モニターの色は基本的にバラバラ
ほとんどのモニターは色を正確に表示していない
フォトグラファーやデザイナー、印刷所の人など「色を扱う」ことを仕事にしている人であれば、PCモニター、ノートパソコンのディスプレイ、テレビなどに表示されている画像(データ)の色は、基本的に「バラバラ」だということは知っているはずです。
実際、下に掲載した写真のように、同じデータを表示させても、まったく違う色で表示されます。

キャリブレーションなしでは、モニターの色はバラバラ。どれを信じてよいか、普通はわからないでしょう。
大抵のテレビやPCモニターに搭載されている「カラーモード」。それを「鮮やか」「ビビッド」、または「映画」「ゲーム」などに変更すれば、画像の色は簡単に変わるはずです。同じメーカーのテレビやPCモニターでさえ、設定を変更するだけで簡単に色が変わるのですから、異なるテレビやPCモニターではなおさらです。メーカーや機種によって設定基準も違うので、同じデータであっても表示される色がバラバラなのは当然といえるでしょう。
「色を扱う人」は、それらをわかったうえで、データの色彩を加工、調整しています。
データの色を正しく見るにはキャリブレーションが必須
色を扱う仕事をしている人は、データの「正しい色」を観察するための基準となる、キャリブレーション(校正・調整)された「マスターモニター」をもっているはずです。大航海時代なら方位磁針、現在ならGPSといったところでしょうか。これを持たずに、色の海にこぎ出していくのは自殺行為といえると思います。
SNSやYouTube、ネット印刷サービスの普及など、アプリケーションの進化で多くの人が日常的に色を加工しています。しかし、自分のモニターで見えている色を「なんとなく加工」するのは、トラブルの元です。そのため、色を扱う仕事をしている人は、少なくとも、自分が色を確認するための「マスターモニター」はキャリブレーションを行っているはずです。カラーマネージメント(CMS)なんて呼ばれ方もします。
モニターがデータの色を正しく表示するようにキャリブレーションを行うには、センサーを使うのが一般的で、筆者も愛用しているX-riteの「i1 DISPLAY PRO」やdatacolorの「SpyderX」などがよく使われている製品です。だいたい2〜3万程度で売られています。色を扱う仕事をしている人は、これらのセンサーでモニターをキャリブレーションしているケースがほとんどです。

筆者も愛用するX-riteの「i1 DISPLAY PRO」。画面上で色を扱う仕事をしているなら、最低限もっておきたいキャリブレーションツールです。
正確に色をみるための「ViewSonic VP2785-2K」
「モニターをキャリブレーションするセンサーとソフトがあれば、データの色が正しく見られるのだから、モニターはなんでもよいのでは?」と思うのが普通でしょう。しかし、複数のモニターやテレビで画像データの加工などを行っている筆者は、色の加工や確認は、常に3台程度あるモニターのなかでMacBook Proのモニターでしか行いません。
メインパソコンはMac miniで、58インチの4Kテレビと26インチのフルHDテレビをつないで、センサーを使ってカラーマネージメントも行っていますが、色の確認や加工には使いません。そもそもテレビは、色を「美しく再現」するために進化したデバイスで、データの色を「正確に再現」するのに向いていないようです。そのため、テレビではカラーマネージメントの精度がアテにならないと感じています。そのため、3台のなかでは色の精度が高いと考えられる、MacBook Proをキャリブレーションして、マスターモニターとして使っていたわけです。
とはいえ、色の確認のために、いちいちほかのパソコン(MacBook Pro)でデータを開くのは面倒ではあります。また、色にシビアな仕事がメインの際には、モニターをパソコン用のものに変えて、ソフトウェアキャリブレーションして使っていました。
そこにハードウェアキャリブレーションが可能な「ViewSonic VP2785-2K」をテストする機会がやってきたのです。非常にうれしい。

