〈2000円のパフェに行列!〉和歌山の果物農家が運営する「観音山フルーツパーラー」快進撃の核心をレポート

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「観音山フルーツパーラー」というフルーツパフェ専門店が、2021年10月18日に銀座、11月3日に表参道、と東京の中心に相次いでオープンした。これを運営しているのは、和歌山の果物農家。同農家は、これまで一貫して生産物を消費者に直接販売する農業生産法人。周辺の農家300軒と連携して旬の果物を年間通じて全国に供給する仕組みを整えている。そして「農家が直接消費者の声に耳を傾ける」ことを目的としてフルーツパーラーを展開。この度、この「消費者」を象徴する東京の中心に出店した、という次第。観音山フルーツパーラーを運営する柑香園会長の児玉典男氏に話を聞いた。

観音山フルーツパーラーとは

「観音山フルーツパーラー」というフルーツパフェ専門店が、10月18日に銀座、11月3日に表参道、と相次いでオープンした。銀座店は、昭和通りに面したホテルの1階、表参道店は、明治通りに面した飲食ビルの3階にある。オープンの告知には「これが和歌山の実力!」と書かれている。商品力に絶大な自信があることが伝わる。

銀座店は、歌舞伎座近くにあり、フルーツパフェ専門店の存在感をアピールする上で絶好の立地。(写真=筆者撮影)

フルーツパフェ1980円、男性も

メニューは、旬のフルーツを盛り込んだパフェがメインで、「フルーツパフェ」1980円(税込)、「レモンパフェ」1650円が定番。そして、旬のフルーツを単品で構成した季節メニューが圧巻である。今の季節は「いちじくパフェ」2200円、「柿パフェ」2310円を提供している。それぞれ熟したいちじく、柿が1個分使用されていて、まず見た目で驚き、食べてみて体全体が満足する。客層は女性ばかりと思いきや、若者、中高年に限らず男性一人というパターンもある。

定番メニューの「フルーツパフェ」1980円(税込、以下同)。旬の果物をバラエティー豊富にまとめている。(写真=柑香園提供)

シンプルにまとめた定番メニューの「レモンパフェ」1650円。(写真=柑香園提供)

和歌山県産栗と搾りたて「モンブランパフェ」1,890円。(写真=観音山フルーツパーラー)

parlour.kannonyama.jp

▼観音山フルーツパーラーのメニュー一覧

農協に加入せず直売に徹する

これらの店を営んでいるのは、和歌山県紀の川市の果物農家、農業生産法人・有限会社柑香園(銀座店は直営、表参道店は共同経営)。明治44年(1911年)に果物農家として創業し、現在の経営者、代表取締役会長の児玉典男氏は5代目、代表取締役社長の児玉芳典氏は6代目となっている。

同社の本部は、和歌山県紀の川市粉河にあるが、本部から半径1キロ圏には民家が存在しない。広大な果樹園の中で農業生産法人を営んでいる。5代目、6代目が東京の中心にフルーツパーラーを開店するに至るまでは、果物農家としての基盤づくりと業容拡大に向けた情熱が存在している。

同社の初代は吉兵衛氏。払い下げのあった官有地を開墾して、みかん農家を始めた。明治44年(1911年)のことである。

2代目、長治郎氏は雑木林を開墾して果樹園の拡大に努めた。3代目、正男氏は農業生産者であると同時に商才を発揮した。昭和元年(1926年)より個人で出荷を手掛けた。付近の農家からみかんを購入して、国内での販売と並行して北米や朝鮮・満州へと海外での販売を広げた。商標「ヤマチョー」を取得した。

創業より6代、果物農家として地場を固める

4代目、政藤氏は出征先の満州より帰還。農地解放で所有農地の8分の5を手放すことになる。戦中・戦後のみかん園の荒廃は甚だしく、肥料不足によってその復興は困難であったが、昭和23年(1948年)より始められたカナダ向けみかん輸出に参画して、その見返り肥料を果樹園の回復にあてた。収入は増加したが所得税が重圧となり、それを合理化するために法人を設立、昭和37年(1962年)11月に、農業生産法人・有限会社柑香園に組織替えをした。同時に果樹専業農家となり、農協や任意出荷団体には加入せず、あくまでも生産と直売に徹した。

そして、5代目の典男氏に引き継がれる。

果樹園の様子。写真左が5代目の児玉典男会長。右が6代目の児玉芳典社長。(写真=柑香園提供)

典男氏は、三重大学農学部農芸化学科を1972年に卒業後、柑香園に入社した。以来50年間農業の現場に携わっている。

就農して以来、海外産オレンジが輸入されることによって、みかんの需要が低迷。市場出荷を行っていたが、市場価格も下がり始めたことから、スーパーとの直接取引を行うようになった。1990年代の半ば、インターネット黎明期の中でホームページを作成、個人への直接販売を行うようになった。その後、見た目は良くないが味は良いフルーツを加工品にするためにフルーツ加工品事業も手掛けるようになった。

