〈キヤノン EOS R3 実写レビュー〉視線入力AFを搭載 高速性能に優れる高画質ミラーレス

レビュー

昨年11月下旬に発売された「キヤノン EOS R3」は、優れた高速性能と高画質を兼ね備えた、35ミリ判フルサイズミラーレスカメラです。従来モデルのEOS R5やEOS R6も高評価を得ている人気モデルですが、本製品はAF機能や連写性能などがさらに進化! プロやハイアマチュア層などに強く訴求する、上位モデルに仕上がっているのです。

執筆者のプロフィール

吉森信哉(よしもり・しんや)

広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。ライフワークは、暮らしの中の花景色、奈良大和路、など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。

「キヤノン EOS R3」の概要と仕様

撮影:吉森信哉

この「キヤノン EOS R3」には、EOSシリーズ初となる新開発のフルサイズ裏面照射積層CMOSセンサーと、映像エンジン「DIGIC X」が搭載されています。それによって、AF/AE追従最高約30コマ/秒の高速連写や、他社製品にはない「視線入力AF」など、圧倒的なパフォーマンスを実現します。

さらに、高輝度表示に対応したEVFとHDR画像処理技術で一眼レフの光学ファインダーのような見えを再現する「OVFビューアシスト」機能を搭載。静止画撮影時に“常用”ISO102400の超高感度の実現。6K/60PのRAW動画内部記録などの優れた動画機能。こういった、プロフェッショナルな撮影現場で威力を発揮する撮影機能や仕様を備えています。

●形式:デジタル一眼ノンレフレックスAF・AEカメラ
●レンズマウント:キヤノンRFマウント
●撮像素子:35mm判フルサイズ 裏面照射積層CMOSセンサー、有効画素数:最大2410万画素
●ISO感度:100~102400 拡張※静止画のみ(50、204800)
●手ブレ補正:ボディー内手ぶれ補正(※光学式手ブレ補正との協調制御に対応)
●記録媒体:CFexpressカード(Type B対応、VPG400対応)、SDメモリーカード(UHS-II対応)
●ファインダー:OLEDカラー電子ビューファインダー、約576万ドット
●シャッタースピード:メカシャッター/電子先幕設定時:1/8000~30秒、バルブ 電子シャッター設定時:1/64000秒、1/32000秒、1/16000秒、1/12800秒、1/10000秒、1/8000~30秒、バルブ
●連続撮影速度:高速連続撮影+:最高約12コマ/秒(メカシャッター、電子先幕)、最高約30コマ/秒(電子シャッター) 高速連続撮影:最高約6.0コマ/秒(メカシャッター)、最高約8.0コマ/秒(電子先幕)、最高約15コマ/秒(電子シャッター) 低速連続撮影:最高約3.0コマ/秒(メカシャッター、電子先幕、電子シャッター)
●AF:デュアルピクセルCMOS AF
●モニター:3.2型(画面比率3:2) バリアングル式 TFT式カラー液晶モニター、約415万ドット
●動画記録サイズ/フレームレート:6K RAW:6000×3164(59.94fpsなど)、4K DCI:4096×2160(119.88fpsなど)、4K UHD:3840×2160(119.88fpsなど)、フルHD:1920×1080(119.88fpsなど)
●使用電池:LP-E19(使用個数:1個)
●寸法:約150.0mm(幅)x142.6mm(高)x87.2mm(厚)
●質量:約1015g(バッテリー、カードを含む) 約822g(本体のみ)
●発売日:2021年11月27日

外観や操作性

このEOS R3には、縦位置グリップ一体型の構造・デザインが採用されています。それによって、大口径レンズや超望遠レンズの使用時でも、安定してカメラを構える事ができます。撮影機能だけでなく、このあたりの仕様も、EOS R5やR6の上位モデルである理由のひとつに挙げられるでしょう。

また、同じ縦位置グリップ一体型構造の一眼レフ(フラッグシップモデル)のEOS-1D X Mark IIIと比べると、かなりコンパクトで軽量な設計になっています。高さは25mm低く、質量は425gも軽いのです(バッテリーとカードを含む)。ですから、縦位置グリップ一体型モデルなのに、EOS R3を手にした瞬間に「これは軽い!!」と感じてしまいました。

ただし、気になる点もありました。軽くて持ちやすいのは良いのですが、グリップ部の外側には膨らみがなくて、そこにあるカードスロットカバー表面のグリップ感が不足ぎみ。そのため、持ち方によっては、右手親指の付け根あたりが滑りやすいのです。

