日々多彩なジャンルの作品が次々と更新されていく漫画業界。その片隅で異彩を放つ漫画家「panpanya」の作品世界に迫ります。路上観察をテーマにしたノスタルジックな作風や、漫画に加えてエッセイなども収録された個性的な構成の単行本など、今、ひときわ目を引く作家の一人です。

漫画家panpanyaの世界

現代のガロ系作家?

あなたはpanpanyaという漫画家をご存知でしょうか?ラフなキャラクターメイキングと、緻密な背景のコントラストが印象的な筆致。それに加え、都市観察を主とした独特の着眼点で描かれるストーリーが魅力的な異彩を放つ、今、最も注目したい作家の一人です。

画像: panpanya作品の背表紙は漫画というより純文学の風格。

panpanya作品の背表紙は漫画というより純文学の風格。

panpanyaは、主に白泉社の漫画雑誌『楽園 Le Paradis』上で活躍しており、デビュー作の「足摺り水族館」に始まり、2021年7月には9冊目となる単行本「魚社会」も刊行され、堅実にファンを獲得しています。

panpanyaの作風を一口に語るのは簡単ではありません。あえて言うなら、つげ義春や花輪和一といったシュールな雰囲気をたたえた「ガロ系」作家と近い雰囲気も感じつつも、赤瀬川原平が提唱した超芸術トマソン(注1)や路上観察といった要素も取り入れられていることが特徴的です。

(注1…建築物などと一体化しつつも、それが無用の長物と化している存在を「芸術よりも芸術らしい」として観察する考え方。行き先が存在しない階段や建物の2階に備え付けられたドア、壁に埋もれた窓などがこれに該当する)

panpanya作品の魅力

路上観察というまなざし、オフビートな雰囲気など独特の魅力を持つpanpanyaの漫画作品。その個性を紐解いていきます。

デフォルメ描写と緻密な書き込みのコントラスト

panpanyaの個性を象徴づけているのは、なんといってもその独特な画風でしょう。キャラクターは全ての作品で一貫して少女・少女の友人・動物・パイプ頭の大人のみが登場し、その造形もシンプルでラフな雰囲気。それでいて、背景の描写は手描きとは思えないほど緻密というコントラストが、読み手を架空の世界へと誘います。

例えば「許可3」のワンシーンを見るだけでも、そのアイデンティティが垣間見えます。

画像: 道端に唐突に設置されているボタンを押します。 twitter.com

道端に唐突に設置されているボタンを押します。

twitter.com

道端に「お気軽にどうぞ」と表記のある何の変哲も無いボタンがあり、押しても結局何も起きない...といった内容なのですが、panpanya作品特有のなんとも言えないシュールさが感じられます。

画像: ボタンを押しても結局何も起こらないというシュールさ。 twitter.com

ボタンを押しても結局何も起こらないというシュールさ。

twitter.com

シュールながら巧妙なストーリーテリング

panpanya作品を大まかに分類すると

・架空の概念から話を広げるもの

・現実世界にありふれた物事を別の視点から眺めてみるもの

・作者のエッセイに近い内容のもの

などがあります。特にフィクション色の強い話には、独特なシュールレアリズムが存分に込められており、幻想的な雰囲気すら感じられます。

例えば単行本『二匹目の金魚』に収録された「シンプルアニマル」という短編では、世話を焼く必要が一切ない代わりに飼うことの張り合いもない、不思議なペットにまつわるストーリーが展開されていきます。

おそらく昭和~平成にかけて度々ブームとなった「シーモンキー」などを下地に作られた話かと推察できるのですが、「手間をかけたくないけど、生き物を飼ってみたい」というありふれた欲望を見透かされているような気がして、背筋が凍りました。ドラマチックではないものの、なにかを与えてくれる絶妙な温度感で統一されたストーリーの数々は、一読の価値アリです。

知識欲を刺激してくれる絶妙な観察眼

また、単行本の各所に挿入されるイラスト付きのエッセイも、非常に興味深い内容です。普段つい通りすぎてしまうような、なんでもない街の風景に注目した考察文が多いのですが、これが「そんな視点があったのか…!」と驚かされるものばかり。街路樹に注目してみたり、架空の通学路を思案してみたりと、その内容はさまざま。いずれも現実世界の「普通の場所」を題材にしていながらも、シュールなSFを見ているかのような気分にさせてくれます。

画像: panapanya作品の題材への着眼点は本当に驚かされるばかり。 www.panpanya.com

panapanya作品の題材への着眼点は本当に驚かされるばかり。

www.panpanya.com

また、『グヤバノ・ホリデー』収録の表題作は「グヤバノという果実を求めてフィリピンを訪れる」といった旅行記テイストな連作ですが、現地の(おそらくはなんてことない普通の)風景をしっかりと観察して作品へと落とし込むアンテナの広さに驚かされます。思えば私たちが旅へ出かけるのも、このように「いつもと違う」普通の景観を、間違い探しのように楽しみたいからなのかもしれません。

筆者自身もpanpanya作品と出会って以降、町のなんでもない看板や国道沿いにひしめくチェーン店のちょっとした違いなどに、つい目を向けるようになりました。単なるノスタルジーに終わらず、こうして読者に新たな視座を与えてくれるのも、同作家ならではの魅力です。

まとめ

孤高の漫画家・panpanyaの世界の魅力について取り上げました。年齢・性別共に非公開で匿名性の高い作家ですが、その審美眼や思考プロセスなどが話の節々から伝わってくる、不思議な魅力を持っています。Webで電子版を注文するよりは、ぜひ町中の普通の書店で手に取ってもらいたい漫画です。そのまま喫茶店あたりで一読し、帰り道をじっくり散歩してみると、良さがわかると思います。

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