スマホの普及により、ムービー撮影は非常に身近になったが、そこで問題となるのが「編集作業」だ。自分だけで鑑賞するならともかく、他者にとっては撮って出しの冗長な動画を見せられるのは非常に苦痛だ。人に見せる動画は、必要なシーンを選りすぐりつつ、必要に応じて字幕や演出なども入れて、誰が見ても飽きない内容を目指したい。とはいえ、商用の編集アプリは高価な場合が多いのが悩みどころ。しかし、なかにはWindows10/11の標準アプリ「フォト」のように無料ながらも十分な機能を備えるものもある。今回はこの「フォト」を使って、初心者とはひと味違うワンランク上のムービーを作成するテクニックを解説する。
動画編集アプリの選び方
動画編集には高額なアプリが必須と思うかもしれないが、それはさにあらず。確かに、編集アプリには本格的な機能を搭載した高額な製品もあるが、一方で無料で使えるお手軽なアプリもある。まずは手始めとして、本章では有料・無料の動画編集アプリの違いなどについて紐解いていこう。
作りたい動画によって必要なソフトは変わる
近所のコンビニへ行くのにわざわざスポーツカーに乗り込む必要がないように、簡単なムービーを作る程度でプロユースの編集アプリを使うのはあまり賢いやり方とはいえない。
もちろん、高額な動画編集アプリにはムービー制作に必要な機能はもれなく揃っているが、簡単な動画を作るのに必須な機能は、トリミングやテロップなど、両手で数えるほどしかない。それでも大は小を兼ねるの例に従い、多機能な高額アプリを使っておけば間違いないと思うかもしれないが、それは場合によりけりだろう。
確かに高性能な編集アプリには多彩な機能が揃っているが、当然、そのぶん煩雑な操作を要求される。最終的なゴールがプロ級の動画制作ならそうした苦行を耐え抜く価値もあるだろうが、簡単なムービーを作りたいだけならまったくの無意味だ。シンプルな動画を制作したいだけなら、実は、シンプルな機能的のみ揃えた無料アプリのほうが操作方法や制作手順も圧倒的にマスターしやすく、ビギナーに向いているといえる。
有料アプリのメリット・デメリット
有料の編集アプリのメリットは、なんといってもムービー編集に役立つ機能を豊富に搭載している点に尽きるだろう。タイムライン上で動画や音声の複数トラックを扱えるほか、見栄えのするテロップを挿入したり、人目を引くエフェクト効果をつけたり、さらには映像に色調補正を施したりなど、撮って出しの動画をプロ級の作品へと昇華させるための機能がふんだんに用意されている。
有料ソフトには多彩な製品があるが、なかでも有名なのがアドビの「Premiere Pro」だ。テレビ番組の制作でも採用されているだけあって、プロユースにも余裕で対応する高機能を実現。映像の品質に徹底的にこだわりたいなら、真っ先に検討すべきアプリといえるだろう。
ほかにも有料アプリにはアップルの「Final Cut Pro」や、グラスバレーの「EDIOUS X Pro」もあるが、こちらもテレビや動画配信の現場でも使われている実績を誇り、Premiere Proと比べても遜色ない機能を備えている。
ただし、あまりの多機能性ゆえ、ビギナーにはハードルが高すぎるのも事実だ。よほど覚悟して臨まないと、ムービーが完成する前に途中で挫折してしまう可能性も少なくない。
さらに、ここで紹介した有料の動画編集アプリは決して安価ではない点も留意したい。例えば、アドビのPremiere Proはサブスクリプション制で販売されており、最も安価なプランでも月額2728円の費用が発生する。一方、買い切り制のFinal Cut Proは3万6800円、EDIOUS X Proは6万5780円と気軽に衝動買いできる価格帯とはいい難い。実際に購入して自分に合わなかったと諦めるには、やや高すぎる授業料といえるだろう。
無料アプリのメリット・デメリット
実は、無料の動画編集アプリは思いのほか多数存在する。とはいえ、ここが難しいところなのだが、出自が明らかで信頼性が期待できる商用の有料アプリと違って、無料アプリの場合は様々なメーカーや開発者が提供していることもあって品質面にはバラツキがある。
もちろん、個人の開発者が提供する無料アプリであっても多くのユーザーから支持される素晴らしいものもあるし、有料アプリが無料アプリを必ず上回るというものではない。問題は、ビギナーが有象無象の無料アプリから自分に適した1本を見極めるのは非常に難しいという点だ。
そうした観点から考慮すると、ビギナーが利用する無料の動画アプリは出自の明らかな大手メーカーが提供するものを利用するのがもっとも無難といえる。そうしたアプリの代表格としてはマイクロソフトがWindows10/11の標準アプリのひとつとして提供する「フォト」や、アップルが手掛けたMac OSとiOS向けの無料アプリ「iMove」が挙げられる。