ハードウェアキャリブレーションに対応するViewSonic VP2785-2K。比較的低価格ながらWQHD(2,560×1,440)対応でAdobe RGBを100%カバーします。
www.viewsonic.comハードウェアキャリブレーションとは
モニターのキャリブレーションには、「ソフトウェアキャリブレーション」と「ハードウェアキャリブレーション」があります。
簡単にいうと、同じようにプロファイルというものを作って、モニターに表示する色を調整するのですが、ソフトウェアキャリブレーションは、モニターに伝える信号を補正して表示色をデータの本来の色に近似させるのに対して、ハードウェアキャリブレーションは、モニターの発光発色をコントロールして色を調整します。なので、ハードウェアキャリブレーションのほうが精度は高いのです。
これがどのくらい精度が高いかについては、表現がとても難しい。しかし、筆者の知っているキャリブレーションやカラーマネージメントのスペシャリストがいうには、「ソフトウェアキャリブレーションはカラーマネージメントに対する知識や習熟も必要。しかし、ハードウェアキャリブレーションなら、機材や環境の影響も小さく、ほとんど知識のない人でも、ほぼ正確な色を再現できる」といいます。
要は、特殊な知識や経験を持たない普通の人がキャリブレーションやカラーマネージメントを行う場合、ハードウェアキャリブレーションが必須ということです。

ノートパソコンのなかでも正確な色の再現性が高いといわれるMacBook Pro。しかし、どのノートパソコンが色の再現性が高いかなど一般人にはわかりません。
データと印刷で色管理は別
基準が違うので設定をふたつ作る
ハードウェアキャリブレーション可能なモニターと、キャリブレーション用のセンサーを手に入れたら、後はキャリブレーションするだけです。しかし、おそらく設定画面で「白色点」「輝度」「ガンマ」「ADC」などといわれて、どうしていいかと悩んでしまう人が大部分でしょう。
これらは、最終的な成果物(印刷、WEB、動画ファイルなど)に合わせて設定を調整するのに必要なのですが、普通の人にはちょっとわかりにくいかもしれません。
そこで、筆者は基本的に「データ(WEB)用の色環境」と「印刷(紙)用の色環境」を作って、その仕事の最終成果物に合わせて使いわけています。この方法を解説していきます。

ViewSonic VP2785-2Kのモニターキャリブレーションが可能な「Colorbration」。いきなり「白色点」は「CIEイルミナントD65」といわれても……。
「ViewSonic VP2785-2K」は「Cal」が複数保存でき便利
ハードウェアキャリブレーション可能な「ViewSonicVP2785-2K」には、ハードウェアキャリブレーションを行って調整した、ハードウェアの設定を保存しておける「CAL 1」「CAL 2」「CAL 3」が用意されています。
おかげで、複数の設定を簡単に変更して使うことができます。このあたりからも、色の加工や調整を仕事などで行う人向けモニターであることがよくわかります。要するに、最後にネット印刷に発注するデータの作成時には「紙用」、ブログで公開する写真の調整には「データ・WEB用」のモニター設定をそれぞれ保存しておき、変更できるのです。
この機能と、ViewSonicの専用ソフトを活用すると、「ViewSonic VP2785-2K」は、色を確認するためのマスターモニターとして非常に心強い存在になってくれます。

「CAL」でハードウェアの設定を変更したら、必ずそれに合わせて変更したモニター用のプロファイルも「システム環境設定」→「ディスプレイ」→「カラー」で変更しましょう。

簡単な操作で保存したハードウェアの設定を変更できる「CAL 1」「CAL 2」「CAL 3」は、とても便利です。
データ用のキャリブレーション
「Colorbration+」をインストール
「ViewSonic VP2785-2K」でキャリブレーションを行うためのソフトは「Colorbration」と「Colorbration+(プラス)」の2つが用意されています。
どちらも、ViewSonicの公式サイトからダウンロード可能です。また、どちらのソフトもハードウェアキャリブレーションに対応しています。しかし、今回の「データ(WEB)用の色環境」と「印刷(紙)用の色環境」を作って、切り分けて使うには、「Colorbration+」が簡単で便利なので、この後は「Colorbration+」を使って解説をしていきます。

