【感想】アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」が名作である理由 女性や障がい者の自立を描く2020年代らしい作品

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12月25日(金)に全国で公開されたアニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」(配給:松竹/KADOKAWA)。王道な青春ラブストーリーモノとして評判を集めています。その魅力をお伝えしたいと思います。

執筆者のプロフィール

河嶌太郎(かわしま・たろう)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。Yahoo!ニュース個人では「河嶌太郎のエンタメ時報」を執筆、オーサーコメンテーターとしても活躍中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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「ジョゼと虎と魚たち」とは

「ジョゼと虎と魚たち」は、1985年に角川書店より発売された、田辺聖子さんによる同名の小説を原作としています。2003年にも実写映画化されていますが、それぞれ物語の内容が異なっているのが特徴です。いずれも大阪を舞台に、足が不自由で車椅子生活をしている女性のジョゼと主人公の恒夫が恋に落ちる話が描かれています。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

2020年版と言える「アニメ映画版」では、恒夫は大阪市内のダイビングショップで働く勤労大学生という設定です。恒夫の夢はメキシコ留学で、留学費用を得るために日々バイトに明け暮れているところでした。

そんな恒夫はある日、坂道を転げ落ちてきた車椅子の少女・ジョゼを助けます。ジョゼは、祖母のチヅと2人暮らしで、恒夫はこれが縁でジョゼの注文を聞き、相手をする、時給のいいアルバイトを始めることになります。恒夫の存在を煙たく思うジョゼは、恒夫を試すように「畳の目がいくつあるか数えろ」など、「かぐや姫」のように様々な難題を持ち掛けますが、恒夫はお金のために挑んでいきます。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

ジョゼは、家に引き籠もる生活をしていましたが、「海が見たい」というお願いを恒夫にしたことがきっかけで、チヅの目を盗む形で恒夫と外の世界に繰り出していきます。ジョゼは外の世界に連れて行ってくれる恒夫のことを好きになりはじめます。

物語の舞台は、一貫して大阪や神戸が舞台となっており、ジョゼの家の近所には阪堺電気鉄道が走り、最寄り駅に南海電車も登場しています。そして作中一番の名場面に、神戸市・須磨区にある須磨海浜公園と思しき舞台が明石海峡大橋と共に描かれています。主人公の恒夫こそ標準語で話しますが、ジョゼをはじめ作中の登場人物の多くが関西弁で話されるのも本作の特徴の一つと言えるでしょう。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

女性障がい者の自立を描いた2020年代らしいアニメ映画

アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」は、“王道”とも言える、奇をてらわずに描いた真っすぐな恋愛映画だと言えます。最初から最後まで、ヒロインのジョゼと主人公の恒夫の関係性を丁寧に描き切っています。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

かつ、障がい者であるジョゼの自立もきちんと描かれているのも、2020年版「ジョゼ」の特徴と言えるでしょう。1985年発売の原作小説や、2003年の実写版「ジョゼ」では、恒夫とのラブストーリーの成就にスポットライトが当たり、ジョゼという一人の障がい者や、女性としての社会的自立という点にはあまり触れられてこなかったように思います。

2020年版「ジョゼ」では、ジョゼと恒夫の恋愛を描くのと同時に、女性や障がい者としての自立がしっかりと描かれています。女性は家庭に入り、旦那に養われながら子育てに専念する――そんな良妻賢母的な考え方の時代ではない、ということでしょう。男と付き合えたり結婚したりしたからそれでハッピーエンド、という過去2作とは異なり、一人の女性や障がい者としてどう生きるのかが真正面から描かれています。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

前半と後半で主人公が入れ替わる

ジョゼと恒夫と恋と、ジョゼ自身の自立――この2つの大きなテーマを描くためか、物語が前半と後半に大きく分かれているのも特徴です。そして前半と後半では、主人公の役回りが入れ替わっています。

前半では、恒夫が主体的に動く形で物語が描かれていますが、後半では、ジョゼが主人公的な立ち回りを演じています。こうした試みは過去2作にはなく、原作とは大きく異なるところです。アニメが現代版「ジョゼ」と言えるところでしょう。恒夫は、後半で大きな挫折を味わいますが、前半と立場が入れ替わる形で、ジョゼが恒夫に新しい世界を見せていくのが、過去2作にはない「見どころ」と言えます。映画を既に観た方でも、こうした点に注目して見ていくと新しい発見があるかもしれません。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

物語を彩るアニメーションと音楽

他にも、実写ではなく、アニメだからこそ表現できる美麗な表現も魅力と言えるでしょう。アニメを制作したのは「株式会社ボンズ」で、「鋼の錬金術師」や「僕のヒーローアカデミア」、「交響詩篇エウレカセブン」などの名作を手がけてきています。

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/Josee Project

大阪や神戸の日常が美しい背景で写実的に描かれているのと同時に、キャラクターの表情豊かなのも辛辣なジョゼの発言に振り回される恒夫の表情や、恒夫を意識するジョゼの表情の変化なども印象的です。

一方で、ジョゼの空想シーンや海に潜る恒夫のシーンなど、アニメだからこそ描ける表現も活きており、これにより映画全体に実写的でありながらも幻想的な雰囲気を醸し出しています。

音楽は、2020年の大ヒット映画となったアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」などを手がける、EvanCallさんが担当。また主題歌と挿入歌を、現在話題のシンガーソングライター・Eveさんが担当しています。

まとめ

2003年に公開された実写映画では、3.3億円の興行収入をあげました。2020年版「ジョゼと虎と魚たち」ではこれを上回る人気になるのではないかとみられています。ぜひ、映画館で恒夫とジョゼの愛らしさに夢中になっていただければ幸いです。

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河嶌太郎(ジャーナリスト)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERAdot.」「週刊朝日」「ITmediaビジネスオンライン」「乗りものニュース」「特選街web」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、家電、ガジェット、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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