〈覚えてる?1981年〉まだそこにあるのか? 神戸ポートピア博の巨大コーヒーカップ|このミュージアムがすごい(1)

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日本には訪れてみたくなるミュージアムがたくさんある。大学や企業が威信をかけて作り上げた大がかりなものから、個人の思いが詰まった尖りまくりのニッチなものまで、実にさまざま。今回は“コーヒーの街・神戸”にある「UCC コーヒー博物館」を探訪する。

「博覧会」に夢中だった昭和の日本人

1980年からの20年間で100開催を超える

かつて「博覧会の時代」があった。まだパソコンもインターネットもスマホもなかった時代、おもしろいヒト、モノ、コト、食、テクノロジーなどが集まる「国際博覧会(万博など)」や「地方博覧会」は、おとなから子どもまで、多くの人の注目を集め、足を運ばせた。

特に、昭和の小・中学生にとっての注目度は絶大。大型テーマパーク、ショッピングモール、メッセ施設、ドーム、アリーナなどはまだ少なく、ヒトが集まるところいえば、祭りや花火大会くらいだった時代に、ある意味、期間限定の最新型の遊園地が「博覧」という名目でやってくるような感覚だった。

1970年代に九州の小学生だった筆者は、そのころ父親に連れていってもらった福岡の博覧会(1975年の福岡大博覧会)で、奇抜なカタチをした巨大な建物(パビリオン)や、もの珍しい乗り物、恐竜ロボット、しゃべるアンドロイド、大迫力の360度映像などを見て、夜も眠れないほど大興奮したのをおぼえている。

その後、時代の変化とともに不要論なども出はじめ、しだいに“オワコン化”していく博覧会だが、
1980年代から1990年代までの20年間は、まさにブームとも呼ぶべき状況で、日本各地で毎年のように何らかの博覧会が開催されていた。この20年間に開催された博覧会は、実に100以上を数える(2000年代以降は30開催程度)。

ブームの先駆けとなった「神戸ポートピア博」

そんな1980年代以降の博覧会ブームの先駆けとなり、大成功をおさめたのが、1981年に神戸で開催された「神戸ポートアイランド博覧会」、通称「ポートピア’81(神戸ポートピア博)」だ。六甲山地を削った土砂を使って瀬戸内海を埋め立て、海上都市(ポートアイランド)を作るという壮大なプロジェクトがようやく竣工し(着工は 1966 年)、それをお披露目するカタチで開催されたのがこの地方博覧会だった。

神戸の海上に広がるポートアイランド(写真中央)。現在は神戸空港(写真下)まで拡大。

当時、「ガンダーラ」や「銀河鉄道 999」などで破竹の勢いだったゴダイゴがリリースした「ポートピア」という博覧会テーマ曲をおぼえている人も多いだろう。筆者は「ポォ~トォ~ピア~♪」という歌い出しの部分しか記憶がなかったがネット動画を探して聴いてみたら、「ボヘミアン・ラプソディ」みたいなプログレ曲で、けっこうかっこよかった。

神戸の人工島に巨大なコーヒーカップが出現

神戸港に作られた世界最大(当時)の人工島、ポートアイランドに、延べ 1600 万人の来場者を集めた神戸ポートピア博で、ひときわ人々の目を引いたのが、巨大なコーヒーカップのカタチをした「UCC コーヒー館」。

直径 35 メートルのソーサーに、直径 22 メートルのカップが載るこのパビリオンの姿は人々の度肝を抜いた。下から見上げる来場者にはわからないが、カップの天面の少し下がった部分が茶褐色に塗装されていて、上空のヘリコプターからはコーヒーがたっぷり入っているように見えるという凝りよう。結果的に神戸ポートピア博を代表するアイコン的な存在になった。

「ポートビア’81」を代表する建造物となった「UCC コーヒー館」。(画像はUCC 提供)

パビリオン内を見学する多くの来場者(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

併設ステージではコーヒー生産国の歌やダンスが披露された。(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

コーヒーをテーマにした博物館が誕生

イスラム式モスク建築へと変身

そんな「UCC コーヒー館」だが、当然、神戸ポートピア博の開催終了後に解体されたものと思いきや、実は40年以上を経た2022年の現在でも、博覧会当時と同じ場所にある。

いや、正確にいうと巨大なコーヒーカップは、もうない。もうないのだが、パビリオンだった建物の内部建築と展示は残しつつ、外観はイスラム式のモスク(礼拝堂)をモチーフにした建造物に衣替えしている。それが世界でも唯一といわれる、コーヒーについての森羅万象をテーマにした専門博物館「UCC コーヒー博物館」(1987 年開業)だ。

