【腸と脳の深い関係】腸内環境の悪化が子供の健康に影響する研究も

子供

腸と脳は、お互いに密接に関わりあい影響を及ぼしあっているといわれています。腸から脳に送られる情報に、腸内細菌が大きく影響を与えていることも明らかになりつつあります。腸内細菌の組成は1才半でほとんど決まり、種類は3才までに決まることがわかってきました。子どもが幸せな人生を送れるかどうか、その大きなカギが「腸」にあります。書籍『子どもの幸せは腸が7割』(西東社)の中から、腸と脳の関係についてご紹介しましょう。

本稿は『子どもの幸せは腸が7割 3才までで決まる!最強の腸内環境のつくりかた』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

イラスト/大日野カルコ

なぜ、赤ちゃんは何でもなめるの?

「赤ちゃんは何でもなめる」のは、なぜか考えたことがありますか。それには深い意味があります。病気になるのも、元気になるのも、腸がすべてを決めているんです。腸と腸内細菌のはたらきは、次のとおり。

(1)病原体を排除します。
(2)食物繊維を消化します。
(3)ビタミンB・Kを合成します。
(4)ホルモンや酵素の合成をします。
(5)幸せ物質(ドーパミン・セロトニン)を合成します。
(6) 免疫力の70%を担います。

このように、腸とそこにすむ腸内細菌は、私たちの健康になくてはならないものなのです。腸内細菌は、生後3年までに、どんな菌が腸にすみつくのかが決まります。

赤ちゃんが何でもなめるのは、3才までに多種多様な菌を取り込んで、自分の健康を守ろうとする行為なのです。3才までに取り込んだ腸内細菌の種類や数が多いほど、将来にわたって、その子の体も心も健全に保たれるというわけです。

つまり、3才までによい腸内環境をつくることができれば、一生涯を幸せに生き抜ける確率が高まるのですね。どうすれば多種多様な腸内細菌を取り込むことができるかを、わかりやすく解説します。

腸と脳には深~い関係があった!

腸と脳は、お互いに密接に関わりあい、影響を及ぼしあっているといわれています。この関係を「脳腸相関」と呼びます。たとえば、私たちはストレスを感じると、おなかが痛くなっておなかが下ったりします。これは脳が自律神経を介して、腸にストレスの刺激を伝えるからです。

逆に、腸は腸で、独自の神経ネットワークによって感知したさまざまな情報を脳へ伝達しています。たとえば、腸に病原菌が入り込んで炎症を起こすと、脳で不安感が増すことがわかっています。腸から脳へ送られる情報量は、脳から腸に送られる情報量よりも多いと考えられており、脳は腸から送られてくる情報に大きく影響を受けているといわれています。

さらに最新の研究において、この腸から脳に送られる情報に、腸にすみつく菌たちの存在が大きく影響を与えていることも、明らかになりつつあります。

「セロトニン」という神経伝達物質があります。脳の中枢神経系に存在する伝達物質です。セロトニンには気分を安定させ穏やかにしたり、頭の回転をよくして直感力を高めたりするはたらきがあり「幸せホルモン」とも呼ばれています。このセロトニンが不足すると人は疲れやすくなったり、怒りっぽくなったり、うつ状態になったりしてしまいます。

同じく神経伝達物質である「ノルアドレナリン(怒りのホルモン)」や「ドーパミン(快楽ホルモン)」と並んで、精神面や睡眠・体温調節などに深くかかわる三大神経伝達物質のひとつです。

そんな私たちにとって重要なセロトニンの生成に関わっているのが、腸であり、腸に暮らす腸内細菌たちです。
セロトニンは、食物中から摂取されたトリプトファンというアミノ酸をもとに合成されるのですが、いくら多量のトリプトファンを摂取しても、腸内細菌がバランスよく存在していないとセロトニンは増えません。なぜなら、セロトニンの合成にはビタミンB6・ナイアシン・葉酸などのビタミンが必要で、それらのビタミンは腸内細菌が合成しているからです。

