今、国内で販売されているシェーバーは、大きく4社。パナソニックに、マクセルイズミ。フィリップス、そしてブラウンです。フィリップスは世界トップシェアメーカーで、円形刃が特徴です。他の3社は網刃と振動刃の組み合わせです。そのなかで今年100周年を迎えるブラウンは、特に頑張っていると思います。今回は、ブラウン社のフラッグシップモデル「シリーズ9 Pro」をレポートします。
「6枚刃」がトレンドだが…
最近のトレンドは、刃の枚数を多くし「タッチはソフトに、カットは鋭く」を狙います。パナソニックとマクセルイズミのフラッグシップは「6」枚刃です。5枚刃でもかなり大きなヘッドですが、6枚刃はすこぶる巨大なヘッドを持ちます。私はマクセルイズミの6枚刃を持っていますが、ソフトタッチながら、鋭く確実な切れ味を見せてくれます。
しかし、大きくなったヘッドは、鼻の付け根に当てづらかったりします。なるべくコンパクトに、と設計されてはいるのですが、6枚刃ですから物理的な厚みはバカになりません。さらにシェーバーの刃面は基本的に平面であるので、この巨大な四角を動かすとすると尚更当たりにくくなります。
しかし、ヒゲ剃りは朝起きたり、出かける前の時間がない時に行います。どんな時でも、すぐ剃ることができる、小回りが利く、フットワークの良いシェーバーが欲しいのです。
6枚刃はある意味、巨大なアメ車を日本の狭い道で動かすようなもの。刃は枚数を増やすと性能は上がるものの、顔に当てにくい部分が出てきます。長所だけでなく、短所が出てくるんですね。
ブラウンのフラッグシップモデル「シリーズ9 Pro」をレポート
理想は「夕方ヒゲ」がないこと
さて、今の時代において、ヒゲで最大の悩みは、「夕方(ゆうがた)ヒゲ」だそうです。ヒゲが伸びる速さは、0.2〜0.4mm/日。1mmに足りません。しかし0.4mm、たった0.4mm飛び出すと、なんとなく顔が黒ずんで見えます。スキンケアが当たり前となりつつある今の若者には、特にいやでしょうね。
そのためには、刃をより肌に密着させ深剃りさせる必要があります。しかし、その分、肌も傷つくことが多くなりますので、その対応もしなければなりません。多枚刃ヘッドも、そのために磨かれてきた技術です。しかし枚数が多いからといってパーフェクトでないのは、前述した通り。
ここにブラウンは、どんな技術を投入してニーズを実現しようというのでしょうか?
重視したのは「密着」と「振動」
「深剃り」に必要なのは、ヘッドの高い密着性と、寝たヒゲやくせヒゲなど剃りにくいヒゲを確実にカットできることです。
まず密着性ですが、これを実現するために、ブラウンは「小ぶりのヘッド」と「前後40°の首振り」を組み合わせました。
「小ぶりのヘッド」ですが、「小さい」と言っても、4枚刃の「5カットシステム」が組み込まれていますので、それなりの大きさはあります。しかし鼻下などにはスッと入ります。顔の隅々まで楽に当てることができるギリギリの大きさとも言えます。
そして、その刃が動くのは前後のみ。巨大ヘッドには横に動くものも多いのですが、人の手は基本前後に動きます。要するに一番ナチュラルな動きをサポートするわけです。これは自転車、クルマと同じで、変な動きがしない方がコントロールしやすいです。
加えて、10,000回/分という高速でヘッドを振動させます。これが実にいい。刃にヒゲが引っかからずスッパリ切れます。シェーバーは長いヒゲは引っ掛かり、少しでも切れ味が悪くなるとヒゲがひっかかる感じで、痛い時もあります。私は、これが嫌で、普段はカミソリを使っています。ジレット社のフュージョンです。こちらもヘッドが振動します。発表された時、そんなに違うのかと思って試したところ、ヒゲの長さで剃り味が変わないのに驚きました。これが実によく、いまだに使っています。同様の考えでヘッド振動を取り入れたブラウン シリーズ9 Proは、ヒゲの引っ掛かりがありません。要するに、当てた分だけスッパリ切れるのです。
今まで逃していたヒゲも捉える薄い刃
次は、寝たヒゲ、くせヒゲへの対応です。これらのヒゲの特徴に「根元から」寝ている、くせがあるということが言えます。カミソリなら、刃をヒゲの根元に当ててカットしますので、ラクラク対応できます。
しかしシェーバーは、ちょっと違います。まず、寝たヒゲ、くせヒゲを網刃の目に誘い込みます。これは密着することで対応できますね。そしてカットするのですが、寝たヒゲ、くせヒゲは垂直でなく、角度が付いています。それをカットするためには、薄く、鋭い刃が必要なわけです。
今回は、前のモデルより30%薄い刃を使っています。より切りやすくなっているわけです。またヘッドが振動していますので、位置も変化します。これにより剃りにくくなる場合もありますが、剃りやすくなることもあります。つまり、今までよりカットできる可能性が増えるわけです。
「推し」といえる使用感
肌を持っていかれている感じは皆無
シリーズ9 Proを使っていますと、深剃りができるだけでなく、深剃りに付きものの「肌の表面が削れ、持っていかれる感じ」が皆無です。剃った後の肌の違和感もありません。今までそのために、ウェット環境などの提案がされてきましたが、完全なドライ コンディションでも問題ありません。私的には「推し」ですね。
ただモーター音が実に五月蝿くも、ありますが…
収納ケースにバッテリー内蔵
また、今回ブラウンがシリーズ9 Proのために用意したのは、ハード収納ケースです。デザインは、流麗ですが、私はドラキュラの棺のように見えます。ヘッドがやや高くなるように設計されているので、寝心地がとても良さそう。まあ、デザインは置いておくとして、最大の特徴は、ケースもバッテリー内蔵していることです。ヘッドを震わせることも関係していると思いますが、長期旅行でも安心です。
また、こちらはアルコール洗浄ができるように、専用洗浄機も付属しています。一時は大きいと人気が離れた洗浄機ですが、コロナ禍で衛生意識が高まり人気も復活したようです。ただアルコールは化学物質なので、私はUVランプの方がベターではと思います。そちらの方が、スペースも取りませんですし。
まとめ
ブラウンは、「シンプル」を信条とする大人のブランド。道具としての良さを追求するブランドです。今回の、シリーズ9 Proは、シェーバーの大きな課題である「深剃り時の問題」をかなり解決しています。一方、デザインはあくまでもシンプル。性能から言うと、控えめでもあります。今年、100年を迎えるブラウン社のフラッグシップ。買わないまでも、機会があれば自分の肌で実感していただければと思います。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。