「その他大勢」とは一線を画す Bluetoothスピーカー
このAIRPULSE(エアパルス)の Bluetoothスピーカー「P100X」には、とても感心しました。それは「音質良さ」です。
Bluetoothスピーカーの大半は、「なんだこれは!」と怒ってしまう音質です。日本を代表する大新聞の、現在手に入る Bluetoothスピーカーを50以上、一堂に集めて一気に聴く、という大テストに参加したのですが、ほとんど「箸棒」。これは、という音を出していたのは、ほんの数機種でした。それも、言葉の本当の意味でワイドレンジで高解像度の高音質というオーディオ的な音ではなく、ブルートゥース伝送の問題になんとか対処しているという、「いかにも頑張っています」というたぐいの音でした。

AIRPULSE(エアパルス)の Bluetoothスピーカー「P100X」。Bluetooth/LINE入力切り替えが可能な専用リモコンを付属。
ところが、AIRPULSEの Bluetoothスピーカーはまったく違います。
オーディオ的にとても優れた音です。でも、単にハイファイ的に優れるというより、個性的で、音楽をユニークな切り口でエモーショナルに聴かせてくれるスピーカー、というほうが正しいでしょう。「その他大勢」のBluetoothスピーカーとは一線を画す、つまり、基本性能に優れ、加えて「音楽的」なBluetoothスピーカーなのです。
エアパルス・ブランドについて
2004年に設立されたプラチナム・オーディオ・システム・カンパニーが商標を持つブランドであるAIRPULSE。英国のアコースティック・エナジーを創設者でもあるフィル・ジョーンズがR&Dのトップとしてエンジニアチームを率いています。
AIRPULSEは、アクティブスピーカーの地位を格段に向上させたブランドです。
わが国では、アクティブスピーカーは、イコール安物のパソコン用スピーカーというイメージが強かったのですが、A80、A100、A300Proという、AIRPULSEの一連の小型アクティブスピーカーは、とても音がよく、本格的なオーディオ機器として評価が高まっています。

リアパネルに備えられたパッシヴ・ラジエターは、空気感ある豊かなエネルギーを放出し、高剛性キャビネットによって通常のブルートゥース・スピーカーと一線を画する低音再現性を手にしている。
真空管ラジオをイメージしたクラシカルなデザイン
その大きな要因は、スピーカー設計の名人、フィル・ジョーンズ氏の腕でしょう。彼はかつてアコースティックエナジー社やプラチナム・オーディオ社にて名スピーカーを開発したことで知られます。A80、A100、A300Proもフィル・ジョーンズ氏ならではの慧眼が光ります。
フィル・ジョーンズについて
1954年にロンドンで生まれ、1980年ヴァイタボックス・ラウドスピーカーにエンジニアとして参加した後1987年にアコースティック・エナジーを設立。アビーロード・スタジオにも導入された有名なニアフィールド・モニターAE-1で一躍有名になった彼は1990年ボストンアコースティックでリンフィールド・シリーズを手掛け、1994年に自身のブランド プラチナム・オーディオを設立。自らもベーシストとして活躍する氏は、2002年にフィル・ジョーンズ・ベースを設立し、ベースプレーヤー用のハイファイ・アンプを開発するなど精力的な活動を経て、2004年プラチナム・オーディオ・システム・カンパニーに参加しエンジニアとしてエアパルス・ブランドを牽引している。
その勢いを駆って開発したのが、この Bluetoothスピーカーなのです。まず真空管ラジオをイメージしたクラシカルなデザインが素敵です。キャビネットはU字の美しいアールを描き、サランネットも古風で、落ち着いた雰囲気です。注目は技術的な内容です。フィル・ジョーンズ氏が長年暖めてきた技術が、今回、この Bluetoothスピーカーに遂に搭載されたのです。

真空管ラジオをイメージしたクラシカルなデザイン。
注目はトゥイーター、Air-Blade Tweeterを採用
スピーカーユニットは、トゥイーター×2、ウーファー×1、パッシブラジエーター×1です。特に注目はトゥイーター。超広指向特性の楕円形、Air-Blade Tweeterを採用しました。このドライバーは、1991年にフィル氏が設計したものですが、当時は製造工程の精度が低く、実用化に至らなかったのです。それが最新の高精度製造により、初めて製造と搭載が実現しました。内部配線にも凝り、ハイエンドオーディオシーンで高い評価を得ている、トランスペアレント製のケーブルを張っています。圧着端子を使わない、ハンダ直付けで仕上げているのもこだわりですね。

