大ヒット上映中の映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」。公開から約3週間で50億円以上の興行収入をあげています。一方、生みの親である庵野秀明監督の制作現場に迫ったドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」がNHKで放送され、更なる反響を呼んでいます。「プロフェッショナル」から垣間見えた、新たな「シン・エヴァ」の見どころを解説します。

宇部新川駅から始まったドキュメンタリー

エヴァシリーズの最終章となる「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」。9年ぶりの新作というのもあり、3月8日に公開されて以降、シリーズ史上最高の大ヒットとなっています。19日にはTwitterの公式アカウントがネタバレを含む感想ツイートを促す内容を投稿し、事実上の「ネタバレ解禁」ともなりました。

この流れを受けてか、3月22日には「シン・エヴァ」の制作現場を4年間取材したNHKのドキュメンタリー「プロフェッショナル仕事の流儀」が放送され、大きな反響を呼んでいます。

ドキュメンタリーは、庵野監督の故郷、山口県宇部市の宇部新川駅のホームの階段を、監督自らがカメラを手に持ってホームの階段を駆け上がるところから始まります。同時に、「この男に安易に手を出すべきではなかった」と、取材を悔いるナレーションも流れます。

「シン・エヴァ」の“続編”とも言える構成

実はこの、宇部新川駅のホーム階段を駆け上がる場面は、「シン・エヴァ」の最後のシーンに繋がっています。「シン・エヴァ」では主人公の碇シンジが最後に、世界をこの現実世界のように改変し、宇部新川駅のホームにいるところで終わるからです。

「シン・エヴァ」では最後、実写のような映像で一貫して描かれており、アニメの世界から現実世界に回帰するような描かれ方で、この現実世界でハッピーエンドを迎えるような終わり方となっています。「プロフェッショナル」では、この“続編”のような形で、現実世界でどのような作品が作られたかをノンフィクションで描いています。

同時に、庵野監督が宇部新川駅のホームのベンチに座って思案にふける様子も描かれています。このベンチは作中のラストでシンジが座っていたところと同じであり、シンジと庵野監督を重ねているようにも見受けられます。

新劇でマリが新登場した理由

庵野監督を支える安野モヨコさんの姿

「プロフェッショナル」では、いかに庵野監督が命を削りながら作品を作っているかということ、そしてそれに振り回されながらもついていくスタッフと、庵野監督の妻で、漫画家の安野モヨコさんが陰ながら支える様子が描かれています。

画像: 新劇で登場した「マリ」 youtu.be

新劇で登場した「マリ」

youtu.be

この取材を受ける安野モヨコさんの様子が、作中の主要登場人物で、「シン・エヴァ」の最後でシンジのヒロインとして登場した真希波・マリ・イラストリアスのモデルではないかとTwitter上を中心に言われています。顔かたちも似ているのと、何より赤いメガネのフレームが印象的です。

マリのモデルは安野モヨコさんか

このマリというキャラクターは、2007年から展開されている、通称「新劇」と呼ばれている、4部作の劇場シリーズから登場する新キャラクターです。「旧劇」と呼ばれる、1995年から98年にかけて展開されている旧シリーズでは片鱗すら見せていません。

「旧劇」では最後、世界に男女2人だけ取り残される展開で終わりましたが、この時シンジの相手方を務めたのは惣流・アスカ・ラングレーでした。アスカは「新劇」では式波・アスカ・ラングレーと名前を変えて登場しますが、惣流と比べ大人しい性格である点や、シンジとの関係性も一歩置いている点などから、別人格のキャラクターとしてみる人も少なくありません。

「旧劇」ではシンジのカウンターパートを最後務めたのはアスカですが、「新劇」ではマリという見方もできます。しかし、なぜマリがシンジの相方を務めたのかは、視聴者の間でも議論を呼んでいました。

ところが、マリ=安野モヨコさんだと考えれば、納得もいきます。「プロフェッショナル」ではシンジ=庵野監督を重ね合わせている場面が描かれていましたが、であればこそ、マリが最後シンジの対役を務めるのが当然と言えます。

また、「旧劇」にマリが登場しなかったことも説明できます。庵野監督が安野モヨコさんと結婚するのは2002年3月で、「旧劇」の展開が終わってからの話です。2人が最初に出会ったのは結婚の5年前ぐらいと言われており、いずれにしても「旧劇」のテレビ放送が終わってからです。マリ=安野モヨコさんだと仮定すれば、まだ出会っていない「旧劇」に登場しないのも頷けます。

エヴァは庵野監督の“私小説”

「プロフェッショナル」では、随所に庵野監督の生き様を「エヴァ」に投影するような場面が見られます。監督自身は舞台にした理由を「秘密」としていましたが、作品の舞台である宇部新川が監督の故郷であることが説明されています。また、庵野監督が「世の中を憎んでいた」と振り替える、父親との関係性についても明かされています。「エヴァ」中でも、シンジの父、碇ゲンドウは世の中を憎むキャラクターとして描かれています。ドキュメンタリーを見れば見るほど、「エヴァ」は庵野監督の“私小説”ではないかという気もしてきます。

画像: www.evangelion.co.jp
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元々庵野監督は「風の谷のナウシカ」を指揮する宮崎駿監督の制作チームに加わってたことは知られています。当時宮崎駿さんは「人間を描くのがヘタ」と庵野監督を評していました。

「人間を描くのがヘタ」というのは庵野監督自身も自覚していたようです。そんな庵野さんが、苦手意識のあった人間を描くために、自分自身と徹底的に向き合って生まれたのが「エヴァ」だったと考えられます。「エヴァ」ではその人間の内面が徹底的に描かれており、今や庵野監督を「人間を描くのがヘタ」と言う人はまずいないのではないでしょうか。

「エヴァ」の魅力は、独特の世界観やメカの設定だけではなく、そこから裏打ちされた人間ドラマです。「プロフェッショナル」では命を削りながら作品造りに没頭する姿が描かれています。まさに「エヴァ」は、庵野監督の魂が形となった作品と言えるのではないでしょうか。

執筆者のプロフィール

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文◆河嶌太郎(かわしま・たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。Yahoo!ニュース個人では「河嶌太郎のエンタメ時報」を執筆、オーサーコメンテーターとしても活躍中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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