【ネタバレあり】シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 見どころレビュー「綾波からゲンドウへ」シンジの成長を描く最終作

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3月8日に全国で公開された映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」。26年にわたって展開されてきた「エヴァ」シリーズの最終作として注目を集めていますが、公開1週間で33億円の興行収入をあげる大ヒットとなっています。この「シン・エヴァ」の見どころを解説します。

「エヴァ」シリーズとは

「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズは今や“国民的アニメ”として知られていますが、最初は1995年10月から96年3月の夕方に放送されたテレビアニメでした。主人公が世界の命運を握る「セカイ系」作品の先駆けとも言われ、放送当時はその斬新なストーリーから様々な議論がわき起こった作品です。

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1997年3月には「シト新生」、7月には「Air/まごころを、君に」、98年3月には「DEATH (TRUE)^2」が劇場公開され、社会現象となりました。ここまでの展開は「旧劇」と呼ばれ、21世紀に入ってから展開されている「新劇」と区別されています。

1998年に「旧劇」の展開が落ち着いてから約10年後の2007年、「新劇」こと「エヴァンゲリヲン新劇場版」が新たに始まります。これは4部作が予定されており、「序」が07年9月、「破」が09年6月、「Q」が12年11月に上映されました。それから遅れること9年。「新劇」の最終章となる「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」が3月8日に公開されました。

序破Qで描かれた綾波レイとのつながり

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の内容に入る前に、「序」「破」「Q」の内容について触れたいと思います。

「序」では、テレビ版の前半部分のリメイクと言える内容で、主人公の碇シンジとヒロインの綾波レイとの関係が描かれます。「破」から「新劇」のオリジナルストーリーが本格的に展開されていき、式波・アスカ・ラングレーという新キャラクターも登場します。TV版では惣流・アスカ・ラングレーという名前でしたが、別のキャラクターとして描かれています。「破」でも物語の主軸はシンジと綾波レイとの関係を軸に描かれており、「破」の最後ではシンジがレイを想うあまり、「ニアサードインパクト」という世界の変革を起こしてしまいます。

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「Q」では、シンジが「破」から14年後の世界で目を覚ますところから始まります。シンジはレイに会いたいと思うあまり、周囲の意見を無視する形で、本来いるべき居場所を抜け出してしまいます。しかし、シンジが想うレイは既にいないこと、そして世界の真実を知ります。そしてレイがいなくなった「ニアサードインパクト」後の世界を変えるべく行動を起こしますが、結局は自分の独りよがりであることを突きつけられる形で失敗してしまいます。

「序」「破」「Q」共に、シンジとレイの関係が基軸として描かれており、シンジの行動の動機にはレイの存在が常に関わる形で描かれています。

シンでやっと父ゲンドウと向き合う

ところが、「シン・エヴァンゲリオン」では、この構図が一変します。それまで綾波という存在が常に行動のきっかけだったシンジに変化が訪れるのです。

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「シン」では、シンジはどん底で生きる気力もないような状態からスタートします。やがて綾波レイではないアヤナミレイ(黒いパイロットスーツを着ていることから、「黒波」とも呼ばれています)の人間としての成長に従い、シンジも心を開くようになり、立ち上がります。

このきっかけとなったシーンが、アヤナミからS-DATのウォークマンをシンジが受け取るところです。このウォークマンはシンジの父ゲンドウがかつて使っていたもので、作中ではシンジが自分の世界に閉じこもるツールとして描かれています。シンジはウォークマンを一度ははねのけますが、アヤナミに再び渡され、受け取ります。この時、シンジは父ゲンドウと話をしなければならないと決意しているのが、「シン・エヴァンゲリオン」の最大の特徴であるとも言えます。

三幕構成におけるシンジの成長

三幕構成とは

ハリウッドを中心に、映像作品では「三幕構成」と呼ばれる型で構成されることが多いです。これは一つの物語を「第一幕」から「第三幕」の3つの幕に分けたもので、時間配分がおおよそ1:2:1になるのも特徴です。

「第一幕」では主要登場人物の日常を通じて設定や欲求が描かれ、その日常が壊される出来事が起きます。その出来事をきっかけに主人公はある決意をし、第二幕へと移ります。第二幕では、第一幕での決意をもとに、そこから生まれた物語を通じた目標を成就すべく様々な試行錯誤が描かれます。この目標は達成してしまったらそこで物語が終わってしまいますので、様々な試練が主人公を襲いかかります。そしてその過程で主人公は変化をし、物語の解決となる新たな決意をします。そしてその新たな決意を達成するべく、第三幕が描かれ、物語が解決します。

新劇の「プロットポイント」に着目

この構造は、新劇のエヴァンゲリオンシリーズでも守られています。特に第一幕と第二幕をつなぐ役目を果たす主人公の決意のきっかけとなるシーンは「プロットポイント1」と呼ばれます。そして第二幕と第三幕をつなぐ役目を果たす新たな決意のきっかけとなる場面は「プロットポイント2」と呼ばれ、こちらも物語上重要な役割を果たします。

この「プロットポイント」に着目してみると、「序」「破」「Q」においていかにシンジにとってレイが最重要キャラであるかを物語っています。例えば「序」においては、シンジは作中で2回エヴァに乗るという決意をします。これがプロットポイント1とプロットポイント2にあたると筆者は考えていますが、プロットポイント1の動機が形成される瞬間は、負傷中のレイがシンジの代わりにエヴァに乗せられそうになるところ、そして2度目のエヴァに乗る決意のきっかけは、レイに「さよなら」と言われる場面だと捉えています。