両者ともに機能面は有料アプリより劣るものの、動画のトリミングやシンプルなテロップの挿入程度なら問題なく利用可能。機能面が抑えられているぶん、覚える操作も少なくて済むため、ビギナーでも比較的簡単にマスターできる点もうれしい。さすがにテレビ番組さながらの豪華な映像を作成するのは無理だが、仲間うちで楽しむプライベートな動画作りなら十分事足りる。
Windowsパソコンユーザーなら標準アプリ「フォト」がおすすめ
前章でも触れたが、Windows10/11にはムービー編集が可能な「フォト」アプリがプリインストールされている。「フォト」という紛らわしい名称のため「写真専用」と思っている人も多いだろうが、実際には写真と動画の編集にしっかり両対応している。
10/11の標準アプリ「フォト」は動画編集にも対応
フォトの動画編集機能は非常にシンプルだが、それでも動画のトリミングを始め、テロップやエフェクト効果の挿入、さらには最大フルHD解像度でのムービー書き出しなど、ちょっとした映像クリップを作る程度なら十分すぎるほどの機能が揃っている。
旅行や誕生日、アウトドアなど、スナップ的に撮り溜めた動画から選り抜き動画を編集する程度なら問題なくこなせるし、ゆくゆくは高機能な商用アプリにチャレンジしたい人にとっても絶好の入門用アプリといえるだろう。
「フォト」で動画編集を行う手順
どんなアプリにもいえることだが、もっとも難しいのは「とっかかり」の部分だろう。なぜなら、初めて使うアプリの場合、どこから手を付けたらいいのかどうしても迷ってしまいがちだからだ。
そこで本章では「フォト」を使ったムービー編集を順を追ってわかりやすく解説する。まずはここでの説明を参考にして、短尺でも構わないから1本のムービーを完成させてみよう。いったんムービーを作成できればコツが飲み込めて、次回以降はさらにスムーズに作業をこなせるようになるはずだ。
あとは編集作業を日々繰り返していくうちに、スキルがアップして見栄えのいい映像を作れるようになるはずだ。
(1)新しいビデオプロジェクトを作成する
まずスタートメニューなどから「フォト」を起動。次にメイン画面の上部から「ビデオエディター」の項目をクリックする。
ビデオエディターが開いたら、画面の「新しいビデオプロジェクト」ボタンをクリック。続いて、別枠で開いたウィンドウに作成するムービーの名称を入力し、「OK」ボタンをクリックする。
(2)ムービーで使用する動画や写真を追加する
次に作成するムービーで使用する、動画ファイルや写真ファイルを「プロジェクトライブラリ」に追加しよう。
まずプロジェクトライブラリにある「+追加」ボタンをクリックし、プルダウンメニューから「このPCから」を選択する。
ファイル選択ウィンドウが開いたら、ムービーで使用する動画ファイルや写真ファイルを読み込もう。
ファイルの取り込みが完了すると、プロジェクトライブラリにファイルが追加される。あとは同様の動作でムービーで使用するファイルをすべて取り込んでいこう。
なお、ファイルの取り込みは「ドラッグアンドドロップ」でも行える。登録方法は、エクスプローラーから動画や写真ファイルをドラッグしてプロジェクトライブラリへと持っていき、マウスの左ボタンを放せばOKだ。
(3)写真や動画を「ストーリーボード」に並べる
プロジェクトライブラリに写真や動画ファイルを追加したら、今度は「ストーリーボード」にファイルを並べてみよう。ストーリーボードとは、いわば映像の大まかな順番を決めるためのタイムラインのようなもので、写真や動画はストーリーボードに並べた順に再生されることになる。この時点では細かいことは気にせず写真や動画を再生したい順にストーリーボードへ並べていこう。
ストーリーボードへ動画や写真ファイルを登録するのは、ドラッグアンドドロップで行う。プロジェクトライブラリに登録したファイルを左クリックして、そのままストーリーボードへ持っていって放そう。
これでストーリーボードにファイルが追加される。あとは同様の操作で他の写真や動画も追加していき、大筋のタイムラインを作り上げよう。
(4)動画をトリミングする
ビデオエディターの右上のスペースには、ストーリーボードの内容がプレビューで表示されている。この時点でプレビューを再生してみると、ストーリーボード上の動画や写真はいずれも撮って出しの内容のため、非常に冗長に感じるはずだ。
ムービーの内容を引き締めるためには不要な内容はバッサリとカットし、必要なシーンだけを厳選した「魅せる動画」へと編集する必要がある。従って、ストーリーボードに登録した動画ファイルから必要なシーンをトリミングして抜粋しよう。
まずストーリーボードの動画ファイルをクリックしたうえで、ストーリーボード上部のツールバーから「トリミング」を選択する。
