では、夜編の「月の肌触り」はどうだろう。「"月"に導かれて閉館後の誰もいない館内をめぐり、豊穣な闇の表現を堪能する」と番組案内にはある。山口誉人ディレクター(日経映像)に語ってもらった。2016年に、BSテレ東でオルセー美術館の紹介番組を制作した経験を持つ、美術番組制作のプロフェッショナルだ。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

光と影のコントラスト、立体感。白熊はその典型

「夜の美術館は、一般人としては誰も体験できない空間です。灯りがないので、いまいったい何時なのか分かりません。そこで、何回も時計を映すことで、時間を表示しました。表現では、光と影のコントラストにより、立体感を出すことにこだわりました。『白熊』は、その典型ですね」(山口誉人ディレクター)

「白熊」はフランス・ブルゴーニュ出身の彫刻家、 フランソワ・ポンポンの代表作。縦163cm、横251cmと本物のシロクマと同じサイズ1922年作の彫刻。オルセーの中でも大人気の作品だ。オルセーだけでなく、ニューヨークのメトロポリタン美術館、日本の館林美術館にもある。照明により、コントラストをつけ、ボディの丸さが強調され、8Kの立体感表現力が際立つ。

画像: 光と影のコントラスト、立体感。白熊はその典型

荒い油絵の具のタッチが、揺れ動く反射光のきらめきを再現

オルセーは光溢れる印象派の美術館だが、夜も素敵だ。
沈む夕景に聳えるオルセーと、その灯りを映すセーヌの川の細かい波の反射。寝静まった美術館。館内は完全に暗闇でなく、LEDの灯りが等間隔で灯され、暗部にグラテーションが与えられる。わずかな灯りでも、白い彫刻には穏やかなグラテーションで浮かび上がる。

マネの「オランピア」(1863年)の白く輝く肌。女体の立体感が柔らだ。あちこちに筆跡の勢いを感じる。宗教画と違って対象物をありのままに描く印象派ならではの描写。ゴッホのアルルの夜景の「星降る夜」。街灯が川に映り込み、光の帯をつくる。荒い油絵の具のタッチが、揺れ動く反射光のきらめきを見事に再現している。

スーラ「サーカス」(1890年)。青、赤、黄色…の原色を混ぜないで、色の点で書く。混ぜると減法混色の原理で、暗くなる。しかし、点のまま混ぜないから、明るさを保つ。点描により、画面全体が反射光を放ち、人物がディテールまで光輝く。そのひとつひとつの粒子が8Kの精細表現で露わに。白馬の上でくるりと舞う女曲芸師の華麗。

「モネだけに見えていた水の奥深くに潜む色までも」

では、オルセー美術館作品における8Kの効用とは何か。長井ディレクターは、こう言う。

「モネの有名な『サン=ラザール駅』(1877年)ですが、一般的には、中央の機関車が発する青色の煙に目がいくのでしょうが、私は現場でこの絵をじっと見ていたら、下の線路の部分に色がいくつにも重なっているのが分かりました。8Kで撮影した映像には、そのことがはっきり写し出されています。『青い睡蓮』(1916-19年)では、池の水の底に赤や紫の色が重ねられていることも、現場で見て分かりました。微妙な影や色の表現の奥深さが、8Kで表現できたと思います」

長井氏はその感動を、ナレーションの小林聡美に「じっと目を懲らせば、ほら、現れてくるでしょう。モネだけに見えていた水の奥深くに潜む色までも……」と、語らせている。

実は赤いインギンチャクや海藻が描かれている

夜を担当した山口ディレクターは「フランス象徴主義の巨匠ギュスターヴ・モローの傑作『ガラテイア』ですが、普通はニンフのガラテイアのヌードに目が行くのですが、実は絵の下部には、赤いインギンチャクや海藻など、海中植物が不思議に描かれているのですね。現場で見て、とても不思議に感じたのです。これはぜひ視聴者に伝えたい。その道具として8Kは、雄弁に表現してくれました」

『ガラテイア』はフランス象徴主義の巨匠ギュスターヴ・モローの晩年期における代表的な神話画作品。細かくカールした黄金の髪を掻き揚げる豊潤なボディの愁いガラテア。その白い足に絡みつく海中植物のエロチィックなファンタジーに目を奪われる。
「オルセーー美術館Ⅰ 太陽の手触り」「オルセー美術館Ⅱ 月の肌触り」、どちらも素晴らしい8K作品だ。

BS8Kでの再放送

・4月13日(月)「太陽の手触り」11時~▶「月の肌触り」12時~
・4月14日(火)「太陽の手触り」19時~▶「月の肌触り」20時~

文◆麻倉怜士(デジタルメディア評論家)

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