夜の街路樹を撮る
人工光の色味や周囲の光源を生かす。夕暮れ時の自然光も魅力的
ある時季に同じ場所を訪れても、時間帯が変わると風景や被写体の見え方や雰囲気が変わってきます。ですから、自宅近くやよく行く場所で目を引く紅葉を見かけたら、違う時間帯にも訪れてみましょう。特におすすめなのが、夜間の時間帯です。そういう時間帯に訪れると、人工光に照らされる独特な雰囲気の紅葉を見れますし、周囲にある光源などを"光のアクセント"として取り入れることも可能です。
ただし、照明の明るさや周囲の状況によっては、手振れ補正機能を使用しても手ブレが発生することがあります。そういう場合には、ISO感度を高めに設定したり(1600や3200など)、開放F値が明るい単焦点レンズ(F1.4など)を使用する、といった低輝度対策を講じると良いでしょう。
また、完全に暗くなった夜間ではなく、夕暮れの時間帯に撮影すれば、手ブレは起きにくいはずです。しかも、日が暮れる前に撮影すれば、夕暮れ空の明るさや色味を生かした幽玄な雰囲気が得られるのです。ですから、夜間撮影を考えている場合でも、まだ明るさが残る時間帯から撮り始めることをおすすめします。
日中の街路樹

11月中旬の東京郊外にて。時間は15時くらいだが、夕方特有の斜光線によって黄葉の右半分が日陰状態になっている。背景の青空も美しくて、なかなか見映えの良い街路樹である。
富士フイルム X-S10 XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS(18mmで撮影) 絞り優先オート F8 1/140秒 WB:オート ISO160
夜間の街路樹

時間を夜間にずらし、同じ街路樹を同じポイントから撮影。周囲には高い建造物がなくて、景の大半は暗闇で占められている。この状況下で、複数の照明に照らされる街路樹が浮かび上がって見えた。光源の違いにより、左側は緑っぽくて右側は黄色っぽい。そんな色調の変化も興味深い。
富士フイルム X-S10 XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS(18mmで撮影) 絞り優先オート F5.6 1/1.4秒 WB:オート ISO800
街灯の光と存在が、夜の街路樹を演出する

街路樹の先(背景)に明るい街灯があり、の葉が逆光で透ける状態になる。もちろん、日中の逆光ほど輝く訳ではないが、夜間の暗い背景の中に葉の色彩や形が浮かび上がる。また、街灯自体も取り入れると、夜の雰囲気を演出できる。
オリンパス OM-D E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ(14mmで撮影) 絞り優先オート F4 1/5秒 WB:オート ISO1600
夕暮れ空と街灯に照らされる木の組み合わせが魅力的

≪街中の街路樹を撮る≫のパートで掲載した、東京郊外の大通り沿いのイチョウ並木。日没後の暗くなり始めた夕暮れ空の中に、シルエット状の並木が浮かび上がる。ただし、メイン被写体に選んだ木は、近くの街灯に照らされている(部分的に)。その部分と空の色彩も目を引く。
ニコン D500 AF-P DX NIKKOR 10-20mm f/4.5-5.6G VR(14mmで撮影) 絞り優先オート F8 1/15秒 -0.7補正 WB:晴天 ISO800
公園の設備と紅葉を撮る
人物の扱いに注意して遊具も取り入れる
街中や住宅地ある平凡な公園でも、秋が深まると美しい紅葉・黄葉を見ることができます。そういう場所でも、紅葉撮影を楽しみましょう。
「たしかに紅葉はキレイだけど、特に目を引く木や並木じゃない。それに公園としても平凡だし……」
そんなテンションが上がらない"イマイチな紅葉"でも、公園の設備をうまく取り入れて撮影すれば、味わいのある紅葉写真に仕上げることができます。ブランコ、滑り台、ジャングルジム、シーソーなど。これらの公園遊具をさり気なく写し込むと、見ていて心が落ち着くような紅葉写真になりますよ。
ただし、子供たちが遊んでいる遊具に無造作にカメラを向けるのは、このご時世いろいろ難しいでしょう。ですから、そういった様子を写し込む場合には、撮影距離やカメラアングルに注意しながら、個人を特定しにくい大きさやタイミングで写るように、注意する必要があります。もちろん、無人の遊具ならばそんな心配はありませんが。
公園内の鮮烈な紅葉を、離れた遊具と人々も入れて撮影

住宅街の一角にある公園内の、真っ赤に色づいたドウダンツツジの植え込み。その鮮烈な紅葉に接近し、標準ズームの広角域で大胆に切り取る。広場の端にある遊具と人々の姿を画面上部に小さく写し込むことで、公園内の様子や雰囲気が伝えられる。
オリンパス OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ(14mmで撮影) 絞り優先オート F11 1/13秒 -0.3補正 WB:オート ISO800
大きな樹木や太陽をアクセントに、交通遊園内の黄葉を写す

東京郊外の交通遊園にて。多くの落葉樹は葉が落ちていたり枯れていたが、数本あるイチョウの黄葉はまだ見応えがあった。その様子を、広角の画角で“公園風景”として写したい。大きなケヤキの木を画面の中心に据えて、イチョウの葉の間から見える太陽もアクセントとして取り入れた。
オリンパス PEN E-PL7 LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.(11mmで撮影) 絞り優先オート F8 1/320秒 -0.3補正 WB:晴天 ISO200
公園遊具と自然の色の取り合わせが鮮烈な印象を与える

団地内の小さな公園で、一本のイチョウの木を見つけた。その木をメインに……ではなく、すぐ近くにある遊具をメインに据えて撮ってみた。滑り台部分とイチョウの黄色。階段部分の赤色。そして空の青色。その三色の取り合わせが、強い印象を与えてくれる。
オリンパス PEN E-PL7 LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.(11mmで撮影) 絞り優先オート F11 1/200秒 WB:オート ISO200

小さな公園の小規模な紅葉・黄葉でも、切り取り方によってはダイナミックに見せられる。広角ズームレンズは、そんな撮影に有効なアイテムである(写真はLEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.)
まとめ
気軽に見られる身の回りの紅葉で、自分の視点や価値観を確かめたい
日本の四季風景の中でも"紅葉"は、春の桜に並ぶ人気の高い被写体です。それだけに、紅葉シーズンを迎える前から「今秋はどこの紅葉を撮りに行こうか?」と、期待に胸を膨らませて旅行計画を練る人も多いでしょう。そんな撮影旅行で得られる楽しさ・充実感は格別ですよね。
ですが、日常的に目にする"身の回りの紅葉"にも注目したいものです。いつでも気軽に見に行ける近所の紅葉なら、色づき具合の変化の把握や、天気や時間帯を選んだ撮影も容易です。また、紅葉の名所とは違う"自分なりの視点や価値観"でじっくり撮影できる……といった点も、身の回りの紅葉の魅力的なところです。

自宅近くの小さな神社(稲荷神社)。普段はあまり立ち寄らない場所だが、境内のイチョウが色づく頃には、頻繁に訪れるようにしている。日陰になった本殿の中に、石灯籠と狐像と紅葉の枝が浮かび上がる。また、本殿の先に見える日向のイチョウも趣(おもむき)がある。
ソニー α7 III Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS(70mmで撮影) 絞り優先オート F4 1/80秒 -0.7補正 WB:晴天 ISO125
撮影・文/吉森信哉