「食フェス」のように居酒屋を楽しむ!出店コストを抑え、圧倒的な集客力を生み出す「横浜西口一番街」戦略

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3月20日横浜駅西口の繁華街に「横浜西口一番街」という飲食店がオープンした。ここは70坪の規模で、地元横浜エリアの人気繁盛店のブランドが7店舗結集、地元の居酒屋ファンにとっては「食フェス」のような楽しさがあり、コロナ禍での制約があっても大ヒットしている。また、ここの工事はここをプロデュースして全体を統括している会社が共有部分の整備を行い、他の出店者それぞれが借主店舗の内部工事を行った。これにより、出店者にとってすべてを自社で行うよりも出店コストを抑えることが出来て、かつ圧倒的な集客力のある店舗となった。

「横浜西口一番街」のオープン

3月20日横浜駅西口の繁華街の中に「横浜西口一番街」という「横丁」がオープンした。ここには主に神奈川・横浜エリアで飲食店を展開している7社が出店、鮮魚、小皿料理、もつ煮込み、焼売、韓国屋台料理といった大衆的な専門店で構成されている。どの店も地元の人によく知られた人気のブランドで、これらのブランドに親しんでいる顧客にとっては「食フェス」のような楽しさを感じているのではないか。これらが集まることによって集客力が著しく高くなっている。

横浜駅西口の繁華街、帷子川(かたびらがわ)近くの中洲のようなエリアにあり、テークアウトコーナーを設ける店があるなど、店の賑わいを増している。

同店をプロデュースし、現在統括を担当しているのはここにも出店している(株)奴ダイニング(本社/東京都中央区、代表/松本丈志)である。このプロジェクトが立ち上がったきっかけは、2020年5月に同社代表の松本氏に現在の物件の持ち主より出店のオファーがあったこと。

張り出したテラス席によって店内の賑わいと楽しさをアピールしている。

奴ダイニングの本部は現在東京にあるが、創業は横浜エリアで成長の礎をつくった飲食企業である。物件の規模は70坪、6年間の定期借家契約であった。奴ダイニングが得意とする飲食店は15~20坪で、松本氏が初めてこの物件の広さを目の前にした時に「横丁にしよう」とひらめいたという。そこで、飲食店経営者の知人に出店を打診。結果6社から賛同を得て、同社を加えて7社によるユニークな横丁が誕生した。

横浜エリアにドミナントを構える店がほとんどで、地元の居酒屋愛好家にとっては「食フェス」のような楽しさをもたらしている。

地元の人気店が集まることで生まれるパワー

「横丁」がひらめいた背景には、松本氏が実際に「横丁」に出店して大ヒットしている経験値があるからだ。「野毛一番街」がそれで、2018年2月にオープンした。野毛は、JR横浜駅の隣、JR桜木町駅近くにある大きな飲食店街である。地元の人だけでなく遠方からも「野毛ファン」が訪れる。

「野毛一番街」をプロデュースしたのは横浜の飲食企業(株)First Drop代表の平尾謙太郎氏。コンビニが撤退した路面45坪の物件で6店舗182席という複数業態の集合体をつくり上げた。それぞれの業態は、串焼きビストロ、肉バル、炭火焼き鳥、串揚げ×カレーうどん、魚と酒、韓国屋台居酒屋で、客単価は1500円~2300円と大衆業態で構成された。オープンして間もなく1日500人が来店するという盛況を博し、コロナ禍前には月間で2800万円を売っていた。

ここで注目したいポイントは、客席効率が「1坪あたり4.0席」となっていることだ。つぼ八や庄やといったかつて一世を風靡した大衆居酒屋チェーンの場合「1坪当たり2.0席」が標準であったということを知ると、「野毛一番街」の客席効率の状態を推し量ることが出来るだろう。そこに横浜エリアの人気店が集結したのだから、坪月商62万円という一般的に都心で「繁盛店は坪月商30万円」とされる倍を売り上げる力をもたらした。

早速、松本氏は平尾氏に「横浜西口の物件を野毛一番街を参考にした店にしたい」と構想を披露し、出店も了承していただいた。こうして、個性的な7社の店舗が一つの空間に揃うことになった(各店舗の概要は巻末で紹介)。

施工を複数の業者が行ないバラバラな空間を生み出す

「横丁」は統一感がなく雑多な個性が集まっていることが魅力である。そこで松本氏は設計施工の進め方に工夫を凝らした。

こだわりの焼きそばに加えてメキシコ料理をラインアップすることによって来店動機を幅広くしている。

物件の工事はA工事、B工事、C工事に分けられる。一般的にA工事は、外装・共用部トイレ・消防設備・排水設備などでオーナーがすべてを負担。B工事は借主が要望を出すが工事の権限はオーナーにあるというもので、エアコン・排気・防水・分電盤など。C工事は店舗の意匠に関わる部分で、テナントに権限がある。「横浜西口一番街」では全体のデザインとA工事、B工事は奴ダイニングが担当した。C工事は出店する会社が担当した。

