【咳が止まらない時の対処法】痰も出る長引く咳 原因は「鼻の炎症」の可能性も

美容・ヘルスケア

無意識によく咳払いをする。しょっちゅう喉に痰がからむ。風邪が治っても、咳だけが長引く。寝ようとして横になると、咳が出て止まらないーー。こんな症状に心当たりはないだろうか。実は「喉(のど)」の症状は「鼻」が原因のことが多い、と呼吸器内科専門医の杉原徳彦医師は指摘する。鼻から肺までの「気道」を一貫して診る治療法を取り入れ、高い診療実績を上げている同医師に、長引く咳の原因と治療法、セルフケアについて解説してもらった。

解説者のプロフィール

杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)

医療法人社団仁友会仁友クリニック院長。医学博士。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員。著書に『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)などがある。
▼研究論文と専門分野(NII学術情報ナビゲータ)

こんな症状に心当たりはありませんか?

あなた自身が、またはあなたの周りに、以下のような症状に悩んでいる人はいないでしょうか。

  • よく咳払いをする
  • しょっちゅう喉に痰がからむ
  • 急に強く咳き込んでしまうことが頻繁にある
  • 胸、喉に圧迫感がある
  • 風邪を引いたあと、咳だけが長く続く
  • 風邪の症状がないのに、咳だけが出る
  • 寝ようとして横になると、咳が出て止まらない
  • 長くしゃべると、咳が止まらなくなる
  • 外に出たとき、または建物の中に入ったときなどに咳が出る

加えて、こんな症状もありませんか?

  • 口が臭いと感じる(口が臭いと言われる)
  • 唇がいつも乾いている
  • ゲップが出て、お腹が張っている感じがする
  • 朝起きたときに、喉が乾燥している
  • 無意識に鼻をすすっている
  • 麺類(汁物)や酢の物を食べるときに、むせることがある
  • イビキがうるさいと言われる
  • 鼻づまりを感じることがある
  • 年に何回も風邪をひく(熱を出す)
  • 突然、喉や鼻が痒くなることがある
  • クシャミをくり返すことがある
  • 目ヤニ、涙目、眼の充血や痒みがある
  • 扁桃炎をよく起こす
  • 耳がつまった感じになることが多い

このような症状を、改善する方法があります。
それは、「鼻の炎症」を治すことです。

鼻に炎症があると、気管支に向かって、炎症性の物質が流れていきます。
すると、炎症が広がり気道が敏感になることで、咳が出やすくなります。

そして、それを放置していると、刺激によって気道の壁がどんどん分厚くなり、
やがて、呼吸困難、気管支喘息やCOPD、誤嚥性肺炎といった、さまざまな病気につながることがあります。

今まで、咳の治療をしてもなかなか治らなかった、という方もいらっしゃるでしょう。

それは、「鼻より下の部分(下気道)」だけを治療していたから。
鼻に炎症があると、いくらほかの部分を治療しても、咳は再発してしまうことがあります。

でも、正しい治療をすれば、大丈夫です。
症状は少しずつ改善し、呼吸もラクになります。
鼻の炎症を治すと、こんな症状が改善するケースがあります。

  • しつこい咳
  • 息苦しさ
  • 痰がらみ
  • イビキ
  • 免疫力の低下
  • 口臭
  • 集中力の低下
  • 慢性疲労

ここで紹介している治療法とセルフケアは、私が今まで毎月2千人近くの喘息の患者さんを診て、毎月約100人の鼻の検査を行った経験から得たものです。

咳は、対策を始めるのが早いほど、治りも早くなります。
できるだけ早く鼻の炎症を治して、健康的な生活を手に入れてください。

なぜ、鼻の炎症を治すと「つらい咳」がなくなるのか

私の病院には、長引くつらい咳で悩まれる患者さんが、たくさん来院します。

そんな患者さんに鼻の検査をしてみると、じつは「鼻のトラブル」を抱えていることが少なくありません。そして、このような患者さんに鼻の治療をすると、長引く咳がよくなったという声が聞かれるようになったのです。

