ロボット掃除機が日本で普及するにつれて、困った問題が発生してきています。それが「ロボット掃除機の火事」問題です。2019年2月8日に東京消防庁が発表、Youtubeにも動画が載りましたが、ちょっとスゴい動画でした。特にヒーターが赤い電気ストーブを押しながら椅子に近づけていくところ等はちょっとドキドキ。私も愛用しており大変便利なロボット掃除機のAIをちょっと紐解いてみたいと思います。
アイロボット社CEOはなぜ「AI」という言葉を使わなかったのか
●ロボット掃除機と鉄腕アトムの違い
先日発表された『ルンバi7』。
「当初から作りたかったルンバ」としてiRobot社のCEO コリン・アングル氏が来日し、熱いプレゼンテーションをされました。しかし、その時、彼は「AI」という言葉を用いませんでした。
これにはいろいろな意味があると思います。
人型のロボットというと日本では手塚治虫氏の「鉄腕アトム」。天馬博士が亡くなった自分の子供に似せて作ったロボットですが、搭載された人工知能は、ほぼ白紙の状態。学校でいいこと、悪いことを学んで行きます。これはアトムが、特に目的を持たずに作られたためです。人の子と同じです。国家的な見方をすれば「将来の労働力」なのですが、親から見るとそうではないですね。親の愛の結晶、「無目的」です。
ところが、ロボット掃除機はそうではありません。「自動で掃除を行う。」その結果、「オーナーに掃除することが必要なことを感じさせない。掃除自体を忘れさせる。」という大目的があります。これをするために、作られたのがロボット掃除機です。「自由思考」の入り込む余地はありません。
この場合、AI(人工知能)ではなく、やはり「プログラム」という表現の方がしっくりきます。そこの違いを十分承知しているコリン・アングル氏。そのためAIという言葉を使わなかったと思います。
ロボット掃除機の「想定外」はなぜ起こる?
●ロボットにはプログラムが入っている
アトムのように自分で考え、判断しないということは、誰かがこんな時にはこうすべきと判断したプログラムが入っているわけです。ここで差が出てくるのが「想定外」です。
例えば、暖房。欧米では、部屋全体を暖める全体暖房です。暖炉、ストーブ、壁脇のスチーム。日本の様に、部屋ごと、もしくは部分的に暖めることは、そんなに多くありません。何を言っているのかというと、冬の日本のように電源ケーブルが転がっていないということです。アメリカと日本の文化の違いが「想定外」を作るのです。
●日本で起こったロボット掃除機の「想定外」の例
ロボット掃除機は、掃除を終えて、元の位置へ戻るようにプログラミングされています。途中でケーブルに引っ掛かっても「全力で」、元の位置へ帰ろうとします。多分この振り切る時のパワーが一番強く、大人でもちょっと持てあます位。
ケーブルにつながっている家電が、ロボット掃除機のパワーに力負けしたとすると、その家電は意識しない方向に引っ張られてしまうということもあり得ます。
本来、ケーブルが床に落ちているのも想定外なら、電気ストーブがONの状態で、ロボット掃除機を使用するのも想定外です。
大きな動作音で掃除するロボット掃除機は、人が近くにいない前提だからこそ、騒音に気を配っていないわけです。人が居ないわけですから、電気ストーブはOFFのはず、と想定されているはず。
要するに人がいない電気ストーブが付きっぱなしの部屋で、ロボット掃除機を使うのは、まず設計時から言うと想定外だったと思います。
この想定外が原因で、火事が起こった例があるのです。
想定外を防ぐために大事なこととは?
●各メーカーが注意喚起を発表
これを受けて、ロボット掃除機メーカーには取り扱いの注意喚起を行うよう、東京消防庁より指導があったようです。
例えば、アイロボットジャパンは以下のような注意喚起を発表しています。
東京消防庁予防部より、ロボット掃除機を所有する消費者様宅の無人の室内において、電気ストーブがロボット掃除機に押されるなどして移動し、家具などが焼損する火災が発生したことから、ロボット掃除機の普及に伴う同種火災の再発防止と安全確保を図るため、ご利用者に向けて、ロボット掃除機の取り扱いに関する注意喚起を行うよう連絡がございました。
そのため、弊社では、同種の火災の発生防止を図り、ご利用者の皆様により安全かつ快適にご利用いただくために、ロボット掃除機の使用時の安全上のご注意として、以下の点を注意喚起させていただきます。
・ ロボット掃除機本体が接触することで、向きが変わったり、倒れたり、あるいは操作部が押されたりすることにより、火災、けが、事故、故障をまねく恐れのあるものは、ロボット掃除機の使用前に安全な場所に移動させてください(例えば、石油ストーブ、ガスストーブ、電気ストーブ、扇風機、加湿器など通電した状態の電化製品各種、それらのホースまたはコード類、火のついたろうそく・たばこの吸い殻等が入っている灰皿、花瓶)
・ 上記のものが電気ストーブ、扇風機などの電化製品である場合は、ロボット掃除機の使用前にコードを抜いて移動させてください
・ 火気のある場所や引火性の高いものの近くで使用しないでください
・スケジュール機能を使用してご不在の状況で使用される場合に、上記に特にご注意ください
iRobotのアプリでも注意事項が増えています。
●肝心なのは初回の動作確認
このように、ロボット掃除機が対処できないところは人力でキレイにして、ロボット掃除機が全体をキレイにできる様に、助けてやって欲しいということです。
このためには、初回、ロボット掃除機を見ていてやらなければなりません。私もルンバが乗り越えられる厚みの敷物をそのままにしていて、その敷物が「軽すぎた」ために、ルンバに絡まりトラブルを起こしたことがあります。トラブルと言っても掃除が途中でできなくなっただけですが・・・。しかし、それ以外予定通りだったので、敷物を椅子の上に上げて掃除させてみると、ルンバは期待通りの成果を上げました。
ロボット掃除機は赤ちゃんと同じ
●使える部屋は「安全」な部屋といえる
お掃除ロボットを眺めながら思ったことは、「赤ちゃんと同じだなぁ」ということです。
新婚時の部屋は大人用です。しかし、赤ちゃんができると、部屋は激変していきます。ぶつかっても怪我しないように、ゴムで家具の角を抑えたり、コンセントにカバーを付けたり、ちょっとでも安全しようとします。赤ちゃんは、大人から見ると本当にとんでもない動きをします。
この気まぐれな赤ちゃんより、ロボット掃除機ははるかに制御された動きを見せます。しかし、オーナーの考えた通りに動いているのかは、実際に確かめた方がイイわけです。これが初回の「見守り」となります。この時、電源ケーブルが剥き出しのようなところは、修正していけばいいのです。これ見方を変えると、老人などが躓くところを、ロボット掃除機が見つけてくれているようにも見えます。逆な言い方をするとロボット掃除機が使える部屋というのは「安全な」部屋とも言えます。
火事を起こす可能性があるから使えないではなく、安全に過ごせる部屋なのでロボット掃除機が使えるという考え方の方がベターだと思います。
まとめ
●買う前に「レンタル」で試すのも一つの手
ちなみにルンバの製造元iRobot社は、ロボット掃除機のレンタルをしています。5000〜7000円で15日間。価格は機種によって変わります。実際に買う前に、自分の部屋ってどうだろうかと試すのも一つの手です。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング、ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。
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