【変形性ひざ関節症の最新治療】多血小板血漿(PRP)療法が注目!自身の血小板で炎症を抑える新たな治療法

美容・ヘルスケア

変形性ひざ関節症は、保存療法→手術を検討、というのが現在の基本的治療の流れですが、薬剤療法と手術の間に位置する新たな治療法として「多血小板血漿(PRP)療法」が注目されています。これは、患者自身の血小板の機能を活用する方法で、著名なアスリートの外傷治療にも用いられています。【解説】小林洋平(順天堂大学医学部整形外科・スポーツ診療科医師)

解説者のプロフィール

小林洋平(こばやし・ようへい)

順天堂大学医学部整形外科・スポーツ診療科医師。2005年、順天堂大学医学部卒業。2016年に同大学大学院医学研究科博士課程を修了後、北習志野花輪病院整形外科を経て現職。白報会王子病院整形外科部長も務める。日本整形外科学会認定専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。サッカー選手などのアスリートの外傷治療をはじめ、変形性ひざ関節症などの関節治療全般に幅広く携わる。

血小板から出る成分で炎症を抑えて回復を促す

中高年、特に女性には、ひざ痛に悩む人が多く見られます。その代表的な原因は「変形性ひざ関節症」です。変形性ひざ関節症は、各種の保存療法を行い、効果が不十分なら手術を検討するというのが、現在の基本的治療の流れです。

最近、そこに加わる治療法として「多血小板血漿(PRP)療法」が注目されています。これは、患者自身の血液に含まれる血小板の機能を活用する方法で、薬剤療法と手術の間に位置する、新たな治療法になり得ることが期待されています。

著名なアスリートの外傷治療にも用いられているPRP療法について、順天堂大学医学部整形外科・スポーツ診療科の小林洋平先生に伺いました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 松崎千佐登

──多血小板血漿(PRP)療法とはどのような治療法ですか。

小林 患者さんの血液から、血小板が多く含まれる部分を抽出し、痛みがある部分に注射する療法です。この注射に用いる、血小板が多く含まれる血液のことを「多血小板血漿(PRP)」といいます。

PRPを作る方法は、まず、患者さんの血液を少量(当院の場合は約20ml)採取します。そして、遠心分離により、血液中の血小板が多く含まれる部分を抽出します。

血小板は、赤血球や白血球などと並ぶ血液中の細胞成分で、組織が傷ついたときの止血や組織修復のために、重要な役目を果たしています。手などに傷ができたとき、血が止まり、カサブタができ、やがて元通りに治りますが、傷が治っていくこの過程に欠かせないものです。

血小板からは、数十種類ある「成長因子」と呼ばれる成分が出ていて、それらが協力しながら炎症を抑えたり、組織の修復を促したりします。

PRP療法では、患者さん自身の血液から作ったPRP(自己PRP)を、体の傷んだ部分に注射します。PRP中の血小板から放出される成長因子の作用により、炎症を抑えて痛みの軽減や回復促進を図る、というわけです。

多血小板血漿(PRP)とは?
患者の血液のうち、血小板が多く含まれる部分のこと。特殊な技術で、血液を赤血球・PRP・血小板が少ない血漿(乏血小板血漿)に分離し、PRPのみを抽出して使用する。

PRP療法の治療の流れ
(1)患者の血液を少量採取(順天堂大学の場合は20㎖)
(2)血液中の血小板が多く含まれる部分を抽出(=PRP)
(3)PRPを患部に注射
(4)血小板から出る「成長因子」の作用により、痛みの軽減・回復の促進を図る

欧米では、体に備わっている「自分で自分を治す力(自己治癒力)」をサポートする治療法として、すでにひんぱんに行われています。

最近では、海外の有名トップアスリートや、国内外で活躍する日本人アスリートなどが、けがの回復促進にPRP療法を活用したことが報じられました。

この療法は、もともと歯科口腔外科や美容、皮膚科領域で使われていましたが、10〜15年前から、スポーツ外傷や関節疾患の治療にも用いられるようになりました。当院では、2011年にスポーツ選手のけがの早期復帰を目的として導入し、その後、変形性ひざ関節症の治療にも適応を拡大するようになりました。

