NHKと北京テレビが共同制作した8Kドキュメンタリー「天に光 地に彩 中国四川省ガルゼチベット族自治州」が5月24日に放送された。この作品は、グレーディングにおいて個人的なインプレッションを強烈に反映した8K映像だ。こんな「アーティステック・カラー」は、NHKの8Kの常識にはない。「ディレクター自身の感動を表現した映像」こそが、8Kに新たな魅力を与える。

大自然の絶景とチベット族の色鮮やかな暮らしを8Kで活写

筆者は2011年から、カンヌで開催される国際番組見本市のMIPTVを取材し続けている。2019年は10月の僚イベント、MIPCOMも取材。この時、出会ったのが、NHKと北京テレビが共同制作した8Kドキュメンタリー「天に光 地に彩 中国四川省ガルゼチベット族自治州」。5月24日に放送され、久しぶりに鑑賞し、感動を新たにした。

画像: マニ石はチベット仏教を信じる人々が奉納する石版で、罪を浄化する真言が記されている。 ©️NHK/北京テレビ

マニ石はチベット仏教を信じる人々が奉納する石版で、罪を浄化する真言が記されている。

©️NHK/北京テレビ

国際共同制作についてNHKにインタビュー

2019MIPCOMの目玉はMIP史上初の「NHK8KTHEATER」。パナソニックの4KDLPプロジェクターを4発同期運転し、248インチのスクリーンに投射。音響は22.2chイマーシブサラウンドだった。そこでNHKの幹部に国際共同制作についてインタビューした。

「もちろんNHKは自力で8K番組がつくれます。でも、8Kはコンテンツ的にこんな切り口もあるのだと呈示するのもわれわれのミッションです。国際的に、8Kの制作者をエンカレジしたい」と言った。映像とは畢竟、制作者の感性である。NHK的なものだけでなく、さまざまにバラエティに富んだ感性を集め、8Kってこんな表現ができるんだと感嘆されるような作品をつくるのが国際共同制作だ。

画像: チベット族のこどもたち。(四川省ガルゼチベット族自治州) ©️NHK/北京テレビ

チベット族のこどもたち。(四川省ガルゼチベット族自治州)

©️NHK/北京テレビ

その典型がNHKと北京テレビの共同制作8Kドキュメンタリー「天に光 地に彩 中国四川省ガルゼチベット族自治州」だ。番組案内サイトにはこうある、「秘境チベット高原の"色"の物語。光る雲海の下に色彩豊かな村が出現!中国の秘境・チベット高原、"色鮮やかな文字を刻む石板が延々並ぶチベット仏教の僧院"、"石に刻んだ祈りの文字が開発を阻んだ美しい渓流"、"ヤクの黒々とした群れと、ひき肉で作る餃子"、"微生物が生む赤い川原"。大自然の絶景とチベット族の色鮮やかな暮らしを8Kの超高精細映像がとらえる」。

個人的なインプレッションを強烈に反映した8K映像

ディレクターの心象風景でもある壮絶な朝焼けを映し出す

何が素晴らしいか。冒頭のミニャコンカ山の山頂からの朝日の映像。もの凄く色が濃い、壮大な朝焼けだ。この映像は、共同制作相手、北京テレビのテクニカルディレクター、Guo Haojun氏の個人的な心象風景でもある。

画像: ミニャコンカ山のふもと、チベットミニャ族の村。 ©️NHK/北京テレビ

ミニャコンカ山のふもと、チベットミニャ族の村。

©️NHK/北京テレビ

「海抜7500メートルのミニャコンカ山(Mt. Minya Konka)山の頂きに真夜中に、重い機材を背負って、食事も取らず、休みも無く、たいへんな思いをして登り、午前4時から待機して待っていた日の出の圧倒的なこと。対面の山の際から初めは小さい光の点だったのが、強烈な光の束になり、雲やこちらの山を黄金に染める様子は圧巻でした。その強烈なイメージをグレーディング(色編集)の時に生かし、観たままの光と色を映像に込めました。まさに"美はリアリティから来る"ことを実感しました」。

ミニャコンカ山を謳った歌と映像の織りなすハーモニー

グレーディングにおいて個人的なインプレッションを強烈に反映した8K映像だ。こんな「アーティステック・カラー」は、NHKの8Kの常識には、ない。「ディレクター自身の感動を表現した映像」こそが、8Kに新たな魅力を与える。番組では、ミニャコンカ山を謳ったこんな歌が紹介された。

画像: ミニャコンカ山(7556メートル)チベット・ミニャ族の言葉で「ミニャの白雪」という意味。雲海の下に色彩に満ちた暮らしがある。 ©️NHK/北京テレビ

ミニャコンカ山(7556メートル)チベット・ミニャ族の言葉で「ミニャの白雪」という意味。雲海の下に色彩に満ちた暮らしがある。

©️NHK/北京テレビ

朝の太陽が石の山を照らす
美しい山はまるで金の頭巾のよう

正午の太陽が石の山を照らす
美しい山はまるで歴史を刻む書のよう

午後の太陽が川を照らす 
美しい水はまるで聖水のよう。

朝。朝日がミニャコンカ山をオレンジに染める。群青の空との鮮やかな対比。タイムラプス撮影で、雲が抜けるような青空を背景に、早い速度で左から右へと流れゆく。盤石に聳える不動のミニャコンカ山が、湖にその姿を湖に映し(つまり逆さ富士ならぬ逆さミニャコンカ山)、流雲も上と下にふたつの流れを魅せる。今度は夕景が山の雪がオレンジ色に染め、湖に映る暗い青と白、茜の絢爛な色のハーモニーが美しい。

まとめ

遠景でも、ひじょうに細かなディテールまで色とグラテーションがきちんと付与されるのが、8KHDRの素晴しさだと、大いに堪能できた。5月に3回再放送された。7月にも2回再放送の予定あり。

◆文・麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
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