執筆者のプロフィール

吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。
「ニコン Z 9」の主な仕様
近年、多くのカメラメーカーは“一眼レフからミラーレスへ”と、主力製品の交代が進んでいます。そして、カメラ初心者が買いやすいエントリーモデルや、プロやハイアマチュアの要求に応えるハイスペックモデルなど、ユーザーの用途や要望に合わせた製品が、開発・販売されています。そういった、さまざまなタイプやグレードの製品の中でも、メーカーが総力を挙げて開発されるのが「フラッグシップモデル」です。
「ニコン Z 9」は、ミラーレスのZシリーズで、初めて「フラッグシップモデル」の称号が与えられた製品です。シリーズの中で、最も高級で高価格な製品…というだけでなく、メーカーの象徴的存在でもある。それがフラッグシップモデルなのです。今回は、そんなニコン Z 9の、静止画撮影の機能や使用感をレポートしたいと思います。

「ニコン Z 9」
●形式:レンズ交換式デジタルカメラ
●レンズマウント:ニコン Z マウント
●撮像素子:ニコンFXフォーマット CMOSセンサー(35.9mm×23.9mm)、有効画素数:4571万画素
●感度:ISO 64~25600(ISO 32相当まで、ISO 102400相当までの拡張あり)
●手ブレ補正:イメージセンサーシフト方式5軸補正、レンズシフト方式(VRレンズ使用時)
●記録媒体:CFexpressカード(Type B)、XQDカード
●ファインダー:電子ビューファインダー、1.27cm/0.5型 Quad-VGA OLED、約369万ドット
●シャッタースピード:1/32000~30秒(撮影モードMでは900秒まで延長可能)、Bulb、Time
●連続撮影速度:高速連続撮影:最高約20コマ/秒、ハイスピードフレームキャプチャ+(C120):約120コマ/秒
●AF:ハイブリッドAF(位相差AF/コントラストAF)
●モニター:チルト式(縦横チルト可能)8cm/3.2型TFT液晶モニター(タッチパネル)、約210万ドット、視野率約100%
●動画記録サイズ/フレームレート:7680×4320(8K UHD):30p/25p/24p、3840×2160(4K UHD):120p/100p/60p/50p/30p/25p/24p、1920×1080:120p/100p/60p/50p/30p/25p/24p
●使用電池:Li-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18d(1個使用)
●寸法:約149mm(幅)x149.5mm(高)x90.5mm(厚)
●質量:約1340g(バッテリー、メモリーカードを含む) 約1160g(本体のみ)
●発売日:2021年12月24日
外観や操作性
縦位置対応のチルト式液晶モニター搭載

縦位置グリップ一体型ながら、一眼レフのフラッグシップ機「D6」よりは小振りな「Z 9」ボディ。縦位置に構えた際、マルチセレクター(一般的に十字キーと呼ばれるボタン)に指が届きにくいのが少々気になるが、それ以外の操作ボタンの種類や配置は、無難にまとめてある。

記録メディアのスロット数は2つ。どちらのスロットも、CFexpressカード(Type B)とXQDカードの両方に対応する。少々残念なポイントは、メモリーカードカバーの開けづらさ。なお、今回は手持ちカードの関係でXQDカードを使用したが、高速連写による大量撮影を念頭に置くなら、CFexpressカードを選択したい。

「縦横4軸チルト式画像モニター」の採用により、屋外撮影などでの機動性が向上。こういった極端な位置やアングルで、大胆な縦位置撮影をおこなう事ができる。
Z6 IIやZ 7 IIなど、従来のZシリーズのモデルは、比較的小型で軽量でした。しかし、Z 9はフラッグシップモデルということで、縦位置グリップ一体型のボリューム感のある製品になっています。それによって、大柄な望遠レンズや大口径レンズを使用する際のバランスが良くなり、縦位置に構えた際の安定感や操作性も高まるのです。
一眼レフのフラッグシップモデル「D6」と比較すると、体積は約20%小型化されています。ただ、重さに関しては、大きさほどの差はないので(110gほど軽量化)、Z 9を手にすると「見た目よりも重量感があるな」という印象が受けるかもしれません。もちろん、大柄なレンズとのバランスや安定感は良好ですし、ホールド性や剛性も文句ありません。
操作性に関係する機能(機構)で重要なポイントになるのが、チルト式画像モニターの採用です。これまでのZシリーズにも、上下チルト式画像モニターは採用されていました(APS-Cサイズ機のZ fCは、バリアングル式画像モニターを採用)。ですが、今回のZ 9には、ニコン初「縦横4軸チルト式画像モニター」が採用されています。これによって、カメラを縦に構えた際のローアングルやハイアングル撮影に対応できるのです。
先ほども述べた通り、Z 9は縦位置グリップ一体型で、縦位置撮影時の操作性も考慮されています。当然、縦位置用のシャッターボタンや前後のコマンドダイヤルも装備していますし、再生ボタンも横位置・縦位置の両方で操作しやすい位置(持ち替えずに右手親指で操作できる位置)に配置変更されています。ただし、各種機能の呼び出しや設定に使用されるiボタンとサブセレクター(一般的にジョイスティックと呼ばれる操作パーツ)は、横位置用と縦位置用とでは位置関係が異なるため、持ち替えた際に少々戸惑います。
この他にも、縦位置撮影時の操作が横位置と異なる事がいくつか生じますが、全体的には操作性が良好な製品と言えるでしょう。前後のコマンドダイヤルの回し具合なども、クリック感が軽過ぎず重過ぎず…の、絶妙な操作フィーリングです(特に背面側のメインコマンドダイヤル)。地味ではありますが、こういった部分に“カメラ作りの伝統や技術”を感じる事ができます。

iボタンを押すと表示されるiメニュー。このメニューにより、使用頻度の高い項目(機能)などを迅速に呼び出して設定する事ができる。iメニューに表示される項目は、カスタムメニューから、選択・配置の変更が可能。

ISO感度の設定は、シャッターボタン近くに配置されるISOボタンでも設定が可能。だが、iメニューによる設定なら、感度自動制御のON/OFFだけでなく、自動制制御時の上限感度の設定も可能である(通常の撮影メニューからの設定だと結構面倒)。