さらに、長引く咳が改善しただけではなく、体のほかの不調もなくなったという声を、たくさんいただくようになりました。

なぜ、「鼻」の治療をすると、こんなことが起きるのか。
それは、鼻の治療をすることで「気道」全体が整うからです。

つまり、鼻の疾患を治すことで気道が整い、きれいな空気がたっぷり肺に入ることで、体のさまざまな不調が改善するのです。

気道とは、簡単にいうと、鼻や口から肺までの空気の通り道のこと。
入ってきた空気を潤し、ゴミやばい菌が体に入るのを防ぎます。
ところが、鼻に疾患があると、この気道の働きが弱くなってしまうのです。

詳しくは著書の中でお伝えしていますが、鼻の疾患を放っておくと、痰がからむような「長引く咳」の症状があらわれるほか、「気管支ぜんそく」「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」や「誤嚥性肺炎」といった大きな病気にもつながることがあります。

また、鼻に疾患があると口呼吸にもなりやすく、口呼吸になると息苦しさを感じるため、「寝ても疲れがとれない」「集中できない」など、日常生活にも支障をきたしてしまいます。

鼻から下だけ治療しても「つらい咳」は治らない

私たちは、鼻に不調があれば「耳鼻科」、肺や呼吸に不調があれば「呼吸器内科」に行きます。
現在の日本の医療では、気道を声帯から上の「上気道」と、そこから下の「下気道」とに大きく分け、前者は「耳鼻咽喉科」、後者は「呼吸器内科」の領域と区分けされがちです。

しかし、長引く咳の症状は、一部分のみを治療しても、症状が思うように改善しないことが少なくありません。
治療をして、いったん症状はおさまったとしても再発し、また病院へ行くか、「いつものことだから」とあきらめて、やがて病院へも行かなくなってしまうのです。

また、鼻の疾患は本人がその症状に気づかないことが多いうえに、鼻の症状で日常生活に支障をきたしていなければ、耳鼻咽喉科に行くこともなく、気づきづらくなってしまいます。

専門家の間では、近年、口や鼻から肺にかけての空気の通り道である「気道」を、1本の「道」としてとらえ、「その中で起こる疾患は、互いに影響し合っている」という考え方が主流になっています。

2001年には、世界各国のアレルギー研究者によって「One airway, one disease」(※)という概念も提唱されました。

参考「One airway,one diseaseからみた喘息と鼻副鼻腔炎:耳鼻咽喉科からのアプローチ(日内会誌105:1935~1941,2016)

これは、「1本の気道(One airway)に、1つの疾患(One disease)」という考え方です。
つまり、長引く咳症状の出る喘息の治療において、鼻の疾患の有無も疑い、見つかれば、その治療も行う「気道を一括して診る」治療法が、専門家の間では一般的になりつつあるのです。

患者さんの「ある物」から鼻の治療が始まった

私は、ある体験をしてから、長引く咳は「鼻」に原因があるのではないかと、強く意識するようになりました。
それは、気管支喘息で痰がらみに悩んでいる、ある患者さんを診たときの話です。

その患者さんは、痰で窒息しそうになって以来、とても神経質になり、ちょっとした痰でも気になって病院に駆け込んでいたといいます。
もともと気管支喘息をもたれていたので、通院していた病院で検査をしてみたものの、以前よりも悪化している様子は見当たりません。

そこで、当院を紹介され受診されることになったのですが、あるとき、その日の朝に出た痰を持っていらっしゃいました。
ところが、私の目にはそれは「鼻水」にしか見えませんでした。

そこで、アレルギー性鼻炎を治す点鼻薬を使ってもらうことにしました。
すると、驚いたことに、あれだけ患者さんを悩ませていた痰が、解消されたのです。

じつは、患者さんが「痰」と思い込んでいたものは、「鼻水」だったのです。

私も幼いころ小児喘息があり、調子が悪いときに点鼻薬を使っていると一番調子がよかったことを、そのとき思い出しました。

この患者さんの件以来、鼻の疾患とぜんそくの関係をさらに深く考えるようになり、ぜんそくの症状を訴えて来院される患者さんに対して、鼻の疾患を併発していないかを必ず診るようになりました。
そして、鼻の疾患を治療することによって、症状が数日でおさまったり、数週間でよくなったりというケースを、これまで数多く見てきました。

また、通常のぜんそくの治療とあわせて、鼻の治療も行うことで、長引く咳症状が出る「喘息」そのものも、格段に早く治せることも実感しています。

この記事は、長引く咳の症状に長年悩んできた人、長年治療しているが改善がみられなかった人のためのものです。
毎月2千人近くの患者さんを診ている経験をもとに、長引くつらい咳を引き起こす鼻の疾患の治療法からセルフケアを中心に紹介しています。

