きちんとお洗濯したのに部屋干しした衣類からニオイがするのは菌が原因です。このニオイを簡単に防ぐには、菌が死滅する60度以上のお湯で洗うといいのです。しかし日本の洗濯機に搭載されている「標準コース」は20度の水で洗うことが前提のコースなのです。今注目されているのが、乾燥機能がない「ドラム式洗濯機」です。今年、アクアとアイリスオーヤマの2社から発売され、売り上げを伸ばしています。
洗濯物は「部屋干し」する時代へ
今の日本は、部屋干しが当たり前になりつつあります。
1つは、空気が汚れてきたことにあります。特に、主要道路の近くでは、せっかく洗濯した衣類を干しても黒くなります。季節によっては花粉が付くこともあります。花粉症の人にはたまりませんよね。
2つめは、日本人の平均年齢が高くなってきたことです。洗い上がった洗濯物は水を含むので、軽くありません。1.5倍以上にはなるでしょう。この洗濯物を洗濯機からいちいち取り出し、干すのは結構な労力です。ならば近いところで干す。
細かい理由はさておき、部屋干しをする人が増えています。
部屋干しの弱点は「ニオイ」
しかし、部屋干しで困るのは、なかなか乾かないこと。そして、乾きが遅いと独特のニオイがすることです。このニオイがたまりません。
特に問題なのは、ニオイがあるものを再度洗ってもまた臭くなることです。
このニオイの源は「モラクセラ菌」。その菌が、洗濯で落ちきらなかったタンパク質、皮脂を分解するのですが、その特にニオイを発するわけです。要するに、今まで、外で乾かしていた=日光消毒(紫外線消毒)&繁殖ができないレベルまで速乾で、ニオイを封じ込めてきたのが、紫外線なし&遅乾のため、菌が増殖ニオイを発するというわけです。
ニオイですから、いろいろな対応法があります、それ以上の強い香りでイヤなニオイを感じさせなくする方法。カバー方法というべき方法ですが、菌が発するニオイはかなり強烈。これを覆い隠す香りは、同等レベル以上に強烈になるので、もはや「香り」というレベルを超えるでしょうね。
となると、「臭いニオイは元から絶たなきゃダメ!」というどこかの宣伝文句のようになります。無闇矢鱈に「漂白剤」を使う人もいます。まぁ軽めに作ってあるとは言え、漂白剤なので衣類は洗うたびに傷みますよね。その上、脱色も避けられません。また、繊維の奥まで染みこませて殺菌させるから、基本はつけ置き洗い。洗濯を「時短」したいと思っている人には余り向きません。
ドラム型は「室内干し」に適している。しかし…
他に方法はないのでしょうか?
あります。それは、熱湯消毒。「60℃」のお湯で洗うと、かなりの菌が死んでしまうのです。それ以上繁殖はしないので、臭わないわけです。このお湯洗い機能をドラム式洗濯機は搭載しており、店頭でアピールもしています。
多くの人は、ドラム式洗濯機を高級洗濯機と考えているでしょう。
ドラム式は元々は海外の洗濯機ですし、水をお湯にするためのヒーターもついています。縦型洗濯機と異なり、ドラムは横ですから、モーターの軸には思いっきり負担がかかります。作り難いものです。
しかし、2倍も3倍もするほどの違いではありません。しかし、なぜ、店頭で売られているドラム式の価格は高いのでしょうか。
ドラム式の「乾燥機能」は必要なのか
理由は、乾燥機能付きで販売しているからです。
つまり「部屋干し」に「必要な機能(お湯洗い)」を持った洗濯機=需要がある洗濯機を、「部屋干し」に関係のない「乾燥機能」を付けることにより、非常に買いにくいモノとしているのです。
泥汚れがなく、部屋干しが当たり前となった都会は、安価なドラム式洗濯機を必要としているのですが、多くのメーカーが売ろうとしているのは、ドラム式洗濯乾燥機なのです。
矛盾してますよね。
ユーザーのニーズにまともに向き合った2社
実は、このドラム式「洗濯機」のニーズにキチンと向き合っている会社があります。アクアとアイリスオーヤマです。
製品は、それぞれアクア「 AQW-FV800E」と、アイリスオーヤマ「HD81AR」。双方とも8kgです。
アイリスオーヤマは発売したてで、まだ値段がこなれていませんが、アクアは発売後、ちょっと経っていますので、10万円を割る価格で購入が可能です。アクアは業務用シェアNo.1の会社ですから、技術の方は心配要りません。コインランドリーでもアクアのドラム式洗濯機をよく見かけます。
標準コースは部屋干しに合わない
ここまで読んでくれた読者の中は「あれれ」と思われるでしょう。
今まで日本の家電メーカーが推進してきた「標準コース」とは、水温:20℃(東京の平均水温は16℃前後です)の水道水で洗うことが前提です。
日本で育った縦型洗濯機は、水をジャブジャブ使います。多くの水で、ガンガン槽にぶつけ、汚れをこそぎ落とします。子ども=泥んこだった時代には、確かに正しいやり方です。そうでないと泥汚れは落ちません。
ところが、日本は変わったのです。泥汚れは少なくなり、部屋干しが主流になったわけです。となると、洗濯機も変わるべきです。
しかし、多くのメーカーは、そうしません。それは多くの人が、「標準コース」が汚れを最もおとすと思い込み使い続けているからでしょう。
知り合いの女性に聞いて回ったところ、聞いた人全員が部屋干しのニオイに困っていました。さらに、洗濯物を層内に取り忘れた日には、もはや二度と着られないほどのニオイが付いてしまうとのことでした。案の定、全員使っているのは「標準コース」。
そこで、この「お湯洗い」の話をすると全員納得してくれます。誰でも、油汚れのお皿を、水と湯、双方で洗った経験がありますから、すぐ納得してくれるのです。
しかし、この「標準」という言葉には困ったものですね。
今年のメーカーの新製品でも、標準コースはそのまま。「お湯洗い」ではなく、AIで洗剤を無駄なく使える様にしました、スマホで終了時間を分かるようにしました、という「売り」文句が目立ちます。
確かにお湯洗い機能は、ドラム式では既設ですから売りにはなりません。温度はメーカー横並びですから、他社との差別化もできません。
海外の洗濯機に「標準コース」はありません。布種、汚れ具合で、温度を決めて洗うのが標準です。もし日本で販売している海外品に、標準コースがあったら、それは日本のしきたりで付けただけでしょう。
まとめ
洗濯機は、部屋干し標準になったため、ここ数年で大きく様変わりすることになると思います。
今年、乾燥機をなくしたドラム式が出始めたことは、ほんの皮切りに過ぎません。しかし、この発想が大手メーカーにはなかなかできない考えです。
これまで必要とされたものを切り捨て、新しいスタイルを完成させること。
これに成功したのは「ウォークマン」があげられます。
スピーカーを捨て、「個人」での視聴に特化した機能を残して成功したウォークマンのように、アクアとアイリスオーヤマは、日本では常識的に付いていた乾燥機をドラム式から捨てました。この結果、「部屋干し&安価なドラム式」の両方のニーズを満たす洗濯機が登場したのです。
実際に、「ドラム式洗濯機」の売り上げは上昇中です。最新機能が全部搭載されたフラッグシップモデルもよいのですが、多くのユーザーに求められているのは、現代型の生活に即した「ウォークマン型の製品」なのでしょう。日本の社会の変化と共に、メーカーも考えを変えなければいけません。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。