【麻倉怜士の4K8K感動探訪】4Kなのにもったいない!? ナチュラルトーンの極致を見た「ヒロシのぼっちキャンプ」〈連載26〉

家電・AV

4Kで撮るとなると、プロデューサーもディレクターもカメラマンも編集者も「4Kだ!」と特別な意識を向け、4Kらしい、はっきりくっきりな画調を仕込むものだが、4Kのもうひとつの側面の、グラテーション再現の細やかさに着目して絵づくりする番組は、たいへん少ない。その意味でBS-TBS4Kで、12月22日と29日の22:00~22:54に放送された「ヒロシのぼっちキャンプ」は、たいへん貴重な4K作品だ。

生成りでナチュラル、そしてすべらか

毎週水曜日の同時間に、BS-TBS(2K)でレギュラー放送されている、芸人のヒロシがひとりでキャンプをするという、一時間番組の4Kバージョンだ。キャンプ芸人として有名なヒロシが車を駆ってキャンプに出掛け、スーパーで食材を探し、キャンプ場で設営し、薪を探し、火を起こし、調理し、食事し、寝て、翌朝、かたづけて去るまでの一連の行動を淡々と追う番組だ。

何が魅力といって、4Kなのに…という言い方はへんだが、実にまったりしているのである。

一般に、4K番組は解像感をしっかりと出し、色を濃く、コントラストを派手にという調子が多いが、「ヒロシのぼっちキャンプ4K」は、実に穏やかだ。解像感は人為的に強めず、強調感がなく、ナチュラルだ。色も派手でなく、はっきりいって薄い。

刮目は、階調感で暗部から明部まで、グラテーションがとてもこまやかなところ。黒を沈めてダイナミックさを演出したり、白を伸ばして煌めきを出したりという人為的な演出がまったくなく、実に生成りでナチュラル、そしてすべらかだ。まったくもって自然で、目に優しい4Kなのだ。それは番組のコンセプトを反映しているというのが、実に興味深いところだ。

BS-TBS「ヒロシのぼっちキャンプ」

bs.tbs.co.jp

もの凄く高度な遊び「ソロキャンプ」

「ヒロシのぼっちキャンプ」は、2018年に15分番組として13本制作された「Season1」から2年の空白期間を経て、2020年10月から時間を一時間に拡大した 「Season2」 になった。発想的に言うと決して、いまのソロキャンプブームから目をつけたものではない。それどころか、ブームと呼ばれるようになるはるか前から、それは考えられていた。

担当のBS-TBSのプロデューサー、高安恵司氏(編成制作局制作部プロデューサー)によると、「社内、社外に広く呼びかけた新番組企画募集から選ばれた番組」ということだ。それに応募し、みごと採用されたのが、伊藤正憲氏(プロダクション「テレコムスタッフ」のプロデューサー)だ。

「大学を出て、ヨーロッパやアフリカをスーパーカブで旅しました。泊まりはソロキャンプでした。その旅を通して、こう思ったのです。『すべて自分の責任で自分の時間を使うことができるのは、何て素晴らしいことなんだろう!』と。これは、もの凄く高度な遊びだと思いました。すべてが自分の判断で決まります。右と左の分岐では、自分でどちらかを決めなくてはならず、その結果も受け容れなければなりません。その感覚が、ソロキャンプにあると思うのです。自分で場所を決めるのを始めとして、テントの設営、調理、食事…とすべて自分の采配で決まります。自分で決めて、自分でやるというのは、男としてとてもかっこいいことです。ヨーロッパ、アフリカの旅で味わったその思いから、ソロキャンプの番組を提案したのです」(伊藤正憲氏)

BS-TBS「ヒロシのぼっちキャンプ」

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なぜタレントのヒロシにしたか。

淡々とした自然な流れが心地良い

なぜタレントのヒロシにしたか。

「ソロキャンプを誰にしてもらおうかと考えていた時、たまたま本屋でキャンプ雑誌を手に取ったのですが、その雑誌の表紙がヒロシさんだったんですね。もうそれを見た瞬間に、ヒロシさんに決めました。ソロキャンプは自分を見つめ直す内省的な営みです。その視点を共有できるのはヒロシさんしかいないと思いったのです」(伊藤正憲氏)

実は、私はこの番組が大好きで毎週、2Kおよび4Kを観ている。とても静謐で、心が落ち着くからだ。ヒロシのキャラクターもいい。決して、おれがおれがと出しゃばらず、人を避けてテントを設営する。その謙虚さ、誠実さ。進行パターンが決まっていることも、視る側の安心感につながる。次に何が来るかが容易に読めるから、慌てなくてよい。関東各地のキャンプ場に、自ら運転して向かう。途中で地元スーパーに立ち寄り、食材を買う。実は他人が映るのはここのみ。

「演出としては、ヒロシさんと人との触れあいを期待しますが、スーパーの店員さん相手に盛りあがるか否かは、仕込みではなく、すべてその場の流れに任せています」と伊藤氏は言う。サイトで人を避けて場所を選び、テントを張り、薪を集めて火を起こし、料理をして食べて朝を迎える。その淡々とした、自然な流れが、視る側にしては安寧で、心地良いのだ。

BS-TBS「ヒロシのぼっちキャンプ」

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「見たままを表現したい」

画質でも、こうした世界観が語られる。それは押しつけのない「内省的な画質」だ。画質に感心したので、初回から撮影を担当している、草柳徹也カメラマンに訊いた。

――「ヒロシのぼっちキャンプ」の映像は一貫して(2Kも4Kも)しっとりとし、階調が豊かです。コントラストを強調していません。どんな方針に基づいて、この誠実な映像を録っているのでしょうか。

「一言でお答えすると、『見たままを表現したい』と思いました。ご指摘の通り、なるべくコントラストをなくして、明るいところも暗いところも観せたい! です。コントラストが強いと、暗部がつぶれます。だからそのぶん階調を出してあげて、色の変化や奥行きを表現しています」(草柳カメラマン)

BS-TBS「ヒロシのぼっちキャンプ」

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――「ぼっちキャンプ撮影時のモットーは何でしょうか」

「心掛けていることは、時間を撮ること(切る、切り取る)です。季節は勿論、早朝やマジックアワーなど、その時その時の時間を大切に写したいと思っています。また、なるべくワンカットで編集できるよう、意識しています。短いカットの積み重ねだと時間を切ることになるので、ワンカットで長く見せて、ゆっくりした時間が際立つように心掛けています」(草柳カメラマン)

草柳カメラマンのつくる画質は、みごとに「ヒロシのぼっちキャンプ」の世界観と合致し、このナチュラルトーンには、「ヒロシのぼっちキャンプ」の価値がすべて反映されている。

◆文・麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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