「特選街」スタート当初から一貫しているのが「ベストを選ぶ」という編集方針。新ジャンルやアイデア商品も、特選街の重要なネタである一方で、モノだけではなくメーカーそのものや、そこで働く人々を取り上げることも多かった。
「特選街」は昭和54年(1979年)4月号からスタートし、おかげ様をもちまして、この11月号で通算500号を迎えました。ここでは、初期の本誌の中から″伝説の特集記事”を振り返っていきます。
【名品編】「名品」の探求こそ、今も昔も変わらぬ「特選街」の魂
「品質のいいモノを選ぶ」という王道路線
「特選街」は1979年の春に創刊されたが、スタート当初から一貫しているのが「ベストを選ぶ」という編集方針だ。
創刊号となった4月号は「いい紳士服」「外国製品をしのぐ国産の逸品」「音声多重放送用テレビの特選8機種」といった特集を並べていた。扱っているジャンルは今の本誌とだいぶ違うが、重厚かつ厳粛な雰囲気が感じられる誌面となっている。
●創刊当初から「ベストを選ぶ」ことを標榜
取り上げられている商品には、記憶に残るものも、そうでないものもあるが、どれも「専門家のお墨付き」というトーンで統一されている。口絵(カラーのページ)は、とても格調が高く、まるで図鑑を見ているようで、モノ好きなら胸が躍るだろう。
創刊当時は、「特選街」という誌名に忠実で(当然だが)、2号め以降も一流品路線が続く。
5月号は「選びなおした世界の一流品」をうたい、ボルボ、ベンツなどの自動車のほか、ダンヒルのライター、フィリップスの電気シェーバー、シャネルの香水などが並ぶ(ちなみに、ドルチェ&ガッバーナが設立されたのは1985年なので、この号には出てこない)。また、毛皮や絵画も登場している。
●自動車のほか、ベッドやシャンデリアも登場
商品情報誌なので、「一流品」特集はいわば王道。その路線で、6月号は「男の必需品」という切り口だった。腕時計、ポケット電卓、手帳、ボールペン、ビジネススーツ、ビジネスシューズなど、働く男性向けという方向性が強い。
女性読者をまったく想定していないというのが、今の本誌とだいぶ違う点だろう。
●「男の必需品」をうたい、礼服やビジネススーツ、和服、さらには腕時計、電卓、手帳などを紹介
お気づきだろうが、オーディオやカメラなど、趣味っぽいものは入ってきていない。
わずかにAV(オーディオ・ビジュアル)機器っぽさがあるのは、オリンパスのポータブル録音機(マイクロカセットのテープレコーダー)、SD3だ。とはいえ、これも「声のメモ帳」といううたい文句なので、完全に仕事用という扱い。
ただ、今の視点でいうと「昔はこういうジャンルを取り上げていたのか」という感想になるのだろうが、当時の社会では「多くの製品がある中で、品質的にはこれが最高のもの」といってくれる雑誌など、ほかにはなかったはず。
どのジャンルを取り上げても、読者にかなり受けたであろうことは想像にかたくない。「特選街」こそ、雑誌界におけるバイヤーズガイドの元祖だったというのは間違いないだろう。
王道路線を邁進していた「特選街」だが、10月号では少し視点を変え、「世界の一流品 この意外な正体」という特集を持ってきた(口絵では「〈世界の一流品〉の素顔がわかる意外事典」と、よりキャッチーなタイトルになっている)。
中身は「日本で売られている〈ニナ・リッチ〉のバッグのほとんどは日本製」「万年筆以上に高く評価されている〈モンブラン〉と〈ペリカン〉のインク」「日本人だけが知らない15年ももつセーター〈プリングル〉」などの項目が並んでおり、「モノ&切り口」という、今の本誌にも通じる作り方が垣間見える。
●トリビア的知識を盛り込んだ特集も
【企業編】好調の会社に取材し、社長が登場することもあった連載記事
さまざまな分野のメーカーを取り上げた
「特選街」が誌面で紹介するのは、モノだけではない。メーカーそのものや、そこで働く人々を取り上げることも多かった。
実は、創刊号である1979年4月号から「急成長会社」というタイトルの連載が始まっており、記念すべき第1回で取り上げられたのが、スポーツウェアメーカーのデサントだ。
この連載記事は8ページから成り、同社の織田副社長をはじめ、社員が4名も登場している(取引先である伊勢丹の担当者も1名登場する)。かなり手間と時間をかけた取材を敢行していたと思われる。
●企業への取材を行い、製品そのものより開発秘話を活写した連載があった
記事を読んでみると、「どう売るか」「どのように事業展開するか」という話よりも、「このウェアはどのように作ったか」という開発秘話的なものが中心になっている。このあたりが、経済誌とは違う、「特選街」らしさが現れている点だろう。
この「急成長会社」は、5月号では三菱電機、6月号はオンワード、7月号はエース、8月号はパイオニア、9月号はカゴメが取り上げられている。
業種も会社の規模もさまざまだが、当時の本誌は、扱う商品の分野が今よりもずっと多かった。前項にも少し書いたが、スーツなどの衣料品、万年筆などの文具、さらには、ホテルやマンション、飲食店なども掲載している。
また、「新聞はどれがいいか」「国語辞典はどれがいいか」など、出版物の比較を行うこともあった(今では考えられないが……)。そのため、「急成長会社」には、どんな会社が登場しても、違和感がなかったであろうことが想像される。
このあと、企業への取材記事は「名品誕生」などがあり、近年では「キーパーソンに訊け!」という長期にわたる連載もあった。
●「キーパーソンに訊け!」は長期連載に
