くら寿司はなぜ勝ったのか 飲食業における「サービス論争」に終止符が打たれようとしている

グルメ・レシピ

コロナ禍の今、飲食業界で優勢にある業態はファストフード、大手回転すしチェーン、大型焼肉店チェーンである。これらに共通していることは人的サービスが効率化されていることだ。そして店舗機能の機械化、ロボット化、DXが他の業種業態に先駆けて進んでいる。この象徴的な事例として回転すし業界の第2位となっている「くら寿司」の取組みから、これから顧客に求められる「飲食業のサービスの在り方」について考えてみた。

ロボット化、DXで顧客満足を高める「くら寿司」

コロナ禍での飲食業界の動向をざっくりと述べると、優勢にあるのはファストフード、大手回転すしチェーン、大型焼肉店チェーンで、一方劣勢にあるのがテーブルサービスの業態である。テーブルサービスとは、文字通りテーブルに座っている顧客に従業員が対応する業態のことである。これらが優勢にある業態と異なるポイントを挙げると、従業員が1人の顧客に接する回数が多いということだ。

ロボット化の環境が整った広い店内。サイネージで受付番号等表示される。

具体的に言うと、テーブルサービスでは、まず顧客が入店すると、客席に案内し、注文を伺い、料理を提供し、食事を終えたら下げて、追加注文を伺い、食事を終えたら下げて、そして会計を行う。

これがファストフードであれば、カウンターにいる従業員が1人ですべてを行う。回転すしチェーンではレーンで顧客に商品を届け、大型焼肉チェーンでは回転すしの仕組みを取り入れ、また配膳ロボットを導入して従業員の補助的な役割を担うようになっている。

テーブル席のついたてを高くして感染予防対策を行っている

要するに、今飲食業で優勢にあるところはロボット化やDXが進んでいる業態である。これまで飲食業のロボット化に対して「ホスピタリティが欠如していく」ものと捉えて否定的な見解が多かったが、これらが顧客から評価されている理由はどういうことであろうか。

この点、店内のロボット化やDXにいち早く取り組んでいる、くら寿司の動向を述べておきたい。

回転すし業界の近代化を牽引した数々の試み

まず、回転すし業界の中でのくら寿司のポジショニングから。

業界トップは、スシローブランドを持つFOOD&LIFE COMPANIESで、年商約2050億円(2020年9月期)、国内店舗数(スシロー業態のみ)538店(2021年3月末)。くら寿司はそれに次いで約1360億円(2020年10月期)、同480店(2021年4月末)。3位カッパ・クリエイト、約650億円(2021年3月期)、同314店(2021年3月末)、4位元気寿司、約382.5億円(2021年3月期)、同165店(2021年3月末)。これらは株式公開企業で、非上場ではゼンショーグループの「はま寿司」が530店舗とこの上位の中に入る。

では、くら寿司のロボット化とDXの事例を時系列で紹介しよう。

水回収システム(1996年)

テーブルの皿回収ロボットに寿司皿を投入すると、水流により皿が洗い場まで運ばれる。テーブル上での皿の積み上げをなくし、片付け作業の負担を軽減できる。

時間制限管理システム(1997年)

製造管理システム(1998年)

すしカバーに取り付けたICタグなどによってレーン上の商品の時間を管理。また、顧客の滞在時間によって変化する消費皿数(食べる量)を予測。係数化した「顧客係数」を厨房に表示し、レーンに流す皿数を最適化、廃棄ロスを軽減。

ビッくらポン(2000年)

水回収システムと連動し、5回に1回抽選ゲームができる。「当たり」が出たらオリジナルの景品をプレゼントする。子供客に人気のシステム。

タッチで注文(2002年)

スマホで注文(2019年)

メニュー注文用タッチパネル(タッチで注文)を業界に先駆けて導入。さらに、2019年には、席にあるQRコードを読み込むことで、顧客が自分のスマホから注文可能となった。皿の投入口に入らないサイドメニューなどもビッくらポンに加算される。

