縦型洗濯乾燥機は、頑固な汚れも落ちやすくなっている半面、衣類がダメージを受けやすい側面もある。そのため、最近では実用的な付加機能を搭載して、泥んこのユニフォームからデリケートなブラウスまで、幅広くフォローするのが傾向だ。
目指せ!家電選びの達人今回の家電は「縦型洗濯乾燥機」
ドラム式洗濯機にあこがれる声をよく耳にするが、縦型洗濯機も根強い人気がある。最近の縦型は、実用的な付加機能を搭載して進化を続けているほか、メーカーごとの個性も見られ、興味深い製品が増えている。今回は、乾燥機能を備えた6機種を対象に、現状をひもといた。
監修者のプロフィール
中村剛
「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権で優勝の実績を持つ家電の達人。家電製品総合アドバイザー、消費生活アドバイザー。東京電力「くらしのラボ」所長。現在、暮らしに役立つ情報を動画(Facebook)で配信中。
縦型の特徴
■洗浄力が高く、「もみ洗い」で頑固な汚れも落とす
●縦型とドラム式の特徴 | ||
縦型洗濯乾燥機 | ドラム式洗濯乾燥機 | |
パルセーターの回転で水をかくはんし、水流を起こしてこすり洗いを行う。洗浄力が高く、泥汚れにも強い。 | 洗浄能力 | 衣類を上から落とす”たたき洗い”のため、縦型より洗浄力は弱めだが、洗浄モードにはさまざまな工夫がある。 |
洗濯槽の底にたまった洗濯物に、温風を当てるイメージ。乾燥効率も仕上がりも、ドラム式に一歩譲る。 | 乾燥能力 | 洗濯槽内で衣類に風が通りやすく、質のいい乾燥が可能。除湿しながら温風を送るヒートポンプ式は熱効率もいい。 |
かがまずに上から衣服の出し入れができ、洗い途中でも衣類の追加が可能。本体がコンパクトで設置性がいい。 | 使い勝手 | 扉が手前に開くので、大きな洗濯物が入れやすいが、スペースに余裕がないと衣類の出し入れが困難な場合も。 |
価格は、ドラム式より比較的安価。ヒーター乾燥式を採用している場合、電気代と冷却用の水道代がかかる。 | コスト | 少ない水で洗濯が可能。ヒートポンプ式により、乾燥時のコストも抑えられる。価格は、縦型より比較的高価。 |
洗濯乾燥機には、縦型とドラム式がある。上の表で示したように、どちらも一長一短があるが、やはり洗浄能力が高いのが、縦型の大きなメリットだ。
横向きのドラムを回転させて衣類を「たたき洗い」するドラム式に対し、縦型の洗い方は、底にあるパルセーターを回して水流を起こす「もみ洗い」。洗濯物どうしをこすり合わせて洗うので、泥汚れや食べこぼしなど、頑固な汚れも落ちやすくなっている。
しかし、その半面、衣類絡みや傷みが発生し、ダメージを受けやすい側面もある。そのため、最近では、洗剤の力を引き出して、優しく洗いながら、しっかり落とすというトレンドが生まれている。
もちろん、強い水流でゴシゴシ洗うコースも健在なので、泥んこのユニフォームからデリケートなブラウスまで、幅広くフォローするのが、最近の縦型の傾向だ。
注目の洗浄機能
■約40℃の温水を利用して、酵素の働きを活性化
洗剤の能力を引き出す手段として、トレンドになっているのが、温水を使った洗浄だ。洗剤に含まれる酵素が、最も活発化する温度が40℃前後。洗濯時にその温度帯のお湯を用いることで、たんぱく質や皮脂汚れを、落としやすくする効果をねらっている。
皮脂・たんぱく質の汚れは黄ばみの原因となるが、お湯でつけおきすることでニオイの原因菌が洗い流せて、部屋干しの嫌なニオイも抑制できる。見た目とニオイの両面で、衣類の清潔性が保てるようになるわけだ。
