先月も今期冬アニメの注目作をいくつか取り上げましたが、今回はその中から「ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜」を特集し、その魅力を解説していきます。原作者の10年にわたる警察官としての勤務経験を下地にしたリアルな世界観や、悲喜こもごもな「仕事をする」という営みを描いた作品です。
今期は特に「ハコヅメ」がおもしろい
2022年の冬期も折り返しに差し掛かってきたアニメ放映事情ですが、あなたはどの作品をチェックしていますか?
圧倒的なクオリティから目が離せない「平家物語」や、少女や青春の美を緻密に描く「明日ちゃんのセーラー服」、甘酸っぱさ全開のラブコメ感とコスプレイヤーあるあるネタをマッシュアップした「その着せかえ人形は恋をする」、ゆったりした気分で釣りの醍醐味を味わえる「スローループ」辺りが筆者のオススメですが、ほかにも注目しておきたい作品があります。警察官の仕事事情をリアルに伝える人間ドラマ「ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜」です。
漫画・ドラマで人気を博してさらにアニメ化
いわゆる職業モノとして漫画版からスタートした同作は、2021年にドラマ化も果たし、永野芽郁・戸田恵梨香と人気俳優のW主演という豪華さで人気を博しました。
先ほど挙げた今期アニメのタイトルとは、ある種、対極的ともいえるこの作品。仕事にまつわる悲喜こもごもの感情を赤裸々に描いた内容には、業種が違えど共感を覚えてしまう…という方も多いのではないでしょうか。そんな同作は、講談社の人気雑誌「モーニング」上で、2017年から連載中の人気漫画が原作となっています。累計発行部数も400万部を突破し、確実な支持を集める本作には、どういった魅力が詰まっているのでしょうか。
あらすじ
「公務員という安定した仕事に就きたい」という動機から就職先を探したものの、合格したのは警察官試験だけ…そんな主人公・河合麻衣は配属先の町山交番で、日々激務や仕事の報われなさに悩みを募らせていました。
そんなところに現れたのは、警察学校を主席で卒業した実績を持ちながら、とある事情で刑事課から異動してきた先輩婦警・藤聖子。新人と凄腕という対極的なコンビと共に、個性豊かな仲間たちが加わって織り成す、喜怒哀楽が詰まったリアルな職業コメディです。
リアルすぎる交番勤務の実情
以上が「ハコヅメ」の大まかなあらすじです。ドラマで言えば「ショムニ」、漫画で言えば「働きマン」など、兼ねてからメディアミックスを含め成功を収めたヒット作には、「仕事モノ」とでも定義づけられるようなコメディ作が多い印象があります。
「働くこと」のリアリティと飽きさせないストーリー
本作も、生活の本質ともいえる「働くこと」を、その厳しさやままならなさを交えつつ、喜劇的にも悲劇的にも描いた作品として確かな評価を得ています。
作品の中でも殊更に特徴的なのが、普段私たちが暮らす中では決して見えて来ない「警察という仕事」のリアルに迫った数々の描写です。交通ルールを取り締まれば文句を言われ、通報を受けて向かった先では事件性のない些細な諍いが起こるのみで、休日出勤は当たり前。そんな苦労の数々が、悲喜劇的に描かれており、ときにはシリアスな展開に発展することも。各話いずれも視聴者を飽きさせない展開で、ストーリーが進んでいきます。
作者は10年のキャリアを持つ「リアル警察官」
それもそのはず、原作者の泰三子氏は某県警にて10年婦警として活躍した「リアル警察官」のキャリアを持つ漫画家。良くも悪くも、我々の過ごす日常を支える警察という組織の姿を、世に伝えるために生まれた作品であるとされています。
そのため、作中に登場する用語や警察の活動実態などが、相当なリアリティと裏付けの上で克明に描かれているのです。それこそが、他にない独特な面白さを支えています。基本的には「ブラック企業あるある」的な文脈でのコメディとして進行しつつも、市民を守るという確かな意思や、過酷な事件の発生など、決してギャグだけには留まらない世界観に仕上がっていることにも納得です。
強烈キャラによる「ドタバタ感」と偏りのない「安心感」
本作「ハコヅメ」は題材上、ときにはシリアスな事件も発生しますが、基本的にはユーモラスな描写で各話が進んでいきます。安心感を持って視聴できるという点からも、今期アニメの中でオススメの作品です。
(なお原作漫画には、とある大事件を主題とした「ハコヅメ別章 アンボックス」というスピンオフも存在しますが、こちらは本編と密接に関わりながらもコメディ要素を廃した内容となります。ストーリーを理解する上では是非ご一読いただきたいところですが、あくまでも「別章」としているところに制作スタンスが垣間見えます。)
そんな同作のストーリーを大きく振り回すのは、主人公の先輩警官を務めるエース・藤聖子だけでなく、個性豊かな同僚の面々。刑事課で「取り調べの天才」として曲者だらけの被疑者から自供を獲得し続ける巡査部長・源誠二や、そのペアとして活躍する単純タイプの体力派・山田武志巡査長を始め、同僚から先輩まで男女さまざまなキャラクターが各話を盛り上げます。
女性作家ならではの目線もあり、決して男性的眼差しによる偏ったキャラクター付けやストーリー展開が見受けられないのもポイント。連載雑誌のイメージにそぐわず、女性のファン層が厚いのも頷けます。「銀魂」などの人情味あふれるギャグ漫画が好きな方であれば、心惹かれるものもあるのでは?と思える仕上がりです。
まとめ
今回はバリエーション豊かな今期アニメのなかでも一際目立つ仕事系作品「ハコヅメ」の魅力をご紹介しました。「波よ聞いてくれ」「SHIROBAKO」「NEW GAME!」など、仕事モノの作品は名作揃いです。2022年の新たな注目タイトルをぜひチェックしてみてください。気になった方は、現在も連載中の原作漫画とセットでどうぞ。