同じように腸内細菌は、快楽ホルモンと呼ばれるドーパミンの合成にも関わっています。ドーパミンはやる気を高め、楽しくポジティブな気持ちにさせるはたらきがあります。人は、セロトニンが不足すると精神が不安定になって怒りっぽくなり、ドーパミンが不足するとやる気を失って無気力になります。
うつ病は、セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンが減ることで引き起こされるといわれています。(モノアミン仮説)。腸内細菌が不足するとうつ病になってしまうのは、こういうわけなのです。

自閉症(自閉症スペクトラム障害・ASD)は、対人関係が苦手で、特定のものごとやルールに強いこだわりを示すという特徴をもつ発達障害のひとつです。世界的に患者が急増していますが、遺伝子の変異が原因とわかっている一部をのぞいて、ほとんどの場合ははっきりした原因や治療法がわかっていません。

それが近年の研究で、この自閉症にも腸内細菌が深くかかわっているらしいことがわかってきました。自閉症の子どもたちの多くは、慢性的な下痢や便秘など、おなかの問題を抱えていたのです。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、自閉症の子が慢性的な下痢や便秘をする割合は、そうでない子の3.5倍です。とくに自閉症の程度が重い子ほど、おなかの問題も重い傾向があることが指摘されています。

そこで、自閉症の子とそうでない子のそれぞれの便を分析してみたところ、自閉症の子の腸内細菌の種類と数が、とても少ないことがわかったのです。
また自閉症の子は、とくに「クロストリジウム属菌」を多くもつ傾向があり、これがほかの腸内細菌のバランスを崩し、ビフィズス菌などのよい菌を減少させてしまうこともわかってきました。

現在では、自閉症と腸内細菌を結びつける研究が、急速に進められています。腸内環境を整えることにより、自閉症を改善できたという事例も報告されており、今後も予防法や治療法の開発につながることが期待されています。

最近社会問題になっている「引きこもり」も、腸内環境と深いかかわりがあります。腸内細菌が減少すると、「幸せホルモン」「快楽ホルモン」であるセロトニンやドーパミンが不足するので、何かストレスを受けたときに気持ちをコントロールすることが難しくなったり、「頑張ろう!」という意欲が薄れたりしてしまいます。これが、引きこもりを長期化させる原因になってしまうからです。
また自閉症の人は、コミュニケーションの障害や対人関係の構築の障害などを抱えているため、自信をなくして引きこもってしまうケースが多いといわれます。

善玉菌と悪玉菌、そしてどっちにも味方する日和見菌がある

そもそも、腸内細菌とはどんなものなのでしょうか? 腸内細菌は、そのはたらきによって大きく3つに分けられます。善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌です。

善玉菌は体によいはたらきをする菌です。ビフィズス菌、乳酸菌、麹菌、酵母菌などがあります。善玉菌の代表であるビフィズス菌は、腸内を酸性にすることで、がんや生活習慣病の原因となる有害物質を死滅させるというはたらきをします。

免疫がはたらきやすい環境をつくったり、ビタミンをつくったり、有害な菌の増殖を抑えてくれます。ビフィズス菌がつくる短鎖脂肪酸には、うんちを出すために大切な腸の蠕動運動を活発にするはたらきもあります。

いっぽう悪玉菌は、一部の大腸菌や、ウェルシュ菌、ブドウ球菌など体に悪さをはたらく菌です。悪玉菌が増えると便秘や下痢になるなど、体調が悪くなってしまいます。

悪玉菌は、肉類に含まれるたんぱく質や脂質を腐敗させ、アンモニアやインドール、スカトール、フェノール、アミンといった有害物質をつくり出し、腸内をアルカリ性にします。腸がその有害物質を吸収し、血流に乗って体内をめぐることで、免疫力が低下し、がんや生活習慣病になりやすくなります。

善玉菌が増えると悪玉菌が減り、腸は若々しく保たれます。悪玉菌が増えると逆に善玉菌は減り、腸が老化して免疫も低下します。

もうひとつ、日和見菌という菌があります。バクテロイデス門、連鎖球菌、土壌菌などその他大勢の菌です。最近の遺伝子検査法によると、日和見菌が腸内細菌の約4分の3を占めていることがわかっています。

