1955年の発売以来、定番品として親しまれてきた「日清 フラワー」シリーズに、画期的な商品が仲間入りしている。それが、サラサラの小麦粉、ボトル容器入り、150グラムという小容量サイズを売りにした「日清 クッキング フラワー」だ。もはや、変化など起きないと思われていた家庭用小麦粉(薄力粉)の業界で、累計販売数1300万個という異例のヒットとなったこの商品の開発の裏側を、担当者に訊いた。
発売60周年の定番シリーズに異例のヒット!ボトル入りサラサラ小麦粉の人気の理由は?
<キーパーソンはこの人>
日清フーズ株式会社
加工食品事業部 第一部 営業グループ 主査
水田成保さん
浮かび上がってきた小麦粉への不満の数々
家庭用小麦粉(薄力粉)のロングセラーである「日清 フラワー」シリーズ。
1955年の発売以来、定番品として親しまれてきたが、発売60周年の節目の年に画期的な商品が仲間入りしたのをご存じだろうか。
それが、2015年2月に発売された「日清 クッキング フラワー」だ。
発売から約3年で累計1300万個を販売という、小麦粉としては異例のヒットを記録しているこの商品の開発を担当した、日清フーズ加工食品事業部の水田成保さんは、商品の特徴について次のように話す。
「日清 クッキング フラワーは、消費者のみなさんが小麦粉に対して感じている不満を解消するべく開発した、新しいタイプの商品です。従来よりもサラサラとした小麦粉であること、紙袋ではなく、業界初のボトル容器入りにしたこと、150グラムという小容量サイズになったことが特徴となっています」
持ちやすく、滑りにくい形状の150グラム入りボトル
日清 クッキング フラワー 150g
(実売価格例:198円)
新商品の企画・開発が始まったのは2011年の秋。外食や中食の利用が増加し、減少傾向となっている小麦粉の売れ行きに対して、何らかの打開策を講じなければいけないのではないかという危機感がきっかけになったという。
そして、水田さんがいう消費者の不満は、新商品のコンセプトを探るため、主に主婦層に行ったグループインタビューを通して浮かび上がってきた。
「容量が多くて、なかなか使い切ることができない、保管場所から取り出すのに手間がかかる、紙袋から粉を出しにくく、散らばってキッチンが汚れる、粉をふるうのがめんどうなど、さまざまな意見が出ました。我々が思っていた以上に、小麦粉に対する不満は大きかったのです」 (水田さん)
いわれてみれば筆者も、料理をする際、レシピに「小麦粉適量をまぶす」と書かれていると、手間を考えてためらってしまうことがあった。
グループインタビューの参加者でも、小麦粉を使うことを省略するという人が多かったため、開発チームはショックを受けたそうだ。
別の実態も浮かび上がった。
小麦粉といえば、容量1キロの紙袋が一般的だが、これはお好み焼きやケーキなどを作るため、1回に100グラム単位で使うことを前提にしている。
だが、多くの家庭では、肉や魚を焼くときに、10グラム単位で使うようなケースが多いことがわかったのだ。
粒が大きく均等な小麦粉も新たに開発
こうした実態を踏まえて、開発チームがたどり着いたのが「少量使い」というコンセプト。
そして、それを実現するために採用したのが、ボトル容器入りというアイデアだった。
しかし、ボトル容器の開発は、試行錯誤の連続だった。
「当初は、もう少し大きなサイズも候補にあったのですが、女性でも重いと感じることなく手に持てるサイズということで、150グラム入りに落ち着きました。その後は、調理中にサッと手に持っても滑りにくいくびれの形状を見つけるため、試作品を作っては評価するという作業を繰り返しました。3Dプリンターも活用し、社内外の人たちにも意見を聞きながら、何十種類もの容器を試しました」 (水田さん)
容器のキャップ部分にも工夫を盛り込んだ。
生姜焼きやムニエルなど、少量の粉をふりかけて使う際に利用する「ふり出し口」と、ホワイトソースなど、ある程度の量を計量スプーンですくって使う場合を想定した「すり切り口」という2タイプの口を用意したのだ。
そして、ボトルの開発と並行して進められたのが、小麦粉そのものの加工だ。
「従来の小麦粉を使えばよさそうなものですが、それだと粒のサイズがバラバラで、ふり出し口で粉詰まりを起こしてしまいます。そこで、独自製法により、粒を大きく均等に加工しました。同時進行で開発していたふり出し口とは、穴のサイズとの兼ね合いを調節する必要があったため、粉の試作についても何十種類にも及んでいます」 (水田さん)
独自製法の詳細は非公開だそうだが、から揚げ粉などで使われている技術を改良したものだという。
実際、日清 クッキング フラワーの粉を手にしてみると、通常の小麦粉よりも少しザラつくように感じられる。
水に溶かす際にダマになりにくいという特質もあり、粒が大きいことで、粉が舞ってキッチンが汚れる心配も減っている。
こうして、約3年半という異例の期間をかけて、日清 クッキング フラワーは完成した。
発売当初は、売れ行きの伸びは緩やかだったが、テレビCMを投入して認知度がアップしたことで、一時期は品薄になるほどの人気になった。
現在も、着実に売り上げを伸ばしている。
ボトルタイプの派生商品も生まれた
ヒット商品となった日清 クッキング フラワーは、現在、シリーズ商品も生まれている。
「日清 いろいろ作れるから揚げ粉」(現在は「いろいろ作れる味付け用ミックス」にリニューアル)や「日清 サク揚げ 天ぷら粉」「日清 小麦粉・卵いらず ラク揚げ パン粉」がラインアップされたほか、今年2月には「日清 水溶きいらずのとろみ上手」が発売された。
食卓のニーズを反映してボトルシリーズとして展開
クッキング フラワーのヒットを受けて、同社では、から揚げ粉、パン粉、天ぷら粉、片栗粉などのボトル入り商品を発売。
粉まわりに共通する不満をフラワー同様に解消しつつ、時短など現代のニーズに合わせた工夫を盛り込んだ。
日清 いろいろ作れる味付け用ミックス
130g(実売価格例:278円)
日清 サク揚げ 天ぷら粉
150g(実売価格例:248円)
日清 小麦粉・卵いらず ラク揚げ パン粉
80g(実売価格例:198円)
日清 水溶きいらずのとろみ上手
130g(実売価格例:278円)
「ありがたいことに、ボトルタイプのシリーズとしての認知が広がってきています。いずれの商品も、ボトルに従来の粉をただ移し替えただけではなく、使う人の不満を解消し、利便性をアップさせる価値も加えています。今後も、消費者のニーズをつかんだ商品作りを続けていきたいと考えています」 (水田さん)
最後に、日清 クッキング フラワーを使ったおすすめの料理を水田さんに訊いてみた。
「豚の生姜焼きやサーモンのムニエルなどは定番ですが、思いつきにくいところでは、冷しゃぶサラダもおすすめです。豚肉をお湯に入れる前に、両面を日清 クッキング フラワーでコーティングしておくことで、熱の入り方が穏やかになりますので、お肉がしっとり柔らかく仕上がりますよ」
●おすすめの料理
Memo
筆者は、日清 クッキング フラワーを1年以上にわたって愛用しており、片栗粉でも同様の商品を待望していた。2月発売の「日清 水溶きいらずのとろみ上手」もヒットの予感がする。
インタビュー、執筆/加藤 肇(フリーライター)
※表示の価格は記事制作時のものです。