咳は、治療を始める時期が早ければ早いほど、治りも早くなります。
1人でも多くの人に本書が届き、不調から解放されることで、幸せな人生の一歩を踏み出していただけることを願っています。

※この記事は書籍『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

その咳、「鼻」が原因かもしれません

私は東京で「呼吸器内科・アレルギー科・一般内科」のクリニックを開いていますが、2週間以上たってもおさまらなかったり、場合によっては数年間も続いていたりといった、長引くつらい咳で悩まれている患者さんが、近年、非常に増えています。

咳の症状は、続いている期間で

(1)3週間未満の急性咳嗽
(2)3週間以上8週間未満の遷延性咳嗽
(3)8週間以上の慢性咳嗽

の3つに分けられ、そのうちの(2)と(3)が、「長引く咳」に分類されます。
ですが、「長引く咳」といっても原因はさまざまです。

風邪などウイルス感染症からの長引く咳もあれば、肺炎、急性気管支炎、マイコプラズマ肺炎、百日咳、結核などによる咳もあります。
さらに、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、肺がんなど呼吸器疾患による咳、そのほか、心不全、逆流性食道炎など、呼吸器疾患以外の原因によって発生する咳もあります。

そして、原因となっている疾患は、X線検査(レントゲン)やCT検査(コンピューター断層撮影)などの、さまざまな検査で見つけることができます。

2週間治療しても治らない咳が急増!

一方、さまざまな検査を受けてもとくに問題が見つからず、3週間以上続く場合は、「咳喘息」の可能性が考えられます。
「咳喘息」は、現在欧米では「気管支喘息」のもっとも軽症なもの、といわれています。

気管支喘息は、気管支に慢性的な炎症が起こることで、その粘膜が腫れ上がります。
そのぶん、空気の通り道である気道が狭くなり、かつ炎症部分から分泌される痰によってさらに気道が狭くなる病気です。

気管支喘息の典型的な症状としては、
・夜間や早朝に咳が止まらない
・痰がしょっちゅうからむ
・息苦しい
・ゼーゼー、ヒューヒューという音がする
などがあります。

一方、咳喘息は、気管支喘息と同じように気管支に慢性的な炎症はあるものの、気管支がそこまで強く狭くなっていない状態です。
気管支喘息にみられる息苦しさや喘鳴、痰のしつこいからみなどはなく、空咳だけが見られるのが特徴です。

症状が軽いとはいえ、そのまま放置すると、約3割が気管支喘息になっていくといわれています。
気管支拡張剤とステロイドが混ざった吸入薬を使う治療で、早ければ数日、遅くても2週間で、咳の症状はかなりよくなります。

ところが、なかには2週間以上、吸入薬を使ってもまったく症状がよくならないケースがあります。
この場合、原因は、「咳喘息」ではありません。

原因として考えられるのが、「鼻の炎症」なのです。

何らかの疾患により、鼻の内部で炎症が起こり、それが原因で咳が止まらなくなってしまっている可能性があるのです。

そういわれても、ピンとこない人も多いでしょう。
しかし、これ実は決して、珍しいことではありません。
私の患者さんたちを見ていても、鼻の不調により咳が治らないケースは、かなりの数に上っているのです。

なぜ、鼻の炎症が咳を長引かせるのか

咳が起こるメカニズムについて

では、なぜ咳の症状が、鼻の疾患によって数週間、数カ月、下手すると数年も続くのでしょうか。
そのメカニズムを解説していきましょう。

咳が起こるメカニズムはいくつかあります。

1つが、「くしゃみ」と同じメカニズムで起こるもので、鼻が何らかの刺激を受け、異物への反射として起こる咳です。

鼻や喉には、自律神経のうちの副交感神経に属する迷走神経が走っています。
鼻に、ホコリや花粉、冷たい空気などの「異物」が入ると、この迷走神経が刺激され、それらの異物を体の外に出すために、咳やくしゃみをするわけです。

たとえば、電車に乗った瞬間や、スーパーの冷凍食品売り場に近づいた瞬間、非常に匂いが強い場所に入った瞬間、エアコンの風に当たった瞬間などに、突然咳が止まらなくなった経験は、みなさんもあると思います。
ちなみに、このような咳は、痰をともなわない「乾いた咳」になります。

