【麻倉怜士の4K8K感動探訪(8)】丸2年掛け4K修復した「男はつらいよ」全49作が BSテレ東4K で見られる!(前編)

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民放4K放送では、「ピュア4K」はたいへん珍しい。4Kニュース番組を除けば、一日に1番組があるのは、むしろ珍しいほどのレアさだ。そんな中にあって、BSテレ東4Kが大4Kプロジェクト「土曜は寅さん!4Kでらっくす」をスタートさせたことに、大注目した。国民的映画「男はつらいよ」を毎週土曜日(18:30~ 20: 54)に連続4K放送するのである。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

人柄を感じさせる、暖かな4K画質

民放4K放送では、「ピュア4K」はたいへん珍しい。
4Kニュース番組を除けば、一日に1番組があるのは、むしろ珍しいほどのレアさだ。そんな中にあって、BSテレ東4Kが大4Kプロジェクト「土曜は寅さん!4Kでらっくす」をスタートさせたことに、大注目した。

国民的映画「男はつらいよ」を毎週土曜日(18:30~ 20: 54)に連続4K放送するのである。
1969年に公開された第1作「男はつらいよ」(マドンナは光本幸子)から97年の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花特別篇」まで、28年間で製作されたのは49作。となると計算ではまる1年ほど掛かる大放送プロジェクトだ。

4Kエバンジェリストの私としては、これはぜひチェックしなければと、5月16日に放映された、榊原るみがマドンナの太田花子を演じた第7作「男はつらいよ 奮闘篇 」(1971)を観たが、実に素晴らしいではないか。

コントラストが非常によい。黒の深さ、安定感も実に上等。肌色はまさに日本人の肌だ。艶艶している質感で、照明の当たり方も、その反射、その影のリアリティが素晴らしい。エッジが柔らかいのはフィルムならではの質感。しっかりと立っているのだが、しなやかで繊細だ。

最新の4K映画のように尖鋭な鮮明さはないが、ヒューマンで、すべらかな味わいが素敵だ。グラテーションが細かく、日本的な細やかな画調といえよう。すべての登場人物の人柄の温かさが、画調の暖かさに象徴されているようだ。

この画質で1年突っ走ってくれるなら、BSテレ東4Kの4Kチャンネルとしての名声が上がるだろう。すると、この素晴らしい4K映像はどのように作られたのだろうと、制作の背景を熱く知りたくなった。そこで、松竹と「Zoom」によるオンライン取材を敢行。この大プロジェクトをいかに進めたかが、判明した。

土曜は寅さん!4Kでらっくす『男はつらいよ』シリーズ一挙放送! | BSテレ東

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松竹史上最大の修復プロジェクト

昨年の2019年は、1969年の第1作公開から50年目の周年だ。

「過去の名作をリバイバル公開するプロジェクトで、最近でも大きく展開したものは、2015年の松竹120周年記念上映がありましたが、それでも25作のスケールでした」

そう言うのは、今回の「男はつらいよ」のアーカイブを管理する井川透氏(松竹・映像素材管理スタッフ部長)だ。

「試算してみると、フィルムから4Kに起こす費用は莫大だと予測できましたが、国民に大人気の寅さんなら、その費用を十分にカバーできるだろうと判断しました。69年に撮影された一作目のオリジナルネガがそろそろ寿命になり、できる限り早くデジタルでアーカイブ化しなければならない時期にきていたことも、プロジェクトの推進理由になりました」(井川透氏)

4K修復前の画像。第1作「男はつらいよ」(1969年)より ©1971 松竹株式会社

4K修復後の画像。

コンテンツのメディアビジネスを司る、森口和則氏(メディア事業部部長)は、こう述べた。

「すべてのメディアで寅さんを展開する方針で臨んでいます。多額の予算をレストアとアーカイブに投じるわけですから、広範にリクープする戦略が必要です。そこで、ほとんどすべてのメディアで、50周年企画を立てました。劇場では19年11月から4Kで順次公開しています。現在は新型コロナで劇場が休業しているので中断していますが、再開の折りには公開を継続します。12月には新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』も公開されました。おかげさまでヒットになりました。各地の劇場でイベントも多く打ちました。ネット配信は4Kは今後ですが、2Kでは始まっています。4Kデジタル修復版を2Kに変換したブルーレイの『“寅んく” 4Kデジタル修復版ブルーレイ全巻ボックス(51枚組)』は税込で20万円以上の価格なのですが、予想を遙かに超えた売れ行き。昨年12月に発売したところ、すぐに品切れになりました。今回のBSテレビ東京での全作4K放映は、先方からのご要望もあり、実現することが出来ました」(森口和則氏)

高度な技術と人と膨大な時間を掛けた4K修復

BSテレ東4Kの「土曜は寅さん!4Kでらっくす」は、開局20周年特別企画だ。
BSテレ東4Kは、それだけの重みを持つ企画として4Kの寅さんをフューチャーした。そもそも4K貧者の民放4Kの中にあって、BSテレ東4Kはドラマを中心に4Kの佳作をいくつも制作している。49作のピュア4K大放送を敢行するのは開局20周年特別企画として、まことにふさわしいと判断したのであった。

ではいよいよ、ネガフィルムからいかにして、冒頭のインプレッションで述べた高画質な4K(4Kといってもすべてが高画質であるわけではない。世の中には低画質の4Kもある)に変換したかの章に入ろう。

BSテレ東の本件のニュースリリースで、プロデューサーがこう述べている。

「4K デジタル修復するには、高度な技術と人と膨大な時間がかかっております。この貴重な作品たちをBSテレ東でテレビ初放送させて頂くこととなり、今からワクワクしています。公開当時のままの鮮やかな映像を、ご家族で、そして、これまで寅さんを観たことのない若い世代の方たちにもこの機会に是非ご覧いただければと思います」

松竹における、「男はつらいよ」全49作の4K化プロジェクトは、2017年3月にスタートし、2019年3月に終了した。2年掛かりの大作業だった。
35mmフィルムの オリジナルネガを1コマずつ4Kサイズでスキャンし、キズをなくし、退色した色調を調整し、シリーズを通した統一感を確保する――デジタル・レストアはいかに遂行されたか。次回に詳しく述べよう。

5月23日放送用は、第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』。マドンナは池内淳子。庭先に咲くりんどう。笑顔で夕げを囲む家族~寅さん、女手一つ息子育てる女性との家族団らんを夢見る…。

5月23日に放送する第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』 ©1971 松竹株式会社

文◆麻倉怜士(デジタルメディア評論家)

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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