【問題点】社会保障制度の課題を分かりやすく解説 医療費増加の原因は?本当の「分配」とは?|八ツ井慶子

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こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。今回のテーマは「社会保障制度の改革に関心を持とう!」です。突然ですが、みなさんは政治に関心はありますか? かつての私は、まったくと言っていいほど関心がありませんでした。そんな私がグッと政治に関心を持ったキッカケは、いまの家計相談のお仕事です。

「本当の安心」は社会保障制度にかかっている

数多くの家計相談を通して、実に多くの方が、老後への不安や医療費の負担、長く働けるかどうか、教育費負担、介護にどう備えるか等々の悩みが尽きないことを目の当たりにしたのです。と同時に、家計コンサルタントとしての限界も思い知らされました。

コンサルタントとして、金融商品の選び方やお金の使い方、時間軸の捉え方等をお伝えすることはできます。もちろんこれだけでも、多くのケースで本当に家計は見違えるほど変化しますので、非常に効果のあるものです。ですが、良くも悪くもできることはそこまで。やはり、私たちの暮らしのベースとなる、公的な社会保障制度や税制が安心できるものでなければ、“本当の安心”は多くの方に訪れないと思うのです。

政治について話すことは、何となくタブー視される傾向が日本ではありますが、私はそのカルチャーが変わってほしいなと思っています。そんなこと言っている場合ではありません。私たちの生活がかかっています。

社会保障制度は、法律でその内容が決められています。法律を話し合う場所は国会です。ですから、安心できる社会保障制度を望むのであれば、国会議員をきちんと選ばなければなりません。暮らしに関心を持つことは、そのまま政治につながっています。関心を持つキッカケになればと思い、社会保障関連のデータを一緒にみていきたいと思います。

写真:Getty Images

日本の年金制度は「賦課方式」

まずは、前回の記事(年金改正 将来いくらの年金がもらえるか 4パターンで試算してみた)に引き続きまして、公的年金のデータです。

厚生労働省から「公的年金各制度の財政収支状況」が毎年度公表されています。そのデータと、国立社会保障・人口問題研究所の人口統計からまとめたのが図表(1)です。

日本の年金制度は「賦課方式」といって、現役世代から徴収する「保険料収入」を、高齢者を中心とする年金受給者の「給付費」に充当する世代間扶養の制度です。したがって、ご存じの通り、現役世代人口と高齢者世代人口の構成比の変化は、年金財政に大きく影響します。

年金保険料の負担はアップ、逆に年金額は減少

(図表(1))

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図表(1)の「年金」欄をみてください。
平成16年度と令和元年度の「保険料収入」を比較すると、1.5倍以上にも増加しています。「給付費」は27%ほどのアップ。差額でみると、「保険料収入」は約13.4兆円増、「給付費」は約11.3兆円の増加です。

老齢年金の受給額、なぜか13.88%減少

同期間の人口の変化をみてみましょう。「人口」欄をご覧ください。
現役世代(20~64歳)人口は、同期間で11%以上減少しており、65歳以上の高齢者は44%以上増加しています。

ここから、一人あたりの年金保険料の負担はアップして、逆に年金額は減少していることが推測できます。そこで、まとめてみたのが、図表(2)・(3)です。

保険料負担は31%アップ

(図表(2))

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図表(2)は、年収別に厚生年金保険料がどれほどアップしたかを計算しました。
平成16年度から令和元年度にかけて、保険料率は13.934%から18.3%へ上昇したため、かりにこの間の収入が変わらなければ、単純計算して保険料負担は31.33%ほどアップしています。

ですが、年金財政の「保険料収入」はそれ以上にアップしていますので、加入者数の増加(平成28年度から短時間労働者の社会保険適用の改正がありました)など、他の要因も相まって、1.5倍以上になっているものと思われます。

図表(3)は、厚生年金加入者の老齢年金の受給額の平均月額です。
平成16年度から令和元年度にかけて13.88%減少していました。なぜこんなに減少しているのか、厚労省に問い合わせたり、公的年金に詳しい知人に聞いたりしてみました。複数の要因が考えられるのかもしれませんが、大きな要因として、おそらく以前に行われていた年金の優遇が徐々になくなっていっているためと思われます。

減少する老齢年金の受給額

(図表(3))

