最近、Twitterで一風変わったネット漫画が話題になっています。タイトルは「ひとりでしにたい」。30代の独身女性が、伯母の孤独死をきっかけに、自分の「死に方」という観点から、自らの人生に向き合うようになるという斬新な切り口のストーリーが、多くの読者の共感を呼んでいます。そんな異色の話題作のおすすめポイントをアラサー筆者がレビューします。
「ひとりでしにたい」とは
SNSで話題の注目作
最近、Twitterで一風変わったネット漫画が話題になっています。タイトルは「ひとりでしにたい」。30代の独身女性が、伯母の孤独死をきっかけに、自分の「死に方」という観点から、自らの人生に向き合うようになるという斬新な切り口のストーリーが、多くの読者の共感を呼んでいます。
テーマは孤独死、終活、親との関係…と、なかなかヘビーに感じてしまいますが、主人公の「死」への思いは(ある意味)ポジティブ。そんな彼女を中心に繰り広げられる日常は、思わずクスッと笑えるようなコミカルさもあって、筆者も思わず全巻購入。
作品について
あらすじ
いわゆるひとつのバリバリのキャリアウーマンで、優雅な独身生活、余裕の老後を謳歌していたかに見えた伯母がまさかの孤独死。黒いシミのような状態で発見された。その死にざまに衝撃を受けた山口鳴海(35歳・学芸員・独身)の人生は婚活から一転終活へ。死ぬのは怖い。だけど人は必ず死ぬ。ならば誰より堂々と、私は一人で死んでやる。一人でよりよく死ぬためには、よりよく生きるしかない。愛と死をひたむきに見つめるフォービューティフルヒューマンライフストーリーの決定版誕生!
終活×若者×コメディ
筆者も20代とはいえ、主人公と同じくアラサー世代で、自分が死ぬ時のことはおろか、両親の介護のことなども考えたことがありませんでした。しかし、この漫画は、そんな若い世代でもグサっと「刺さる」リアルな物語展開で、思わず引き込まれてしまいます。
自分の将来に対する具体的なプランが全くなかった主人公が、「伯母さんの孤独死」というセンセーショナルな出来事を経て、自分の「死」に対して当事者意識を持つようになる過程が、自分自身にとっても驚くほど共感しやすく、リアルに感じられました。
都市近郊に大きな一軒家の実家があり、大学進学はおろか、親に一部資金を補填してもらって自分のマンションまで買っている主人公鳴海が、同僚のナスダくんに出会い、自分とは生い立ちの異なる「他者」の人生に思いをはせるようになり、今まで見て見ぬふりをしていた自分自身の現状や、両親との関係が、また別の視点から見えてくるようになります。そんな中、ひょんなことから「孤独死を回避する」ことを目的とした「終活」を開始。果たして鳴海が自分自身の「死に方」や「人生」について、どんな結論に辿り着くのか、とても楽しみです。
20代・30代こそ読むべき理由
孤独死は独身だけのもの?
「孤独死」と聞くと、20代の私の頭に思い浮かぶのは、「独身」や「子なし」といったワード。しかし、この漫画を読んでいると、問題はそう単純ではないということがわかります。結婚して子供がいるからといって、孤独死を免れるわけではありません。相手に先立たれたり、子供が大人になって遠くへ行ってしまったりと、さまざまな要因があるからです。
「終活」を意識し始めた鳴海は、「孤独死回避」のためには「結婚」や「子供」を幸せな人生のゴールと短絡的に捉えるのではなく、人生を通して家族や友人との関係性を末長く大切にできているかどうかが重要なのだということに気づかされます。
この視点が、独身アラサーの筆者にはグサリと刺さりました。毎日忙しく働いて、地元の家族や友人、学生時代の友人などへの連絡や、関係性のケアを怠りそうになっている人は筆者だけじゃないのではないでしょうか?今年はコロナ禍もあり、余計に拍車がかかってますよね。でも、せっかく自分の人生で巡り合った人たちとのご縁ですから、たとえ一時期疎遠になっても、生活スタイルが変わってすこしくらい価値観が違っていても、しっかりと関係性を大切にしていきたいなと改めて思いました。
「終活」は人生を逆算して考えるきっかけ
また、若い世代にとっては「終活」というのも、あまり現実味がわかずピンとこない、という人が多いと思います。わたしもぶっちゃけ、この漫画を読むまで考えたこともありませんでした。それに、「終活」と聞くと、人生の終わりのようなネガティブなイメージを感じ取ってしまうことも。
しかし、「ひとりでしにたい」は、若い人でも自分の「理想の死に方」を考えてみるべきという強いメッセージを訴えかけています。特に、わけもなく自分の将来が不安で眠れなくなる日がある、といった、漠然とした不安を抱えている人にはおすすめです。なぜなら、「理想の死に方」を考える時、必然的に自分の人生を逆算して、これからどういうふうに生きていかなければならないかを具体的にイメージすることができるから。
例えば、自分が死ぬ時に、家族に看取られたいか、家族はいなくとも、友人や老人ホームなどで誰かに看取られたいか、あるいは、老後にどんな暮らしを送りたいか…など、漠然とした希望は誰にでもあるのではないでしょうか。こうした希望を突き詰めて考えてみると、自分が結婚すべきかどうか、友人とどういう関係を築くべきか、いくら貯金しておかなければならないか、など、現状の自分に足りないものが具体的に見えてきますよね。同じ不安でも、「漠然とした不安」から「具体的な不安」に変えていくことで、前向きな行動ができそうな気がしてきます。
厄介なのは結婚より親との関係かもしれない
個人的にこの漫画で好きなエピソードは、主人公の実家の両親にフォーカスする話(直近の最新話でもエピソードが続いています)。若い世代は特に、親の老後に関する話をしたことがある人は少ないのではないでしょうか。「でも、自分の親だし、いちいち確認する必要ないでしょ」なんて思っていると、将来思わぬ価値観のミスマッチに悩まされるかもしれません。
親の介護のことなど全く考えてもいなかった主人公の鳴海は、実父がなんの気無しに放った「妻に先立たれたら娘の元で世話になるから施設に入る気はない」という言葉に戦慄。しかし、父のその発言は、娘も妻同様にしっかりと家事や家族の世話ができると勝手に思い込んでいるがゆえのものであることが発覚します。
当然、独身でフルタイム勤務をしている鳴海に、妻と同様レベルの家事や介護をもとめるのは不可能ですよね。おまけに、「男が働き、女が家事をする」という性差による家庭での立場がはっきりと決まっていた両親の価値観が、鳴海に通用するわけもなく。こうした世代間の価値観のギャップを埋めるにも、両親と腹を割って話す機会って重要なんだな、と筆者もしみじみ実感しました。
両親の老後を考える時、両親側の意向をきっちり把握しておくだけでなく、こちら(子供)側のライフスタイルや仕事のことも両親に詳細に説明してしっかりと理解しておいてもらうことが重要なんですね。筆者も、今度実家に帰ったら、まずは両親が老後をどんなふうに考えているのか、小出しにしつつ聞いてみるつもりです。
まとめ
「死」は、どんな人にも、確実にやってくるライフイベント。老後について、今までネガティブで面倒なイメージがあったかもしれませんが、しっかり向き合えば、自分の「今」を充実させ、前向きな気持ちをもたせてくれるという要素も。「ひとりでしにたい」では、孤独死のほかにも、墓や熟年離婚、老後に経済的に困窮した際に活用できる制度など、「死」や「老後」に関する多角的な情報が盛り込まれています。ストーリー自体はコメディタッチでとっても読みやすいので、全ての人の「終活」入門におすすめです。