また、気管内にある痰などの異物を、体の外に出すときに起こる咳もあります。
たとえば、喉に痰がからむため、何度も咳払いをしてしまうときなどです。
この場合は、痰などの分泌物を含むため、「湿った咳」になります。

そのほか、咳喘息のような、気管支粘膜に炎症が起きていることで刺激に対して敏感になり、咳が発生する咳もあります。
こちらも、くしゃみと同じメカニズムで、迷走神経(この場合は気管支に走っているもの)の反射によるものですが、咳の起きている場所が「鼻」ではなく、「気管支」という違いがあります(この場合も、基本的には痰はありません)。

「鼻」が原因の咳の症状

鼻に何らかの疾患がある場合は、鼻の中(鼻腔)に炎症が生じたり、その粘膜が腫れ上がり、空気の通り道が狭くなったりといったことが起こります。
そのため、体に入ってきた異物に対して敏感になり、先ほどのくしゃみと同じメカニズムの咳(乾いた咳)が出やすくなります。

私たちの体は、健康な状態でも、つねに鼻水の一部は喉へと流れ込み、鼻や喉を保護しています。
しかし、鼻に炎症があると、分泌される鼻水の量が増えたり、その粘りが強すぎたりします。
それが喉に垂れてくることで、痰がからんでいるような感覚になります。

この症状を「後鼻漏」といい、これを取り除こうと、咳払いを頻繁にくり返します。
これはいわゆる「湿った咳」になります。
痰がからむ咳は、気管支や肺など喉から下の部分に問題があり、それが原因だと思いがちですが、じつは鼻水が喉に垂れてきていることも多いのです。

さらに、鼻の疾患をそのままにしていると、炎症が気管支にまで広がります。
そうなると、今度は気管支で起こるくしゃみタイプの咳が起こりやすくなります。
そして、こうした鼻の炎症が原因で起こる咳は、そのもとの鼻の疾患を治さなければ、症状はなかなかよくなりません。

逆に、鼻に疾患があることを突き止め、そこを治療していくことで、鼻が原因の咳を鎮めていくことができるのです。

つらい咳につながる「鼻の炎症」の正体

長引くつらい咳の原因となる鼻の疾患の代表的なものとしては、

(1)アレルギー性鼻炎
(2)慢性副鼻腔炎

の2つがあります。
こうしたアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎をもっているかどうかは、検査によって確かめることができます。

アレルギー性鼻炎の場合は、アレルギー検査によって、その原因物質を特定できます。
副鼻腔炎の場合は、CTやMRI(磁気共鳴画像)を撮影して、画像検査で副鼻腔に膿が溜っていないかを見ていきます。

原因のわからない咳が3週間以上続く場合は、こうした検査によって鼻の疾患の有無を確かめてみるといいでしょう。

「アレルギー性鼻炎」の特徴

「アレルギー性鼻炎」は、その名のとおり、鼻の中でアレルギー反応が起こることで生じる疾患です。アレルギー反応とは、私たちの免疫機能が過剰に反応することです。

免疫機能が正常に機能している場合、外敵が鼻に入ると、「くしゃみ」で体外に追い出したり、「鼻水」で洗い流したり、鼻の粘膜を腫れさせたりすることで「鼻づまり」を起こし、これ以上の侵入を防ぐなどして、体を守ります。

アレルギー反応が起こるとこれらが過剰になり、くしゃみが止まらない、鼻水が出続ける、鼻づまりで鼻呼吸が十分にできないといったことが起きてしまいます。

そして、くしゃみも鼻水も鼻づまりも、咳の原因になります。
アレルギー性鼻炎でも、アレルギー反応が起きていると、こうした症状が続きます。
その結果、長引く咳が生じてしまうのです。実際、花粉症の時期になると、咳の症状を訴えて病院を訪れる患者さんは多くなります。

ちなみに、アレルギー性鼻炎は、アレルギー反応の原因物質によって、
・季節性のもの(花粉症など、特定の時期だけ起こるタイプ)
・通年性のもの(1年中アレルギー反応が起こっているタイプ。ハウスダストなどが代表的な原因物質)に分類されます。

症状としては、季節性のもののほうが、ひどくなりやすくなります。
通年性のものは症状が比較的穏やかなので、自分がアレルギー性鼻炎をもっていると気づいていない人も多いようです。