とはいえ、全体的には、縦位置グリップ一体型モデルとしては、かなり軽快で扱いやすいカメラと言えるでしょう。威圧感の少ないトップカバーのラインや、スポーツカーのステアリングを連想させるディンプル加工の革張り部分。こういった部分も、個人的には新鮮で好印象でした。

モードダイヤルは装備せず、撮影モードの選択は、MODEボタンとその外側にあるサブ電子ダイヤル2で行う。また、トップカバーにはスクエア型の表示パネルを装備する。このあたりは、高画素タイプのモデルEOS R5と同じ。

前面と同様、ディンプル加工の革張り部分が印象的な背面。各種の操作ボタンやダイヤルの操作性は良好。ただし、縦位置に構えると、サブ電子ダイヤル1の操作が少し難しくなる(親指が届きにくい)のが残念。

AFの機能・性能と、連写性能

視線入力AF+被写体検出「EOS iTR AF X」

このカメラの最大の特長は、撮影者の視線を検出して、その視線の位置にAFフレーム/AFエリアを移動する「視線入力」機能を搭載している事です(静止画撮影のみの機能)。

視線検出の基本原理は、フィルム一眼レフ時代から採用してきた角膜反射法です。ファインダー内に組み込んだ赤外LEDから赤外光を投射し、反射光を約7560画素の視線検出センサーでキャッチ。それを高速演算して注視点を算出します。応答性に優れ、高速連続撮影中の視線の移動も検出してAFシステムに反映されます。

視線入力を高精度に機能させるには、自分の視線の特性をカメラに登録するキャリブレーションが重要です。ただし、注釈には「サングラスやミラーサングラス、ハードコンタクト、遠近両用メガネを使用した場合や、目の状態の個人差、使用環境などにより、視線入力機能が使用できないことがあります」とあります。ですから、実際の視線入力機能の使い勝手は、使用者や撮影条件によって差が生じるでしょう。

AF方式には、デジタル一眼レフの頃から培ってきた「デュアルピクセルCMOS AF II」(※)が採用されています。これにより、広範囲AFでの高速・高精度AFが可能です。また、EOS R3では、低輝度時の被写体捕捉やサーボAFなど、総合的なAF性能の向上が図られています。

そして、ディープラーニング技術を用いて開発した被写体認識アルゴリズム「EOS iTR AF X」も進化しています。人物に対する検出性能が強化されていて、検出できる被写体に「乗り物」も加わりました(自動車やバイク。また、ドライバーやライダーのヘルメットなどの重要部位の検出も可能)。

実際の動体撮影では「視線入力AFを使用するか? それとも、被写体検出機能に頼るか?」と、迷うかもしれません。まあ、どちらを選んでも良いと思いますが、私は画面内の被写体の数で使い分けました。画面内の被写体が単一の場合は、被写体認識をそのまま使用します。そして、被写体が複数の場合は、被写体認識で検出された複数の枠の中から、狙いたい被写体の枠を視線入力で選んでAF追尾させる…という方法で撮影しました。

※デュアルピクセルCMOS AF:1つの画素が2つのフォトダイオードで構成されていて、全画素での撮像面位相差AFが可能になる。

視線の特性をカメラに登録する作業「キャリブレーション」の設定画面。自分は遠近両用メガネを使用するので、視線入力との相性は良くないはず。だが、撮影状況に応じて何度もキャリブレーションを繰り返す事で、精度を高める事ができた。

超望遠ズームレンズを使用し、水辺で片足立ちするカモのユニークな姿を狙う。対象被写体が単独なので、ここでは被写体検出機能を使用。それによって、目を中心とした頭部にしっかりとピントが合わせられた。
キヤノン EOS R3 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mmで撮影) シャッター優先オート F7.1 1/1000秒 WB:オート ISO2500

被写体検出機能のオンオフや、検出する被写体の選択は、クイック設定から操作できる。

「検出する被写体」を動物優先に設定し、鎖の上に並んで留まるカモメを狙う。ここでは2羽を中心に撮影するが、まずは左(手前)のカモメの検出枠を視線入力で選択。
キヤノン EOS R3 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mmで撮影) シャッター優先オート F8 1/2000秒 WB:オート ISO500

その次は、視線を右に移して、右奥のカモメの検出枠を選択して撮影。
キヤノン EOS R3 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mmで撮影) シャッター優先オート F8 1/2000秒 WB:オート ISO320