日和見菌は、善玉菌と悪玉菌の優勢なほうの味方をする性質があります。つまり善玉菌が少し増えると、日和見菌は善玉菌に協力するので体調がよくなり、逆に悪玉菌が増えると日和見菌は悪玉菌に味方するので免疫が低下し、体に悪影響を与えます。

悪玉菌も体に必要な微生物

でもここで、不思議に感じませんか? どうして私たちの体は、悪いことをする悪玉菌を排除しないのでしょうか。

じつは悪玉菌といわれる菌も、体に有益な作用をしていることが明らかになっています。

たとえば大腸菌は、O-157が体内に侵入してきたときに追い出してくれたり、野菜のセルロースを分解し、ビタミンを合成してくれたりします。たしかに、つねに善玉菌が優勢であることが望ましいのですが、善玉菌だけでは腸の機能が正常にはたらかないのです。

さらに、これまでは「善玉菌をたくさん摂取して、腸内で増やすことが大切」といわれていましたが、どんなにがんばっても「善玉菌も悪玉菌も、腸内細菌全体の20%以上にはならない」ということが、学問的に明らかになってきました。

ですから、腸内細菌の半分以上を占める日和見菌にいいはたらきをしてもらうしかありません。善玉菌をある程度優位にした状態で、日和見菌をしっかり増やすのが大切ということになります。

本稿は『子どもの幸せは腸が7割 3才までで決まる!最強の腸内環境のつくりかた』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

腸内細菌の組成は1才半でほとんど決まる。種類は3才までに決まる

腸内細菌は、200種類以上、100兆個以上もいます。実際には、私たちの腸の中にどんな菌がどのくらいいるのかは、一人一人異なります。

指紋と同じように腸内フローラも、まったく同じ人はいません。しかもこの腸内フローラは、菌の数は年齢によって増減するものの、菌の種類は一生を通じてほとんど変わりません。

かといって、指紋とはちがい、生まれつき決まっているというものでもありません。赤ちゃんはおなかの中にいるときには、まだ体の表面にも体内にもまったく菌がいない無菌状態です。おなかから外に出て、さまざまな人やもの、食べもの、土などの自然などにふれることで菌を獲得していき、後天的に腸内フローラを形成していきます。

この、赤ちゃんの腸内細菌獲得活動はいつまで続き、いつ完了し、いつ腸内フローラが確定するのか。ここが非常に重要なのですが、赤ちゃんの腸内フローラは、生後1年半ほどで9割ほどが決まってしまうことがわかってきました。このときにできた腸内フローラの組成が、生涯の腸の土台になるというのです。

ただ、1才半で完成というわけではなく、その後も3才くらいまで腸内細菌獲得活動は続きます。食事、家族や友だちや先生とのふれあい、ペット、外出先の環境などからさまざまな菌を取り込んでいきます。
このとき、どんな菌でも腸内にすみつくわけではありません。腸粘膜から分泌される「IgA抗体」という免疫物質に結びついた菌だけが、すみつくことを許されます。

この「IgA抗体」による菌のスカウト活動は、3才くらいで終了します。このころには腸内細菌の種類が完全に決まり、この後はほとんど種類が増えることはありません。腸内フローラは、3才までに確定するのです。

大事なのは、多種多様な菌を取り込むこと

研究が進むなかでわかったのは、腸内フローラは多様性が大事だということです。丈夫な体を形成するには、たくさんの種類の菌が取り込まれているほうがいいのです。

「ダイバーシティ」という言葉がよく聞かれるようになりました。均質な集団より、性格や得意分野や価値観が異なる多様性のある集団のほうが、社会のニーズに柔軟に対応できるし、ふいのアクシデントなどにも強いといいます。腸内も同じです。多種多様な菌たちがいてはじめて、さまざまなニーズ、さまざまなアクシデントに対応することができます。