トリミング画面が開いたら、画面下部のシークバーに注目。始点と終点それぞれに青のマーカーがあるが、これをドラッグすることでトリミング範囲を指定できる。
ドラッグ操作で始点と終点を指定したら、画面右下の「完了」ボタンをクリックしよう。これでトリミングは完了だ。あとは同様の操作でほかの動画ファイルのトリミングも処理していこう。
(5)写真の再生時間を設定する
ストーリーボードに登録した写真ファイルは、標準で「3秒」の再生時間が設定されている。これを変更したい場合は、ストーリーボードのツールバーにある「期間」を利用する。
まずストーリーボードから再生時間を変更したい写真ファイルをクリックしたうえで、ツールバーから「期間」を選択する。
「期間」をクリックすると、再生時間変更のためのメニューが表示される。選べる再生時間は「1・2・3・5・7秒」のほか、任意の秒数も設定可能。秒数を選択すると直ちに再生時間がストーリーボードに反映される。
(6)字幕を挿入する
撮影場所や感情など、訴えかけたいメッセージなどがある場合には、やはりテロップを挿入するのが手っ取り早い。フォトのビデオエディターには簡易ながらもテロップ機能が備わっているので、積極的に活用しよう。
テロップを挿入するには、まずストーリーボードからテロップを挿入したい動画ファイルをクリックしたうえで、ツールバーから「テキスト」を選択する。
次に画面右上の「ここにテキストを入力します」と書かれているボックスに、テロップとして挿入する文章を入力。すると、即座にプレビューにテロップが反映される。なお、テキストはいつでも修正できるので、とりあえず仮の内容を入力しておいても構わない。
初期状態のテロップは書体もレイアウトも味気ないが、さらに見栄えよく変更することも可能。画面右端の「スタイル」設定ではおもに書体を、画面右下の「レイアウト」ではテロップの表示位置を指定できる。スタイル&レイアウトともにいくらでもやり直しが効くので、気軽に試してみよう。
テロップのスタイルやレイアウトが決まったら、動画で表示させるタイミングを指定しよう。やり方は「ステップ4」で紹介した動画のトリミング方法を同様で、プレビュー画面下のシークバーで始点と始点をそれぞれマーカーで指定するだけだ。
すべての設定が済んだら画面右下の「完了ボタン」をクリックして、メイン画面に戻ろう。
(7)フィルター効果を追加する
テレビ番組では、古風なシーンにはセピアや白黒、幻想的な場面には淡い色合いといった映像の内容に合わせて色味が変わるという演出をよく目にすることがある。フォトのビデオエディターでも「フィルター」機能を使えば、こうした演出を再現可能だ。
使用方法はまずフィルターを適用したい動画をストーリーボードから選び、ツールバーの「フィルター」をクリックしよう。
フィルター画面が開いたら、画面右のフィルター一覧から好きな効果を選択しよう。フィルターをクリックすると直ちにプレビューに適用されるので、実際の色味を確かめてみるといいだろう。
使用するフィルターが決まったら、画面右下の「完了」ボタンをクリックすれば作成中の動画にフィルターが適用される。
(8)タイトルカードを作成する
ムービーの始まりには、内容を端的に示すタイトルを入れておいたほうが動画を見せる相手にも親切というものだろう。そんなときに便利なのが「タイトルカード」機能で、単色の背景に好きなテキストを表示させることができる。テキスト機能で代用することも可能だが、単色の背景を使えるタイトルカードのほうが見やすさは断然上だ。
動画の冒頭にタイトルカードを挿入したい場合は、まずストーリーボードの先頭にある動画もしくは写真を選択したうえでツールバーの「タイトルカードの追加」をクリック。
初期状態のタイトルカードはブルーバックの単色画像として作成され、表示時間は3秒、テロップはなしの状態となっている。
もちろん、これらの内容はカスタマイズ可能で、まず背景色を変更したい場合はタイトルカードをクリックして選択したうえで、ツールバーの「背景」を選択。背景の設定画面が表示されたら、右端のカラーパレットから好きな色を選択し、最後に画面右下の「完了」ボタンをクリックすればOKだ。
テロップの挿入については、「ステップ6」で解説した字幕の挿入方法とまったく同様。タイトルカードを選択した状態でツールバーの「テキスト」をクリックするとテロップの作成画面が開くので、ここで動画のタイトルを作成しよう。
背景とテロップが完成したら、残すはタイトルカードの表示時間のみだ。タイトルカードを選択した状態でツールバーの「期間」をクリックし、表示する秒数を指定しよう。
(9)BGMを追加する
