〈何でもありのすごい過渡期〉“幸せ”と“経済成長”は両立するの? 家計から見る「幸せ」とは何か

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こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。パンデミックがいまだ終息しない中、世界では紛争劇があり、制裁やら対抗措置やらで国際金融にも影響が及び、聞いたことのないような事態に発展しつつあります。

「なんでもアリ」のものすごい過渡期

個人的には、時代が大きく変わる “マーブル状態” 真っただ中、という印象を持っています。「マーブル状態」とは、前回のコラムで詳しくお話させていただきましたが、時代の変化の「過渡期」の意味で用いています(2色の絵の具を混ぜると、マーブル状を経て混ざり合うところから)。

特に、これまでの「経済」が立ち行かなるかどうかといった、ものすごい過渡期に差し掛かっていると思われますので、もうなんでもアリ、なのかもしれません。

これまでであれば、世界同時株安が起こってもおかしくない状況下だと思うのですが、日経平均は値幅のある上下動を繰り返しながら下落傾向はみられるものの、比較的落ち着いた動きにみえます。やはり、マーケットにはすでに “新常識” が醸成されつつあるのではないでしょうか。

「合成の誤謬(ごびゅう)」とは

さて、今回は「幸せ」と「経済」を考えてみたいと思います。もっというと、「幸せ」と「経済成長」は両立しうるのか、です。

実は、この問いは、実際に私がファイナンシャルプランナー(FP)の資格を得て、家計相談の活動をはじめて数年経ったところで、突き当たった疑問です。

みなさんは「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは経済学の用語で、個々の事象は合理性があったとしても、それが集合体(合成)となったときには、必ずしも合理的な結果とはならない事象をいいます。

節約のパラドックス

例えでよくいわれるのが、「節約のパラドックス」といわれるものです。

個々人が節約をして貯蓄をする行動は、合理性があります。ところが、社会全体でみると、みんなが消費行動を控えたら、経済成長の足を引っ張り、必ずしも合理的な結果にはつながりません。これが「合成の誤謬」です。補足しておくと、経済学では経済成長することは「ヨシ」とされますから、その大前提に成り立つ考え方になります。

学生時代、たいして勉強していなかった私も、経済学部卒の端くれで、合成の誤謬は知っていました。なので、家計コンサルタントの仕事は大好きでしたが、ようやくやりがいを感じられるようになった頃、本当に今後も続けていいのか、すっかり悩んでしまったのです。

目の前のお客さまは、家計改善ができて、とても喜んでくださいます。ところが、そういう家計が増えれば、日本経済の足を引っ張ることになってしまいます。自分の仕事が、社会全体に資するものではないとしたら、続けるべきではないのでは、とも思いました。当時の私は、「経済成長し続けることが大事だ」と信じ切っていたからです。

初めて「経済」に疑問がわいた

しかし、です。学生時代に教わった「合成の誤謬」は本当に起こるのだろうかと、ある時ふと思いました。

目の前のお客さまは「本当によかった」「ありがとう」と笑顔で言ってくださいます。この「個々のハッピー」が集合体となったとき、誤謬どころか、超絶「ビッグハッピー」になるのでは、としか思えなかったのです。

そこからです。私の中で初めて「経済」に疑問がわきました。「幸せ」と「経済成長」は両立しうるのか? という問題です。

そうは思っても、何から始めていいのか分かりません。経済の本を開いても、その「解」は見つけられません。仕事が忙しかったこともあり、そのまま数年経ってしまったと思います。

「定常経済」という考え方

ある日、ふとネットで目に留まったのが「幸せ経済社会研究所」というサイトでした。まさに私が疑問に思っていることを研究している団体があることを知り、半ば興奮して入会し、読書会に参加するようになりました。

そこで初めて知ったのが、ハーマン・デイリー氏の提唱する「定常経済」という考え方です。目からうろこでした。

「経済成長」とは、経済の規模が大きくなることを意味します。国内総生産(GDP)で測ります。そして、政府は大きくなり続けることを目指しています。

一方で、「定常経済」では、必ずしも経済の規模が大きくなることは目指しません。規模は変わらなくてもいい、というか、地球資源の再生・循環に合わせた経済活動を前提とします(ちなみに、私がよくお話しする「経済成長」と「経済的な成長」は異なる、という気づきもハーマン・デイリー氏の言葉を拝借してきているものです)。

経済成長を大前提としない「経済」

よくよく考えると、すでにそういったことを行っている、小さな “定常経済圏” は存在していました。例えば、漁です。魚の乱獲で漁場が荒れ、全体の漁獲量が減少してしまったとき、魚の生態系を崩さないレベルにまで漁獲量を調整し、一定量を漁獲できるように目指す、といった流れです。漁獲量は増えはしませんが、持続可能ではあるのです。すごく腑に落ちました。

経済成長を大前提としない「経済」の考え方が存在したこと自体、私に希望を与えてくれました。なぜなら、いまの仕事を続けていていいよ、と言われた気がしたからです。常に心の奥に潜んでいた
“うしろめたさ” は消え、心からやりがいと誇りを感じられるようになりました。ありがたいことに、それはいまも続いています。

では、「幸せ」って何でしょう?
この点についても、家計相談から突き付けられていた疑問でした。恐縮ながら、もう少し私の経験談にお付き合いください。

人は老後のために生きているの?