AIRPULSEの高度な製造技術により実用化されたAir Blade Tweeterは特許を取得。
〈麻倉怜士が試聴!〉
新技術が活きたスピーカー
音を聴きましょう。
本スピーカーは Bluetoothでの使用を主に想定していますが、加えてアナログのRCA端子をひとつ、持ちます。そこでまずはアナログ入力の音を聴きました。プレイヤーはパナソニック、DP-UB9000でCDを再生しました。驚くのは低音の豊かさです。 Bluetoothスピーカーとしては大型のキャビネットなので、低音は出るだろうなと事前に予測していたが、それ大きく超えるリッチな低音ですね。この充実した低域の上に、しっかりとした中域が乗ります。音調バランスがとてもよいです。

本体背面部。アナログのRCA端子を搭載。
高域の指向性の広さ
定番のホリー・コールの「アイ・キャン・シー・クリヤリー・ナウ」はとても低域がしっかりと再生されました、ピラミッド的な音調といってもいいでしょう。全体にくっきりさが目立つ音作りです。特筆したいのが、高域の指向性の広さです。この曲には、パーカッションの音がクリヤーに入っているのですが、それが正面からはもちろんのこと、横で聞いても、とても明瞭なのです。直進性が強い高域でも、横の減衰がとても少ないのには、驚かされました。正面だけではなく、広いエリアで楽しめる、さすがの新技術が活きた、スピーカーです。

ホリー・コール「アイ・キャン・シー・クリヤリー・ナウ」
www.amazon.co.jpヴォーカルが大きな音像でフューチャー
UAレコード合同会社の「情家みえ・エトレーヌ」の「チーク・トウ・チーク」で感じたのは、ヴォーカルが大きな音像にてフューチャーされることです。バックのピアノ、ベース、ドラムスは少し後ろに控え、ヴォーカルが前面に飛び出して来るのが、とても心地好いですね。ラジカセ型のスピーカーなのだから、すべての音を均等に出すより、音像にメリハリを付けて、主役にスポットライトを当てるという音作りは、納得性が高いですね。

情家みえ・エトレーヌ「チーク・トウ・チーク」
www.amazon.co.jpでは、 Bluetoothはどうでしょうか。私が日常使いしている AQUOS PHONE と結びました。カーペンターズ「イエスタディ・ワンス・モア」は冒頭のピアノがくっきりと奏でられ、カレンのボーカルも艶っぽい。そこから音場に醸し出される響きも綺麗でした。低域のスケール感もたっぷりとしており、ピラミッド的な支点として、安定した進行感が聴けました。ベースの音階も明瞭です。「圧縮している音源」という雰囲気はとても少なく、ストレートなバランスが愉しめます。ここでもカレンの歌声が適切にフューチャーされてるのが、心地好いです。

カーペンターズ「イエスタディ・ワンス・モア」
www.amazon.co.jpまとめ
このように、クラシカルなエクステリアから醸し出される音楽は低音のスケール感と、中域の艶感、そして高域の伸びの良さが印象的。特にヴォーカルが充実していますね。 Bluetooth再生に音楽的な趣向を求める方にはぴったりのスピーカーといえるでしょう。
AIRPULSE「P100X」
▼仕様:ブルートゥース・スピーカー▼ブルートゥース・レシーバー:Bluetooth 5.1 with APTX HD▼トィータ:エアブレード・トィータ×2▼ウーハー:11.5cmアルミニウム・コーン▼アンプ部:TAS5805M Class-Dステレオ・アンプ×2、40W(ウーハー)10W×2(トィータ)▼入力:Bluetooth / アナログRCA ▼周波数特性:52Hz~20kHz▼入力感度:Bluetooth 450±350mFFs LINE IN 400±350mV▼サイズ:W300×D200×H180mm▼重量:5.1kg ▼付属品:リモコン、電源ケーブル、RCA→RCAケーブル、3.5mmStereo→RCAケーブル▼カラー:チェリー・ウッド▼価格:オープン

P100X
Bluetooth スピーカー
執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。特選街webにて「麻倉怜士の4K8K感動探訪」好評連載中。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)