現在では、当院で行うPRP療法の約9割以上が、変形性ひざ関節症の治療を目的とするものになっています。

変形性ひざ関節症におけるPRP治療の患者層の割合

痛みの直接原因である炎症を抑えることが目的

──変形性ひざ関節症に対し、PRP療法はどのような効果をもたらしますか。

小林 変形性ひざ関節症は、ひざ関節の軟骨がすり減り、そこを包んでいる滑膜に炎症が起こって痛みが生じる病気です。日本での患者数は現在約2500万人とされ、4〜5人に1人程度です。高齢になるほど発症率が高くなり、女性には男性の倍程度見られます。

PRP療法により、この変形性ひざ関節症で起こる関節の炎症を抑えたり、組織の修復を促したりする効果が期待できます。また、ひざと比べると数は少ないですが、股関節や足関節、肩、手など、の変形性関節症にも用いられています。

日本では現在、PRP療法は「再生医療」という法律の枠組みの中で行われています。そのため、「軟骨が再生する治療」という期待を持って受診する患者さんもおられます。しかし、それは必ずしも主要な目的ではありません。

変形性ひざ関節症に対するPRP療法の効果として、これまで明らかにされ、かつ中心的な目的となっているのは「炎症の抑制」です。軟骨が再生する場合もありますが、そうした効果が得られるかはケースによります。

イメージをわかりやすくするために、軟骨を芝生に例えてみましょう。芝生の一部分がハゲているだけなら、水や栄養を与えることで、その部分の芝が再び生えてくる可能性があります。

一方、全体がはがれて更地になっている状態なら、水や栄養だけを与えても芝は生えてきません。再び芝を生やすには、「種」が必要になってくるのです。PRPはこの場合の水や栄養に当たるもので、「種」に当たる成分は含まれません。

ですから、軟骨の部分的な損傷や摩耗で「種」が残っていれば、再生を促す可能性がありますが、軟骨の大部分が減り「種」が残っていない状態で、すでに手術を検討しているような場合、再生は難しいといえます。

だからといって、このような状態のひざにPRP療法が無効かというと、決してそうではありません。なぜならば、ひざの痛みを起こしている直接的な原因は炎症だからです。PRP療法を行えば、炎症の抑制に伴う痛みの軽減効果は期待できます。

従来、変形性ひざ関節症に対する保存治療(手術以外の治療法)としては、痛み止め薬の内服やヒアルロン酸の注射などが行われてきましたが、こうした既存の治療が無効だった患者さんの中に、PRP療法で痛みが軽減できる人がいること、さらに、その効果が長く続く人がいることがわかっています。

また、月に1度、合計3回程度行うと、半年〜1年以上、抗炎症効果が持続するという報告もあります。

有効率は60%既存治療が無効な人が対象

──変形性ひざ関節症の患者のうち、PRP療法の対象者や、その有効性は?

小林 現在、ひざ痛に関してPRP療法の適応となるのは、「ひざ痛があり、その原因が変形性ひざ関節症と診断されており、かつ一般的な保存治療(シップ、飲み薬、ヒアルロン酸注射など)では効果が乏しい」という患者さんです。

さらに、手術を受けたくない、合併症によるリスクがあって手術を受けられない、家庭の事情で入院できないといった事情が重なっていれば、一番の治療対象になります。

私たちが、変形性ひざ関節症に対するPRP療法の有効性を調べたところ、PRP療法から1年間経過してひざ痛の改善に効果があった人は、全体の61.1%でした。約6割に有効といえる半面、約4割程度の人には無効ともいえます。この辺りは捉え方の問題になるでしょう。

また、どういう条件で効きやすさに差が出るか調べたところ、やはり軟骨の減り具合によって有効率が違っています。

レントゲンで軟骨の減少度合いを示す「Kellgren-Lawrence(K‐L分類)」という指標で見た場合、軟骨が少し残っているグレード2〜3の人の有効率は、64.1%でした。