旅行やパーティー、アウトドアなど、ジャンルはいずれにせよ、ムービーにつきものといえば、思い出を盛り上げるサウンドの存在。フォトのビデオエディターには50曲近くの高品質なBGMがプリセットされており、ムービーで利用可能だ。少々残念なところは使えるBGMはムービー全体で1曲のみという点だが、それでもビデオ作品としての完成度はグッと上がるはずだ。
サウンドの設定方法は、まずメイン画面右上の「BGM」をクリックする。
BGMの選択ウィンドウが開いたら、一覧から好きな楽曲を選ぼう。曲名冒頭の「▷」ボタンからは楽曲の試聴できるほか、ウィンドウ下部のスライダーからムービーで実際に再生する際の音量も調節可能。音量スライダーの上部にある「ビデオを音楽のビートに同期する」の項目をチェックすると、ムービー中で表示する写真を音楽に合わせて切り替えてくれる。
BGMの選択が終わったら、ウィンドウ下部の「完了」ボタンをクリックしてメイン画面に戻ろう。
(10)その他の便利な機能
ここまでで紹介した以外にもビデオエディターには、ほかにも便利な機能が備わっている。例えば、撮影した動画に耳障りな音声が入ってしまっている場合は、ストーリーボード上の動画を右クリックしてメニューから「音量」を選択。すると動画のサムネイルに音量変更が可能なスライダーが表示されるので、ここから音量を調節しよう。
写真や動画の比率によっては上下や左右に黒枠が表示されて邪魔な場合があるが、そんなときに便利なのが比率変更ボタンだ。使用方法は極めて簡単で、黒枠を除去したい動画もしくは写真をストーリーボードから選択したうえでツールバーの比率変更ボタンをクリックする。次にメニューから「黒いバーを削除」を選ぶと、写真や動画から黒枠が除去される。
ほかにも注目したい目玉機能としては、映像に花びらやプラズマ光、などの3D画像を追加できる「3D効果」があるが、あくまで筆者のパソコン環境で試した限りでは、2022年4月現在、残念ながら正常に動作しているとは言い難い状況だ。例えば、3Dアニメが暗く表示されたり、設定した通りに3Dオブジェクトが移動してくれなかったりなど、看過できない不具合がいくつか見受けられる。
ネット上には同様の不具合を訴える書き込みも散見されるので、マイクロソフトには早期の解消を切に望みたいところだ。
(11)動画を出力する
動画の編集作業が完成したら、作成したムービーをさっそく出力してみよう。動画の出力はメイン画面右上の「ビデオの完了」から実行可能。ビデオの完了をクリックするとビデオの画質を選べるメニューが表示されるので、ここから好きな解像度を選択しよう。
選べる画質はフルHD解像度の「高 1080p」、HD解像度の「中 720p」のほか、DVD画質をやや上回る「低 540p」の3種類から選択可能だ。
画質を選択したら「エクスポート」ボタンをクリックしよう。
エクスポートを実行したら、あとはファイルの保存先を指定して「エクスポート」ボタンをクリックする。これでムービーの出力処理が開始し、一定時間が経過するとファイルが出力される。
ムービーが正常に出力されると、完成動画が自動再生される。これで編集作業は終了だ。
なお、ビデオエディターでは、作成したムービーの編集内容は自動保存されるため、ユーザーが手動で保存する必要はない。作成途中や完成後のムービーを再度編集したい場合は、ビデオエディターのトップ画面の「マイプロジェクト」から目的のプロジェクトを開けばOKだ。
また、少々本筋からは離れるが、ムービーを作成する際に取り込んだ写真や動画ファイルは「ピクチャ」フォルダーの「ビデオプロジェクト」内に格納されている。このフォルダー内のファイルを削除してしまうと、ムービーの編集が正常にできなくなるので注意しよう。
まとめ
撮って出しの動画は他人から見れば極めて味気ないものだが、簡単な編集を加えるだけでも見栄えは非常に良くなる。それは分かっていてもコストや手間を考えると、ムービー編集にはなかなか手が出せないという人は少なくないはずだ。
しかし、Windows10/11の「フォト」に内蔵された「ビデオエディター」なら無料で使えるうえ、機能もシンプルで分かりやすいのでビギナーでも気軽にチャレンジできる。スマホに日の目を見ない動画が溜まっている人は多いと思うが、ちょっとした編集と創意工夫を加えるだけでも周囲を惹き付けるムービーに仕立て上げることは十分可能だ。思い出の動画を再発掘しながら、家族や友人たちと共有したひとときを追体験できるビデオを作ってみてはどうだろうか。
◆篠原義夫(フリーライター)
パソコン雑誌や家電情報誌の編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。専門分野はパソコンやスマホ、タブレットなどのデジタル家電が中心で、初心者にも分かりやすい記事をモットーに執筆活動を展開中。