コーヒー飲用の歴史に大きな役割を果たしたといわれるイスラム教のモスクがモチーフ。

パビリオンと博物館を比べてみると

神戸ポートピア博の「UCC コーヒー館」と、現在の「UCC コーヒー博物館」の大きさを比べてみると、以下のようになる。

パビリオン建設の様子(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

この垂直断面図を見てもわかるとおり、「UCC コーヒー博物館」の内部は、かつての「UCCコーヒー館」の基本構造を生かしている。しかも、どこかほかの場所から移築してきたものではなく、神戸ポートビア博のパビリオンがそこにあるのだからおもしろい。

博物館建設の様子(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

UCCの本社も博物館のとなりに移転

さらに、この博物館のすぐ横に目をやると……どーん!
なんと、UCC 神戸本社のビルもここに建っている。
時系列的にいえば、まず 1981 年に博覧会のパビリオン「UCC コーヒー館」ができて、それが 1987 年に「UCC コーヒー博物館」に衣替えし、1992年、そのとなりにUCC神戸本社ビルが建設されたという流れになる。

つまり、それだけ神戸ポートピア博へのパビリオン出展は、神戸を創業の地とする UCC(上島珈琲)にとって、とても意義深い事業であり、エポックな出来事であったということだろう(と筆者は感じた)。

ここを見ずしてコーヒーのことは語れない

皇太子時代の天皇陛下もご来館

さて、モスク建築となった「UCC コーヒー博物館」。歴史的経緯や建築のユニークさはすでに述べたとおりだが、その中身はさらにすごい。そもそも博覧会のパビリオンとしての DNAを持つだけに、来場者を飽きさせない工夫が随所にちりばめられ、来館しただれもが楽しめるようにできている。

そして、皇太子時代の天皇陛下をはじめとする数多くの賓客を招いての催しや国際会議、企画展、阪神大震災による液状化被害など、さまざまな時を重ねる中で幾多のアップデートが行われ、コーヒーに関するあらゆる資料や展示などが、これでもかというくらい集積されている。コーヒーに興味があるヒトはもちろん、コーヒーを仕事にしているヒトにとっても、ここは必ず訪れるべきミュージアムなのである。

日本の純喫茶百年史展・1988 年 10 月 1 日~11 月 20 日(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

コーヒーと映画の思い出展・1989 年 4 月 1 日~5 月 21 日(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

1995 年、大震災に見舞われながらも、約 2 ヵ月半で復旧再開(画像は「UCC コーヒー博物館」サイトより)

神戸空港駅からならわずか11分で到着

「UCCコーヒー博物館」へのアクセスは、新幹線の新神戸駅からなら約20分、JR・阪急・阪神・山陽電鉄の三宮駅からなら約14分、神戸空港駅からなら約11分で到着する(交通機関の乗り換え時間は除く)。いずれの場合もポートライナーの南公園駅で下車、徒歩1分で博物館に到着できる。ちなみにポートライナーは、ポートアイランドが完成した1981年に開業した世界初の自動無人運転の新交通システム。運転士がいない電車として、当時はさぞ注目された乗り物だったことだろう。そんな神戸ポートピア博のころの記憶をたどりつつ、ポートアイランドへと出かけてみてはいかがだろうか(※)。

※「UCCコーヒー博物館」は2022年8月現在、コロナ感染拡大防止のため臨時休館中だが、UCCコーヒーアカデミー主催による事前予約制のセミナーを博物館にて開催中。詳しくは、アカデミー公式ホームページを参照。

世界初の自動無人交通システム・ポートライナーでポートピア博の記憶をたどる。

まとめ

次回は博物館内部を詳しくレポート

今回の取材では、日本を代表するバリスタチャンピオンやコーヒー豆の鑑定士、焙煎士など、数多くのプロフェッショナルを擁するコーヒー専門の教育機関「UCC コーヒーアカデミー」の学長である栄秀文(さかえひでふみ)さんに、博物館の中を案内していただいた。

下の写真のとおりスマートでダンディな風貌、とても気さくで親切に博物館のことをお話してくださる、ベテランのホテルマンのような雰囲気の御方だった。もし、博物館に訪れた際にお見かけすることがあったら、お声がけしてみるといいのではないかと思う。

学長には、博物館内の展示類の撮影の許可もいただいたので、次回【このミュージアムがすごい(2)】以降、内部を細かくレポートしていきたい。来場者を楽しませる工夫と、貴重な資料・展示の一端をご覧いただこう。

栄秀文学長。コーヒー博物館の館長も兼任する。

【このミュージアムがすごい(2)】 へ続く

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