【麻倉怜士の4K8K感動探訪(17)】見たままではなく”感動”を映像で表現「世界遺産 知床の四季(日本)」BS-TBS4K

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2月27日にBS-TBS4Kで放送される「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」は、絵画的手法で制作された芸術作品だ。民放の4Kは相変わらず振るわないが、その中で、気を吐くのはBS-TBS4Kだ。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

知床の大自然が与える印象を映像に

TBSの至宝とも言うべき超優良コンテンツのドキュメンタリー番組「世界遺産」が、昨年12月26日に「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 古都京都の文化財・比叡山延暦寺~比叡山の四季(日本)」とのタイトルでピュア4Kで放送された。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

その第2弾として「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」が来る2月27日(土)午後6:30~7:00に放送される。早速、制作者に見どころを聞いた。ディレクターの天野裕士氏(TBSスパークル・コンテンツデザイン部)は「知床の大自然の映像が、いかに視るものに強い印象を与えるかに腐心しました」と言った。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

その真意は後にするとして、「世界遺産」は筆者にとっても思い出が深い。筆者が審査員を務めていたBSデジタル大賞の第1回授賞でBS-TBS(当時はBS-i)の「世界遺産ガラパゴス諸島」」が、栄えあるグランプリに選ばれたのだ。

2002年11月29日、東京・虎ノ門のホテルオークラにおいて開催された授賞式で、今でも覚えているのがナレーションの寺尾聡氏の挨拶。「世界遺産は実は”世界悲惨”なんです。過酷な状況ですごい作品を作ったスタッフに感謝です」と言った。

時代の最新機器で制作されるTBS「世界遺産」

「世界遺産」は、その時代の最新の映像機器で制作されることでも有名な番組だ。番組プロデューサーの高安恵司氏(BS-TBS編成制作局制作部)は「『世界遺産』は1996年に始まり、2021年で25周年を迎えます。当初から『その時点の最高の技術で、世界遺産を映像の資産として遺していく』というコンセプトを掲げてきました。単に番組として制作するだけでなく、映像資産として後世に遺していく使命を痛感しています」という。

「その時点の最高の技術……」にはスポンサーも大いに関係している。2015年からスポンサーになったキヤノンは優秀なシネマ用4Kカメラを提供。今回のタイトルに「世界遺産4K8Kディレクターズカット版」とあるのは、8Kカメラもキヤノンの提供ということだ。逆に言うと、キヤノンにとっても、これほどの高品位な映像が「ウチのカメラでは撮れる」ことの雄弁な証明になる。

昨年12月放映の、キヤノンの4Kと8Kのシネカメラで撮影した「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 古都京都の文化財・比叡山延暦寺~比叡山の四季(日本)」は素晴らしかった。特に、8Kシネカメラを防振装置にセットし、ヘリコプターで地上500メートルから撮影した京都の街並みは圧巻だった。二条城や京都御所の木々の緑の精細さ、ビルの立体感、遠く離れたところからでももまるで立体地図のように分かる町並み……。さすがは8K撮影(放送では4Kにダウンコンバート)だと痛感。8Kでは以前、「3Dのように立体的に見える」ことが喧伝されたが、まさに3Dだと見た。

「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」の見どころ

報道資料によると、ダイナミックな半島の地形や、その成り立ちにこだわった内容であり、冬にシベリアから流れ着き半島を取り囲む流氷、巨大な溶岩ドームが山頂を形作る羅臼岳、火山活動で山頂が崩落した硫黄山、温泉や硫黄が噴き出す海岸線、半島全体が紅葉に覆われた秋の絶景、そしてヒグマやシャチなどの動物たち……などがポイントという。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

今回、撮影機材で新しく加わったのが、キヤノンのEOSR5。4500万画素のCMOSセンサーにより、8K/30Pの撮影を可能した話題のフルサイズミラーレス一眼だ。2020年10月の撮影では、ドローンにR5を装備し、知床の上空を縦横に撮影。地上での4Kと8Kは、前作と同じくキヤノンのシネカメラで撮影した。では前述したディレクター天野氏の「知床の大自然の映像を、いかに視るものに強い印象を与えるかに腐心しました」の真意は何だろう。

「前作『比叡山の四季』では紅葉の赤がたいへん鮮やかでしたが、知床では黄色が多く、赤が少ないのです。でも探せば、ありました。湖の撮影で対岸の黄色くなった木々の中に、鮮やかな紅葉が少し存在していました。羅臼岳の麓の黄色の森の中にも、わずかに赤くなった木がありました。たとえわずかでも、人の目はその中で赤の印象を強く感じます。ところが目とは違って機械であるカメラでの映像は通常、均等な配色になります。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

紅葉を目の前にした私は赤に注目し、編集段階のグレーディング(色彩調整)で、それを強調し、私が現場で視た赤の感動を視聴者にお伝えしようと思いました。演出家が100人いれば100通りのファーストインプレッションが伝えられることに、今回の8Kカメラからは、最先端機器でありながら、同時に画家がカンバスに自由に彩色するような、アーティスティックな可能性を感じます」。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

なるほど。今回の世界遺産は事実をそのまま伝えるという意味のドキュメンタリーではなく、ディレクターがその場で感じた感動を、どうやって視聴者に伝えるかいう「作家性」を重視した番組なのだ。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

4K/8Kにより、もののディテールまでの物体解像度が、そしてHDRによって色と光の色彩解像度が飛躍的に向上した今だからこそ、可能になった表現といえよう。見た記憶をベースに創造的に着色する絵画制作と同じ次元に、4K/8K制作は来たということか。

2月27日放送「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」©️BS-TBS

来る2月27日(土)の「世界遺産4K8Kディレクターズカット版 知床の四季(日本)」が大いに楽しみではないか。

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デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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