なお、鍋などで温めたお湯を入れる人もいるが、温度が40℃を超えると酵素の動きが鈍くなるため、逆効果になるおそれがある。その点、温水機能を持つ洗濯機は最適温度に管理するので、しっかり洗剤力を引き出せる。
温水機能は、衣類や洗剤液、水などを温風で温める方式が主流で、アクア、シャープ、東芝、日立が採用している。パナソニックもFW100K7は同方式だが、FW120V2では業界初となる温水専用ヒーターを搭載。洗剤液を直接温めることで、お湯の温度を安定的に保持しやすくした。
【温水による洗浄】
40℃前後のお湯を使うことで、洗剤に含まれている酵素を活性化し、洗浄力をアップする。パナソニックは温水専用ヒーターを搭載し、直接洗剤液を温める。
また、お湯のほか、「泡」で洗浄力アップを図る動きもある。東芝は、ナノサイズの気泡「ウルトラファインバブル」を発生させ、洗浄液と混ぜ合わせることで、衣類への浸透をサポート。洗剤成分をまとった気泡が繊維の奥まで入り込み、汚れの分解を助ける。
パナソニックは、泡にすることで界面活性剤の表面積が増え、汚れが落ちやすくなるという洗剤の特性に着目。洗浄中のかくはんで泡立てるのではなく、洗剤を泡立ててから衣類にまぶすことで、洗浄力を上げる手法を取っている。
【泡を使った洗浄】
泡の力に着目した機能。ナノサイズの泡(東芝/ウルトラファインバブル)や、濃密な泡水(パナソニック/泡洗浄)で、洗浄能力をアップする。
その他の特徴
■洗剤/柔軟剤の自動投入やスマホ連係が話題
一方、使い勝手面での注目が、液体洗剤/柔軟剤の自動投入機能だ(パナソニックと日立)。
洗剤は少なすぎると効果がなく、入れすぎても洗剤カスが残って黒カビのもとになる。適量を入れるのは意外に難しいが、自動投入機能では、洗濯するたびに最適量を計測してくれる。
これは、新しい機能に思われるが、実は15年ほど前にナショナル(現パナソニック)が採用。当時に比べ、洗剤の質が向上したこともあり、実用的な機能として返り咲いたといえる。なお、メーカーでは、洗剤が経路の中で詰まるのを防止するために、定期的なお手入れを推奨している。
また、通常の洗剤ではなく、ジェルボール(※)に特化したコースを持つのがアクア。第3の洗剤といわれるジェルボールは、洗浄力はもとより、防臭や香りづけ効果に秀でている。その特性を生かすため、すすぎの行程を最適に制御しているという。※「ジェルボール」は、P&Gが販売するボール型の洗剤で、洗濯1回分の洗剤を、水に溶ける特殊なフィルムで密封したもの。製品名は「ジェルボール3D」。➡https://ariel.jp/ja-jp/shop/type/pods
【洗剤・柔軟剤自動投入】
洗剤や柔軟剤を補充しておくと、洗濯物の量に合わせて、最適量を自動計量。ベストなタイミングで投入するため、洗剤や柔軟剤の効果が発揮されやすい。
乾燥機能については、現状では、まだ課題が多い。縦型は、構造上、衣類が洗濯槽の下にたまってしまうため、それを温風できれいに乾かすことは難しいからだ。
パルセーターの形を工夫して、風通しをよくする機種もあるが、そんな中で個性を打ち出しているのが、シャープの「ハンガー乾燥」。ふた裏のフックハンガーに衣類を吊し、洗濯槽内で効率的に温風乾燥させられる。シワが少なく短時間で仕上げられ、実用性が高い。
【イオンによる除菌 ・乾燥】
ナノイー(パナソニック)やプラズマクラスター(シャープ)が、衣類の奥の菌やニオイのもとに吸着。働きを抑制する。
【洗濯槽の自動洗浄】
