今注目の食パン専用トースター「三菱ブレッドオーブン」開発秘話 普通のパンがおいしくなる理由

調理家電

一般的な商品の数倍という価格も珍しくないが、それにもかかわらず好調な売れ行きが続いている高級家電。各社がしのぎを削る高級トースター市場で、後発ながら大きな注目を集めているのが、三菱電機の「ブレッドオーブン」だ。

話題の商品徹底解剖!三菱電機「ブレッドオーブン」のキーパーソンに訊け!

老舗から新興までメーカー各社がしのぎを削る高級トースター市場で、三菱電機が2019年4月に発売した「三菱ブレッドオーブン TO-ST1」が大きな注目を集めている。「1枚焼き」という思い切った仕様と約3万円という価格ながら、パン本来のおいしさを最大限に引き出したトーストが堪能できるこの商品。開発の裏話や使われている技術の秘密などを、担当者に訊いた。

●キーパーソンはこの人!

三菱電機ホーム機器株式会社営業部家電営業課グループリーダー
八百幸史晃さん

まず、トーストという枠組みを取り払った

圧倒的な高性能やこだわりの技術、ほかとは一線を画すデザインなどが魅力の高級家電。同ジャンルの一般的な商品の数倍という価格も珍しくないが、それにもかかわらず好調な売れ行きが続いている。

三菱電機が2019年4月に発売した「三菱ブレッドオーブン TO-ST1」(以下、ブレッドオーブン)も、そんな商品の一つだ。老舗から新興までメーカー各社がしのぎを削る高級トースター市場で、後発ながら大きな注目を集めている。

ブレッドオーブンの商品企画を担当する三菱電機ホーム機器の八百幸史晃さんは、商品コンセプトについて次のように話す。

「ブレッドオーブンは、食パンをおいしく食べることにこだわって開発した商品です。丁寧に焼き上げて香りと旨みを封じ込めることで、パン本来のおいしさを最大限に引き出した“生トースト”を楽しめます」

[三菱ブレッドオーブン]

ブレッドオーブンの開発スタートは2015年。開発チームは最初に、商品の方向性を決めるため、消費者のトーストの実態を調査した。

その結果、多くの人が、食パンは焼きたての状態がいちばんだと認識しながらも、買ってから日数がたってしまったときや価格の安い食パンを食べる際にトーストしているということがわかった。

つまり、おいしくないパンをごまかすためにトーストを選んでいるケースが多いというのだ。

「多くの人にとって、トーストは“妥協の産物”なのかもしれないとわかった以上、その枠組みの中でおいしさを追求するべきではないと考えました。そこで、とにかくおいしく食パンを食べるにはどうしたらいいのかという、独自のアプローチで開発を進めることにしました」

デンプンのα化により張りと甘みが出る

開発チームが目指したのは、トーストすることでパンの香りと甘み、食感を引き出し、焼きたての状態に近づけること。これを実現するには適切な加熱と、パン内部の水分量のコントロールが必要になる。

そこで考え出されたのが、ヒーターの熱とともにパンから出た水分(蒸気)や香りを狭い庫内に閉じ込める「密封断熱構造」だ。

「ブレッドオーブンは、上面(上蓋の部分)と下面(パンを加熱するプレートの下部分)にフラットヒーターを内蔵し、密閉シールで庫内を密閉する構造になっています。

これにより、ヒーターの熱とともに、パンから出た香りや水分が庫内に充満。パンを効率よく加熱すると同時に、香りや水分はパンの内側や耳部分にも移動します。焼きたてよりも強い香りと、ふんわりしっとりとした食感が際立つ焼き上がりは、この仕組みで実現しているのです」

近接ヒーターで食パン表面に素早く焼き色がつくと同時に、狭い庫内で蒸気が飽和し、パン表面の水分はパンの内側に移動する。さらに、パン内側の水分は、水分の少ない耳へと移動する。

パンを加熱すると同時に、香りや水分はパンの内側や耳に移動します。

これはいわば、蒸し焼きのような状態を作っているわけだが、庫内の十分な熱と水分は、別の面でも役立っている。硬くぼそぼそした食感で甘みが弱いパンであっても、熱と水分が加わることでデンプンのα化が起こり、張りのある食感と甘みを取り戻すことができるのだ。