「慢性副鼻腔炎」の特徴

一方、長引く咳のもう1つの原因に、「慢性副鼻腔炎」があります。

これは、ウイルスや細菌などの侵入で副鼻腔に炎症が起こる感染症の疾患です。
急性のものと、慢性化したものとがあります。

副鼻腔とは、鼻腔の周囲の骨の内部に、左右それぞれ4つずつ、合計8つある「空洞」のことです。それぞれ上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞、前頭洞という名前がついています。

副鼻腔炎になると、炎症によって副鼻腔の粘膜が腫れるほか、炎症によって生じた膿や鼻水などがこれらの空洞の中に溜ることがあります。
慢性化していると、炎症が続いているため、副鼻腔内に膿がずっと溜っているケースが多く、「蓄膿症」とも呼ばれます。

症状としては、急性のものであれ、慢性のものであれ、鼻水や鼻づまり、頭痛や頭重感などがあります。
また、慢性化すると、粘性の強いネバネバした鼻水がのどに垂れるのを感じる「後鼻漏」が生じます。

ただ、副鼻腔炎も慢性のものは症状が軽く、気づいていない場合も多くあります。
後鼻漏を感じる慢性副鼻腔炎は、非常に軽傷であることが多いため、気づきにくいのです。
慢性副鼻腔炎の場合、後鼻漏が頻繁に起こり、鼻の粘膜も腫れるため、咳が長引いてしまうわけです。

「アレルギー性鼻炎」と「慢性副鼻腔炎」の混合型

なお、患者さんの中には、アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎の両方にかかっているケースが少なくありません。
あるデータによると、副鼻腔炎の患者さんの3割くらいがアレルギー性鼻炎を合併しているとのことですが、診察していると、その割合よりも多い印象を受けます。

そして、アレルギー性鼻炎をもっていると、副鼻腔炎もなりやすくなります。
アレルギー性鼻炎では、アレルギー反応を起こす「鼻腔」は、狭い穴(自然口)で副鼻腔とつながっています。
そのため、アレルギー性鼻炎で鼻腔が炎症を起こすと、粘膜が腫れて自然口が狭くなります。また、ポリープ(鼻茸)によっても、ふさがれる場合もあります。

その結果、副鼻腔内部の換気が悪くなり、ウイルスや細菌等が繁殖しやすくなり、副鼻腔炎になりやすくなるのです。

また、鼻腔と副鼻腔はつながっているゆえに、場合によってはアレルギーの原因物質が自然口を通じて副鼻腔にも入り、そこでアレルギー反応を起こすこともあります。
この場合も、副鼻腔内部で炎症が起こり、膿が溜りやすくなります。

そして、アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎の両方をもっている場合、それが原因の長引く咳を解消していくには、両方の治療が必要になるのです。

鼻は気づかないうちに悪くなっている

じつは、 鼻が原因の長引く咳は、患者さん本人は、自分がアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎をもっていることに、気づいていないケースが少なくありません。

咳は出ているものの、鼻水や鼻づまりなどをそれほど感じることはなく、日常生活において「鼻」で困っていない人が多いのです。
とくに、通年性のアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎は、子どものころに発症しているケースが多くあります。

幼いころは鼻の穴が小さいこともあって、鼻水や鼻づまりなどの不調をしばしば感じやすくなります。
しかし、大人になるにつれて鼻の穴も大きくなり、炎症が残っていても感じづらくなりがちです。
また、多少の不調があっても、ずっと続いていれば、その状態が当たり前に感じてしまいます。
そのため、たとえ鼻の疾患があったとしても、自分では気づきにくいのです。

鼻の炎症を放っておくと「喘息」になる

そして、本人が日常生活でとくに困っていない場合、何かのきっかけで医療機関に行っても、「軽い鼻炎をもっていますね」くらいで終わってしまい、治療に至らないケースもあります。

しかし、呼吸器内科が専門の私からすると、どんなに軽いアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎であっても、「治療をしたほうがいい」と考えています。

なぜなら、そのままでは長引く咳はまったくよくならず、それどころか、放置し続けることで咳喘息や気管支喘息、さらには、ほかの疾患につながっていきかねないからです。

このことは、近年、さまざまな研究データによっても明らかになっています。
たとえば、気管支喘息を発症している患者さんで、アレルギー性鼻炎を合併している割合は6〜7割といわれています。