「Colorbration+_v1.0.0.22(Mac, English) download」を選択してダウンロード。Windows版は「Colorbration+_v1.0.0.31(Win, English) download」です。
データ(WEB)用の色環境設定手順
「Colorbration+」でのデータ(WEB)用の色環境設定の手順を解説していきます。

「ViewSonic VP2785-2K」を接続したら「システム環境設定」→「ディスプレイ」→「配置」から「メニューバー」を移動してメインモニターを「ViewSonic VP2785-2K」に設定します。また、マルチモニターで使用する場合は、サブモニターの「カラー」から「Adobe RGB (1998)」もしくは「sRGB IEC61966-2.1」を指定します。

「Colorbration+」を起動すると「基本モード」か「詳細モード」が選択できるので「基本モード」を選択します。表示が英語になっているときは「Basic mode」をクリック。

言語環境などの影響なのでしょうが、はじめてインストールしたときは英語表記でした。日本語に変更する場合は「Application Infomation」をクリック。

「Language」から「日本語」を選択して「完了をクリック」

キャリブレーションしたいモニターを選択。ここでは「ViewSonic VP2785-2K」。

使用するモニターキャリブレーション用のセンサーを選択します。筆者は「i1 Display Pro」を使いました。

もっとも重要なキャリブレーションの設定選択ですが「Adobe RGB」を選択します。続いて「輝度」は、そのまま「160cd/㎡」で問題ありません。重要なポイントは「目標」でデータ(WEB)用の色環境設定は普段からもっとも使うでしょうから「Cal 1」を選択して保存しましょう。選択が終了したら「キャリブレーションスタート」をクリックします。

モニターにセンサーを装着して「次へ」をクリックします。センサーを装着する際にモニターを少し上向きに傾けておくのが、センサーと画面の間に隙間ができないコツです。

センサーが色の計測をするので、その間は待つことになります。だいたい5分くらいでハードウェアキャリブレーションが行われます。

測色が終わると概要が表示されます。いろいろ書いてあるのですが、とりあえずは「ICCプロファイルを保存」をクリックします。

「Save As」が表示されるのでファイル名を入力して保存します。保存場所は「Profiles」のままでいいです。ファイル名は作った日付、モニターの名前、設定値、筆者の場合は作ったソフトがわかるようにしておくので「20210419-VP2785-2K-AdobeRGB-ColorbrationPlus」などとなります。

「ICCプロファイルと記録の保存に成功しました。」が表示されるので「完了」をクリックして終わりです。
ハードウェアキャリブレーションは専用ソフトで行うので、設定などが非常に簡単なのもうれしいところです。また、Adobe RGBの色域を100%カバーする「ViewSonic VP2785-2K」のメリットを活かすためにも「AdobeRGB」を選択するのがおすすめです。これでかなり正確にデータの色を観察できるはずです。
印刷用のキャリブレーション
印刷(紙)用の色環境設定
WEBと印刷物は基準となる色温度が違う、といった問題があります。そのため、最終的に印刷物になるデータの色を確認する設定は、データ(WEB)用の色環境設定とは別にしておくことをおすすめします。ここでは「Colorbration+」を使って「printing_AdobeRGB」でキャリブレーションを行います。