ブレッドオーブンは、近接ヒーターを採用している。熱源がパンに近いほど、水分を逃さずに素早く焼けるためだ。また、庫内をギリギリまで狭くすることで、加熱効率をさらに高めている。

1枚焼き」という思い切った仕様は、開発チーム内でも議論があったというが、おいしさを最優先したことの結果だ。

ところで、加熱や水分、デンプンのα化というキーワードからは、多くの日本人にとっての主食であるご飯のことが頭に浮かぶ。パンを焼くことと炊飯には共通点が多いのだろうか。

「三菱電機は、業界初となるジャー炊飯器を1972年に発売しており、現在も、IHジャー炊飯器を発売しています。当然、その開発で培われた技術はブレッドオーブンにも応用されています。

実は、ブレッドオーブンの開発チームのリーダーは、炊飯器の開発チームに在籍していたんです。パンよりもご飯が好きな人間だからこそ、独自の開発アプローチにたどり着けたという面はあると思います」

ブレッドオーブンの開発リーダーは、炊飯器のチームに在籍していました。

ブレッドオーブンは、ダイニングテーブルに置いて焼きたてのパンをすぐに食べるというシーンを想定している。そのため、デザインは木目調でシンプルな形状になっている。食卓に置いて、じゃまにならないサイズ感も特徴だ。

期待を上回る衝撃的なおいしさ

天板を木目調のデザインにするなど、ダイニングテーブルにもなじむシックでシンプルなデザイン。キッチンではなく、食卓で調理したてのパンを一枚一枚味わうというコンセプトは、従来のトースターとは明らかに異なる。

さて、筆者も自宅でブレッドオーブンを試用してみた。

操作ボタンは非常にシンプルにまとめられており、使い方はとても簡単だ。プレートにパンをセットしたら上蓋を閉め、トーストの種類(普通/冷凍/トッピング/フレンチ)、パンの厚さ(4/5/6/8枚切り)、焼き色(5段階)を選んでスタートする。

まず最初に、コンビニで売られている食パンの6枚切りを、普通の焼き加減でトーストしてみた。ガラス窓がないので、パンが焼かれている様子を見ることはできないが、焼き上がりに近づくと庫内の蒸気が放出され、漂うパンの香りに期待が高まる。

操作パネルも、いわゆる普通の白物家電っぽくないおしゃれなデザイン。調理の種類、パンの厚さ、焼き色という三つの設定を、文字を使わず、マークの選択で直感的に素早く行えるようになっている。

焼き上がったパンは、ムラなくキツネ色に焼けている。手に持ってみると、水分量が多いためか、ほんの少しだけ重く感じる。また、耳の部分までとても柔らかいのが印象的だ。

そして、食べてみてビックリ。「外はサクサク、中はふんわりしっとり」という前評判は聞いていたのだが、期待を上回るおいしさだ。正直、ここまでの違いがあるとは思っていなかった。衝撃的といっても過言ではない

普通のトーストを楽しんだ後は、トッピングトーストとフレンチトーストも試してみた。どちらも、とてもおいしい。特にフレンチートーストは、これまであまり好きではなく敬遠していたが、これならば「たまには食べたい」と思わせる味だ。

卵やチーズ、ハム、野菜などのトッピングもおいしく調理。パンの下や耳を焦がすことなく、トッピングした具材部分にまんべんなく熱が回る。

15分程度で焼き上げるフレンチトースト専用の調理モードも用意。適度に焼き色のついたフワフワの食感は、フライパンでの調理とは一味違う。

「ブレッドオーブンは現在、ネット販売のみで、十分なプロモーション活動も展開できていません。ただ、一度体験してもらえれば、商品のよさを実感してもらえるという自信はあります。今後も、地道な販売を続けて、ブレッドオーブンで焼いたパンのおいしさを多くの人に楽しんでもらいたいですね」

Memo
実は今回、切り餅と冷凍シシャモもブレッドオーブンで焼いてみたが、どちらもおいしかった。メーカー推奨の使い方ではないため自己責任だが、いろいろ試してみてもおもしろいだろう。

◆インタビュー、執筆/加藤肇(フリーライター)

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特選街web編集部

1979年に創刊された老舗商品情報誌「特選街」(マキノ出版)を起源とし、のちにウェブマガジン「特選街web」として生活に役立つ商品情報を発信。2023年6月よりブティック社が運営を引き継ぎ、同年7月に新編集部でリスタート。

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