【麻倉怜士の4K8K感動探訪(13)】なるか、世紀の大発見。BS-TBS4K「隠された伝説の王妃~ツタンカーメン墓の真実」が傑作

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ビュア4K番組は民放ではたいへん珍しいが、2020年9月末にBS-TBS4Kで放送された「隠された伝説の王妃~ツタンカーメン墓の真実」は傑作だった。20世紀最大の考古学の発見とされるツタンカーメン王の墓の奥には、実は謎の女王の墓があり、それがもし見つかったら、21世紀最大の発見になることは間違いない。王家の谷での何度もの発掘調査は失敗に終わっていた。。あるひらめきから組み立てられた壮大な仮説、頼みの綱が地中レーダー。ツタンカーメン王墓の壁面に地中レーダー波を投射した。その結果は…という探検ドキュメンタリーだ。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

「さすが4K。2Kとはまったく違いました」

NHKはすべての番組が4K撮影だが、民放での4K撮影、しかもこれほど大がかりな制作はほんとうに珍しい。それも最近の(つまり4K機材が普及してきた今)ではなく、5年前の2015年の撮影だというから、驚き。

「4Kは、臨場感がまったく違いました」

そう言うのは、「隠された伝説の王妃~ツタンカーメン墓の真実」のプロデューサーの西野哲史氏(TBS報道局報道番組部「サンデーモーニング」担当)だ。

「現場はたいへん狭く、ドキュメント取材なので、大きな4Kモニターは置けません。なので、時間のある時に、現場で暗幕をかぶせて4Kモニターで見ましたが、凄い臨場感でした。壁のヒビや細かな凹凸まで、現場で見ていたとおりに、実にはっきりと映っています。さすが4K。2Kとはまったく違いました。遙かに忠実です」(西野哲史氏)

西野氏は、発掘・探検番組も多く手がけてきた。なぜ4Kで?

「1999年から10年間、唐招提寺の金堂の平成大修理を、密着取材しました。その時、BSハイビジョン放送が始まる前でしたが、これはぜひHDで撮影しなければと思いました。歴史的に貴重な映像なのだから、後世に遺すために、その時代の最高の画質で撮るべきです。後世の人から、内容はよいが、画質が残念と言われないようにです」(西野氏)

「エジプト3大美女」ネフェルティティの墓が隠されている?

今回の「隠された伝説の王妃~ツタンカーメン墓の真実」は2015年11月の撮影だから、まだまだ4Kは普及していなかったが、同じ思いで、いま得られる最高の画質である4Kで制作することを決断。ソニーFS-7というコンパクトなカメラで撮影した。2015年の4K撮影に至る道のりを解説してもらった。

「1998年から王家の谷で、ツタンカーメン墓を発見したハワード/カーター以来という、王族の墓を見つけるための発掘プロジェクトが始まりました。国際調査団ARTP(アマルナ王墓プロジェクト)を率いる、元米アリゾナ大学上席エジプト学者のニコラス・リーヴス氏が、ツタンカーメンの義理の母で、エジプト3大美女のひとりとされるネフェルティティ王妃の墓が、王家の谷に盗掘されないまま残されていると睨んだのですね。ところがなかなか発見できない。1998年から5年に亘ってARTPが発掘調査を行いましたが、失敗に終わりました。その後は、空白期間が続きましたが、リーヴス氏は、2014年、文化財保護団体によるツタンカーメン墓内部の壁面に対して行われたレーザー調査のデータに衝撃を受けます。埋葬室の北の壁に、奥に続く空間の入り口とも考えられるような亀裂が見つかったのです。ひょっとすると、その奥に後に女王となったネフェルティティの墓が隠されているのではないか?リーヴス氏自身、まさかと思う仮説でしたが、調べれば調べるほど、間違いないと思うようになり、そこで2015年の地中レーダーを使う調査に進むのです」(西野氏)

元米アリゾナ大学上席エジプト学者、ニコラス・リーヴス氏。「この裏には、ネフェルティティ女王の墓があると睨んでいます」

ツタンカーメンの黄金色の輝きは感動的

2015年11月、TBSの4Kチームと、アメリカのナショナル・ジオグラフィックの2チームが、地中レーダー探査の映像取材を行った。

墓の内部は狭く、カメラマン、VE、照明、ディレクターなど多数が入るから、より窮屈だったという。4Kの初期にコンパクトなカメラで撮影された番組だが、4Kらしさが横溢している。

ツタンカーメンのマスクのまばゆいばかりの黄金色の輝き、そのすべらかな立体感、グラテーションの推移は、確かに4Kで見ると感動的だ。特にアップになった時の表面の薄い黒の筋や傷がリアルなこと。反射の眩しさが、とても高貴だ。ツタンカーメンの黄金の棺が安置されている部屋の壁画の鮮やかさと、細かな凹凸とその細やかな質感再現は見事。

ツタンカーメンの黄金のマスク。

「私は必ず発見できると信じています」

世界的な地中レーダー探査の第一人者、渡辺広勝氏が埋葬室の北の壁にレーダ波を当てた時、「この奥に何かがある、自信があります。グッドデータです」と、反射パターンを示す画面を見ながら言った。この時の発掘は、ここまでで、奥に続く空間に、果たしてネフェルティティの墓が隠されているかを探るのは次回の発掘に託された。

世界的なレーザー探査の第一人者、渡辺広勝氏がツタンカーメンの墓の壁画を探査する。

「発掘の愉しさとは、”時間への冒険”です。歴史になかった事象を発見する面白さは他に、比肩するものがありません。かつては”空間の冒険”にも挑戦しました。エベレストを熱気球で超える冒険番組も企画しましたが、風が弱く、パイロットが挑戦を断念、降下途中に岩肌に気球の球皮が接触して墜落するアクシデントに見舞われました。アンデスのシカン遺跡での発掘でも数多く番組を制作してきました。発掘の密着モノは失敗することが多いのですが、シカンでは奇跡的にうまくいって、南米大陸最大級の貴重な黄金墳墓を発見することができました。今回のネフェルティティの墓は、まだ見つけることはできていませんがが、私は必ず発見できるものと、固く信じています。地中レーダーを担当された渡辺さんは、残念ながらお亡くなりになりましたが、彼が生前におっしゃっていた『この壁の奥には人工の構造物があることは100パーセント、間違いない』を信じています。世界の遺跡の調査を数多く手がけてきたあの地中レーダー技師がいうことなのだから、絶対の信頼をおいています」(西野氏)

次回の発掘がとても楽しみだ。「次回は、出来れば8Kで撮りたいと考えています。その時代の最高の画質で記録しないと、後世の人に失礼ですから」と西野氏は言う。次回は未定だが、果たして、21世紀最大の考古学的発見になるか。実現の時を待とう。

「隠された伝説の王妃」の今後の放送予定

BS-TBS 4K
10月30日(金)18:30~19:30
11月10日(火)18:30~19:30
11月19日(木)18:30~19:30
11月28日(土)14:00~14:54

BS-TBS
11月28日(土)14:00~14:54

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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