一方、軟骨がほとんどなくなったグレード4の人では、56.9%という結果が出ています。

一般的に、グレード4で痛みが強い場合は、有効な治療法がほぼ手術しかない段階です。その段階でも半分強に有効という意味では、高い数字という見方もできるでしょう。

当院でPRP療法を行った、変形性ひざ関節症の患者さんの例としては、次のようなものが挙げられます。

Aさん(74歳・女性)は、グレード4の右変形性ひざ関節症で、1ヵ月ごとにPRP療法を3回行いました。

治療前、治療から1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後で評価をしたところ、レントゲン上は改善が見られなかったものの、痛みや機能のスコアは速やかに改善。さらに、半年たってもこの状態を維持できています。

Aさん(74歳・女性)のPRP療法後のスコア

資料提供/小林洋平先生

──PRP療法の主なメリット、デメリットは?

小林 メリットとしては、患者さん自身の血液から作ったPRPを使うので、副作用が起こりにくく、安全性が高いことが挙げられます。採血した日にPRPを作成して投与できるため、入院などが不要なのも利点です。

デメリットは、日本ではまだ保険診療として認められておらず、自費診療になるため、高額になることです。

価格設定は医療機関によってさまざまですが、当院の場合は、一方のひざに1回投与するのに3万5千円、諸費用を含めると4万円ほどかかります。この価格でも、PRP療法の中ではかなり安い方で、一般的には数万円〜10万円程度かかるところが多いようです。

この他、効果の個人差が大きく、予測がつきにくいことも挙げられるでしょう。PRPを患者さんの血液から作ることは、安全面ではメリットとなる一方、成分が人や状況によって変わり、薬のような均一の品質は望めません。そのため、効果の予測とともに、比較や検証もしにくいのが難点です。

希望する際は医療機関で相談を

──PRP療法を受けたいときは、どうすればよいでしょうか。

小林 再生医療法という規制があり、どこでも受けられる治療ではないため、PRP療法を行っている医療機関に行く必要があります。

PRP療法を受けられる医療機関は、厚生労働省がホームページで公表している「届出された再生医療等提供計画の一覧」に掲載されています。

厚生労働省「届出された再生医療等提供計画の一覧」
https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/published_plan/index/1/2

ここに出ている医療機関のうち、PRP療法によって変形性関節症、もしくは変形性ひざ関節症の治療を目的としている施設を見ると、200以上もあります。

また、今回は詳しく触れませんでしたが、PRPには抽出方法によるいくつかの種類があり、病態や組織によって効果などが異なります。こうしたものから自分の希望に合う医療機関を探すのは、一般のみなさんでは難しいでしょう。

そのため、まずはかかりつけの医師や最寄りの医療機関の医師などに「PRP療法を受けたい」と希望を伝えた上で、相談することをお勧めします。もちろん当院でご相談いただいても構いません。

その他にも、最近では、特殊なPRPの作成方法により、抗炎症作用を高めた次世代型のPRP療法も登場しています。中でも「APS療法」と呼ばれるものは、従来のPRPに比べて、抗炎症効果をもたらす成分がケタ違いに多く含まれることがわかっています。

しかし、その分費用も10倍ほどかかるため、通常のPRP療法で十分な効果が得られなかった人が対象となります。高価な治療となるだけに、医療機関でよく説明を受けた上で、慎重に検討していただきたいと思います。

まだまだ課題も多いPRP療法ですが、多くの人が悩むひざ痛をはじめ、変形性関節症の新しい治療法として、また、スポーツ選手の早期復帰をもたらす方法として大いに期待される療法です。

さらに現在では、より客観的な評価法の確立や、治療効果に影響のある因子の解明などといった研究も進められています。将来的には、データベースの充実などでより効果を可視化したり、患者さんの治療方針に合わせて個別化したりしていくことを目標としています。

この療法の存在を知ることで、健康寿命の延伸にも役立てていただければと思います。

■この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。

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