スマホやスティック掃除機、LEDライト、ゲーム機など、家の中を見回すと、乾電池や充電池を使う機器が実に多い。近年は、改良型のニッケル水素充電池や用途別のアルカリ乾電池なども登場していて、その種類も豊富だ。家電製品で電池を使う機会が増えた今、現状を知って、正しい選び方と使い方を身につけよう!
電池の歴史と種類
環境への配慮に主眼。使い勝手の改良も進む
電池が発明されたのは、今から200年以上も前の1800年のこと。発明者の名前を採って「ボルタ電池」と呼ばれる。それから1世紀を経た1900年には、乾電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム(ニカド)蓄電池、ニッケル鉄蓄電池が発明/試作され、現在の乾電池・充電池の原型が完成している。
とはいえ、現代に通じる基本形が登場するのは20世紀半ば以降のことで、1963年の高性能マンガン乾電池、1964年のアルカリ乾電池とニカド蓄電池の国内生産スタートがその端緒といえよう。
1970年代〜1980年代には、リチウム電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池といったボタン電池/コイン電池、1990年代には、ニッケル水素充電池とリチウムイオン充電池の生産が始まる。
2000年以降は環境への配慮に主眼が置かれ、乾電池/ボタン電池/コイン電池の水銀0使用や、カドミウムを使わないニッケル水素/リチウムイオン充電池への置き替えが進む。近年は、単1形〜単4形のアルカリ乾電池が4タイプにクラス分けされたり、ニッケル水素充電池がメモリー効果を克服したりと、使い勝手をよくする改良も目覚ましい。
光エネルギーや熱エネルギーをダイレクトに電気エネルギーに変換する光電池/熱電池、生物活動で得られる化学エネルギーを利用したバイオ電池、家庭用の蓄電システムなども研究が進んでいるが、ここでは、家電との結びつきが強い乾電池と充電池を中心に、最新トレンドをチェックしていこう。
電池の主な種類
乾電池のタイプと用途
アルカリ乾電池にも四つのタイプがある
乾電池に、マンガン乾電池とアルカリ乾電池(正確にはアルカリマンガン乾電池)があることはよく知られているが、近年、アルカリ乾電池は容量と保存性の違いによって4タイプに分けられるようになった。同じメーカーのアルカリ乾電池なのに、ラベルの色や商品名に違いがあるのはこのためだ。
実は、マンガン乾電池にも2タイプ(高性能と超高性能)があって、以前は赤ラベル/黒ラベルと区別されていたが、現在、高性能タイプ(赤ラベル)は生産を終了しているので、市場で目にするのは超高性能タイプ(黒ラベル)の1種類のみ。
単3形と単4形には、さらに1・5Vリチウム乾電池も存在するので、乾電池を購入する際には、5〜6種類の中から最適なものを選ぶ必要がある。
乾電池選びで基準となるのは、いうまでもないが用途だ。
比較的安価かつ高容量な、最上級を除く3タイプのアルカリ乾電池を基準にするのがおすすめで、一例を挙げると、デジタルカメラやストロボ、シェーバーや電動歯ブラシ、ラジコンカーやゲームリモコンには「上級タイプ」(パナソニックのエボルタ、東芝のインパルスなど)、ワイヤレスマウス、LEDライト、携帯ラジオには「中級タイプ」(パナソニックのアルカリ、東芝のアルカリ1など)、置き時計や掛け時計、テレビやエアコンのリモコンには「標準タイプ」(パナソニックのカラーアルカリ、東芝のアルカリなど)といった具合。
より高容量の最上級アルカリ乾電池(パナソニックのエボルタNEO、東芝のザ・インパルスなど)は、デジタルカメラでたくさん撮影したいときや、ラジコンカーを長時間走らせたいときなどに便利。
また、雪山や水中など寒冷環境で使用する場合は、低温に強く軽量な1・5Vリチウム乾電池が使いやすい。ただし、1.5Vリチウム乾電池は初期電圧が約1.8ボルトと高いため、機器によっては適切に動作しなかったり、液晶表示が見えにくくなったりすることがあるので注意しよう。
上級タイプのアルカリ乾電池は、使用推奨期限が10年と長いのも特徴。ライトやラジオと一緒に、防災用のストックとしても重宝する。
乾電池用途の向き不向き(パナソニックのカタログより抜粋)
充電池のタイプと用途
電池交換が多い機器ならコスト面でメリット大
使い切りの乾電池に対して、何度も繰り返して使えるのが充電池。
乾電池と同じ形状の単1形〜単4形はそっくりそのまま置き替えが可能で、電圧は1.2ボルトと乾電池より若干低いが、放電特性がアルカリ乾電池に似ているので、前項に挙げた各種アイテムで支障なく使える。