「横浜西口一番街」をプロデュースした奴ダイニングの店舗。大きな黒板で「バル」であることをアピールしている。

次に、A工事、B工事の施工業者は2社、C工事には4社が入った。これらの工程を調整することは容易ではないが、松本氏はこれらの業者すべてと交流があることからスムーズに進めることができた。また、複数の施工業者が内装工事を行うことによって、内装のテーストが統一されておらずバラバラな集合体が出来上がった。全体の工事費用は約1億2000万円となった。

奴ダイニング以外の6店舗はサブリースではなく「業務委託」という形にした。家賃は固定で設定している。

大衆業態が集結していることから色調がブラウン系になりがちだが、鮮魚の居酒屋の白木のデザインがあることで全体を印象深くしている。

さて、出来上がった「横浜西口一番街」は個性が強烈な7店舗で「70坪261席」となった。「1坪あたり3.7席」である。しかしながら、ここには開放感がある。客席が詰め込まれているのになぜ開放感があるのか。それはまず、店舗ごとの間仕切りはあるが視界を妨げない高さで、バラバラの店舗デザインが一つの空間に凝集されていることが挙げられる。コロナ禍の営業時間短縮の要請に従っているが、取材をした4月上旬現在、平日で120万円、土日祝では180万円を売り上げている。土日祝には1日700人が来店していることになる。前出の松本氏は、事業計画書に月商4000万円と記したというが、それを上回る勢いで推移している。

「横浜西口一番街」が示した「圧倒的な集客力を作り出す」というスキームは、これからの新しい出店モデルとなっていきそうだ。

「横浜西口一番街」に出店している店舗

「横浜西口一番街」に出店している店舗名、(坪数・席数)、会社名、(本部所在地)は以下の通り(店名の五十音順)。カギカッコの中の太い文字はキャッチフレーズ。

店内に置かれたチラシにも記されている平面図では、店内の換気を十分に行っていることをアピール。さらに光触媒のコーティングで店内の抗菌を施している。

韓兵衛(かんべえ)(10坪・38席)(株)YOSHITSUNE(神奈川県横浜市)
「気軽に韓国屋台料理を楽しめる」。キムチ、ナムルにはじまり、ビビンバ、サムギョプサルなど本格的な韓国料理を、韓国の家の庭先で食べるようなイメージ。

魚と酒 はなたれ(7坪・35席)(株)First Drop(神奈川県横浜市)
「こだわりの魚と酒」。横浜中央市場に買参権を持つ。また、三崎半島佐島漁港でその日獲れたての「湘南朝生しらす」をはじめとした市場に出荷前の朝どり魚を仕入れる。

焼売酒場 しげ吉(10坪・32席)(株)シゲキッチン(神奈川県横浜市)
「おいしいものを通じて人同士が仲良くなれる場」。横浜界隈で焼肉店「食彩和牛 しげ吉」を展開する企業の新業態でA5メス和牛を使用した焼売専門店。蒸し、揚げ、炙りで提供。

野毛焼きそばセンター まるき(10坪・32席)(株)Omnibus(神奈川県横浜市)
「記憶に残る絶品焼きそば」。東京・浅草「開花楼」特注の麺×オリジナルソース。横浜・野毛の本店は「横浜で食べ歩き料理5選」に選出されている。メキシコ料理もある。

BEEF KITCHEN STAND(10坪・47席)(株)奴ダイニング(東京都中央区)
「ステーキや肉料理でお酒が飲める大衆居酒屋」。「名物ビフテキ50ℊ290円(税込319円)をはじめとしてスモールポーションのフードメニューのバラエティが豊富。

もつしげ(9坪・32席)(株)ニュールック(神奈川県横浜市)
「横浜西口一番街にふさわしいもつしげ」。横浜・野毛が発祥のブランドで、毎朝仕入れる鮮度が際立つモツを串焼き、名物の「塩もつ煮込み」などで提供する。

もつ煮込み専門店 沼田(14坪・45席)(有)珈琲新鮮館(神奈川県相模原市)
「日本で唯一のもつ煮込み専門店」。味噌、醤油、塩、カレーなど、常時5~6種類のもつ煮込みを揃える。味ごとに素材を変えている。モツを使用したバラエティが豊富。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)

柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。

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