AF/AE追従「最高約30コマ/秒」高速連写

自社で新開発した、35mmフルサイズの裏面照射積層CMOSセンサーは、優れた受光効率に加えて、回路領域の拡張で信号読み出しの高速化を達成。それによって、最高約30コマ/秒の高速連写(電子シャッター時)などを実現しています。当然、その速度でのAFとAEの追従も可能です。また、電子シャッター撮影時のローリングシャッター歪みもかなり抑制されているので、高速で移動する乗り物の撮影にも安心して使用できます。

そして、高速連写時の連続撮影可能枚数(連写速度が維持される枚数)も気になる所です。このカメラの記録媒体は、CFexpressカードとSDメモリーカードの2種類ですが、今回はUHS-IIのSDメモリーカードで、実際の撮影可能枚数をチェックしてみました(画質設定はRAW+L)。

結果は125枚。つまり、約30コマ/秒の速度で4秒強の連写が可能でした。これは個人的には“まずまず合格”と思える結果です。しかし、一旦撮り切ってしまうと撮影可能枚数の回復には結構な時間が必要ですし、再生時のコマ送りのレスポンスも若干低下します。ということで、このEOS R3が持つ高速性能をフルに発揮させるには、CFexpressカードを選択する必要があるでしょう。

高速連写で数十枚撮影した中から、連続する4枚の画像を並べてみた(左上、右上、左下、右下、の順番)。

「30コマ/秒」の連写で捉えられた瞬間

船を係留する鎖にカモメが留まる瞬間を「約30コマ/秒」のスピードで連写。動画撮影時のフレーム数に匹敵するこの速さなら、10コマ/秒前後では捉えられない細かい変化が捉えられる。
キヤノン EOS R3 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mmで撮影) シャッター優先オート F8 1/2000秒 WB:オート ISO640

卓越した高感度性能を実現

新開発の裏面照射積層CMOSセンサーの有効画素数は約2410万画素です。これは35mm判フルサイズセンサー機としては無理のない数値で、映像エンジン「DIGIC X」との連携によって、優れた解像感や高感度性能が得られます。

特に注目したいのが、高感度性能です。静止画撮影時における“常用”ISO感度の最高値は102400。これは他社の同クラス製品(2400万画素前後の35mm判フルサイズミラーレスカメラ)と比べると、1段くらい高い高い数値です。そして、その102400で撮影した画像が、予想以上に高品質でした。

これは個人的な見解ですが、多くの35mm判フルサイズのカメラでは、画質より感度を優先する撮影でも25600くらいを上限にする事が多いですね。それが“使い物になる画質”を得るためのマイルールです。ですが、このEOS R3の超高感度の画質なら「いざとなったら、常用の最高値102400までイケそうだな」と思わせてくれました。

高感度性能は“常用感度の最高値”よりも、その感度で“どの程度の画質が得られるか”の方が重要だろう。

現場の明るさ(日没後)、レンズの開放F値、動きを止めるシャッター速度。それらの条件を考えると、超高感度設定が避けられない。ここでは常用感度の最高値102400で撮影したが、見苦しい色ムラやディテールの消失のない、予想以上の高画質を得る事ができた。
キヤノン EOS R3 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mmで撮影) シャッター優先オート F8 1/2000秒 WB:オート ISO102400

高い基本性能で快適度もアップ

風景で威力を発揮する、ピクチャースタイル「オート」

被写体や好みに応じた画作りが簡単に行なえるのが「仕上がり設定」機能です。ただし、これは一般的な呼称であり、キヤノンの場合「ピクチャースタイル」が、その機能に相当します。ピクチャースタイルの種類は、スタンダード、ポートレート、風景、ディテール重視、ニュートラル、忠実設定、モノクロ、ユーザー設定、などです。

そして、撮影シーンに応じて色あいが自動調整される「オート」も搭載されています。オートに設定しておけば、多くの被写体や撮影シーンで満足できる画作りが得られます。特に風景の撮影などでは、オートのままで青空や緑や夕景などが色鮮やかに再現できるでしょう。

このピクチャースタイルのオート、EOS R3独自の機能ではありませんし、新しめの機能でもありません。しかし、こういった基本的な画作り機能の質の高さも、優れたカメラの条件のひとつではないでしょうか。

個人的には、以前の“オート非搭載モデル”では、スタンダードと風景を多用していた。しかし、近年のEOSシリーズ(一眼レフもミラーレスも)では、大半の撮影をオートで行っている。