【飲食編】初期の特選街には飲料・食品も毎月のように掲載されていた
一般人が味を評価するなど、画期的な内容
2020年10月号では缶詰の特集を掲載したが、読者の皆さんは「缶詰とは珍しい!」「ひょっとして初の缶詰特集?」と思われたかもしれない。
だが実は、飲料や食品は「特選街」初期の当たりネタだったのだ(「味の特選街」という、飲食店を紹介する連載があったほど)。その意味で、10月号の缶詰特集は、原点回帰といえるかもしれない。
●約40年の時を経てよみがえった缶詰特集
1980年8月号では、「清涼飲料 うまさNo.1を決める初テスト」を掲載。テスト対象は一般的なコーラやジュースなどで、普通にコカ・コーラやペプシコーラが登場している。
また、「透明炭酸飲料」というジャンルで、スプライト、サントリーレモン、セブンアップ、ミリンダレモンライム、リボンシトロン、キリンレモン、三ツ矢サイダーの味比べを行っている。そのほかファンタオレンジやサントリーポップなども登場しており、商品名を聞いただけで懐かしさが込み上げる。
初の缶詰特集は1981年1月号。こちらも種類別の初テストと銘打ち、カニ、サケ、コンビーフ、ミカン、アスパラ、マグロ、サバ、アカガイの8ジャンルが取り上げられた。2020年版と同じように、明治屋とK&K(国分)の製品が多数登場していて、評価も高いというのが興味深い。
さらに、1981年4月号では袋ラーメン(誌面での表記は「即席ラーメン」)のテストを敢行。しょう油味、みそ味、塩味の3ジャンルの製品を多数集め、一般の男女12名が食べ、点数をつけてもらうという内容。
チャルメラ、めん吉、サッポロ一番、本中華、出前一丁などがテスト対象だが、みそ味部門に、ちびろくラーメンが登場している(しかも低評価)というのが個人的にはツボだった。
【新ジャンル商品編】新ジャンルやアイデア商品も毎号のように登場!
21世紀になってからNHKでも紹介!
新ジャンルやアイデア商品も、「特選街」の重要なネタである、毎日のように多くの新製品が登場していても、ヒットするものは氷山の一角。ブレークするどころか、世間に知られないまま消えていく商品も数多い。
通算500号を刊行してきた中で、歴史に残るような名品を紹介したこともあれば、発表時にはほとんど受け入れられなかったものもある。前者の代表が「ファミコン」、後者の代表が「自撮り棒」といえるだろう。
まず、自撮り棒だが、世界初のものとされている商品が1983年8月号に登場している。同号はカメラ特集がメインで、最新のおすすめカメラの記事中に出てきているのだ。
ミノルタのディスク7というディスクカメラ(円盤状のフィルムを用いて撮影するカメラ)の別売品という位置付けで、「エクステンダー」と「リモートコードD」の組み合わせとなっている。
●今では当たり前でも、当時は革命的。初めから大ヒットするものは少ないが……
記事中の記述では、「エクステンダーは、手持ちでセルフ撮影ができるという、実におもしろいアクセサリー。約50センチまで自由に伸縮できるので、顔から約1メートル離れた空間にカメラを構えることができる」とある(上の写真を見ると、まさしく、今でいう自撮り棒だとわかる)。
なお、この記事は、2016年に放送されたNHK総合の「発掘! お宝ガレリア」という番組で「早すぎた新発明」として紹介されている(誌面がテレビカメラで撮影され、放送されたという貴重な出来事になった)。
新商品のたぐいは、ほかにもたくさん紹介してきたが、自撮り棒に加え、ごく初期に誌面を飾った非常灯とゲーム機を例として挙げたい。下に掲載した誌面で、その内容を確かめていただきたい。
●世界の歴史を変えた一品
【お酒編】日本酒のテストは、創刊時から丸20年ほど続いた当たりネタ
日本酒のイメージが強いが、洋酒も紹介
現在50歳以上の読者であれば、「特選街といえば日本酒コンテスト」という方もたくさんいらっしゃるだろう。
「特選街」における「お酒の味比べ」の歴史は、思いのほか長い。
まず、創刊号で、「専門家も通も絶賛するかくれた日本の名酒25」という小特集が早くも組まれている。登場する銘柄は「誠鑑」「北海男山」「浦霞」「越乃寒梅」など。わずか6ページだが、25銘柄を紹介している。
その後も矢継ぎ早に「国産洋酒(ウイスキー、ブランデー、ワイン)」「値段別うまいワイン」「ウイスキー 国産 舶来 有名銘柄 味くらべ」といった企画を掲載し、1980年2月号では「名酒日本一を選ぶ《地酒》味テスト」を実施。
さらにはワインのテスト、ビールのテストと、初期の本誌は、今では考えられないくらいの頻度でお酒を取り上げている。
●創刊時から頻繁に取り上げられていたのが「お酒の味比べ」だった
1980年11月号と12月号では、初めて「日本酒コンクール」と銘打ったテスト特集が組まれた。実質上、この前年から日本酒コンクールは始まっていたといえるが、形式上はこれらの号が初の開催とされる。なお、その後、正式名称が「全国日本酒コンテスト」と改称された。
この全国日本酒コンテストは、2000年ごろまで、ほぼ毎年1月号にて掲載していたが、諸事情により、今は開催されていない。
ちなみに、最晩期となる1997年1月号では「第23回全国日本酒コンテスト [究極の日本酒]1316銘柄からプロが選んだ今年のうまさNo.1はこれだ‼」というタイトルで、本醸造部門、純米酒部門、普通吟醸酒部門、大吟醸酒部門の4ジャンルを設定し、計1316銘柄が一堂に会するという空前の規模となっていた。
●「全国日本酒コンテスト」は国内最大級の規模を誇っていた
●文/特選街編集部