女子高生が戦車に乗って戦う――そんな突飛な話で大ヒットしたアニメ「ガールズ&パンツァー」。2012年10月から放送されたTVシリーズに始まった作品ですが、7年経った今でも展開が続いています。21年3月26日からは全国の映画館で「ガールズ&パンツァー最終章 第3話」が公開されています。筆者が見どころをお伝えします。
「ガルパン」とは?
アニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」は、2012年10月から13年3月にかけて深夜にテレビ放送されました。女子高生が戦車に乗って「戦車道」という部活道として戦ったり、「学園艦」という超巨大な船がまるごと学校になっていたりする独特の世界観が話題を呼びました。さらに2015年11月には劇場版が上映され、深夜アニメ発としては当時異例の25億円の興行収益を記録し、大ヒットとなりました。
その後も「最終章」と題して展開が続いており、全6話を劇場公開する予定が掲げられています。第1話が2017年12月、第2話が19年6月に公開。そして第3話が21年3月26日から全国の映画館で上映されています。今のところ1年半~2年の間隔で公開されており、第4話以降の公開日程は未定となっています。
戦車に乗って女子高生が部活をする世界観も「ガルパン」の魅力なのですが、茨城県大洗町を中心に、県内各地を舞台にした作品であるのも特徴です。大洗町では放送中からアニメ製作側とのコラボが展開されており、毎年11月に開かれる地元のお祭り「大洗あんこう祭」には、放送中の2012年から毎年「ガルパン」の制作スタッフや声優達が登壇しており、(2020年は新型コロナウイルスによる影響で中止)地域密着の取り組みでも話題を集めました。
「最終章」のあらすじ
アニメ本編の目的は廃校阻止
「ガルパン」本編では、主人公達の学校が廃校になりそうなところを、戦車に乗って相手校と競う「戦車道」の全国大会で優勝することで廃校を阻止する話がメインとなっています。劇場版でも同様、再燃した廃校問題を、主人公の学校だけでなく、他校の戦車道仲間の力を合わせてこれを阻止するのが話の主軸となっています。
河嶋桃の浪人阻止が目的になった
この点、「最終章」では廃校問題からはようやく解放され、シリーズで唯一「廃校を阻止する話」ではなくなっているのが特徴です。代わりに設定された動機が、主要登場人物の一人である「河嶋桃を浪人の危機から救う」です。新たな戦車道の大会で優勝することで、河嶋桃を大学に推薦で入れよう、というのが物語のミッションとなっています。
大会は毎回苦境に立たされつつも、主人公の西住みほと仲間達の機転で勝ち進んでいきます。第1話では1回戦のBC自由学園戦(岡山県)の様子が、第2話では準準決勝の知波単(ちはたん)学園戦(千葉県)の様子が描かれています。
1話、2話共に戦闘中の危機的状況に陥ったところで次回に続くシンプルな構成になっており、2話の前半でもBC自由学園戦の様子が描かれ、知波単学園戦の途中で終わる作りになっていました。
3話の構成も2話と変わらず
さて、ここからは3月26日に公開されたばかりの3話の紹介に入ります。2話の知波単学園戦の続きから始まります。2話では、突撃を何よりの美徳していた知波単学園に成長が見られ、主人公率いる大洗女子学園(茨城県)に健闘するところで終わりました。
そして知波単学園はあと一歩というところまで大洗女子学園を追い詰めるのですが、最後西住みほの作戦により逆転負けを喫してしまいます。その後、わずかな日常パートが描かれたのちに、3回戦となる準決勝で継続高校(石川県)と戦うことになります。そして、ゲリラ戦を得意とする継続高校相手に苦戦を強いられるところで、4話へと続きます。
ここまでの構成は2話とほとんど変わらないものです。物語構成の上ではベタと言えるかもしれませんが、ガルパン最終章の狙いは恐らく別にあります。それは、1話で時間をおいて2度戦闘シーンを挟める構成となっている点です。まさに視聴者を飽きさせない作りになっています。
進化し続ける3D戦闘シーン
3話を観ていて筆者が特に感じたのは、戦闘中の3D描写の進化が止まらない点です。「ガルパン」は既に9年目に突入した長期シリーズ作品ですが、この9年の間、アニメの3G技術は進化の一途を辿っています。特に最終章に入ってからは、1年半から2年弱の間があけて制作されているので、話を重ねるごとにその進化ぶりを体感することができます。1話から2話の間もその進化に驚かされましたが、3話でもこの感動は変わらず、非の打ち所のない戦闘描写と言えます。
4話以降も白熱した戦車同士の戦闘シーンが続くのは間違いなく、早く4話以降を見たい気持ちにさせてくれます。
気になる全6話の構成は?
2、3話の構成が似ている最終章
2話と3話の構成が非常に似ている話を先ほどしました。4話では準決勝の継続高校戦の続きから描かれるものと予想できます。そして恐らく大洗女学園は継続高校に苦難の末勝利し、日常パート、そして決勝戦の前半分、という同じ構成を4話でもとることができます。
5話構成だと、5話で決勝に勝利し、ハッピーエンド、という形で無難に終わらせることができるので、4話も同じ形を取る目処が付きます。ところが、「ガルパン最終章」は全6話の予定と明言されています。4話も2話と3話と同様の構成のままだと、1話分尺が余ってしまうのです。
また、主人公達が戦っている戦車道の大会「第41回冬季無限軌道杯」は、現在準決勝で継続高校と戦っています。そして主人公達の大洗女子学園が順当に勝利した場合、次が決勝戦で、黒森峰学園(熊本県)と聖グロリアーナ女学院(神奈川県)の勝者と戦う形になります。ここまでは作中でも丁寧に描かれており、容易に想像がつくところです。
問題は、丁寧に描かれているからこそ、本当にその通りに進むのかという点です。継続高校に大洗女子学園が負けてしまう展開もあり得ますし、本当に次が決勝戦で最後の戦いなのか、というところも気になります。仮に実はもう1戦という形であれば、6話も3話などと同じ構成をして終わらせることができます。
ある意味展開が読めない5話以降
ただ、そんな読みやすい展開を「ガルパン」の監督である水島努監督がするとはあまり思えないのも正直なところです。ですので恐らく、2話と3話にみられた構成は、4話か、遅くとも5話以降では続かないのではないでしょうか。また、この構成は主人公達が勝ち続けることを前提とした作りであり、どこかでそれが一旦壊れる時がくるのかもしれません。
というのも、主人公達が戦う動機はあくまで「河嶋桃を浪人の危機から救う」であり、どうしても優勝しないといけない、という必然性は廃校阻止を目的とした前作よりも薄れています。河嶋桃を推薦で大学進学を決めさせればいいのであり、我々の世界の大学スポーツ推薦の価値観で考えると、どうしても優勝しないといけないものではないようにも思えます。こう考えると、例えば決勝で大洗女子学園と黒森峰学園がぶつかり、大洗が黒森峰に敗れるという展開も考えられます。
水島努監督は今後の展開を見据えた上で丁寧に伏線を貼るクリエイターでもあるので、こうした4話以降の展開を予想しながら3話を観ると、新たな発見があるかもしれません。是非、ファンの人なら観に行ってみてはいかがでしょうか。
執筆者のプロフィール
文◆河嶌太郎(かわしま・たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。Yahoo!ニュース個人では「河嶌太郎のエンタメ時報」を執筆、オーサーコメンテーターとしても活躍中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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