一貫した「個人客向け販売」が開花

「観音山(かんのんやま)」のブランドは、西国三十三巡礼札所に由来する。ここの特徴は、すべての寺院が観音様を祀っていること。児玉氏は、地元に三番目札所の「粉河寺」があることに常々縁を感じていた。ここの一帯には「観音」という地名は存在しないが、昔から、これらの山々を通称「観音山」と称していたことから、柑香園の商品に名付けようと考えた。こうして「観音山」は2003年に商標登録した。

同社が代々注力してきたことは、「個人向け直接販売」ということ。そして、5代目がインターネットに着眼して、個人向け直接販売を全国ネットに広げたことによって、販路が拡大したと同時に、商品を購入した顧客からの声が直接届くようになった。これが、果物農家としての生産意欲を高めていった。

どんな場所で、どんな表情をして食べているのか

「生産者にとって一番うれしいことは、自分がつくったものを消費者がどのような場所で、どのような表情をして食べているのかを見ることができるということ。『おいしかった』と言ってくれると素直に嬉しいし、『あれはもっとこうした方がいい』ということであれば、改善するための意欲が増す。それを、消費者の状況が分からない流通に頼っていると、消費者の反応が伝わってこないし、価格も業者に決められてしまう」(児玉典男氏)

さらに、柑香園が個人向け直接販売に傾注していく中で出来上がっていったことは、「商品を一年間絶やすことなく販売する」ということだ。このために、近隣の果物農家と連携するようになり、協力農家は300軒となった。さらに、全国の産地とのネットワークが広がり、旬の果物のバラエティーが豊富になった。

5代目の児玉典男会長。1990年代半ばに、いち早く通信販売に着手して果物を通年販売するノウハウを蓄積していった。(写真=筆者撮影)

個人向け直接販売の売上げは、増え続けている。現状、顧客情報は30万件を保有していて、商品情報をメールで送信して、購入動機につなげている。商品は配送業者が届けるが、商品の合計金額が5000円以上の場合は送料半額、1万円以上の場合は無料としている。

顧客の増加に伴って、栽培面積が不足するようになり、耕作放棄地約8haを借り受け、現在の果樹農園は14ha(東京ドームの約3.5倍)となっている。

このように、旬の果物の年間を通じた安定した供給体制がフルーツパーラーを開業するアイデアにつながった。

一貫して顧客に直接販売を行っている。顧客データは現在30万件を擁している。(写真=筆者撮影)

「生産者が消費者に近づく」ということ

2018年に、現在の本部である新社屋が完成。生産、加工、出荷、販売に加えて、フルーツパーラーが一体となった施設となった。この「観音山フルーツパーラー本店」は、同年4月にオープンした。

2018年に竣工した本部の建物。1階が集荷場と本部、2階が「観音山フルーツパーラー本店」となっている。(写真=柑香園提供)

2000円のパフェに200人、3時間待ち

同店は、店内40坪、テラス席10坪で、60席の規模。フルーツパフェは、1品目2000円前後となっている。連休ともなると、ウエーティングが200人で3時間待ち、ということが珍しくない。自動車のナンバーは沖縄、札幌という遠隔地のものもある。和歌山県の南側に位置するリゾートの白浜町の周遊観光で利用されている模様だ。

今の季節メニュー「いちじくパフェ」2200円。(写真=柑香園提供)

今の季節メニュー「柿パフェ」2310円。季節メニューは旬の果物をまるごと楽しむという趣向。(写真=柑香園提供)

柑香園の年商は6億円となっているが、そのうち、この本店と関連商品の売上げで、1億5000万円を占めている。

さて、この「観音山フルーツパーラー」は、本店がオープンしてからその魅力がじわじわ広がり、FCを申し出る事業者が現れるようになった。2019年11月、12月と京都店、神戸店がFCとしてオープン、2020年6月南紀田辺店(和歌山県、直営)、2021年3月河口湖店(山梨県、FC)、8月和歌山市店(FC)とオープンが続いた。今年はさらに銀座店(直営)、表参道店(共同経営)がオープンし、来年は尾道店(広島県、FC)と駒沢店(東京都、FC)が控えている。これで11店舗となる。ますます店舗数が広がる勢いだ。

銀座店の店内では、本部のある和歌山の果樹園の様子がプロジェクターで映し出されている。(写真=筆者撮影)

「和歌山の田舎の果物農家が銀座に店を出す意義とは、銀座が消費地の象徴ということ。生産者が消費者に近づくために、銀座ほど絶好の場所はありません。銀座で、たくさんのお客様からご意見を頂戴し、全国の生産者に発信していきます。一方、地方で励んでいる生産者の姿も伝わることになるでしょう。こうして、果物の生産が活発になって、農家の収入が増えていきます。銀座店は、このようなロジックをつくっていく旗艦店として位置付けていきたい」

同社会長の児玉典男氏はこのように語り、農業の活性化に意気込みを見せている。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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