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この状態で「2000万円貯めてくれ」と言われても…

いずれにしても、事実として、公的年金の負担増・給付減はすでに進展していました。

少子高齢化、人口減、超長寿化は、これからますます進展、本格化します。すでに老後資金を貯められずに生活保護を受ける世帯が増えている今、社会保障制度の改革は待ったなしではないでしょうか。「超長寿で、老後資金は公的年金だけでは不足しますから、みなさん2,000万円ほど貯めてください」と、この状態で言われて納得できないのは、私だけでしょうか。

私たちが自助努力で超長寿社会を乗り切らないといけないのでしょうか。制度改革を後手に回してきた政治の責任はないのでしょうか。そういう政治家を選んだ国民にも責任があるといわれれば、その通りです。なので、関心を持って、きちんと選ばなければならないのだと思います。

医療費増加の「主因」は高齢者ではない

さらにもう一つ、医療費のデータをご紹介したいと思います。
国民の医療費がとても増えていることは、みなさんもよくご存じだと思います。その要因は何だと思われますか? 高齢者が増えていることが大きな要因でしょうか?

これからご紹介するデータを調べて、医療費増加の「主因」は高齢者増ではないと思いました。このときから私の政治不信は始まりました。みなさんがどう思われるか分かりませんが、ぜひ情報を共有させていただきたいと思います。

医療費増加の原因は「国民全体の一人あたりの医療費増」

出典:厚生労働省「医療費の動向」より抜粋

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厚労省のHPで公開されている国民医療費のグラフです。
棒グラフの高さが「医療費」を表しており、私たちの医療費は増え続けていることが分かります。
2007(平成19)年度を境に、棒グラフの黄色の箇所がオレンジに変わっています。これは、2008(平成20)年度から後期高齢者医療制度がスタートしたためで、黄色は「70歳未満」の医療費を、オレンジは「75歳未満」の医療費を、それぞれ表しています。

2015年度の医療費は、1985年度比2.65倍に膨らんでいる

(図表(4))

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棒グラフから医療費の数字をピックアップして作成したのが、図表(4)です。さらに、同じ時期の人口統計をまとめたのが図表(5)です。

日本の総人口はわずか5%ほどのアップしかない

(図表(5))

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なお、図表(4)は見やすいように、便宜上、表を「75歳」で区分けしていますが、実際の数値は前述の通り、2007年度を境に異なりますので、ご留意ください。

こんなに医療費が増えるほど日本人は増えている?

私が初めて医療費のグラフを目にしたのは、2012年頃です。「どうしたら医療費は減らせるのだろう」と考えながら、まずは事実確認のため、厚労省から公表されている医療費データを調べていました。

1985年度の医療費16兆円が、2010年度には約2.3倍の37.4兆円にまで膨らんでいるのをみたとき、私は、ふと疑問に思いました。

「こんなに医療費が増えるほど日本人(人口)って、増えていたっけ?」と。

そこで、おなじみ国立社会保障・人口問題研究所(社人研)で、同時期の人口推移を調べました。そのときに気が付いたのが、以下のことです。ちなみに、図表(4)・(5)は新しいデータに更新していますが、当時からの「傾向」は変わっていません。

また、数字の見方ですが、表中、医療費、人口ともに、1985年度を基準にしたときの変動率を( )内の%で示しています。「100%」とあれば1985年度比で2倍、「200%」は3倍を意味します。

医療費(図表(4))をみてみると、2015年度は、1985年度比2.65倍に膨らんでいることが分かります(42.4兆円÷16.0兆円≒2.65)。同時期の日本の総人口をみてみると(図表(5))、121,049千人→127,095千人と、わずか5%ほどのアップしかありません。

実は「75歳未満」の影響が大きい

年齢別にみてみましょう。

「75歳未満」の医療費は、同期間に約2.3倍に膨らんでいますが(27.3兆円÷11.9兆円)、人口はむしろ6%弱減少しています。一方で、「75歳以上」はというと、医療費はおよそ3.7倍(15.1兆円÷4.1兆円)と、かなり膨らんでいますが、人口も比較的近い数値の3.4倍増です。

ここから、医療費が増えている原因は、高齢者のみならず、国民全体の一人あたりの医療費増が大きな理由と推察できます。人口比からの乖離幅でみれば、高齢者よりもむしろ「75歳未満」の人々の影響の方が大きいといえます。