横浜中華街のシンボル「朝陽門」。その形や色が目を引く立派な門を、青空を背景に撮影する。ピクチャースタイルはオートのままだが、門や青空の色彩が、イメージ通りに再現できた。
キヤノン EOS R3 RF24-105mm F4 L IS USM(35mmで撮影) 絞り優先オート F8 1/250秒 WB:オート ISO100

最大8.0段の強力な手ブレ補正を搭載

手ブレ補正機能に関しては、キヤノンは一眼レフ(フィルムもデジタルも)の頃から、レンズ内光学手ブレ補正を採用していました。ですが、ミラーレスカメラになってからは、ボディー内手ブレ補正機構を採用するモデルも登場しています。

しかも、初めて採用されたEOS R5とEOS R6(R6は1ケ月後に発売)は“レンズ側との協調で世界最高8.0段”という驚異的な性能を実現しています。当然、上位モデルであるEOS R3にも、このボディー内5軸手ブレ補正機構が搭載されています。

その補正効果の高さは、以前にEOS R5とEOS R6を使った際に実感しましたし、今回のEOS R3でも同様の印象を持ちました。たとえば、24-105mm標準ズームレンズでの撮影。広角端や標準域よりもブレやすい望遠端でも、かなりの低速シャッターでも手ブレが防げたのです。

ブレやすい中望遠での低速撮影もクリア!

画質を考慮して感度を低めに設定して、夜景を手持ち撮影。105mmの中望遠域で、シャッター速度は1.6秒。一般的に“その焦点距離で手ブレが防げる限界”とされる値より7段以上低い速度である。だが、手ブレの目立たない良好な結果が得られた。
キヤノン EOS R3 RF24-105mm F4 L IS USM(105mmで撮影) 絞り優先オート F4 1.6秒 -0.3補正 WB:白色蛍光灯 ISO400

撮影現場での安心感が違う!! シャッター幕の開閉機能

ミラーレスカメラで心配になるのが、レンズ交換時の“センサー表面のゴミ付着問題”です。もちろん、多くのミラーレスカメラにはゴミ除去機能が搭載されていますが、その機能も完ぺきではありません。粘着性があって除去できなかったり、小さく軽いために振動させても落ちなかったり…。そういう厄介なゴミ付着もあるのです(いろんなメーカーの製品を使った人なら、分かると思いますが)。

しかし、このEOS R3には、EOS R5とEOS R6と同様、電源オフ時のシャッター幕開閉機能が搭載されています(初期設定は閉じる)。これによって、風の強い場所や、小雨が降っているような条件でも、安心してレンズ交換が行えるのです。この機能があるから最近のEOS Rシリーズを使用する…という人がいてもおかしくない、とても重要な機能だと思います。

電源オフからシャッター幕が閉じるまでは、少しタイムラグがある。最初はその間合いが気になったが、実際のレンズ交換では、ほとんど支障はないだろう。

まとめ

今回、最も多く使用した「EOS R3+RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」。乗り物や動物など“動きモノ”の撮影には、最適の組み合わせ!

進化した視線入力AFや高速性能などが、多くのユーザーを惹き付ける

視線入力AFは、1992年に発売されたフィルム一眼レフ「EOS5 QD」に初搭載され、大きな話題になりました(測距点数は5点)。そして、1995年発売の「EOS55」では、視線入力のレスポンスを約1/2倍に短縮し、縦位置構図での視線入力にも対応しました。このEOS55、実は私も愛用していました。測距点数は3点と寂しいのですが、手動操作なしで測距点が選べるは、予想以上に便利だったのを憶えています。

当然ではありますが、今回のEOS R3に搭載される視線入力AFは、それらとは比べ物にならないほど高度な機能や仕様です。もちろん、被写体や撮影条件、また人によって、自分の意図とは違う結果になる場合もあるでしょう。しかし、ディープラーニングを活用したアルゴリズム「EOS iTR AF X]による被写体検出と、この視線入力AFを組み合わせて使用すれば、他の方法とは一線を画する快適なAF撮影が行えるはずです。

そして、プロフェッショナルな撮影に対応できる高速連写や高感度性能。見た目よりも軽快で操作性に優れる縦位置グリップ一体型ボディ。こういった特長を持つ「キヤノン EOS R3」は、プロだけでなく、多くのカメラユーザーにとって魅力的な存在です。

撮影・文/吉森信哉

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