家計相談の理由トップは、老後不安です。20年以上活動してきていますが、この点はまったく変わりません。むしろ、この傾向は強まっているように感じられます。

実は、「幸せ」と「経済成長」の疑問が湧く前に、私が家計相談をしていて感じたことが、「なぜ人は、こんなに老後が心配なのだろう?」です。

まだ私が若かったせいもあると思いますが、当時は本気で「人は、老後のために生きているのか?」と言いたくなるくらい、心底疑問に感じたものです。いったん疑問に感じたら、止まりません。深く考え込んでいきました。

「老後」の先には何があるだろう?「死」だ。ん? 人は、常に「死」を考えて生きているのか? いや、ちがうちがう……そんな自問自答が続きました。

あ、そうか、人は「将来への安心」が欲しいんだ、とようやく気が付きました。至極当然なのですが、30歳そこそこの当時の私には、難しい疑問でした。いまとなってはお恥ずかしいのですが…。

「将来の安心」が、「いまの安心」につながる、ことにも気が付きました。人は安心して生きていきたい、安心を求めて生きる動物なのだと思いました。

幸せって何?

そうなると、次の疑問は「安心」って何だろう?です。「安らかな心」と書きます。リラックス状態でしょうか…。常にリラックスしていると、人はどう感じるだろう? ん? これは「幸せに生きる」ということではないか、と思いました。そこでようやく、私なりの結論が出ました。

人は、幸せになるために生きているんだ、幸せを求める動物なんだと。

となれば、次にぶつかるのは「幸せ」って何?という疑問です。

お金があれば幸せか?
健康であれば幸せか?
時間があれば幸せか?
家族がいれば幸せか?

自分らしく生きること

いろいろ “条件” を考えました。けれど、どれも「幸せに感じる人もいれば、そうでない人もいる」わけです。幸せの基準が見つかりません。いや、待てよ。それが幸せではないか、と気が付きました。

人によってちがう、人によって感じ方がちがう、価値観がちがう、捉え方がちがう….。人によって「自分」がちがう――。ということは、「自分」に沿った生き方をしていると、幸せなのではないか。つまり、「自分らしく生きること」。これが幸せではないか、と私なりの結論がようやく出ました。

これが正しいかどうかは別として、その後も私なりに「幸せ」探求を続けていますが、的外れな発想ではなさそうです。

「幸せ」と「経済成長」は両立するのか?

ですから、家計相談は、相談者の価値観、考え方、どう生きたいかを丁寧にヒアリングし、その方に合ったお金の流れ・使い方・金融商品の組み合わせ方等々を考えていくものだと理解しています。生命保険に加入するかどうか、資産運用するかどうか、こうした問いのすべての解は、相談者の心の中にあるのです。

特に、お金の使い方は、性格がよく出ます。ですから、こういう使い方がいいという基準があるわけではなく、その方に合った使い方になっていれば、その方はハッピーなのです。

翻って、「幸せ」と「経済成長」は両立するのか?ですが、私の個人的な解は「ノー」です。もっというと、両立させる必要もありません。

私たちは、幸せに生きたいと本能的に思う動物です。お金は、その道具の一つ。全体のお金の流れを「経済」と捉えるなら、そこに住む人々が「幸せになる」お金の使い方があって、流れができるとすれば、それ相応の「経済」の形があり、必ずしも、その規模が大きくなる(大きくなり続ける)経済成長を大前提とする必要もないのでしょう。

もちろん、結果的に経済成長しても悪いことではありません。ですが、経済成長を第一義として捉える必要はまったくないのだと思います。

小さなハッピーはビッグハッピーにつながる

「いまの経済」は、「経済」が先んじて、私たちの暮らしが左右されるという、まったく逆の構造になっています(経済状況によって私たちの雇用や収入は影響を受け、生活が左右されます)。そうではなく、私たちの暮らしが先にあって、それに合う「経済」や「経済の規模」であれば、経済成長は必ずしも必要ないのだと思います。

そう考えると、合成の誤謬はないのです。小さなハッピーは、ビッグハッピーにつながります。しばし、混沌としたマーブル状態が続きそうですが、「いまの経済」を180度変える可能性を持つ事象と捉え、何とか乗り切りたいと思うばかりです。

執筆者のプロフィール

八ツ井慶子(やつい・けいこ)

生活マネー相談室代表。家計コンサルタント(FP技能士1級)。宅地建物取引士。アロマテラピー検定1級合格者。城西大学経済学部非常勤講師。

埼玉県出身。法政大学経済学部経済学科卒業。個人相談を中心に、講演、執筆、取材などの活動を展開。これまで1,000世帯を超える相談実績をもち、「しあわせ家計」づくりのお手伝いをモットーに活動中。主な著書に、『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』(プレジデント社)、『お金の不安に答える本 女子用』(日本経済新聞出版社)、『家計改善バイブル』(朝日新聞出版)などがある。テレビ「NHKスペシャル」「日曜討論」「あさイチ」「クローズアップ現代+」「新報道2001」「モーニングバード!」「ビートたけしのTVタックル」など出演多数。
▼生活マネー相談室(公式サイト)
▼しあわせ家計をつくるゾウ(ブログ)

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八ツ井慶子(家計コンサルタント)

生活マネー相談室代表。家計コンサルタント(FP技能士1級)。宅地建物取引士。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。アロマテラピー検定1級合格者。城西大学経済学部非常勤講師。個人相談を中心に、講演、執筆、取材などの活動を展開。これまで1,000世帯を超える相談実績をもち、「しあわせ家計」づくりのお手伝いをモットーに活動中。

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