オーディオ機器に関する技術は日本のお家芸ともいえる。5月にオンキヨーが開発を発表した「バイオミメティクス振動板」は、その最新版である。生物を模倣して製品に生かすアイデアもユニークだが、それを量産する技術も並大抵ではない。
トンボの羽と貝殻で軽量かつ高剛性に
●オンキヨー
バイオミメティクス振動板
オーディオ機器に関する技術は、日本のお家芸ともいえる。特に、スピーカーの素材技術は、日本のメーカーが開発したものが多い。
5月にオンキヨーが開発を発表した「バイオミメティクス振動板」は、その最新版である。
電気信号を空気の振動に変換するスピーカーの振動板は、軽くて硬いことが正確な音、いい音の条件となる。古くは紙や布系の素材が使われてきたわけだが、現代では新素材や新工法も多く投入されている。
同社の場合、コーン(振動板)にトンボの羽のデザインや貝殻の立体構造を取り入れている。このように生物の構造を研究し、工業製品に応用する技術を「バイオミメティクス」という。
トンボの羽は薄く軽いのに、高速の羽ばたきが可能な強度を持っている。そこに注目し、その構造を研究・解析して振動板のデザインに応用し、高度な制振性と軽量化を実現。同様に、貝殻の立体的なリブ構造も強度アップに生かされている。
スピーカーの命、振動板の素材から独自開発
実は、この振動板の素材も、同社が独自開発した。
もともと、同社のスピーカーには鉄の5倍の強度を持ちながら、鉄の1/5の重量しかないCNF(セルロース・ナノファイバー)素材が使われている。
これが、ナノレベルの細かな植物繊維(セルロース)を使用したバイオマス(生物由来の資源)の素材で、同社が世界で初めてスピーカー振動板の開発に成功したものだ。
新世代の独自素材を使って、独自構造の振動板を作る。まさに、連綿と続いてきたスピーカー開発が成せる、ワザの結晶である。
●解説/福多利夫
ホビーや家電、デジタルグッズが大好きで、その仕組みが気になっちゃうフリーライター。家電製品協会認定の家電総合アドバイザーでもある。
イラスト:中山昭(絵仕事 界屋)