また、気管支喘息の患者さんの慢性副鼻腔炎の合併率は、だいたい4〜6割とされています。
こうしたデータから、鼻の疾患と気管支喘息の合併率は、100%に近いと思います。

実際、当院に通院されている、咳喘息や気管支喘息の患者さんの話を聞いても、過去にアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎と診断されたことがある人が、結構いらっしゃいます。

鼻の炎症はこうして咳を引き起こす

では、なぜ鼻が悪いと、咳喘息や気管支喘息になるのでしょうか。
そのメカニズムは、じつはとてもシンプルです。

冒頭でお話ししたとおり、鼻からのど、気管支、肺にかけては、1本の「気道」としてつながっています。

気道とは、簡単にいえば「空気の通り道」です。
鼻の穴から入った空気はこの気道を通って鼻腔から咽喉頭、気管支を経て肺へと入っていく道なのです。

そして、ひと続きでつながっているのですから、当然、鼻に生じている炎症性の物質が、鼻から喉、喉から気管支へと流れ、気管支に影響を及ぼす可能性が高くなります。
アレルギー性鼻炎も慢性副鼻腔炎も、鼻の中で炎症が起きている状態です。
そのため、そこにはたくさんの炎症性の物質があります。そうした物質を含んだ鼻水などが下の気道へと流れていくのです。

炎症を引き起こす鼻水は気道に流れる

過去に面白い動物実験がありました。
ラットの鼻に、サラサラの生理食塩水と、ねばねばした物質のものとを流し込み、それらがどう流れていくのかを見る実験です。

すると、サラサラの生理食塩水は食道に、ネバついた物資は気道に入る、という結果になりました。
これと同じことは、人間の体でも起こっていると考えられます。

つまり、サラサラの健康な鼻水は食道へ、一方の炎症性の物質を含むネバネバした鼻水は気道へと流れていきやすくなるのです。
なお、これは嚥下機能が低下した方にみられる、「水を飲み込むとむせ、ゼリーではむせない」というメカニズムとは異なります。炎症性のネバネバしたものが気道に流れるのは、嚥下機能が正常に働いたうえで、自然に起こっていることなのです。

そして、喉や気管支に流れ込んだ炎症性の物質は、その後、その場所でもジワジワと炎症を起こしていきます。

気道を「川」にたとえると、川の上流で有毒物質が流されても、中流、下流となるに従い水量も増えていくので、その毒が薄まっていきます。
同じように、鼻を上流、気管支を下流とすれば、鼻で生じた炎症性の物質も、より管の面積が広くなるのどや気管支などに至ると、その濃さが薄められていきます。

ところが、「川」の上流にあたる鼻に、アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎をもっていると、頻繁にそうした鼻水が、下流である喉や気管支に流れ込んでくるため、その部分では、くり返し炎症が起こることになります。
その結果、ジワジワと炎症が悪化し、咳喘息や気管支喘息への発症につながるのです。

当院の患者さんを見ていても、鼻の疾患を放置し続けたことによって、数年、十数年、何十年とかけて気管支ぜんそくへと進行させてしまった人が少なくありません。

ジワジワと気管支の炎症が強くなるため、年齢を経るほど、咳喘息や気管支喘息のリスクが高まっていきます。
そのほかにも、鼻で生じた炎症性の物質が、鼻の粘膜を通じて血液などに吸収され、それが血流に乗って気管支などに影響を与えることもあります。

また、鼻の疾患によって、つねに鼻づまり状態となると、口呼吸がメインになります。
口呼吸の場合、鼻がもつ空気の加湿や加温、浄化の機能がないため、直接、空気が喉や気管支に入ることになります。

そのため、ウイルスや細菌、アレルギーの原因物質が入り込みやすく、炎症を生じやすくなり、咳喘息や気管支喘息につながることもあります。

このように、長引く咳が続くのは、鼻の疾患を見つけるシグナルともいえます。
いつまでも咳の症状がおさまらない場合、鼻の疾患の有無を確かめてみることをおすすめします。

喘息だけじゃない!鼻の炎症がもたらすさまざまな病気

咳喘息や気管支喘息の治療の一環として、鼻の炎症の治療も行うようになってから、強く意識するようになったことがあります。

慢性副鼻腔炎は、放っておくと「万病のもと」になる、ということです。

「風邪は万病のもと」という言葉がありますが、私からすると、「副鼻腔炎」のほうが、はるかにその可能性が高いと思います。
アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎の合併率が約3割ということから考えると、アレルギー性鼻炎でも同じことがいえるでしょう。