抗菌寿司カバー(2011年)

従業員も顧客も、カバーに直接触れずに商品を出し入れできる、くら寿司独自開発のカバー。鮮度だけでなく、空気中に漂うウイルスや飛沫からすしを守る。

自動受付・案内(2017年)

スマホアプリから「時間指定」で予約ができ、自動的に客席まで誘導するシステム。顧客の待ち時間の低減や、対従業員との非接触を実現。また、最新の店では、特殊センサーが設置されていて、画面に触れることなく操作可能。

セルフチェック(2019年)

すしが流れるレーンの上部に小型カメラが設置されていて、どのテーブルで何枚の皿を取ったか、AI画像を分析して検知。自動でカウントするため、従業員を介することなく会計が確認できる。

セルフレジ(2020年)

「自動案内」や「セルフチェック」などのシステムを組み合わせ、入店から退店まで従業員を介することなくサービスの提供が可能となる「非接触型サービス」が実現。自動受付と同様の特殊センサーを導入することで、タッチレス化も推進。

経験や勘に頼らない仕組みで効率を高める

これらの中から、くら寿司のロボット化やDXの取組みがどのような効果をもたらしているか、「時間制限管理システム」と「製造管理システム」について紹介しよう。

これは、レーンを流れるすしの量や顧客の滞在時間を把握して、流す商品、数量、タイミングを自動で分析するシステムだ。

従来は、これらの把握を従業員の経験と勘を頼りに判断していたために、顧客満足度が低下したり、廃棄率に変動があった。また、不足しがちなすしを準備したり、顧客が食事を終えた皿の積み重ねの状態を目視で確認するなど従業員の負担が大きかった。

これらを解決するために、情報通信技術(ICT)を導入、そして流れている商品の種類や時間を管理するシステムを導入した。受付を終えた顧客に届けられる「自動案内」のデータを厨房と共有することによって、顧客の人数と滞在時間から目安となる消費量を算出。「抗菌寿司カバー」のICチップ(QRコード)により、流れている商品の種類や時間を管理。これらのデータを分析することによって、新たに準備する商品と提供するタイミングを算出できるようにした。

これによって、従業員の経験や勘ではなく、数的データで管理できることによって廃棄量の削減が可能になった。「抗菌寿司カバー」に付属しているQRコードによって、流れている商品や時間を管理することで、お客の消費動向を数値化し、無駄のない商品提供が可能になった。このシステムが導入される以前の廃棄量は12%以上であったが、導入後は6%となり、現在は3%となっている。

さらに、データを可視化できるようになったことから、店舗責任者や従業員の育成が容易になり、出店拡大にも寄与した。

完全非接触で安心・安全をアピール

くら寿司ではコロナ禍での感染予防対策を進めて、これが発展して「スマートくら寿司」をつくり上げた。これは顧客が店の従業員を介することなく店を利用する完全非接触の仕組みで、2021年10月期よりオープンする全店に導入している。この一連の流れはこうなっている。

・スマホで予約
いつでもどこでも自身のスマホから時間を指定して予約が可能。

・セルフ案内
来店してから自動案内機にチェックインすることで、従業員を介することなく席まで案内。

・スマホで注文
タッチパネルに触れることなく自身のスマホから注文が可能。

・抗菌寿司カバー
ウイルスなどからすしをガードし、フタに触れることなく皿を取ることが可能。

・セルフチェック
食べた皿の数を自動でチェックする最先端の設備。小型カメラとAIを活用して、従業員を介することなく正確な枚数を自動計算。

・セルフ会計
従業員がいなくても顧客自身で会計できるシステム。

これらは店側が安心・安全を顧客にアピールすることであるが、顧客もこれらを便利なものと受け入れている。

まとめ

これまで飲食店のサービスとは「接客」と理解されてきたが、コロナ禍で特にファミリー外食の業態で展開されているロボット化とDXによって従業員満足と顧客満足が高まっているという事実は、「飲食業におけるサービスとは何か?」という問いかけを深くしていく。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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