脱水時の遠心力や水流を利用し、洗濯槽の裏側の洗剤カスを除去して、黒カビを抑制する。日立は真水で仕上げるのでより清潔だが、そのぶん水道代も必要。
このほか、シャープと日立では、スマホとの連係機能やAI機能を搭載。運転状況や天気予報を知らせてくれるなど、効率的な洗濯をサポートしてくれる。
【スマホ・アプリ連係】
専用アプリと連係することで、洗濯物のアドバイスや進行状況などを通知。専用コースのダウンロードなども行い、洗濯の利便性向上をバックアップする。
また、デザイン面でも、ガラストップを採用したり、衣類の出し入れをしやすくしたりなど、各社がさまざまな取り組みをしている。
【ガラストップデザイン】
2014年に日立が導入。フラットで傷がつきにくく、汚れが拭きやすくて清掃性が高い。見た目の高級感もポイント。
各モデルの主な特徴
■アクア
AQW-GTW110H
実売価格例:17万640円
「ジェルボールコース」などユニーク機能搭載
旧三洋電機の流れをくむだけあり、洗浄力は確か。香りづけ効果を高める「ジェルボールコース」や「W衣類おそうじ」機能など、ユニークさも光る。
●激落ちケア洗浄
洗濯槽とパルセーターを逆に回転させることで、布絡みを抑えながらしっかり洗う。汚れを落としながら、衣類ダメージも回避する。
●「ジェルボール」コース
ジェルボール洗剤の特性を生かすため、すすぎの行程を最適化した。防臭と香りづけ効果を高めるオリジナルコース。
●ふわふわクイック乾燥
急な傾斜をつけた独自のパルセーターで、衣類をフワッと浮かせて乾燥させる。ふんわりとした仕上がりと、スピード乾燥を実現する。
●W衣類おそうじ
水流に合わせて左右に可動する糸くずフィルターが、細かいゴミをキャッチ。誤って洗ってしまったティッシュも、きれいに取れることで話題に。
■シャープ
ES-PW11D
実売価格例:24万6240円
スマホと連係した「COCORO WASH」採用
スマホと連係したAI洗濯「COCORO WASH」を採用。独自の穴なし洗濯槽や、襟汚れを取る「超音波ウォッシャー」搭載など、オリジナル路線も特徴的。
●COCORO WASH
AIoTクラウドサービス。スマホとの連係で、天気予報や運転状況、洗い方アドバイスなどの情報を提供。スマートスピーカーや、ほかの家電との連係も可。
●穴なしサイクロン槽
穴がなくても脱水できる独自の洗濯槽を採用。竜巻状に巻き上げる水流で、汚れをしっかりと落とす。節水や黒カビ防止にも効果的。
●ハンガー乾燥
ふた裏のフックハンガーに衣類を吊し、洗濯槽内で温風乾燥するシステム。衣類にシワがよらず、効率的に乾燥できる。
●プラズマクラスター搭載
洗濯槽にプラズマクラスターを放出し、頻繁に洗えない制服やブーツなどの除菌・消臭が可能。洗濯槽の清掃時にも活用されている。
■東芝
AW-10SV8
実売価格例:18万9600円
S-DDモーターの採用により静音性が高い
弾けて汚れを分解する「ウルトラファインバブル」と温水パワーで洗浄力を強化。S-DDモーターの採用により、28デシベル(洗濯時)という静音性を誇る。
●温かウルトラファインバブル洗浄W
ウルトラファインバブルの洗剤液と衣類の両方を温風で温めることで、洗剤の効果をよりアップ。繊維の奥に入り込んだガンコな汚れをきれいに落とす。
●おしゃれ着トレー
おしゃれ着コースで使用するパーツ。パルセーターで衣類が擦れないので、傷みや型くずれが抑えられる。
●ほぐせる脱水
脱水の最後に、パルセーターを細かく振動。洗濯槽に張りついた衣類をほぐし、軽い力で取り出しやすくする。
●S-DDモーター
