレンジ風味のソース」1990円。

面接では「料理を通して何を実現したいか」を重視

現在の出店者は平均年齢が20代半ばから30代前半の若いシェフたちである。「初期費用が安いので出店したい」というきっかけはそこにあっても、単純に動機がそれだけの人はお断りをしている。だから、しっかりと面接を重ねている。

「IL DRAGO」桐山淑雅氏の「ブラータチーズと生ハム 野生のルッコラ」1500円。

面接で重視しているポイントは、料理のジャンルを問わず、そのシェフが「料理を通してどのようなことを実現したいか、という人生感」とのことだ。

また、同社では「独立サポートプログラム」を用意していて、店のアイドルタイムを活用し、税理士による個人事業主の確定申告講座や、サービスのトレーナーによるホスピタリティ研修を行うなど、料理人として料理以外に必要なノウハウを伝える機会も設けている。

1号店の「和色」以降は、2号店、3号店を期間限定で出店。4号店が冒頭で述べたラ・ポルト青山の地下、5号店は同じビルの1、2階「@Kitchen AOYAMA café」でそれぞれ昨年10月にオープン。今年の1月に6号店「@Kitchen AZABU」をオープンした。

シェアキッチンのコンセプトづくり

さて、@Kitchenの店舗展開は同じパターンでの横展開を行わない方針だ。1号店は「体験Dining」というコンセプトが存在し、4号店には「フードロス」を取り入れている。

「D&Kitchen」譜久原太輝氏の「ブランダードのクロケット 自家製タルタルソース」850円。

このフードロスは、同社が全国の生産者とパイプをつくり、規格外の農産物や魚介類をサブスクリプション契約によって送り届けてもらっている。規格外であっても正規品と同じ価格にしている。

この仕組みに着眼したのは青山に出店することになったことがきっかけとなっている。坂氏はこう語る。

「青山で食事をする人は、価格で食事をする人ではありません。食事をすることに、社会性、SDGs、エシカル消費といった『イミ』を感じている人たちです。食べることでシェフの応援やフードロスの貢献につながる。このような食を通して社会課題を解決していくという喜びを味わうことができる飲食店にしたいと考えました」

「鮨割烹 華林」橋本竣太氏の「握り10種」2500円。

今年1月にオープンした「@Kitchen AZABU」はテイクアウトとデリバリー専門のクラウドキッチンで、2つの法人が出店している。出店している法人のブランドは「Uber Eatsの口コミ評価が4.8以上」「1カ月のオーダー件数が500以上」に限定、路面店で外からキッチンの様子が見渡せるようになっていて、「人気ブランドを集めたクラウドキッチンのモデル」をコンセプトとしている。

このような、@Kitchenの初期投資ゼロ、固定費ゼロというスキームは、独立開業や店舗展開のハードルを低くするものとして注目され、その事業者も増えていくことだろう。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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