放っておくと命にかかわる「睡眠時無呼吸症候群」

副鼻腔炎をもつ人が発症しやすい病気の中で、とくに注意が必要なのが、「睡眠時無呼吸症候群」です。

この病気は、睡眠中に無呼吸やイビキをくり返し、著しく睡眠の質が低下する睡眠障害の1つです。睡眠が浅くなるため、朝起きたときに頭痛や気だるさを感じたり、日中に強い眠気を感じたりします。

こうした症状だけでもつらいのですが、睡眠中にしばしば酸欠状態になっているので、体や脳へも大きなストレスがかかります。
そのため、高血圧や糖尿病などの原因にもなりかねず、さらに不整脈や心不全、心筋症などの心疾患や、脳卒中などの脳疾患の危険性が高まることが明らかになっています。

つまり、睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、命にかかわる病気になるリスクがあるのです。
逆に、治療をすることで突然死のリスクを減らせることも、さまざまな研究により明らかになっています。
実際、かつては、睡眠時無呼吸症候群は呼吸器科、耳鼻咽喉科が検査・治療を行っていましたが、近年は循環器科が検査・治療を行うことが多くなってきています。

発症原因としては、肥満が広く知られており、睡眠時の「口呼吸」がイビキや無呼吸を引き起こしやすくなることが近年、指摘されています。

しかし、東洋人は欧米人よりも顎の骨格が小さいため、太っていなくても口呼吸になる人が多いといわれています。

鼻の疾患をもっていると、鼻が詰まっているなどの理由で、口呼吸になりがちです。
つまり、鼻の疾患をもっていることも、睡眠時無呼吸症候群を発症するリスクをぐっと高めるのです。

「副鼻腔炎」をもつ喫煙者はCOPDになりやすい

また、副鼻腔炎をもっている人は、「慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)」にもなりやすいといわれています。
COPDは、慢性的に肺に炎症が起こることで徐々に呼吸機能が低下し、進行すると呼吸困難になる疾患です。
当院を受診されているCOPDの患者さんの鼻を調べると、副鼻腔炎をもっているケースは結構あります。

ちょっとした動作で息切れしたり、咳や痰がしつこく続いたりなどが主な症状ですが、日本人男性の死因の8位(2017年・厚生労働省データ)に入るなど、進行すると死につながることもあります。

「タバコ病」とも呼ばれ、タバコの煙に含まれる有害物質等が気管支などの気道にある線毛を壊してしまうことが、発症の大きな要因です。

線毛は呼吸によって入ってきた外敵を追い払う、いわば気道の「お掃除係」の役割を担っています。そのため、タバコの煙によって線毛が徐々に壊されていくと、その浄化作用も低下します。
その結果、気管支や肺において炎症が起こりやすくなってしまい、その状態が長期に渡って続くことで、動くと息切れがするなどCOPDの症状が出てくるようになるのです。

COPDを発症する人の9割以上が喫煙者とされ、喫煙者では約2割の人がCOPDを発症するといわれています。
治療においては、まず禁煙が必要です。
タバコを止めることで、3カ月もすれば線毛はもとの機能を回復するといわれ、治療の効果も出やすくなります。
実際に、禁煙をすると、たった数カ月で痰がらみが消えてなくなることがあります。

一方で、一般的に、鼻の自覚症状がまったくない「隠れ副鼻腔炎」の人が2割程度いるというデータもあります(これは喫煙者でCOPDを発症する割合と一致します)。

実際に、COPDの患者さんにCT検査をすると、副鼻腔炎を合併している方が少なくありません。COPDの主な発症原因は喫煙ですが、喫煙者の発症率が2割ということは、残りの8割はCOPDを発症していないことになります。
つまり、喫煙習慣があり、かつ副鼻腔炎をもっている人が、COPDになるのではないかと私は考えています。

呼吸困難や血痰を引き起こす場合も

さらに、次の2つの病気は、副鼻腔炎と合併しているケースが多いことで知られています。
ともに、痰や咳を主な症状とし、進行すると呼吸困難をともないます。

気管支拡張症(気道が炎症をくり返すことで気管支が弱くなり、その壁が壊されることで起こる病気)
びまん性汎細気管支炎 (肺胞につながる細気管支を中心に、慢性的な炎症が起こる病気)