モーターと槽が直結したダイレクトドライブ方式を採用。騒音の原因となるギアやベルトがないので運転音が静か。
■パナソニック
NA-FW120V2
実売価格例:26万1600円
業界初の温水専用ヒーター搭載がトピック
業界初の温水専用ヒーターを搭載。泡を循環させる「W泡洗浄」との組み合わせで洗浄力をアップ。「ナノイー」機能で、水洗いできない物の除菌・消臭も可能。
●泡洗浄W/温水泡洗浄W
循環ポンプで泡水をくみ上げながら洗うことで、泡立て効果がアップ。たっぷりの泡が衣類を包み込み、衣類全体をもみ洗いする。温水モードでも使用可能。
●多彩な洗浄・乾燥コース
嫌なニオイも洗い落とす「約40℃においスッキリコース」、色柄ものの「約30 ℃おしゃれ着コース」など、汚れの種類に幅広く対応する。
●ナノイー搭載
革製品やぬいぐるみ、たばこのニオイがするスーツなど、ナノイーの力で除菌・消臭。洗濯槽をイオンで満たすことで、黒カビの予防にも。
●自動槽洗浄
ためすすぎの水を利用し、遠心力で強い水流を発生。槽の周辺を勢いよく洗い流して、洗剤カスの付着を抑制する。
■パナソニック
NA-FW100K7
実売価格例:24万2780円
液体洗剤/柔軟剤自動投入機能を新搭載
液体洗剤/柔軟剤の自動投入を採用し、使い勝手を向上させたモデル。「温風つけおきコース」では、洗った衣類に熱を加え、酵素パワーを引き出している。
●液体洗剤・柔軟剤自動投入
洗濯物の量に合わせ、洗剤や柔軟剤の最適量を自動計算して投入。スムーズに洗濯が始められるので、洗濯に不慣れな人でも安心して使える。
●泡洗浄
給水時に水圧で洗剤を泡立て、洗浄開始とともに泡水を衣類に放出。泡を衣類全体に浸透させ、汚れ落ちをよくする。
●多彩な洗浄・乾燥コース
すすぎを徹底して敏感肌に優しい「パワフル滝すすぎコース」、衣類に合わせて優しく脱水する「ソフト脱水」など、対応がきめ細やか。
●フレームレス ガラストップ
一枚板で拭きやすく、清潔感と高級感がある。軽い力で開き、ゆっくり閉まるダンパー機構を採用。
■日立
BW-DX120E
実売価格例:31万1040円
洗剤自動投入+AIなど機能が盛りだくさん
温水洗浄、洗剤自動投入、スマホアプリとの連係など、トレンド機能を盛り込んだ一台。AIが汚れに合わせて洗濯時間を自動調整する「AIお洗濯」にも注目。
●液体洗剤・柔軟剤自動投入
洗濯のたびに自動で適量を投入するので、入れすぎを防げる。タンクは、洗剤用が1000ミリリットル、柔軟剤用が700ミリリットルの大容量。
●AIお洗濯
複数のセンサーが、洗剤の種類や布質、汚れの量、水の硬度などの情報を収集。洗い方や運転時間を自動制御するため、設定なしで洗濯ができる。
●洗濯コンシェルジュ
専用アプリで洗濯をサポート。洗濯物が乾きやすい時間を知らせる機能や、ユーザーの好みを学習する「わがや流AI」コースを搭載。
●低温乾燥コース
約65℃の低温で乾燥。標準コースより時間はかかるが、靴下など熱に弱い衣類の縮みを抑えて、優しく仕上げる。
まとめ
泥んこ洗いからデリケート洗いまで、幅広く対応する縦型洗濯乾燥機。機種ごとに個性はあるが、共通しているのは、「大は小を兼ねる」という点。
縦型は洗濯物の量で水量を調整するので、洗濯物が少ないときは少量の水で無駄なく洗濯できる。少人数世帯でも容量の大きい機種を選べば、まとめ洗いや毛布などの大物洗いにも活用できる。
洗濯物を多角的に任せたいなら、大容量の縦型がおすすめだ。
※価格は記事作成時のものです。
取材・執筆/諏訪圭伊子(フリーライター)