特に、デジタルカメラやラジコンカー、LEDライトや電子辞書など、頻繁に電池交換が必要となる機器で利用すると、乾電池よりコストが抑えられて経済的メリットが大きい。
単1形〜単4形の充電池(エネループ、充電式エボルタ、充電式インパルスなど)は、現在、すべてがニッケル水素タイプ。しかも、以前より使い勝手が改良されている。
最も顕著な改良ポイントは、自然放電の抑制性能。電池容量の抜けが少なくなり、充電して1年経っても85〜90%以上、10年後でも約70%の残容量を保持するという。また、専用チャージャーでは使った分だけ継ぎ足し充電が可能なので、メモリー効果を気にせずに使うことができる。
製品は、容量と繰り返し回数の多寡によって3タイプ(高容量/標準/お手軽)があるが、充電池は用途が限定されがちなので、通常は標準タイプが使いやすい。高容量タイプはデジタルカメラやラジコンカーのヘビーユーザー向きだ。
なお、ノートパソコンやスマホ、一眼レフカメラや電動工具、掃除機や電動アシスト自転車などには、ニッケル水素電池ではなくリチウムイオン電池が採用されることが多い。
リチウムイオンは、ニッケル水素よりエネルギー密度が高く、電圧も約3.7ボルトと高いため、安定して大きな駆動力を得られる利点がある。軽量でメモリー効果がないのも特徴だ。
ただし、過充電/過放電で発火や爆発の危険があるため、必ず制御回路の組み込まれた専用チャージャーで充電する必要がある。
注目のニッケル水素電池
パナソニック
エネループ(下左) エボルタ(下右)
エボルタ 単3形充電池
BK-3MLE/4B
それでは、最後に、新しい充電池にも目を向けてみよう。
21世紀に入り、リチウムイオン電池の異常発熱や発火事故が多く発生したが、以来、安全のためのさまざまな回路や技術が確立している。同時に、より安全性の高い電池の研究も進められてきた。
そうして生まれたのが、リチウムポリマー電池やリチウムフェライト電池である。
どちらもリチウムイオン電池の一種で、前者はアップル社がスマホや音楽プレーヤーに採用、後者はエアソフトガンやラジコンなどホビー用途でシェアを広げている。
このほか、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池より電圧やエネルギー量が小さいものの、限られた地域でしか採掘できないリチウムに対して、ナトリウムは海水から取り出せるというアドバンテージがある。
また「夢の電池」と呼ばれる全固体電池(次世代蓄電池)も、2016年、開発に成功。これは固体の物質にイオンを通す電池で、リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性を持つという。
IT機器はもとより、さまざまな家電での電池の需要は確実に増えている。環境や安全への対応を含めて、今後の進化にも期待したい。
【押さえておきたい!電池のミニ知識】
よくあるトラブル”液漏れ”に要注意!
液漏れの原因の多くは過放電。使用後は必ずスイッチを切り、長期間使わないときは電池を取り出しておく。万一、漏れた液が皮膚や衣服についたら、きれいな水で洗い流す。
使い切った乾電池はきちんと処分すべし!
使い切った乾電池は、必ず取り出しておくこと。処分する際は、各自治体が定める方法を確認しよう。また、充電池の場合は、販売店などが回収を行っている。
使い切りの乾電池は、絶対に充電してはいけない!
乾電池/ボタン電池/コイン電池などの使い切り電池は充電できない。充電すると液漏れ、発熱、破裂、発火につながり危険。+と-を逆に入れるのも充電されてしまうので危険。
充電池への充電は必ず専用チャージャーを使うべし!
充電池の充電には必ず専用チャージャーを使う。専用チャージャーには、電池の種類を見分ける機能や過充電/過放電を防ぐ制御回路が組み込まれているので、安全性が高い。
監修/中村 剛(「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権優勝)
◆Profile/「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権で優勝の実績を持つ家電の達人。家電製品総合アドバイザー、消費生活アドバイザー。東京電力「くらしのラボ」所長。現在、暮らしに役立つ情報を動画(Facebook)で配信中。
https://www.facebook.com/LifestyleLaboratoryTEPCO
取材・執筆/市川政樹(テクニカルライター)