どちらも気道の炎症によって引き起こされる病気ですから、一続きでつながっている副鼻腔で炎症が起これば、それがジワジワと気道内で広がっていき、こうした病気が起こることも当然あり得ます。

とくに、気管支拡張症は最も血痰の原因になりやすい病気で、ひどい場合、出血の原因となっている血管をふさがないと、止められない場合もあります。

「副鼻腔炎」をもつ人は「上咽頭炎」にもなっている

昨今、万病のもととして注目されている「上咽頭炎」も、副鼻腔炎との関連が強いといえます。

「上咽頭」は鼻の最奥部にあり、そこに炎症が起きるのが「慢性上咽頭炎」です。
現在、当院では、喘息治療の1つとして、「Bスポット療法」という、上咽頭炎を鎮める治療を行っています。

この治療で痛感するのが、慢性上咽頭炎の患者さんの多くが、慢性副鼻腔炎を併発している、ということです。当院でのCTの結果でも、その割合は100%です。

とくに、耳鼻咽喉科では治療対象とされない軽症の患者さんが多く、中には耳鼻咽喉科で「まったく問題ない」といわれていることも少なくありません。

慢性副鼻腔炎による炎症性の物質を含んだ鼻水などが、喉へと流れ落ちるときに上咽頭を通り過ぎます。
つまり、上咽頭は炎症性の物質に、つねにさらされている状態なわけです。
となると、当然のことながら、そこでも炎症が起こりやすくなります。

また、寝ているときは、上咽頭の部分に炎症性の物質がとどまりやすい体勢になってしまいます。
鼻の治療を始めなければ、炎症性の物質が長くとどまり、炎症が慢性化していくことが考えられます。

上咽頭炎の主な発症原因は、風邪で急性上咽頭炎になったあと、疲労やストレスなどで免疫力が下がり、風邪が長引くことです。
それ以外にも、こうした副鼻腔炎も大きく影響しているのではないかと私は考えています。

実際に、Bスポット療法でなかなか出血が治まらない方には、副鼻腔炎治療を追加すると出血が早く落ち着く傾向があります。

<杉原徳彦医師の最新刊>

つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい
▼全国から毎月2000人以上の患者が殺到!呼吸器の名医が教えるせきを最短で治す確かな方法。▼今日からできるセルフケアと治療法。

おわりに

鼻の病気と咳、気管支喘息、COPDの関連性は、呼吸器内科、なかでも気管支喘息を専門とする医師の間では、比較的常識的な話となってきています。

この記事で紹介したような診療を、私だけが特別に行っているのではありません。
呼吸器内科だけでなく耳鼻咽喉科でも、同じ視点で診療をされているところもあります。

耳鼻咽喉科の先生には、「慢性副鼻腔炎はアルゴリズムすらない」ということを指摘する方がいたり、呼吸器内科でも「鼻炎や副鼻腔炎の患者さんは本当に多い」とおっしゃっている方もいたりします。
しかし、残念ながら、ごく一部なのです。

当院には遠方から、それこそ海外からも、咳の症状に悩んでいる患者様が来院されます。しかし、わざわざ当院にいらしていただかなくても、近くの病院で治療ができるほうが、患者さんにとってよいのです。

今回、私が執筆した著書『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』は、どこででも「気道を一括して診る」治療が受けられるようになることを願って出版しました。
咳に悩まれている方だけでなく、医師の方にもこの本を手にとっていただき、実践していただけるとうれしいです。

◆杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
1967年8月13日生まれ。杉原家は江戸時代から続く医師の家系で、17代目の医師になるものとして生を受けるが、レールの敷かれた人生に反発し、高校時代は文系を選択。部活のスキーの大会で肩関節を脱臼し手術を受けたことで、医師の仕事のすばらしさに目覚め医師を志す。94年、杏林大学医学部を卒業。2001年、同大学院修了。東京都立府中病院(現・東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科勤務を経て現職。自らも喘息を患った経験があり、教科書通りの医療では良くならない患者がいることに疑問をもち、上気道と下気道の炎症に着目した独自の視点で喘息診療を行っている。仁友クリニックを設立し、喘息治療で功績を残した杉原仁彦は祖父にあたる。

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