思えば、若い方の医療費が増えている要因は、身近な例がすぐに思い浮かんできます。
高脂血症や高血圧などの生活習慣病で薬を飲み続けている、精神疾患患者の増加、日帰りで受けられる手術の増加等。ニキビができると、ドラッグストアよりも薬が安いからと、あえて医療機関を受診する、といった20代の女性の話も聞いたことがあります。

医療が充実していることは、非常にいいことだと思いますが、それによって健康管理がおろそかになるとすれば本末転倒です。病気になってからどう治療するか、ではなく、ここまで医療費が増えているとしたら、なぜ増えてしまったのか、どうしたら増えることを抑えることができるのか、食習慣の見直しや運動促進などの情報提供をすることが、政府の役割としては大きいのではないでしょうか。

写真:Getty Images

「経済最優先」の弊害

“医食同源”とはよくいったもので、食事は体づくりの基本ですから、健康維持にはとても大事なものです。ですが、食品添加物や農薬使用の規制は緩く、種子法は廃止され、遺伝子組み換え表示も消えようとしています。私たちは、自ら情報を入手しようと能動的に行動しなければ、食品の安全も担保できなくなっています。

一方で、法人税率は引き下げられ、「3.11」の復興特別増税も、法人税に関してはわずか3年(個人所得税は25年、住民税は10年)、しかも1年前倒しで廃止されました。いまもって、私たちは通常よりも多くの所得税を負担しています。

社会保険料率は上がり、さらに消費税率も2段階で引き上げられました。資産運用で儲けた分に課税される金融所得課税は優遇措置が設けられています。

こうした諸政策の先に、私たちの暮らしの安全はあるのでしょうか。政府は、何も黙ってこうした政策を続けているわけではありません。「経済最優先」と堂々と言ってきました。

「経済」が最優先されるのであれば、私たちの暮らしや健康が二の次になってもおかしくないのだと思います。そう思うと、社会保障制度の改革が後手に回るのも、そうした改革の前に「リスク運用して自助努力でお金を貯めましょう」というのも、医療費削減を考える前に、健診を受けることを勧めるのも、すべて合点がいきます。

キーワードは「脱・経済成長」

このコラムでは幾度となくお伝えさせていただいていますが、いまの経済は格差を生みます。「経済成長」と「経済的な成長」は違います。文明や技術が進歩して、私たちの生活が豊かで便利になる「経済的な成長」と、GDPが増える「経済成長」は異なります。

GDPが増えても、その分私たちの幸福度は増加していません。キーワードは「脱・経済成長」だと思うのです。

ぜひ、ぜひ、みなさん一人ひとりに考えていただきたいと思います。
いまの経済が、私たちを幸せにしてくれるでしょうか。
いまの政治が、私たちの暮らしを守ってくれているでしょうか。

写真:Getty Images

ホームレスの人たちは憲法違反?

私は、ふと思いました。
「憲法25条 すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」

ホームレスの人たちの存在は、憲法違反です。
なぜ、政治は憲法違反を長く見過ごしているのでしょうか。なぜ、すぐに法改正をして、ホームレスの方々を救わないのでしょうか。「経済最優先」となれば、ここでも合点がいきます。

「財源」が理由でしょうか。
おカネもモノもすべて余っています。あるところにはあります。「分配」の問題です。政治の問題といってもいいでしょう。明日の食事にも困る、餓死する人がいる中で、GDPを増やすことがなぜ大事なのか、私にはまったく理解ができません。
みなさんは、どう思われるでしょうか。

執筆者のプロフィール

八ツ井慶子(やつい・けいこ)

生活マネー相談室代表。家計コンサルタント(FP技能士1級)。宅地建物取引士。アロマテラピー検定1級合格者。城西大学経済学部非常勤講師。

埼玉県出身。法政大学経済学部経済学科卒業。個人相談を中心に、講演、執筆、取材などの活動を展開。これまで1,000世帯を超える相談実績をもち、「しあわせ家計」づくりのお手伝いをモットーに活動中。主な著書に、『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』(プレジデント社)、『お金の不安に答える本 女子用』(日本経済新聞出版社)、『家計改善バイブル』(朝日新聞出版)などがある。テレビ「NHKスペシャル」「日曜討論」「あさイチ」「クローズアップ現代+」「新報道2001」「モーニングバード!」「ビートたけしのTVタックル」など出演多数。
▼生活マネー相談室(公式サイト)
▼しあわせ家計をつくるゾウ(Facebook)

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