最重要キャラは「レイ」

「破」や「Q」でも同様に、プロットポイント1と2の双方においてレイの存在がシンジの行動のきっかけとなっており、いかにレイが最重要キャラであるかがうかがえます。

ネタバレになりますが、レイは、初号機のシンクロテスト中に事故で亡くなったシンジの母・碇ユイの情報から作られた、いわば母親のクローン人間のような存在であるため、いつまでたっても母親離れできないシンジという見方もできるかと思います。それが、「シン」になってようやくレイという母親的存在から、父ゲンドウに向き合う決意をシンジは示しました。これまでになかった大きな成長をシンジは見せていくことになります。

父親との対峙、エヴァに乗らないという決意

第一幕で描かれる「ニアサー」後の世界

「シン」の第一幕では、第三村と呼ばれる人類の生き残りが集う村を舞台に、ニアサードインパクト後の世界が描かれます。「Q」ではこの世界が、人類が絶滅したかのように絶望的に描かれていましたが、「シン」では生き残った人達が幸せに暮らす様子が希望的に描かれています。

「Q」による大失敗から心を閉ざしていたシンジでしたが、黒波ことアヤナミレイとの関わりから、村の人達と生活にすることを決めます。その生活は順調にいっていましたが、アヤナミが第三村での生活に体質的に限界があることから、寿命を迎えてしまいます。

アヤナミが寿命を迎える直前、シンジは一度はねのけたS-DATのウォークマンを受け取ります。ここで、シンジは世界改変の元凶である父ゲンドウに話をつけにいくという決心をします。その後シンジの目の前でアヤナミが限界を迎えますが、このアヤナミの喪失をその後の行動の動機としていないあたり、シンジの変化がうかがえます。

その後、葛城ミサトが率いるゲンドウと世界の命運を賭けて対峙する組織「ヴィレ」の艦隊が第三村を訪れ、シンジは父ゲンドウとけりを付けるべく、ヴィレの艦隊に乗り込みます。物語はこうして第二幕に移っていきます。

第二幕の圧巻の戦闘シーン

第二幕では、ミサト率いるヴィレとゲンドウ率いるゼーレとの対決が描かれます。この戦闘シーンのクォリティはファンを9年待たせたにふさわしいとも言える、妥協のないもので、圧倒されることでしょう。ここではシンジはエヴァに乗って直接戦うことはありませんが、アスカや真希波・マリ・イラストリアスの活躍の末、ついにシンジはゲンドウと対峙します。

ゲンドウとは様々なやり取りがなされ、時には両者がエヴァに乗って戦うというアツい展開も繰り広げられます。その末、シンジは元は父の持ち物だったS-DATウォークマンを返します。シンジは父も自分と同じ悩みを世界に対して抱いていたことを理解し、エヴァのない世界を構築することを決心します。ここが、プロットポイント2と言える部分だと言えます。

第三幕はエヴァの存在しない世界へ

第三幕では、「旧劇」のエヴァさながら、ひたすらシンジの心情描写が描かれます。「序」「破」「Q」と「新劇」シリーズに出てきた場面が再登場し、また「旧劇」との関係性も示唆されます。そして最後は、時系列通り28歳となったシンジが駅のホームに居ます。声も大人の男性の声に変わっています。そして駅の場所が山口県の宇部新川であることが明確に描写され、ドローン撮影された市街地へと場面が引いていき、終劇となります。

この市街地はかなり実写に近く描かれており、エヴァの存在しない我々の居る現実世界であることが強く描かれています。

宇部新川が描かれた理由

なぜ、宇部新川駅が最後に登場したのでしょうか。理由としては、エヴァシリーズの制作者である庵野秀明監督の出身が、この山口県宇部市だからではないかと考えられます。そしてシンジが現実世界では宇部市の住人とみることで、宇部市で大学進学まで生まれ育った庵野監督の原体験を、碇シンジに投影しているのではないかとも解釈できます。

これまでの作中においても宇部市ゆかりのものは登場しており、例えば宇部市に実在するラーメン屋「一久ラーメン」が、劇中のカップラーメンの商品名として登場しています。

当の宇部市でも、地元の社団法人「宇部観光コンベンション協会」のホームページではエヴァの「聖地」としての観光案内がされており、地元でも受け入れられているものと言えるでしょう。

今後は「聖地巡礼」にも期待か

「シン・エヴァンゲリオン」では、これまでシンジと綾波レイを軸に描いてきた物語が、ゲンドウという父親に向けられた作品だと言えます。そして父と向き合い、父の葛藤や苦悩をシンジが受け入れたことで、少年は大人となり、世界が救われました。

新たな舞台も登場しました。元々「エヴァ」シリーズは第三新東京市の舞台として神奈川県の箱根が登場しており、既に「聖地」としての盛り上がりを見せています。「シン」では新たに先述の宇部新川が登場したのに加え、第三村の背景モデルとして、静岡県浜松市にある、天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅などが登場しています。こうした舞台モデルでも、今後エヴァと絡めた展開があるかもしれません。

「シン」で「エヴァ」シリーズが完結し、26年の歴史に幕を閉じる形になりますが、最後にシンジ達が現実世界に引き戻されたように、我々のいる世界では展開がまだまだ続くかもしれません。「聖地巡礼」をはじめ、今後も楽しみにしたいところです。

執筆者のプロフィール

◆文
河嶌太郎(かわしま・たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。Yahoo!ニュース個人では「河嶌太郎のエンタメ時報」を執筆、オーサーコメンテーターとしても活躍中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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河嶌太郎(ジャーナリスト)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERAdot.」「週刊朝日」「ITmediaビジネスオンライン」「乗りものニュース」「特選街web」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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