「Colorbration+」を立ち上げ、「ディスプレイ」と「測色センサー」を選択。さらに「キャリブレーション」の設定を「printing_AdobeRGB」、「輝度」「80cd/㎡」、「目標」はすでに「Cal 1」に「データ(WEB)用設定」を保存していると考え「Cal 2」とします。そして「キャリブレーションスタート」をクリックすれば、あとはデータ(WEB)用の色環境設定と同じです。
以上の設定で「Cal 1」にはデータ(WEB)用の色環境設定、「Cal 2」には印刷(紙)用の色環境設定が保存されました。最終成果物がデータのときには「Cal 1」、印刷物、すなわち紙のときには「Cal 2」を選択すれば、データの正確な色を確認しながらレタッチなどが行えます。
ただし、印刷用の設定として「printing_AdobeRGB」は非常によい設定なのですが、環境光などの影響でどうしても「赤すぎる」といった印象を受けるときは、「Cal 3」に「photography」で作った環境設定を保存して試してみるとよいでしょう。
ネット印刷をプロファイルで色確認
「ViewSonic VP2785-2K」のようなハードウェアキャリブレーションに対応するモニターを使ってキャリブレーションを行い、データの色が正確に観察できる環境でぜひ試してのほしいのが、Photoshopなどで使える「色校正」です。
ここでは、多くの印刷現場で使われており、ネット印刷などでも基準として使われていることの多い「JapanColor2011」のプロファイルを使った方法を紹介します。

日本印刷産業機械工業会のホームページから「JapanColor2011」をダウンロードします。同じWEBページにある「Japan Color認証制度ICCプロファイルに関する解説(PDF)」もダウンロードしてICCプロファイル「JapanColor2011」をインストールします。

Photoshopを立ち上げて「編集」→「カラー設定」を選択します。すると「カラー設定」のウィンドウが開くので「作業スペース」の「CMYK」に「Japan Color 2011 Coated」を設定。「OK」をクリック。

「表示」→「校正設定」→「作業用CMYK」を選択。「表示」メニュー内の「色校正」で現在の画像データを「JapanColor2011」のCMYKデータに変換した際の色彩(印刷時色彩)の変化が確認できます。また、「色域外警告」では「JapanColor2011」では再現できない色の部分が警告表示されます。
ハードウェアキャリブレーションを行い、モニターでデータの色を正確に観察できるように調整しておくと、再現できる色の広さが違うAdobeRGBやsRGBなどの「画像データ」から、CMYKなどの「印刷データ」などに変換される際の、色の変化も高精度で観察できます。
その結果、最終成果物がより美しくなるように調整することもできるのです。
印刷では再現できる色の範囲が狭く、sRGBやAdobeRGBの色彩を完全に再現できないこともあります。しかし、「印刷が上がってくるまでわからない」ではなく、それに合ったデータの調整が可能になるのもキャリブレーションのメリットです。ぜひ、試してみてください。

まとめ
マスターモニターがないと「色の海」で遭難する
筆者の場合は、印刷の仕事が多いときには、さらにキャリブレーションを厳密に行います。しかし、最近はWEBの仕事が多く、経験的に比較的色が正確に再現されやすい、MacBook Proをソフトウェアキャリブレーションしてマスターモニターにしていました。作業は多少色が正確に再現されなくても、大きくて広い4Kのテレビで行っていたのです。
今回、「ViewSonic VP2785-2K」でハードウェアキャリブレーションを行ってみて感じたのは、専用ソフトということもありますが、「正確で簡単」ということです。そのためのハードウェアキャリブレーションなのだから、当然ではありますが、専門的な知識のない人でも簡単に使いこなせ、カラーマネージメントの恩恵が受けられるのが素晴らしいことだと思います。
実際のところ、自信をもってデータの色を正確に再現しているといえるモニターがないと、美しいデータを仕上げていくのは事実上不可能です。また、それに応えてくれるハードウェアキャリブレーションが可能で、Adobe RGBの色域を100%カバーする「ViewSonic VP2785-2K」は、すでに実勢価格は6万円台。筆者を含め、ブログやSNS、YouTube、さらにいうなら写真入りの企画書など、写真や動画を仕事で扱う人は、導入を真剣に検討すべきタイミングといえるのではないでしょうか。テレワークを考えると自宅にも検討したいところです。
執筆者のプロフィール

齋藤千歳(さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラアクセサリー、車中泊・キャンピングカーグッズなどの記事も執筆。現在は昨年8月に生まれた息子と妻の3人、キャンピングカー生活にハマっており、約1カ月かけて北海道を一周するなどしている。
技術監修/小山壯二