だから、おうちの方は、お子さんを清潔な部屋に閉じこめるのではなく、たくさんの人や自然に接する機会をつくって、たくさんの種類の菌とふれさせてほしいのです。

子どもの幸せは腸内環境で決まる

人が幸せになるために必要なものって、何でしょうか? 健康な体、学力などの才能、人とうまくやれる対人能力……これらのことはほぼ、遺伝子によって決められていると思っている人が多いのではないでしょうか。

デンマークで双子を調査したある研究によると、人が長寿になるかどうかは、遺伝的な要素はわずか25%で、あとの75%は生活習慣や環境によって決まるという結果が出ています。
最近では、先天的に同じ遺伝情報をもっていても、環境を変えることで遺伝子のはたらきが変化していくという「エピジェネティクス(後天的遺伝子制御変化)」の研究が注目されています。

つまり、子どもが幸せな人生を送れるかどうかは、生まれた後の生活習慣や育つ環境でほぼ決まるといえます。その大きなカギが、「腸」にあります。

腸内環境の豊かさは親からの最高のプレゼント

幸せになるための基本は、何といっても「健康」です。腸は病原菌を排除して、生きるために必要なビタミン類を合成しています。免疫力を高め、アレルギーや感染症などにかかりにくくします。

また、人が「幸せだな」と実感しながら生きていくためには、ドーパミンやセロトニンといった「幸せ物質」が欠かせません。これらの幸せ物質は、社会的成功にも深くかかわっています。

意欲や向上心をもって勉強や仕事を続けることにより、一定の報酬を得て、ときには名誉や尊敬を得ること。一人の人を深く愛すること。怒りや悲しみとうまくつき合いつつ心の平和を維持し、家族や友人たちとよい人間関係を築くこと。それらを実現させるために必要なのが、ドーパミンやセロトニンのはたらきです。

ドーパミンもセロトニンも、腸内細菌が有効に機能することでつくられます。

「レジリエンス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。誰しも長い人生の間には、心が折れそうなできごとに何度も直面することがあるものです。

そんなときに必要なのは、「柔軟性をもって困難にうまく適応できる力」「乗り越えて回復していく力」。それを「レジリエンス」と呼びます。以前は物理学などで使われていた言葉ですが、最近では、心理学や精神医学のなかでもこの力が重視され、注目されるようになってきました。

複雑で変化が激しい現代において幸せな人生を送るためには、つよいレジリエンスをもつことが必須です。そしてこのレジリエンスの基になるのが、腸内フローラの豊かさです。

小さいうちにできるだけ多くの種類の菌と出会わせて、バラエティに富んだ腸内環境をつくってあげること食物繊維の多い食生活によって、腸内細菌を増やしてあげること。そして善玉菌が優勢になる生活習慣を身につけさせてあげること。

それこそが、親が子どもにあげられる最高のプレゼントではないでしょうか。

著者のプロフィール

藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)

1939年、旧満州生まれ、東京医科歯科大学卒業、東京大学医学系大学院修了、医学博士。テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学教授を経て、現在、東京医科歯科大学名誉教授。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労章、国際文化栄誉賞を受賞。主な著書に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(三笠書房知的生きかた文庫)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』(ワニブックスplus新書)など多数。2021年5月死去(81歳)。従四位、瑞宝中綬章を授与。

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なお、本稿は書籍『子どもの幸せは腸が7割 3才までで決まる!最強の腸内環境のつくりかた』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。「病気になるのも元気になるのも、じつは腸がすべてを決めている」という仮説のもと、さまざまな事例を挙げ、その真相に迫った良書です。腸内細菌は、生後3年までに、どんな菌が腸にすみつくのかで決まります。では3才までにどうすれば多種多様な腸内細菌を取り込むことができるか。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

子どもの幸せは腸が7割 3才までで決まる!最強の腸内環境のつくりかた
¥1,430
2021-10-15 7:35

※(1)「腸内細菌と免疫力の関係とは?」」の記事もご覧ください。

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